PORSCHE 911 turbo(前編)|フラッグシップからグランドツアラーへ
PORSCHE 911 turbo|ポルシェ 911 ターボ(前編)
フラッグシップからグランドツアラーへ
初代が1974年に登場して以来、ポルシェのフラッグシップモデルとして君臨しつづけている911ターボ。その最新モデルが発表された。新設計の直噴3.8リッター・ツインターボを得たその真価を、気鋭の自動車ジャーナリスト、渡辺敏史が確かめた。
文=渡辺敏史写真=ポルシェジャパン
多様化するモデルラインナップ
1974年の初代登場以来、ポルシェのカタログモデルとしてはフラッグシップの座を守りつづけている911ターボ。その認知度から「ポルシェターボ」と称されるスーパースポーツの代名詞は、その地道な、しかし着実な進化の過程で徐々にその位置づけをグランドツアラー寄りに振り込んでいる。
その流れを明確化させたのはエンジンが水冷化され、ティプトロニックが選択可能となった2000年登場の966型といえるだろう。理由は911シリーズのモデルラインナップの多様化、より具体的にいえばGTシリーズの登場によるところが大きい。すなわち普通のカレラをバリエーションのど真ん中とすれば、サーキット走行を前提としたもっともスパルタンな911としてGT3やGT2を、スピードとコンフォートを兼ね備えたもっともラグジュアリーな911としてターボをと、その芸幅を広げることにここ幾年、ポルシェは腐心してきたといえる。一方で、もはやポルシェターボはオートマで乗る旦那向けのスーパースポーツという印象をコアなファンは抱いているかもしれない。
オートマで乗ってよし……という点では、先ごろ試乗したあたらしいポルシェ911ターボはまさにその通りといえる仕上がりを誇っていた。しかしその意味は今までとはまったくちがう。
日産GT-Rを凌駕する新エンジンのパワー
あたらしいターボの最大の進化点はその要たるエンジンにある。長らく使いつづけた空冷時代からのソリューションに別れを告げ、997型の後期から採用された完全新設計の3.8リッターの水冷直噴フラット6へとスイッチ、バリアブルジオメトリーのタービンが二丁掛けされたそのユニットは史上最強の500psを発揮する。同時にトルクはスポーツモードのスクランブルブースト時で700Nmを発生と、そのスペックはライバル視されてきた日産GT-Rを引き離すものとなった。
そこに組み合わせられるミッションは6速MT、そしてATは7速ツインクラッチのPDK。従来の5速ティプトロニックに対してダイレクト感が劇的に向上しているだけでなく、燃費にも大きく貢献しているようで、PDK選択時のCO2排出値は268g/kmと、パフォーマンスに対すれば世界最良ともいえる環境性能を有している。
最高速度312km/h以上、0~100km/h加速は最速で3.4秒と、その破格のパフォーマンスを支えるシャシーは従来のアクティブトルクスプリットシステム「PTM」をもつフルタイム4WDシステムと、それに連携する「PSM」のアーキテクチャが刷新されただけでなく、新たに2つの電子デバイスを投入している。
そのひとつ「ダイナミックエンジンマウント」はエンジンマウントの内部を磁気流体化し、高負荷時はエンジンのマス移動をしっかりと抑え込むというもの。これにより、普段乗りでは振動進入を防ぎながらコーナリング時のエンジンの揺れによる操縦安定性の乱れを封じ込めようという試みだ。
そしてもうひとつはコーナリング時の旋回能力を高めるべく、低荷重の内輪側のリアブレーキを制御する「PTV」の新採用。特別なモードのみの介入ではなく、速度域にかかわらず積極的にシステムを稼働することで機動力と安定性の日常的な向上を目指したという点がポルシェらしい。
ポルシェジャパン
http://www.porsche.com/japan/