新型 フォード クーガにオーストラリアで試乗|Ford
Ford Kuga|フォード クーガ
フルモデルチェンジでデザイン一新
新型クーガに国外試乗
2010年に日本での販売を開始したフォード「クーガ」。日本では取り扱いがはじまってまだ2年ほどしか経っていないため「えっ? もうモデルチェンジ?」とおもってしまいがちだが、国外ではすでに発売から5年以上が経過しているモデルだ。現行と同様、フォーカスがベースとなる新型クーガに、大谷達也氏が国外試乗。オーストラリアからのリポートである。
Text by OTANI Tatsuya
フォード一族の血筋をどこまで残せるか
すっと引き締まった顔つきになった。
いや、現行モデルだってなかなか凛々しい顔をしているが、新型はさらに精悍な表情になっている。
フォードのコンパクトSUV「クーガ」が2代目に生まれかわり、その国際試乗会がオーストラリアのアデレードで開催された。試乗会に先立って現行型クーガをあらためて味見していた私は、その姿をはっきりとおぼえていたはずなのに、会場で新型と出会ってもデザインが大きくかわったとの印象は受けなかった。
それは、フォードのデザイン言語である「キネティックデザイン」を先代につづいて採用していることも一因かもしれない。
また、モデルの位置づけや基本コンセプトが先代と共通のため、絶対的なサイズやプロポーションに手をつける必要がほとんどなかったことも関係しているのだろう。
ただし、初秋を迎えた南半球のさんさんと降り注ぐ陽光の下で子細に新型を眺めていくうち、じわじわと現行モデルとのちがいに気づきはじめた。
「引き締まった顔」におもえた理由は、この辺にあったようだ。また、チンスポイラー部のエアインテークは、それまで1個の台形だったものが3分割され、こちらもシャープなイメージを打ち出している。
でも、それ以上に大きな変化がボディサイドのデザインだ。
ウィンドウグラフィックに目立ったちがいはないけれど、ボディパネルには力強いキャラクターラインが幾重にも刻み込まれ、彫りの深い立体的な表情を得ている。しかも、プレスラインがシャープで、かなりコストがかかっていることが推測された。
リアのデザインも同様で、基本的なイメージを踏襲しながらよりシャープで立体的な造形が与えられている。
基本路線は初代と同様。そのなかで、どこまで洗練の度あいを深め、高級感を際立たせることができるか? そしてフォーカスに代表されるフォード一族の血筋をどこまで残せるか? 新型クーガと出会ってまもなく、開発コンセプトはこの2点にあるのではないかとおもいはじめていた。そしてその予感は、試乗をつづけていくうちに確信へとかわっていったのである。
Ford Kuga|フォード クーガ
フルモデルチェンジでデザイン一新
新型クーガに国外試乗(2)
独自開発の4WDシステムを搭載
新型クーガのハードウェアをひと言で説明するなら、「新型『フォーカス』とおなじテクノロジーでクーガをつくり直した」となる。プラットフォームはフォーカスと共通。したがってSUVとはいえ、走りのパフォーマンスは相当高いと想像できる。
いっぽうでフォーカスとの相違点も少なくなく、ホイールベースはフォーカスより40mm長い2,690mmとなるほか、エンジンはフォーカスの2.0リッター4気筒NAからエコブーストと呼ばれる1.6リッター4気筒直噴ターボへと“ダウンサイジング”された。
ギアボックスはデュアルクラッチ式6段ATのフォーカスとはことなってトルコン式の6段ATが採用され、駆動方式も前輪駆動からフルタイム4WDにあらためられている。
なお、このフルタイム4WD機構はフォードが独自に新開発したもので、たとえばハルデックスのようなサプライヤーは一切使っていないという。
また、日本仕様のフォーカスがタイ製であるのにたいして、クーガはスペインのヴァレンシア工場で生産されたものが輸入される。
これまでフォードはこのクラスのSUVとしてヨーロッパ生まれのクーガと日米共同開発の「エスケープ」の2モデルをラインナップしていたが、現CEOのアラン・ムラリーは2008年に提唱したONE Ford戦略に基づき、両モデルはヨーロッパ主体で開発された新型クーガに一本化されることになった。ただし、北米では知名度の関係からおなじモデルをエスケープの名称で販売するという。
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新型クーガに国外試乗(3)
ダウンサイジングエンジンで大丈夫か?
いくら“コンパクト”とはいえ、さすがにSUVのエンジンが1.6リッターでは心許ないとおもわれても仕方ない。
けれども、フォードのラグジュアリーSUVである「エクスプローラー」は、車重2.0トンのボディを最新のダウンサイジングエンジン“エコブースト”の2.0リッター版で楽々と走らせる。いっぽう、新型クーガの車重はおよそ1.6トン。つまり、車重あたりの排気量は両車互角なのである。
果たして、新型クーガは期待どおり力強い走りをしめしてくれた。
一般的にいってダウンサイジングエンジンは低回転域から分厚いトルクを発揮するので、発進時の動きだしは排気量の大きなNAエンジンより身軽に感じられることが少なくない。
新型クーガもおなじで、ストップ&ゴーを繰り返す市街地走行でも、もどかしさとは無縁。
オーストラリアの郊外でよく見かける見通しのいい一本道(制限速度は100km/h前後)を飛ばしているときでさえ、7,000rpmからレッドゾーンがはじまる伸びやかなエンジン特性を生かしてスムーズに追い越しを仕掛けられる。
なるほど、トップエンドの鋭さでいえば、従来型に積まれる5気筒 2.5リッターエンジンのほうが一枚上手かもしれない。
けれども、実用域のドライバビリティにかんしていえば1.6リッターで、じゅうぶん以上。
しかも、回転のスムーズさ、エンジンの静かさでは1.6リッターのほうに分がある。最新ダウンサイジングエンジンの例に漏れず1.6リッターは燃費も良好で、オーストラリアで配布された資料には複合燃費が12.5km/ℓとしるされていた。最大のライバルであるフォルクスワーゲン「ティグアン」との差は、ぐっと縮まっているはずだ。
いずれにせよ、1.6リッターのエコブーストエンジンはオールラウンダーな性格が強く、日本仕様は2.0リッターNAのみとなる新型フォーカスにも搭載が待たれるパワーユニットといえる。
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新型クーガに国外試乗(4)
極めて安心感の強い足まわり
乗りごこちの進化も目覚ましかった。いかにもスポーティモデル的な無骨さが垣間見えた現行型との比較では、走りのしっかり感を大切にしているという面で共通した部分があるものの、サスペンションの動きだしがよりスムーズになっており、快適性や洗練さは大きく改善されている。
しかも、この快適性が19インチタイヤ装着モデルでもほとんどかわらないのだから驚く。さらに、ロードノイズは現行型よりも大幅に抑えられていた。これは、ドアまわりのウェザーストリップを2重にするなどの改良が効を奏したものだろう。
もっとも、こうした数々の進化をはたしながら、ドライブする楽しさを決して忘れないところが、いかにもフォードらしい。
ステアリングは極めて正確。直進からわずかにステアリングを切っただけでも的確に反応してくれるし、そうした際にボディに無用な動きが見せないことも好ましい。
タイヤの位置決めもしっかりしているから、コーナリングの各過程でクルマがあいまいな動きをしめすことがない。ドライバーにとっては極めて安心感の強い足まわりだ。
しかも新型クーガでは、そうしたいかにもフォードらしい基本性能に磨きをかけながら、装備の充実にも努めている。
リアバンパー下で足を蹴り出すような所作をすると自動的にテールゲートが開閉するハンズフリーテールゲート、自動ブレーキやレーンキーピングなどのドライバーエイド、横転防止制御を含む一連のスタビリティコントロールなどは、その代表例だろう。
けれども、走りのクォリティにかかわる部分へのコストを惜しまず、ステアリングを握っているときにその良さをもっとも強く実感できるフォードのクルマづくりは、初代フォーカスがデビューした当時からまったくかわっていない。
フォードファンにとっては、まさに理想的なコンパクトSUVが完成したといえるだろう。
FORD KUGA |フォード クーガ
ボディサイズ|全長4,540×全幅1,840×全高1,710 mm
ホイールベース|2,690 mm
重量|1,720 kg
エンジン|1.6リッター 直列4気筒 DOHCターボ
最高出力| 134kW(182ps)/ 5,700 rpm
最大トルク|240Nm(24.5kgm)/ 1,600-5,000 rpm
トランスミッション|6段オートマチック
ギア比|1速 4.548
2速 2.964
3速 1.912
4速 1.446
5速 1.000
6速 0.746
駆動方式|4WD
サスペンション 前|インディペンデント マクファーソンストラット
サスペンション 後|コントロールブレードマルチリンク式
タイヤ 前/後|225/45R18 / 225/40R18
ブレーキ 前/後|ベンチレーテッドディスク / ディスク