パリ モーターショーの現場から Vol.3|Mondial de l’Automobile 2014
Mondial de l'Automobile 2014
パリ モーターショーの現場から Vol.3
前回の記事につづき、今月19日までフランス・パリで開催中のモーターショーの現場から、モータージャーナリストの小川フミオ氏によるレポートが到着。3回目となる今回は“スポーツカー”がテーマ。「メルセデス AMG GT」を発表したメルセデス・ベンツを筆頭に、フェラーリ、そして初となるプラグインハイブリッドスポーツを発表したランボルギーニまで、 モーターショーの最新トレンドをさぐる。
Text by OGAWA Fumio
高級スポーツカー市場に参入するメルセデス・ベンツ
パリには華やかなイメージがつきまとう。富裕層も世界中から多く集まる。そのため、高級車やスポーツカーが、パリの自動車ショーでは必ず耳目を集める。
周囲に大きな人垣を作っていたのが、メルセデス・ベンツがデビューさせた、「メルセデス AMG GT」なるスポーツカーだ。黄色のボディに、510psの新開発V8ターボユニットを搭載した軽量2シーターだ。そして隣にもこのAMG GT 譲りのV8ツインターボを得た「メルセデスAMG C 63」が置かれる。
「メルセデスAMGを世界でもっとも人気あるスポーツカーブランドにするのが私たちの目標。この2台のクルマはその道程でのマイルストーンになるでしょう」。メルセデス・ベンツの取締役会のメンバーであり研究開発を指揮するドクター・トマス・ウェバーはそう抱負を語っている。
メルセデスAMG GTは、ボディシェルを含めた車体の93パーセントがアルミニウム製で、フロント部分はやはり軽量素材であるマグネシウムで出来ている。これによりスポーティな加速性とハンドリングを追求。ポルシェ「911」を向こうに回して高級スポーツカー市場に参入することになる。
「up!」から「フェートン」まで幅広いラインナップを持ち、同時にスポーツカーや高級車メーカーを傘下におさめるフォルクスワーゲンとまた違うやりかたで、メルセデス・ベンツは将来に向けた生き残り策を探している印象だ。スポーツモデルにもつねに大排気量エンジンを用意するのが、プレミアムブランドたるゆえんなのか。排気量を縮小するダウンサイジング化が進むなかで、大きなエンジンこそある意味、ステイタスになっていくかもしれない。
もうひとつ、大きな話題を提供したスポーツカーメーカーがフェラーリだ。
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パリ モーターショーの現場から Vol.3(2)
異なるアプローチで攻めるランボルギーニ
フェラーリのブースで、つねに人を集めていたのは、「458 スペチアーレ A」。最後のアルファベットはイタリア語のアペルタ(オープン)の頭文字といい、アルミニウム製の電動格納式ハードトップを備える。従来のスパイダーに置き換えられるモデルで、4.5リッターV8をコクピット背後に搭載。605psと540Nm/6,000rpmを発生する。
高速走行時にフロントの2つの垂直フラップと、アンダーボディのフラップが開いて空気抵抗を抑える「アクティブ エアロダイナミクス」の採用も注目点だ。フェラーリが特許を持つこのメカニズムは、リアには可変ディフューザーも備えている。走行状況に応じて空力をコントロールし、駆動力を生むためにダウンフォースを発生させるなど、凝った仕掛けである。
同時に、フェラーリのブースでは、大きな話題があった。ルカ・ディ・モンテツェーモロ会長が姿を見せ、9月に報道されていた退任および退社の挨拶をしたのだった。そもそもルックスの良さにくわえて、ジョークが好きな明るいキャラクターで人好きのする人物なだけに、このことを報道する海外メディアの記事でも異例に感傷的なトーンが目立った。
ライバルのランボルギーニ「アステリオン」については、別項に詳しいので詳細は省くが、ショーのもうひとつの華だった。ただし、フェラーリが好調な販売実績を背景に、大排気量・大出力路線を突き進むのに対して、ドイツ企業がオーナーのランボルギーニは、違うアプローチを採りはじめている。
CO2低減を目指したハイブリッドシステムを核に据えたアステリオンが、低炭素化に向けて大きく舵を切り始めた欧州社会におけるサバイバルの方策かもしれない。電気モーターで前輪を駆動するハイブリッドシステム搭載モデルで、公道ではCO2排出量を抑えるいっぽう、サーキットでも楽しめることを謳う。たんなるコンセプトモデルかと訊ねられ、「そんな悠長なことをしているひまはない」と開発担当者が答えていたのが印象的だった。
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パリ モーターショーの現場から Vol.3(3)
ジャガー・ランドローバーのこれから
SUVがこれからの高級車セグメントの台風の目といわれて、だいぶ時間が経つ。ランボルギーニのSUVがこのショーで登場という噂もあったが、見送られた。これはエンジンスペック(CO2排出量)が、グループ全体が打ち出したサステナビリティのための基準に達しなかったためだろうか。マセラティやジャガーのSUVにも、自動車好きの期待が集まるが、いずれも音なしのかまえだ。
その間隙を縫うかのように、ランドローバーは新型車、「ディスカバリー スポーツ」を大きなスペースを使って発表した。2,741mmのホイールベースに全長4,589mmのボディを搭載。エンジンは、240psの2リッターガソリンと、150psと190psと2種類の出力が用意されるの2.2リッターディーゼルとなる。
「デザインの目標は、プレミアムな雰囲気と、多様性に富んだ機能を両立させることでした」。同ブランドのデザインディレクターでありチーフクリエイティブオフィサーの肩書きも持つジェリー・マクガバン氏はそう語った。実際、ディスカバースポーツは、従来のモデルラインナップに連なる優美で居心地のよい内装を持ついっぽう、5座プラス2座という、大家族向けのシートアレンジメントがセリングポイントだ。
「イヴォークはクーペ的なSUVであるのに対して、ディスカバリー スポーツは実用性に富んだライフスタイル提案。双璧をなすモデルです」。会場で会ったジャガー・ランドローバー・ジャパンの広報部長はそう解説してくれた。
隣には正式にショーデビューしたジャガー「XE」が何台も置かれていた。車体色も豊かに用意され、プレミアムな雰囲気を持つミドルクラスという存在意義を明確にアピールしていたのだった。
9月のロンドンにおける発表会で、「クラスで唯一アルミニウムを使ったシャシー」を誇らしげに謳いあげ、走りのよさと燃費を喧伝していたジャガー。パリではより詳細なスペックが明らかになった。ボディサイズは、全長4,672mm、全幅1,850mm、全高1,416mmで、ホイールベースは2,835mm。
エンジンは、200psと240psとチューニングが異なる2リッター4気筒と、「Fタイプ」に採用している340psの3リッターV6というガソリンのラインナップに加え、163psと180psの2リッター4気筒ディーゼルが用意される。「日本の導入は夏頃。ディーゼルの導入も検討中」とさきのW広報部長は教えてくれた。
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パリ モーターショーの現場から Vol.3(4)
ロードスターへの熱い視線
SUVのニューモデルでは、ボルボが「XC90」の新型を発表したのもニュースだ。ボルボの新世代プラットフォーム「スケーラブル プロダクト アーキテクチャー」を使った最初のモデルで、「ボルボがその歴史のなかであたらしい章に入る記念すべきモデル」と同社では述べている。
サイズはBMW「X5」と同等というだけあって、かなり余裕が感じられる。意匠が一新されたフロントグリルと、それをはさむユニークなデザインのヘッドランプが斬新な印象だ。シルエットを含めたボディのスタイリングは、従来のイメージを残しつつも、クリーンさが強調される。それによって、メルセデス・ベンツやBMWやアウディといったライバルとは一線を画している。
中身もあたらしい。とりわけツインエンジンと名付けられたモデルは、ターボチャージャーとスーパーチャージャーを備えた2リッター4気筒ガソリンに電気モーターが組み合わされたハイブリッド。ボルボカーズによれば、最高出力は400psに達するという。同時にCO2排出量をキロあたり60gに抑えることに成功するなど、ボルボも排ガス規制が厳しさを増す欧州市場で生き残るために、トレンドをしっかりつかまえているといえる。
クルマ好きの気分を高揚させてくれるニューモデルは、ひと足さきに日本でお披露目されたマツダ「ロードスター」だ。4メートルを切るコンパクトなフルオープンボディが美しい。
これまで発表が控えられていたパワートレインは、「SKYACTIVEの1.5リッター4気筒ユニット」を搭載することが、今回パリで初めて発表された。ブースの飾り付けはシンプルだが、ロードスターには熱い視線が注がれていた。