「知る」は、おいしい! 星のや東京|TRAVEL

「Nipponキュイジーヌ」春メニューから、柔・甘鯛。「Nipponキュイジーヌ」とは、魚料理だけで勝負する、美しくもドラマチックな新体験。

LOUNGE / TRAVEL
2020年5月8日

「知る」は、おいしい! 星のや東京|TRAVEL

TRAVEL|星のや東京

このひと皿と出合うために、星のや東京へ(1)

ついに「星のや東京」で、浜田統之料理長の料理を食す日がやってきました。浜田さんは、フランス料理最高峰のコンテスト「ボキューズ・ドール」で日本人初の総合3位、魚料理で世界1位という栄誉を獲得した、押しも押されもしない、我が国を代表するスターシェフです。

Photographs by OHTAKI Kaku|Text by HASEGAWA Aya|Edit by TSUCHIDA Takashi

ライバルは、縄文時代の料理人。その言葉の凄みに、悶絶!

「ボキューズ・ドール」世界3位に輝いた浜田さんは、長野県・軽井沢の星野リゾート「軽井沢ホテルブレストンコート」のメインダイニング「ユカワタン」の総料理長として、鯉や鮎などの川魚、鹿などのジビエ、地野菜など、信州食材にこだわった新感覚フレンチを確立しました。そして2016年7月「星のや東京」の開業とともに、同料理長に就任。東京のど真ん中、大手町のオフィス街で「Nipponキュイジーヌ」をテーマに掲げ、新境地を開拓したのです。
星のや東京・浜田統之料理長
浜田さんは、ドイツの建築家ミース・ファン・デル・ローエの“Less is more.”という言葉を大切にしていると言います。「限られた条件で作るほうが、発想が豊かになると思うんです。もともと『ユカワタン』の料理は、長野県の食材を使おうという発想から生まれたものです」
決められた食材を使った料理を競うコンクールしかり、限られた食材にとことん向き合うことで本質に近づけると浜田さんは言います。
「制限があるからこそ、食材を生かす方法を深く考えます。深く考えることで、料理は深化していきます」
東京は、“海外から見た日本の代表都市”と考えた時、浜田さんは“島国”であり、“環境自体が特殊”な日本の魚を「星のや東京」の食テーマにすると決意。その仕入先のひとつは、焼津の「サスエ前田魚店」です。
「前田尚毅さんは、魚の生態系を理解していて、僕がどう料理に使うかを分かっている人。全幅の信頼を置いています」
そんなこだわりの食材を、浜田さんが得意とするフレンチの技法はもちろん、その他さまざまな調理法を総動員しながら、食材が生きる料理を作る──、これが、浜田さんが辿り着いた「Nipponキュイジーヌ」です。「星のや東京」のダイニングは、このお任せコース1本(要予約。1万8000円 ※税・サ、宿泊料別)。「食べながら驚きを感じてもらいたいんですよ」と、コースメニューには食材とその料理を象徴する漢字一文字が書かれています。
ちなみに、この日のコースはメニューには記載のない、竹炭や魚の骨の粉末を使ったチュイル(※薄い煎餅のようなもの)からスタート。続いて、アオサとハマグリの絶妙な組み合わせに、海のミネラルを感じる「潮・蛤」。そして噂(※飲食系ライターの間では、とても話題になっています)の「石・五つの意思」が姿を現しました。丸い大理石の上に一口サイズのアペタイザーが載った浜田さんのスペシャリテです。さまざまなメディアで幾度となく記事になっているので、見聞きしている人も多いのではないでしょうか?
石・五つの意思
「石・五つの意思」は、日本で大切にされてきた5つの味覚(酸味・塩味・苦味・辛味・甘味)で構成。大理石の上で、浜田さんの料理が、宝石のように輝いています。コレ、台座の石ごと手にとって、ひと口でいただくものなのですが、料理に合わせて石の温度を変えている繊細さにも驚かされます。なかでも印象に残ったのは、塩味を表現した「桜海老のスープ」(※左から2番目)。サクサクのチーズサブレのなかに入った、旨味たっぷりのスープが口の中で弾けました。「桜餅」(甘味 ※右から1番目)には、あみ海老の佃煮を使用。日本の海の香りを感じます。
次のクロマグロの稚魚・よこわを、野菜の出汁とごく少量の辛子で作ったサバイヨンソースでいただく、「鮮・よこわ」は春爛漫の一皿。滑らかな肉質で、軽やかな脂をたたえるよこわは、春野菜と良く合います。そして「融・ホタルイカ」は、ホタルイカを使った、「ブーダン・ノワール」風の料理。ホタルイカの肝とフキノトウをミキサーにかけたソースは、できることなら、延々に食べ続けたいほど。そして、印象派の風景画のような華やかさです。……日本酒も飲みたくなってきました。
柔・甘鯛
続いての「柔・甘鯛」は、甘鯛をウロコごとパリパリに焼き上げた、「ウロコのパリパリ感をお楽しみいただきたい一皿です」(浜田さん)。甘鯛の下には春キャベツや辛みのある紅芯大根を敷いて、辛さと甘みのバランスが絶妙。アサリの足や三つ葉を使ったコキュアージュソースも食欲をそそります。っていうか、ウロコってこんなに美味しかったでしたっけ? お花畑のようなルックスだけでなく、春野菜をふんだんに使った、五感で春を感じる料理です。
メインの魚料理は、「和・鰻と筍」。プレゼンテーションがまた、なかなかのインパクトです。白木の重箱を開けると、そこから蒸気が立ちのぼってきて、まさに玉手箱。じつは、この一風変わった器(もちろんオリジナルです!)、浜田シェフが「ボキューズ・ドール」の魚部門で優勝したときに使用したものなんですって。インパクト重視だけでなく、保温も兼ねているそう。優秀です。
その料理内容ですが、皮を香ばしく焼き上げた鰻、筍、黒米のおこわといった和の食材を、フランス料理の技法を使った、香茸のペリグーソースで仕上げていました。サーブしてくれたスタッフからは「筍がメインの料理です」との説明が。春の甘みを讃える筍は、フランス風のソースをまとい、よりなまめかしくセクシーに。濃厚な香りとキャラメリゼした鰻の甘みを引き締め、みずみずしさをプラスする田セリも、いい仕事をしていました。
五感で春満喫できちゃいます。
ここでスタッフから提案がありました。「日本酒のペアリングでお出ししているお酒も少しお試しになりませんか」。はーい、ぜひお願いしまーす! お出ましになったのは、「義侠 純米原酒50%」。牛肉を煮込んで作った出汁に、マディラ酒(マディラ島で作られるアルコール強化ワイン)を入れて煮詰める濃厚なペリグーソースに、義侠の豊潤さはまったく負けてはいません。
そして、〆にはごはんが用意されていました。メニューに記載のない、またもやサプライズです。雪若丸という米で炊いたご飯に、この日の料理に使った魚のアラに、ガラムマサラを効かせたスープ・ド・ポワゾンを絡めていただくのですが……
悶絶! ご飯にスープが染み入り、幸せ度はどんどん増していきます。浜田さんの料理、美味しくて、芸術的であることはもちろん、サプライズが散りばめられていて、もはや体験型エンターテイメントのよう。ディテールひとつひとつが、いつまでも鮮明に甦ります。
「『Nipponキュイジーヌ』は、まだスタートしたばかり。今の状態が完成形だとは思っていません。今後も進化を続け、日本の食材を使ったフルコースメニューとして、数百年後には、寿司、すき焼きを超える、ひとつの料理ジャンルになっていれば最高ですね」
そう語る浜田さんのライバルは、縄文時代の料理人だと言います。「私は、縄文時代の食材こそが、日本の天然食材のルーツだと思うんです。いつか縄文人を超える料理を作りたい、いや、縄文人と一緒に料理をしてみたいですね」と、浜田さんは目をキラキラと輝かせます。
……スケールが違います。あとで「星のや東京」の広報担当者と話したところ、「料理の話から宇宙にまで話が及ぶこともあります」と。いや、それも聞いてみたいです!

TRAVEL|星のや東京

このひと皿と出合うために、星のや東京へ(2)

「Nipponキュイジーヌ」ですっかり仕上がってしまいましたが(すみません)、そういえばここは大手町のオフィス街でした。この東京の中心地に一棟丸ごと宿泊施設という「星のや東京」の全体像についても触れておきたいと思います。
都心に新しく開業するホテルの多くは、大規模複合施設の一部に間借りして居を構えるのが常ですが、「星のや東京」は地下2階、地上17階の建物を全フロア占有。ここに日本旅館の要素をすべて組み込みました。そんな「星のや東京」のコンセプトは、“塔の日本旅館”。
日本の伝統文化をモダンにアレンジした「星のや東京」外観。日が傾き、ビルを覆う麻の葉くずしの文様が障子に映し出されるのも風流。
「星のや東京」玄関。竹で編まれた壁は、ゲストの靴収納スペースを兼ねている。この玄関には担当スタッフが常駐、ゲストの往来をサポートする。
青森ヒバの一枚扉を開け、まずは玄関で靴を脱ぎます。天井まで続く竹細工の靴箱に圧倒されていると、スタッフが教えてくれました。「ここではお履物を脱ぐという行為で、非日常の世界へ入っていっていただければと考えています」。
館内はエレベーター内を含めほぼ畳敷き。畳の感触を味わってほしいと、履物は用意されていません。ダイニングへも裸足で。それがまた、心地良いんです。
白檀をベースにした、「星のや東京」オリジナルの匂い香の香りに癒されながら、エレベーターへ。あれ、何か聴こえた? いえ、気のせいじゃありません。「星のや東京」のエレベーターは、到着階になると「拍子木」の音が鳴るんです。お茶目でしょ!
お茶の間ラウンジ
チェックインは、フロントではなく、すべての客室階に設けられた「お茶の間ラウンジ」で行なわれます。この「お茶の間ラウンジ」が滞在中大活躍! ここは各階に設けられた“クラブラウンジ”のようなもので、24時間いつでも利用できます。ゲストにとって、客室が「寝室」なら、ここは「共有の居間」。1フロア6部屋の宿泊者だけが使用するので、滞在中の顔見知りしか行き来しません。だから自宅で寛ぐように、ここでもステイ。ビールや、「とらや」のあずき茶など、飲み物、季節に合わせたお菓子が置いてあり、すべてフリーフローです。
そして至れり尽くせりなサービスも。例えば、夜にはお夜食のミニ麺が、朝にはおむすびとお味噌汁が用意されているなど、滞在中の小腹を満たす美味しいものにありつけるというわけです。個人的には気鋭の煎餅ブランド「センベイブラザーズ」の「星のや東京」オリジナルバージョンにロックオン。これとビールの組み合わせ、危険すぎますっ!
客室は14階分の配置設計で、全84室。全室畳敷きで、障子、竹や木を使ったクローゼット、ソファなど、日本の伝統的な建築美に、現代テイストを融合させた造りを実現しています。
栗の木で作られた浴室ドアの向こうには、あら素敵、シャワースペースと、日本人好みの深めの浴槽が。この際、部屋から一歩も出ずにお籠りを決め込むのも至福ですが、根が張らないうちに部屋着に着替えて部屋の外へ出るとしましょう。で、その部屋着にも妥協はありません。着物デザイナー・斉藤上太郎氏が手掛けた館内着は、「星のや東京」のオリジナル。動きやすい素材で、帯は巻くだけでサマになる仕様。1階では草履の貸し出しも行なっています。このまま散歩に出かけるゲストも多いそうですよ。
大手町温泉
まずは、最上階17階の「大手町温泉」に足を運んでみましょうか。そうなんです、「星のや東京」には地下1500mから湧き出る天然温泉があるんです。2014年に掘削された強塩温泉は、保温効果抜群。かつて、この地が海だったことも影響しているのでしょうか、塩分のしょっぱさを感じます。やや褐色を帯び、とろんとした湯は、時間帯によっては太陽の光を浴び、黄金色に輝きます。あ、酔っぱらってるからじゃないですよ! 内湯のなかを歩いて辿り着く露天風呂から上を見上げると、高い壁の向こうに四角く切り取られた、都会の空が顔を覗かせていました。これも立派な露天風呂。外気がとても気持ちいいです。
フロントとロビーは2階にあります。ロビー、そして、その奥にある畳ステージでは、時間帯によって様々な催しが行なわれています。
SAKEラウンジ
雅楽
夕方には、伝統曲芸「江戸太神楽」。それに合わせて、ロビーには「SAKEラウンジ」も登場です。日本酒の飲み比べと、ちょっとしたおつまみが無料で楽しめます。日本酒を片手に、お代官さん気分で、「傘回し」に興じてみてはいかがでしょうか。また週末の夜には、雅楽が披露されます。
そろそろ眠くなってきました? 本日の寝床は、布団に見えるけれど、実はベッドです。日本旅館ということで、角を丸くし、高さを低くしたマットレスをオーダーしたのだとか。シーツに関しては、すでに泊まったことのある友人から、「シーツすごいよ。神!」と前情報を得ていました。なんでも糸の密度が非常に高いのだとか。その肌触り、しかと確かめようと思ったのですが、早々に意識を失ってしまった次第です……。
朝稽古
すがすがしく目覚めた朝に体験したいのが、「めざめの朝稽古」(無料)。坂本龍馬も学んだ幕末の三大道場のひとつに数えられる「北辰一刀流」(ほくしんいっとうりゅう)の所作に深呼吸を組み合わせたオリジナルのエクササイズで、短い木刀を握りながら体を目覚めさせていくというものです。けっこう燃えます!
和朝食
朝食は部屋出しでいただくのが「星のや東京」流。「和朝食」と「洋朝食」の2種類から選べます。「洋朝食」はオリジナルのあさりを使ったデミグラスソースと合わせるオムレツがメインディッシュ。「和朝食」は、一人分ずつ釜で炊きあげたご飯を、ご飯との相性を吟味し、選抜された多彩な和総菜とともにいただきます。玉手箱のような、三段のお重を順番に開けていくのは、なんとも心躍る瞬間。また食欲控えめの朝は「お茶の間ラウンジ」のおむすびとお味噌汁で済ませるのも。
茶の湯体験
毎午前10時〜10時30分には、「畳の間」で茶の湯体験のアクティビティ(1名8000円、税・サービス料別。要予約。オリジナルのお茶碗と茶筅のお土産付き)が実施されます。館内にいながら茶の湯を体験できるのは、江戸文化を世界に伝える「星のや東京」らしいところ。まずは先生が点ててくれたお茶をずずっと(音を立てるのがマナー)。その後は自分でお茶を点てる体験もできます。
さて、もうひと風呂浴び。最後のごろんを堪能したら、チェックアウトしましょうか。
「星のや東京」を後にした瞬間、この一日が、とても幸せで、夢のような時間だったと実感しました。そして高層ビルが林立する大手町の一角に、そこだけ時空を飛び越えたかのような「桃源郷」が存在することを知った嬉しさに、ほくそ笑んだのです。
星のや東京
住所|東京都千代田区大手町一丁目9-1
客室数|全84室
パブリック施設|温泉、ダイニング、スパ、講堂
チェックイン/チェックアウト|15:00/12:00
宿泊料|1泊1室8万4000円〜(税・サ・食事別)
交通|東京駅丸の内北口出口より徒歩10分、東京メトロ大手町駅A1もしくはC1地上出口より徒歩2分
問い合わせ先

星のや総合予約
Tel.0570-073-066
https://hoshinoya.com/

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