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2022年5月24日
クオリティ抜群! いまだから乗ってみたい80年代のドイツ車5選
いまだから乗ってみたい80年代のドイツ車5選
いま、1980年代のドイツ車が人気だという。当時、青春時代にドイツ車に憧れた世代のみならず、若い層にもファンが多いという。まだコストよりも理念を大切に設計・生産されていた当時のドイツ車には、いまのクルマにはない魅力が凝縮しているからだろう。ここでは、OPENERSがお勧めする、いまこそ乗りたい80年代のドイツ車5選をお送りする。
Text by OGAWA Fumio
コストよりも理念が大切だった時代の産物
いまも人気が衰えない、エイティーズ・ジャーマン。1980年代に登場したドイツ車の数かずを愛するファンは、年代を問わず、少なくない。理由はいろいろあるだろう。スタイルやクオリティは、郷愁とは別に、当時を知らない若い層も大きく評価するポイントだ。
エイティーズ・ジャーマンのよさは、一言でいうと、マジメに作られていること。まだコストよりも理念。どのメーカーも、エンジニアリング的な理想をもって、こつこつとクルマづくりにはげんでいた感が強い。
鉄の使用量が多くて、質感が高いのも、モノとしての魅力につながる。合成樹脂部品の耐用年数も高いようで、ダッシュボードなどもしっかりしていて、経年劣化が少ない。これも当時のクルマの魅力だ。結局、だから、長く乗れるのだ。
以下に、OPENERSお勧めのエイティーズ・ジャーマン5選をあげてみたい。当時はいまほど車種のバリエーションがなかったものの、それでもボディタイプを含めて選択肢が少なくなく、楽しいクルマがたくさんある。
1)メルセデス・ベンツ190E(1982年〜)
大きなメルセデス・ベンツの魅力を、ぎゅっと圧縮したモデル
このクルマが発表されたときは衝撃的だった。当時はメルセデス・ベンツといえば高級セダンの専門メーカー。そこが全長4.4メートルの小型4ドアを開発したのだから。
いいところは、クオリティの高さ。しっかりした足まわり、メルセデス・ベンツの伝統だったボール循環式の重厚なフィーリングのステアリング、バスンッと閉まるドアを含めた建て付けのよさ……。スタイリングも破綻なくまとまっていた。
一方で、当初は2リッターエンジンとはいえ、ダッシュ力に欠け、日本の市街地で使うには、非力感があったのは事実。一方、高速では空力ボディのおかげで、ぐんぐんと速度が伸びていく。要するに、当時のメルセデス・ベンツは、やっぱり、アウトバーンで使うのを主目的に開発されたように思えたものだ。
手作りの工程を入れたシートの出来もすばらしく、当時、日本で“小ベンツ”などと言われたりしたものの、大きなメルセデス・ベンツの魅力を、ぎゅっと圧縮したモデルだった。なので、このクルマのよさを知っている人には、小ベンツはけっして蔑称に聞こえなかったはず。
買うなら、エンジン排気量を拡大した「190E2.3」、あるいは6気筒エンジン搭載の「190E2.6」がよい。個体は少ないのと、程度の問題はあるかもしれないが、英コスワースがチューニングしたスポ−ティなエンジン搭載の「190E2.3-16」などもいちどは乗りたい。
重要なのは、メルセデス・ベンツは、部品交換のインターバルが短いことを肝に銘じておくこと。リーズナブルな価格の車両を見つけても、車検は意外にお金がかかる。部品をまめに新しくすることで、100万キロ以上乗れる。それがメルセデス・ベンツのクルマづくりなのだ。
2)フォルクスワーゲン・ゴルフⅡ(1983年〜)
2022年になっても古びて見えないデザインに脱帽
意外なほど、いまの日本で、若い人に人気がある車種がこれ。1974年から83年まで作られた初代ゴルフの後を継いでデビュー。当時は“ずんぐりしちゃったなあ”と思ったものだが、2022年になっても、意外なほど古びて見えない。デザイナーの手腕に脱帽。
1.8リッターを中心としたエンジンを搭載した、全長4メートル弱のボディは、使い勝手にすぐれる。90psしかないので(最新のゴルフは1リッターでも110ps)、とても速いクルマではない。
重めだけれど、しっかりした操舵感のステアリングシステムや、コントロール性の高いサスペンションシステムとのマッチングがいい。少しアンダーステア(カーブで車体が外側にいこうとする傾向)が強めであるが、操縦性は高い。車重が900キロ程度と軽いせいもあって、特に下りのワインディングロードでも、いまも意外なほど速い。
ダッシュボードは合成樹脂のかたまりのようだけれど、各種コントロール類の操作感は気持ちいいし、シートの出来もよい。ホイールベースが2475mmとコンパクトなので、後席は、初代ほどではないにせよ、やや窮屈。まあ、しようがない。
専門店も少なくないし、ベテランメカニックを抱えている街場のサービス(修理)工場だったら、きちんと面倒を見てくれるはずだ。
3)フォルクスワーゲン・ゴルフ・カブリオレ(1980年〜)
無骨さゆえに、いまの気分によく合っている
フォルクスワーゲンは、実は、カブリオレがいい。歴代ビートルや、ゴルフに設定されたフルオープンボディは、実用性の高いボディと、ちょっと快楽的ともいえるソフトトップとの組み合わせの妙というか。いい味がある。
ゴルフに、初代ビートル譲りともいえる、バッドがたっぷり入って耐候性の高いカブリオレトップをもつバリエーションが加わったときは、実は、カッコ悪〜とちょっとびっくりした。初期のモデルは、幌が大きくて、室内のミラーの視界をさえぎっていた。
時間の経過とともに、ところが、だんだん好きになっていくクルマである。ぶ厚く見えるボディは、安心感を与えてくれるし、幌を閉めたときのスタイルは奇麗に整っている。開けたら開けたで、稀少性もあって、特別感が味わえるのは請け合う。
ロールバーが残ってしまうのは、しようがない。乗ればどうせ見えないんだし。いちばん美しいゴルフのカブリオレは、第4世代(2011年〜)のものかもしれない。でも、日本では「カブリオ」と名づけられていた初代は、無骨さゆえに、いまの気分によく合っているかも。たまに街で見かけると、思わず振り返ってしまう。
4)BMW3シリーズ(1982年〜)
もっともバランスのとれたスタイリングをもった3シリーズ
もっともバランスのとれたスタイリングをもった3シリーズといえるのでは。ボディとキャビン、それに前後のタイヤとのバランスがとてもよい。
E30と呼ばれる2代目3シリーズは、ボディ全長が4325mmとかなりコンパクト。薄く見えるボディと、大きなガラス面積をもつウィンドウをそなえるキャビン、それに4灯式ヘッドランプが、スポ−ティでありつつ、同時にエレガンスを感じさせるのだ。
動力性能は高く、当初日本に導入された1.8リッターでも、日本車をはるかにしのぐ加速力。BMWといえば直列6気筒……と思っていたファンが満足するのは、1987年に導入された6気筒搭載の320iからだ。とはいえ、足まわりがしっかりしているので、4気筒を回して走れば、充分楽しいと思う。
もうひとつのよさは、作り。シートはやや硬めであるものの、スポーティセダンの定石のような、ダッシュボードがドライバーのほうを向いた、いわゆるセントラルテーマを採用していたうえに、操作類の質感の高さは、当時の日本車は逆立ちしてもかなわなかった。
このコンパクトなボディ、いまも欲しい。車重は1トン程度しかないので、すべてにわたって軽快。衝突安全基準を満たすため、どんどん車体が大型化する昨今では、「こんなクルマは二度と作れません」と、いまの3シリーズ導入時に本社の開発担当者が語ってくれたのを思い出す。その意味でも古くてもE30の魅力は輝く。
5)アウディ100(1982年〜)
“空力”をテーマにした斬新なデザインに衝撃を受けた
アウディ100がフルモデルチェンジして発表されたときは、衝撃的だった。いままで、ほとんどの人が知らなかった“空力”という概念が、デザインの重要なテーマだったからだ。
そもそも68年に初代が発表されたアウディ100は、当時としては余裕が感じられた全長4.5メートルの車体をもちつつも、エラぶって見えない、味のあるスタイリングだった。口の悪い人は、ドイツに多かったトルコからの労働者が、故郷に錦を飾ろうと買うのがアウディ100だったと言っていたものだ。
82年のアウディ100は、エンジニアリングでもって、メルセデス・ベンツやBMWといった、それまで手が届かなかったプレミアムブランドのセグメントに、いきなり飛び込むのに成功。サイドウィンドウひとつみても、ピラーとのあいだに凹凸がほとんどない。こだわりの設計だ。
ダッシュボードの質感は、いま見ても、かなり高い。スムーズな曲面と、機能的なスイッチ配置。オレンジ色の透過光照明も、当時はすごいなあと感心したし、いまも同様の印象を受ける。前席シートの背もたれが大きく湾曲していて、後席乗員のために大きめなスペースを確保しているのも、設計者の良心を感じさせる。
84年には、空力と並んでアウディの看板となった全輪駆動「クワトロシステム」も搭載。当時100クワトロは、懐に余裕があって、かつ若々しい価値観をもつ人が好んで乗ったものだ。
いまも探せば、前輪駆動仕様を中心に、それなりに程度のいい個体が見つかるようだ。ワゴンボディの「アバント」もあるけれど、個人的にはスタイリングの審美性では、セダンに軍配をあげたい。
ステアリングホイールの操舵感は、いまの基準からすると、かなり重い。女性だと、ちょっと困るかもしれないぐらい重い。もちろん、乗用車として作られているので、慣れることはできる。そういう“慣れ”も、オーナーでいることの喜びになるらしい。