セルフドライブで巡る西オーストラリア(後編)|TRAVEL
TRAVEL|セルフドライブで巡る、奇跡のような日常の世界
後編:色鮮やかなアウトバックを巡る西オーストラリア
”The home of the road trip”とも称される西オーストラリア州。広大な自然の中を走る喜びは、ドライバーの憧れだろう。道をたどることで、ワイン産地や世界的に称賛されているコーストラインなど、雄大な自然や美しい景観へと到達できるため、土地勘のない旅人でも快適にセルフドライブできると人気だ。キャンプ施設も充実しているので、休暇には気軽に車で州内を巡るパース市民も多い。同州の玄関口パースへは、今年9月からANAの直行便が就航し、成田―パース間を毎日結んでくれる。この機会にぜひ、「世界で最も美しい街」とも言われる州都パースを拠点に、広大でワイルドなゴールデンアウトバックで車を走らせ、オーストラリア大陸の素顔に触れてみていただきたい。
Text by MAKIGUCHI June
南極海に面した美しきエスペランスへ
オーストラリア大陸のおよそ3分の1を占める西オーストラリア州。その実に半分以上を占めるのが西部の至宝とも称される“ゴールデンアウトバック”という広大なエリアだ。この地域を旅するには車が一番。だがあまりに広域なので、一気に巡るのは忙しい日本人には難しい。そこで、まずはこのエリアの醍醐味を体験できる旅をご紹介したい。拠点となるのはエスペランスへ。州都パース中心部から南東に720km、車では8時間ほどの距離にある街だ。
エスペランスまでの行程も楽しみたいという人なら車で向かうのもいい。だが、初めての土地へ余力を持って到着したいということなら、行きは飛行機で向かってはいかがだろう。
パース空港から小型機なら1時間半で到着。空港からは、4WDを借りて、いよいよアウトバックでのセルフドライブをスタートさせる。
パースがインド洋に面していたのに対し、エスペランスが面しているのは南極海。目を見開いてしまうほどの鮮やかなターコイズブルーの海に沿って眩しいほど真っ白な砂浜が、これでもかと隣り合って続いている。その様子は夢のような光景で、オーストラリアでも有数の美しさと言われるのも頷ける。
街の中心部からは、“The Great Ocean Coastal Drive”と呼ばれる40kmに渡る沿岸セルフドライブルートが設定されている。ここには、オ―ストラリアで最も美しい直線道路と呼ぶ人もいるほど気持ちの良いストレッチ・ロードがあり、ドライバーたちを喜ばせる。
岩場に夕日が映えるトワイライト・ビーチ、4WDでビーチを走ることができるイレブン・マイル・ビーチ、シュノーケリングや日光浴にぴったりな楽園の様なブルー・ヘブン・ビーチなど、海辺の道路を辿るだけで地元の人々が愛してやまないクリスタル・クリアな海を望む絶景ビーチが次々と顔を出す。
そして、信じられないのはそのほとんどの場所で静かに過ごすことができること。とにかく人が少ないのも、パースから足を延ばした人だけが味わえる幸運だ。ここをドライブするのは、まさに夢のような体験なのだ。
また、エスペランスから東に30分も走れば、岩山や奇石、砂丘が見られ、豪州固有の珍しい植物が生い茂った原生林も広がるケープ・ル・グランド・ナショナル・パークに差しかかる。総面積3200㎢の広さを誇る、海に隣接した国立公園だ。自動支払機を見つけたら車種に応じた料金を支払う。多くの道が綺麗に舗装されており、地元民も日常的に4WDで移動しているので、迷うことなく自動車旅ができる。野性の生態系を保護するために定められたルールを守りさえすれば、自由で気軽なドライブが可能だ。
海辺をドライブしていると目に飛び込んでくるのが、まるで帽子のような形をした岩山フレンチマンズ・ピークだ。トレッキングも可能なこの山は、1870年に測量士アレクサンダー・フォレストが命名。フランスに縁のあるこの土地らしくフランス軍が1800年代にフランス軍が着用した帽子に似ているところから名づけられた。ちなみに、エスペランスに最初に上陸した西洋人がフランスの探検家たち。付近の海を航行中に嵐に遭い、なんとか生き延びて上陸できたことから、希望と言う意味を持つ船の名をそのままつけたという。
フレンチマンズ・ピーク山頂付近には大きな洞窟があり、約4000万年前にまだ海の中にあった際に、波と潮流によってつくられたもの。頂上の隆起したコンドルの頭の様な形から、先住民族たちは自分たちを見守る存在だとも考えていたという。彼らにとって大切な文化の一部でもある。
公園内に見所は多いが、必ず訪れて欲しいのが西オーストラリアのアイコン、“ビーチに佇むカンガルー”で知られるラッキー・ベイ。美しいビーチが多いオーストラリアの中で、“最も白い砂浜”の称号を持つ海岸。シリカを多く含むパウダーのようなサンドは、砂と言うより粉砂糖のような肌触りで、歩くときゅっきゅっと音が鳴る“鳴き砂”。その光景はまるで天国に来たかのように神々しく、絵画のようだ。
海辺としては珍しく淡水が湧くことから、野性のウエスタン・グレイ・カンガルーが暮らすことができるのだという。
白い砂浜でゆったり遊ぶカンガルーを見るなら、午前中がおすすめ。午後になって気温が高くなると、車の陰で休んでしまうことが増える。
そう、実はこのビーチも車の乗り入れが可能なのだ。また、このビーチには、「Lucky Bean Cafe」のトラックも。バリスタが淹れる本格コーヒーが、楽園のような風景の中で、野性のカンガルーと一緒に味わえるのはここだけ。ぜひ時間をとってゆっくりしたい。ビーチのアイドルともいえるカンガルーたちは人に馴れているものの、自然への敬意を忘れず、決して食べ物をあげたりむやみに触れたりしないように。
ご存知の方も多いだろうが、オーストラリアはキャンプ大国だ。ビーチ・サイドを含め、公園内にはキャンピング・サイトが設けられていて、キャンプキッチン、バーベキュー施設、テーブル、クリーンなトイレ&シャワー、水道など設備がとても充実している。それだけに、ラッキー・ベイのような人気のビーチそばのキャンプ場は、争奪戦がかなり激しい。キャンピングカーを借りて巡りたいという人は、必ずオンライン予約を入れること。
もし、運転に不安があるなら、ガイド付きトライブ・ツアーに参加するのもおすすめだ。4WDで雪山の様な真っ白い砂丘を上り下りしたりサンドボードをしたり、どっしりとした46mの高さの岩山を車に乗ったままロック・クライミングするという刺激的な経験もできる。プライベート・ツアーならばテイラー・メイドすることも可能。地元の人々だけが知る、秘密のスポットや興味深い話を紹介してもらえるのも、ガイド付きツアーだからこその楽しみ。気になる人は、Esperance Eco-Discovery Tours(エスペランス・エコ・ディスカバリー・ツアーズ)へ。4時間ほどの半日コースで1人$105から予約可能だ。
エスペランスまで来たのなら、もうひとつ絶対に訪れて欲しい場所がある。ピンク・レイクとして知られるレイク・ヒリアーだ。エスペランスの沖にあるルシェルシュ群島の一部で、大陸から約130km離れたミドル・アイランドにある全長600mの色鮮やかなピンク色の湖だ。
天候によってはパープルやシルバーに見えることもあるというが、水中の藻が太陽の光を受けることで、美しく輝く。クルーズで島に上陸することもできるが、ぜひ体験してほしいのが飛行機による上空からのアプローチ。ラッキー・ベイを含む数々のビーチを空から眺めオーストラリア大陸の南極海の海岸を飛行してから、海岸から離れミドル・アイランドへと向かうシーニック・フライトだ。
目を疑うほどのピンク色が見えた時の驚き、そしてその全貌を捉えたときの胸を鷲づかみにされるような感動は筆舌に尽くしがたい。眼下に広がる鮮やかなピンクと、その周りを囲むグリーン、そして、その外側に広がるクリアー・ブルーの海と白い波そして砂浜が、目も覚めるようなコントラストを創り出している。
自然が作り出した驚くべき光景を目にすると、自然への敬意と畏怖の念が当たり前のように湧いてくる。オーストラリアが野性保護先進国であることの理由が、今更ながらわかる、そんな体験だ。エスペランス空港からのおよそ90分の旅(大人1人:$385)。Goldfields Air Service (ゴールドフィールズ・エアー・サービス)で予約可能だ。
また、ターコイズブルーの海を堪能し、野生動物に会いに行くなら、クルーズに出かけてみてはいかがだろう? Esperance Island Cruises(エスペランス・アイランド・クルーズ)で、イルカやクジラが泳ぐエリアへと向かい、オーストラリアン・シーライオン(アシカ)、シー・イーグル、オットセイなどが生息する離島へと近づく。天気が良ければ、ラヴァ―ズ・コーヴ、ブルー・ヘブンなどに停泊するので、水に入ってシュノーケリングもできる。シーズンによって観察できる生き物も変わるので、お目当ての野生動物がいるなら事前チェックは忘れずに。
オーストラリアのローカルB級グルメともいえる、Ocean Blue Café & Restaurant(オーシャン・ブルー・カフェ&レストラン)での、アボカドトーストや、スパゲティ・オン・ザ・トーストなどボリュームたっぷりの朝食も忘れずに食してみて欲しい。
街をぶらついたり、水と戯れたりと存分に遊んだら、思い切って帰路は車でというのもいいだろう。エスペランスからパースまでは、内陸を通り8時間の道のりだが、途中で1泊(もちろん何泊でも!)すれば、赤い大地に沈む夕日を見ることもできる。日本で観るどんな太陽の色とも違う、記憶に残るオーストラリアン・レッドの夕焼けは実にドラマティックだ。
また、透明な海とはしばしお別れだが、内陸のロード・サイドにも旅人を喜ばせてくれる見所が待っている。エスペランスから2時間ほど走った場所にある、ワイルドフラワー・フェスティバルで有名なレーベンズソープの街はずれには製粉工場があり、巨大な絵が描かれたサイロ(小麦倉庫)が。
エスペランス地域から首都圏のパースまでは、Wheatbelt(ウィートベルト)と呼ばれる小麦の一大生産地。実は、日本のうどんやラーメンなどの原材料となる小麦は、多くが西オーストラリア産のASW<オーストラリアン・スタンダード・ホワイト>=通称ヌードルブレンドという品種。
讃岐うどんに至っては9割以上がこの州からのものだ。そんな農産業の中心地という特徴を生かし、こういったアート・サイロが現在4つ存在する。これは、プライベート・ファンディングで資金を集めた“FORM”という団体が、4人のアーティストに依頼して制作したもの。
レーベンズソープでは、2016年に隣り合った3つのサイロにまたがるように、バンクシアというワイルド・フラワーがエイモック・アイルランドという地元出身アーティストによって、ほぼ一カ月をかけて大胆に描かれた。25mという高さに及ぶ花を描くために使われたペンキは338ℓにものぼったという。FORMのウェブサイトでは、サイロを巡るトレイルや制作の様子も動画で紹介されている。
小さな町でひと休みしながらパースへと内陸を進んでいく際、ぜひワンストップしてほしいのが、レーベンズソープから2時間半ほど走ったところにあるハイデンという町。ここまで来るとパースは344km先、とすぐそこだ。もし1泊しかできないというなら、迷わずここを選んで欲しい。
郊外には州都圏から日帰りで訪れる人も多くいるという、巨大な一枚岩「ウェーブ・ロック」がある。内陸にも関わらず、思わずサーフィンしたくなるようなビッグウェーブがユーカリの林の中に突如出現するのだ。
2億7000万年前に形成されたと考えられているこの岩は、まさに今にも崩れ落ちそうな波のカタチをしている。その高さ15mのウェーブが約110mにわたって続く。自然が生んだその特異な造形美は実に圧巻だ。この周辺にはユニークな形をした岩が点在している。あくびをしたカバのような「ヒッポズ・ヨーン」、かつてこの地に住んでいた先住民族の手形による壁画が残る「マルカズ・ケーブ」など、先住民の歴史や文化を肌で感じられる場所だ。
ウェーブ・ロック付近など静かな田舎町に宿泊すれば、ダイナミックな夕日、満天の星空、空いっぱいの朝焼けなど、自然が生み出す美しく雄大な光景を存分に堪能できる。それも、セルフドライブによるのんびり旅ならではの楽しみだろう。
今回、パースを拠点に旅するおすすめスポットとして、マーガレット・リバー(前編)とエスペランス(後編)をご紹介したが、西オーストラリアには地球エネルギーを感じられる場所が多い。金脈が眠るという荒野「カルグーリー」や、ウルルを超え世界最大の一枚岩を望める「マウント・オーガスタス」など、まだまだ見所は残る。心に深く刻まれる、一生に一度の体験が、西オーストラリアであなたを待っている。
オーストラリア政府観光局:https://www.australia.jp
西オーストラリア州政府観光局:
https://www.westernaustralia.com
Esperance(エスペランス):http://experienceesperance.com.au/
Cape Le Grand National Park(ケープ・ル・グランド・ナショナル・パーク):
www.parkstaybookings.dbca.wa.gov.au
https://parks.dpaw.wa.gov.au/site/frenchman-peak
Esperance Eco-Discovery Tours(エスペランス・エコ・ディスカバリー・ツアーズ):https://www.esperancetours.com.au/
Esperance Island Cruises(エスペランス・アイランド・クルーズ):http://www.esperancecruises.com.au/
Ocean Blue Café & Restaurant(オーシャン・ブルー・カフェ&レストラン):https://www.facebook.com/oceanblues6450
FORM(フォーム): https://www.publicsilotrail.com/about/