プロダクトデザインとしてのup!|Volkswagen
Volkswagen up!|フォルクスワーゲン アップ!
プロダクトデザインとしてのフォルクスワーゲン up!
「ビートル」や「ゴルフ」同様、個人のモビリティという観点で、ひとつのメートル原器たりうる存在と、フォルクスワーゲンが期待をよせて世に送り出した「up!(アップ!)」。そのup!は、デザインにおいても、現在の、そしてこれからのフォルクスワーゲンの方向性を指ししめす。と同時に、あらゆるすぐれたプロダクトがこれまでそうであったように、今後の自動車デザイン全体にとって、ひとつの潮流を決定づける存在となるのか? OPENERSは、フォルクスワーゲングループのデザインを統括する、ワルター・デ・シルヴァにインタビューする機会を得た。
Text by OTANI Tatsuya
フォルクスワーゲングループのデザイン責任者
1972年にフィアットのデザインセンターで自動車デザイナーとしての道を歩みはじめたワルター・デ・シルヴァは、1999年にフォルクスワーゲングループ内のセアトでデザインセンター責任者に就任。その後、アウディブランドグループのデザイン責任者を経て、2007年にはフォルクスワーゲングループのデザイン責任者に任命された
「先ごろジョルジェット・ジウジアーロのイタルデザインも傘下に入ったので、フォルクスワーゲングループにはおよそ2,000人のデザイナーが在籍しています」とデ・シルヴァ。「グループ内には現在12のブランドがあり、これを4つの本部で統括しています。また、中国とブラジルにはローカルなニーズに応えるためのスタジオを構えています。最近はドゥカティもグループにくわわり、オートバイのデザインセンターも受け持つようになりました。スタッフの多さ、そして担当分野が広範にわたることが、私の職務の特徴だとおもいます」
2,000名におよぶデザイナーの頂点に立つデ・シルヴァ。彼の日常とは、どのようなものなのだろうか?
「私はいまも毎日スケッチをしています。いわば、スケッチが私の言語、言葉なのです。私のデザインチームには、20ヶ国からやってきた20のことなる言語を話すスタッフが在籍しています。そんな我々に共通言語といえば、やはりスケッチです。描くことでコミュニケーションをはかり、マネジャーとしての役割も果たす。これが私の日常です。私はスケッチを通じてデザインのプロフェッショナルでありつづけているのです。そして、いいデザインをする能力を自分自身が持ちつづけていれば、他人のデザインを評価、選択する際に間違いを起こす確率も減らすことができるでしょう」
Volkswagen up!|フォルクスワーゲン アップ!
プロダクトデザインとしてのフォルクスワーゲン up! (2)
up!のコンセプト
つづいてデ・シルヴァにup!のデザインコンセプトについて語ってもらった。
「up!は、当然のことながらクルマであり、ご覧のとおりスモールカーです。そのいっぽうで、まさにいま現実に存在する現代的なクルマであり、私の手元にあるこのiPhoneや、我々が普段の生活の中で触れる工業製品のひとつでもあります。そういった、携帯電話のように先端テクノロジーを取り入れたプロダクト以外にも、たとえば家具であるとか照明であるとかを含め、現代の若い世代はとてもシンプルで機能的なデザインを求めているようにおもいます。そういった世代の方々に働きかけることをフォルクスワーゲンは目指しており、その考え方は間もなく登場する『ゴルフ』にも反映されています」
シンプリシティとフォルクスワーゲンのDNA
たしかに、up!もゴルフも装飾のための装飾がない、極めてシンプルなデザインに仕上がっている。それは、デ・シルヴァの内面からにじみ出てくるものなのか? それともフォルクスワーゲンの伝統なのか? もしくは、現在のトレンドを追ったものなのか?
「3つとも正しいとおもいます。まず、シンプルなデザインはデ・シルヴァそのものであり、私のフィロソフィーです。そのことは、フォルクスワーゲンにくわわる以前に手がけた私の作品を見ていただいてもわかっていただけるとおもいます。これまで私はプロポーションの良さを重視し、あまり複雑でないラインを好んで用いてきました。おなじ考え方は私のアルファやセアト時代の製品にも貫かれています」
「この種のシンプリシティな思想というものは、フォルクスワーゲンのDNAにもともと組み込まれているものです。フォルクスワーゲンは製品が持つ機能性や実用性をいかにしてデザインに翻訳するかといった作業に長年、取り組んできました。これは、私がいうシンプリシティの考え方と結び付くものです」
「そして、あなたがいま3つめとして挙げた時代の要請という考え方も、もちろん含まれています。私はフォルクスワーゲンのデザイン責任者として、お客様が何を求めているかについて、常に注意を払っています」
「ただし、市場の要求とデザインとの関係はとても微妙なバランスのうえに成り立っています。というのも、あまり厳密にお客様の要望を聞きすぎてしまうと、発売されたときには、すでに時代遅れなものになっていたということも起こりうるからです。したがって、お客様のお話を聞くというよりは、お客様の要望を先取りするという姿勢が求められるとおもいます」
Volkswagen up!|フォルクスワーゲン アップ!
プロダクトデザインとしてのフォルクスワーゲン up! (3)
零度のデザイン
iPhoneに代表される“デザインのシンプリシティ”とは、いったいどのような考え方なのだろうか?
「私はシンプリシティのことを、見た目より中身を重視するフィロソフィーであると捉えています。しかし、現在のトレンドは、それとは反対に中身よりも見た目が非常に強調されているようにおもいます。私は、皆さんに見た目よりも中身に注目していただきたいと考えているので、そういうメッセージを込めてデザインをしています。これは私の哲学でもあります」
「ユニバーサルなデザインというものは、誰が見ても『あ、○○社の製品だ!』とすぐに気づく点に特徴があります。これは、アップルのデザイナーであるジョナサン・アイブと私に共通する特徴でもあります。自動車デザイナーのなかには、毎年のようにまったくことなるスタイルを世に送り出す方がいますが、これでは、お客様を混乱させるだけです。私の姿勢はそういった方々とは正反対で、常に自分の哲学に忠実にデザインするように心がけています。そうすることが、結局はお客様に広く受け入れていただくことに結び付くと考えています」