2リッター4気筒のジャガーXJはいかが?|Jaguar
CAR / IMPRESSION
2014年12月5日

2リッター4気筒のジャガーXJはいかが?|Jaguar

Jaguar XJ Luxury|ジャガー XJ ラグジュアリー

美しく恵まれたクルマ

2リッター4気筒のジャガーXJはいかが?

ジャガーのフラッグシップ「XJ」に2リッター4気筒ターボエンジン搭載モデル「XJ Luxury」がラインナップされている。これまでのXJ観を打ち崩すかのようなデザインに4気筒エンジンというとりあわせは、ともすればショッキングだが、しかし、このXJもまた、ジャガーの伝統をつよく感じさせる。大谷達也氏の見解。

Text by OTANI Tatsuya
Photographs by MOCHIZUKI Hirohiko

ジャガーの美しいクルマという伝統

スポーティーサルーンもしくはスポーツカーとして名高い英国のジャガーは、優れたパフォーマンスと流麗で美しいスタイリングを特色とするプレミアムブランドである。

もっとも、創設直後はパフォーマンスがデザインに追いつかず、「見かけ倒し」なんて悪評を買ったこともあるが、それもいまは昔。いまから60年以上も前の1948年に3.4リッター6気筒のツインカムエンジン「XK」をつくりあげて以降のジャガーが、第一級の動力性能とスタイリッシュなデザインで多くの人々を魅了しつづけてきたことは皆さんもご存知のとおりである。

それは、2008年にインドのタタ・モーターズに買収されてからも変わっていない。

いや、むしろタタはジャガーのヘリテッジに敬意を払い、あくまで後ろ盾の立場に留まっているようにさえおもえる。

そしてジャガーは、1990年から17年間にわたってフォードが親会社をつとめていた時代の技術的資産と、2000年にデザインディレクターに就任したイアン・カラムの傑出した才能に支えられながら、個性的で美しいスポーティーサルーンとスポーツカーを今日に至るまで脈々とつくりつづけているのである。

Jaguar XJ Luxury|ジャガー XJ ラグジュアリー

ところで、2008年にジャガーが世に送り出したミドルクラスサルーン、XFのデザインを皆さんはどのように捉えているだろうか? つづいて2010年にデビューしたフラッグシップサルーンのXJも、このXFとおなじ未来的なデザインが施されている。

つまり、このクーペルックで、クラシカルという言葉とは無縁の、モダンで滑らかなデザインが、いまやジャガー製サルーンの基調となっているのである。

Jaguar XJ Luxury|ジャガー XJ ラグジュアリー

美しく恵まれたクルマ

2リッター4気筒のジャガーXJはいかが?(2)

ジャガーらしさとは?

エレガントさに欠ける? 伝統の深みを感じない? なにより、ジャガーらしくない? いや、私はそれらとは正反対の捉え方をしている。

たしかに、このデザインは従来のジャガーとは一線を画したものだ。けれども、伝統を重んじながらも、つねに革新を恐れない姿勢こそ、ジャガーの真骨頂ではないのか? 私は、歴代XJサルーンの優雅なたたずまいに強く心を惹かれ、Mk1/Mk2のクラシカルなプロポーションを愛して止まないが、それらとおなじくらい、XFとXJにも深い愛着を覚える。

Jaguar XJ Luxury|ジャガー XJ ラグジュアリー

Jaguar XJ Luxury|ジャガー XJ ラグジュアリー

なぜかといえば、最新のXJとXFは、歴代ジャガーと共通する繊細なラインで構成されていて、手法はまるでことなっていても実にエレガントで、とても美しいプロポーションに仕上がっているからだ。

そのデザインは、自らの強さ、逞しさを声高に主張するドイツ製プレミアムサルーンとは、まったく別の輝きを放っている。控えめで上品なスタイリングをまとった最新のジャガーが目の前を通り過ぎるとき、私はいつも、それらにうっとりと見とれてしまう。

さて、そんなジャガーXJに2.0リッター4気筒の直噴ターボエンジンが搭載された。

はやりのダウンサイジングである。

Jaguar XJ Luxury|ジャガー XJ ラグジュアリー

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2リッター4気筒のジャガーXJはいかが?(3)

ジャガーはエンジンにも恵まれている

ジャガーのように、比較的生産台数の少ない自動車メーカーにとって、最新の環境性能を備えたパワートレーンをつくりだすことは非常に難しいといわざるを得ない。

この点、ジャガーは恵まれていて、彼らが現在、搭載しているエンジンは、何らかの形でフォードの技術を活用したものである。

フォードと聞いて、がっかりすることなかれ。アメリカの自動車メーカーは、日欧の自動車メーカーに負けないくらい技術開発に熱心である。とりわけ、リーマンショックで大打撃を受けてからは、社内の効率化に取り組み、クォリティ重視の製品づくりに方向性を切り替えている。

この2.0リッターエンジンも、フォード「エクスプローラー」に搭載されている通称“エコブースト”と基本はおなじ。

2トンを越える車重のエクスプローラーを過不足なく加速させ、ノイズやバイブレーションの面でもプレミアムSUVの水準を満足させるその完成度の高さは、XJでもまったく同様に味わうことができた。いやいや、アルミモノコックボディを採用するXJの車重はエクスプローラーより240kgも軽いうえに、ギアボックスはエクスプローラーの6ATにたいして最新の8ATとなるから、その走りがさらに軽快であることはいうまでもない。

Jaguar XJ Luxury|ジャガー XJ ラグジュアリー

低速域ではスロットルの動きに呼応して機敏に加速するいっぽう、高速道路での追い越し加速でもまったく不便を感じない。唯一、フルスロットルで加速する際には、V6やV8を積むXJのような大迫力は感じられなかったが、それほどのパフォーマンスが必要とされる状況は、少なくとも日本の公道上ではほとんどないはずだ。

Jaguar XJ Luxury|ジャガー XJ ラグジュアリー

注目の燃費性能も上々だった。オンボードコンピューターの表示を信じれば、高速道路での平均燃費はなんと16km/ℓ。一般道走行を含んだ借用期間の総合平均燃費でさえ10.8km/ℓとふた桁を守りきった。

満タン法では7.2km/ℓとなったが、前回の給油時の状況がはっきりしないので、この数字にとらわれる必要はない。メルセデス・ベンツ「Sクラス」、BMW「7シリーズ」、アウディ「A8」がライバルとなるこのクラスで、高速燃費が16km/ℓとは舌を巻くほど優秀な数値といえる。

Jaguar XJ Luxury|ジャガー XJ ラグジュアリー

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2リッター4気筒のジャガーXJはいかが?(4)

ツイードのジャケットのようだ

アルミボディの感触を伝える、軽やかでありながら引き締まった乗り心地も良好。大切なお客様を迎える際にも安心だ。

キャビンに漂う雰囲気はまさしくジャガーである。

XFでデビューしたロータリー式のシフトノブや、全面液晶ディスプレイとなったメーターパネルに表示されるアナログ形式のスピードメーターやタコメーターにはモダンな香りも漂うが、レザーとウッドが織りなす重厚で品のいい世界は、ドイツ製サルーンとは明らかにことなる。

ファッションでたとえるなら、やや光沢がある薄手のウール地をぴしっと仕立てたスーツのごときドイツ勢にたいし、ジャガーは柔らかな手触りの奥に何年着つづけても型崩れしない芯の強さを持つツィードのジャケットのようである。

Jaguar XJ Luxury|ジャガー XJ ラグジュアリー

Jaguar XJ Luxury|ジャガー XJ ラグジュアリー

XJのドライビングシートに腰掛けた際、クルマに温かく迎え入れられたような気分になるのは、この“ツィード効果”によるものではないか? そのくらい、ドイツ車とはちがった世界をXJは持っている。

欠点らしい欠点はない

2.0リッター4気筒エンジンを積む「XJ LUXURY」と半日ほど過ごしてみて、欠点らしい欠点はほとんど見つけられなかった。

敢えていえば、100km/h巡航時に軽い“こもり音”とバイブレーションが看取される点が気になった。実は、8速に入るとエンジン回転数は1,400rpmまで落ち込む。ひょっとすると、このときエンジンとボディのあいだで軽い共振が起きていたのかもしれない。ためしに、おなじ状況で7速にシフトダウンするとエンジン回転数は1,750rpmまで上昇し、ノイズと振動はすーっと消えていった。だから、100km/hで走るときは7速を選ぶという手もあるのだが、それでは2.0リッター4気筒エンジンの経済性をフルに発揮することができない。この点はジレンマというしかないだろう。

もっとも、XJの全身から沸き立つような魅力に比べれば、こんな問題は取るに足らない。1,000万円前後で手に入るブリティッシュラグジュアリーサルーンは、いまやジャガーのみ。その魅惑的な世界に足を踏み入れるのに、XJは申し分のないモデルである。

spec

Jaguar XJ Luxury|ジャガー XJ ラグジュアリー
ボディサイズ|全長5,135×全幅1,900×全高1,455 mm
ホイールベース|3,030 mm
トレッド 前/後|1,625 / 1,605 mm
最低地上高|120 mm
最小回転半径|5.8 メートル
トランク容量(VDA値)|520 リットル
重量|1,780 kg
エンジン|1,998cc 直列4気筒 直噴DOHC ターボ
最高出力| 177kW(240ps)/ 5,500 rpm
最大トルク|340Nm / 1,750 rpm
トランスミッション|8段オートマチック
駆動方式|FR
タイヤ 前/後|245/45ZR19 / 275/40ZR19
燃費(JC08モード)|9.3 km/ℓ
価格|900万円

           
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