料理長交代により、「星のや東京」のNipponキュイジーヌが、さらなる高みへ!|TRAVEL 
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2024年6月12日

料理長交代により、「星のや東京」のNipponキュイジーヌが、さらなる高みへ!|TRAVEL 

TRAVEL|星のや東京

この「食」のために泊まる。日常雑事と決別して美食と対峙することのススメ

東京近郊にお住まいの皆さんは、食事のために東京に宿をとったりしませんか? 「ん? 帰れるのになんで?」と思いますよね。でも、泊まらなければ食べられない献立が、ここにはあるのです。「星のや東京」が提供するNipponキュイジーヌ。旅先で食事に没頭するごとく、東京都内でも食事に没頭していただきたい。そんな星のやからのメッセージが聞こえてくるようです。ここは大手町のど真ん中ですが、一歩中に踏み入れると、星のやならではの時間が流れています。その時間をたっぷり使って、「食」と向き合うと、まるで時空を越える旅に出たかのような不思議な感覚を覚えます。

Photographs by OHTAKI Kaku|Text by HASEGAWA Aya|Edit by TSUCHIDA Takashi

編集・土田とライター長谷川による、くいしんぼう対談

土田 長谷川さん、今回どうだった? 星のやが、東京で展開する最高峰ディナー「Nipponキュイジーヌ」を改めて味わったわけなんだけど。
長谷川 私たちが「Nipponキュイジーヌ」をいただいたのは実に2年ぶり。星のや東京のダイニングは宿泊ゲストのための空間だから、”大手町”という東京のど真ん中にありながら、なかなか足を運ぶ機会がなかったんだよね。気づいたら、こんなに時間が空いてたよ~。
星のや東京ダイニングの個室。6つの畳敷き個室のほか、4つのテーブル席、カウンター席がある。星のや東京は旅館スタイルゆえに、ここでは滞在着のまま食事を楽しむことができる。
星のや東京ダイニングスペースのエントランス。壁はまるで地層のよう。景色の見えない地下階に敢えてダイニングを設え、食と徹底して向き合うための演出が凝らされる。
こちらはテーブル席。半個室のような感覚で楽しめる。
土田 自分が思ったのは、ここは東京のオーベルジュ。星のやが気合いを入れて紡いだコースに、正面から向き合うことに意味があり、そのためには帰りを気にせず、宿泊する必然性があると思う。それだけクオリティの高いお皿が、めくるめく展開されるんだよね。
長谷川 ここ何年かで「デスティネ―ションレストラン」という言葉がだいぶ一般化してきたよね。レストランを売りにしたオーベルジュ的な宿泊施設も増えてきている。美味しいもの好きさんたちは、そのレストランに行きたい、そのシェフの料理が食べたいからと、わざわざ地方に出向くことを厭わない(笑)。今回、久しぶりに「Nipponキュイジーヌ」を味わって、星のや東京も、“食べるため”に泊まる価値がある施設だなと確信したよ。
星のや東京 総料理長 岡 亮佑(おか・りょうすけ)さん。2020年に星野リゾート 奥入瀬渓流ホテルの総料理長、フレンチレストラン「Sonore」の料理長に就任、2023年より現職。フランス料理の技法を基に、シンプルな見た目からは想像できない素材の味を生かした料理を考案する。
土田 しかも昨年、多くの美食家を青森に呼び込んだ岡さんが、新たに星のや東京の総料理長に就任したんだよね。
長谷川 奥入瀬渓流ホテルは、奥入瀬渓流沿いに佇む唯一のリゾートホテル。その奥入瀬渓流ホテルが誇るレストラン「Sonore(ソノール)」で腕をふるっていた岡 亮佑さんが、星のや東京の総料理長になると聞いた時は、ほんとに驚いた!
土田 岡さんは、星のやブランドを代表する、スター料理人だもんね。記憶に残る料理を出してくれて、すごく印象に残ってる。ローカル食材のみならず、郷土に伝わる料理方法を研究する姿勢が素晴らしい。だから、見たことも聞いたこともない料理が出てきて、楽しいんだよね。
長谷川 その岡さんが東京でどんな料理を繰り出してくるのかってのは、やはり気になるところ。私たち、すっかり岡さんのファンだもんね(笑)。
土田 星のや東京のディナーは、日本の食材をフランス料理の技法を用いて世界に紹介するスタイル。そこに岡さんが新しく付け加えたのが、「参勤交代」で育まれた日本全国から江戸に集積する多彩な食文化というコンセプトなんだよね。つまり、奥入瀬渓流ホテルで育んだ地域の古典料理を発掘するスタイルを、日本全国に拡大展開するという、壮大な計画!
長谷川 「参勤交代」って単語、久々に口にしたよ。地方の大名が1年交代で江戸と自分の領地を行き来するヤツでしょ(ググりました♡)。大名の移動に伴い、江戸に地方の食文化が集まり、反対に江戸の食文化が地方へと伝わっていった──。これを現在の東京で再現しようっていうんだから、ほんと壮大の一言に尽きるよ。
土田 江戸料理研究家からアドバイスを受けつつ、岡さんが献立を設計しているそうだよ。そうして具現するのは、あまりに手間がかかりすぎて、現代では廃れてしまった古典料理の数々。それをタイパ度外視で取り組むことで、江戸時代にタイムワープするというか、他にはまったくない独創料理に仕上げているんだよね。

時代を遡って掘り起こした料理の数々。だからすべてが“サプライズ”

土田 下記が主な献立。こう表記されていたけど、ちゃんとフレンチというのが凄いっ。しかも隠れメニューがあって、質・量ともに大満足なんだよね。ところで、どんな料理が印象に残ってる?
「Nipponキュイジーヌ〜美食の集い〜」2024年春のコース

かぶら寿司(鱒、蕪、甘酒)
鰹のたたき(鰹、にんにく、ニラ)
黒つくり(イカ、キャベツ、チーズ)
ぶえん寿司(米、魚介、季節のもの)
旬魚 かす寄せ(豆類)
牛 辛子蓮根(ニラ、れんこん)
生姜 文旦(しょうが ぶんたん)
いきなり団子(さつまいも よもぎ)
かぶら寿司。春が旬の鱒をマリネして蕪で包み込み、次々と咲き始める花々のように彩り豊かな前菜に仕立てている。甘酒を合わせたドレッシングが軽やか。
ぶえん寿司。貝出汁で丁寧に炊き上げた香り米と、山菜のほろ苦さとさわやかな香りが口の中に広がる。付け合わせの貝餡と合わせると、春らしい貝出汁の旨味が山菜の苦みを優しく包み込む。
長谷川 どれもこれもピンで主役を張れる逸材ばかりだったけど、見た目も味もインパクト絶大だったのは「ぶえん寿司」かな。そもそも「ぶえん寿司」って今回初めて知ったんだけど、ぶえん(無塩)という言葉には、塩を効かせず生で食べられるほど新鮮という意味があるそう。冷蔵技術がない時代、塩漬けせずに魚を食べることは珍しく、とても貴重だったんだってね。熊本の郷土料理で、結婚式やお祝い事に出されていた料理だって。それを岡さんが、独自解釈で現代に再現した「ぶえん寿司」の美しさよ……! しかも「ぶえん寿司」一皿では終わらないっていうね。
土田 寿司と言いつつ、お米は出汁が効いたリゾットのような体裁。その滋味深さに加えて、バターのコクまで乗っかっているのに、これが新鮮な魚介とアクロバティックに合うんだよね。
長谷川 ゲストの目の前で仕上げる、付け合わせの貝餡と合わせることで、さらに別料理になる。まずは「ぶえん寿司」だけでいただいて、どこかのタイミングで、餡をかけて味変を図るの。エンタメ性も高いし、どっちも超絶に美味しい(笑)。
土田 4種類の貝を用いて、旨味を存分に引き出した餡かけ。これはまさに“旨味の洪水”。ペアリングのワインは、たしかギリシアのアシリティコ品種だったね。これがまた旨味、塩味、酸味すべてを持ち合わせていて、口の中でソースになるんだよ。思い出したら、唾液が出てきた。
長谷川 “ざっばーん”て、脳内で波が打ち寄せてきたよ。
 
長谷川 ほかにも面白いワインや絶妙なペアリングがいくつもあった。アミューズから、江戸の名物料理であるそばとうなぎをフランス料理の調理技法で仕上げた気合の一品。「江戸の文化を現代の料理で表現していくぞ」という、岡さんの気概が伝わってきたよ。
土田 いわゆる「うなぎのガレット包み」。ところが、新玉ねぎのサラリとした甘さを上手に使っていて、食欲をそそるんだよね。そのアミューズをゴクゴクと胃に流し込むのが、山形の老舗タケダワイナリーが造る微発泡ワイン。瓶内2次発酵ではないメトード・アンセストラルスタイルが、かえって胃壁に優しく、これからはじまる壮大なサーガを予感させるんだよね。
長谷川 冒頭からドンピシャのペアリングが惜しげもなく出てきちゃって、「もうこの後、どうなっちゃうの?」と、末恐ろしささえ感じたよ。上に載った国産キャビアのやさしい塩味との相性もよく、ぺろりんちょだったわ。
 
土田 鰹とネッビオーロとのペアリングも素晴らしかった。赤身魚と赤ワインの組み合わせって、最近はよく提案されているけど、ピエモンテ州のカジュアルなDOCで敢えてドレスダウンさせることで、コース序盤の押さえを効かせていたよね。

ソムリエの吉田さんは、昨年までは軽井沢にて「ユカワタン」に務めていた方だよ。吉田さんのペアリングは唸ったな。ペアリングってソムリエの力量次第で料理の感動が何倍にも膨らむんだけど、星のや東京では間違いなくペアリングを頼むべき。
牛 辛子蓮根。炭火でじっくりと火入れすることで旨味を閉じ込め、噛めば噛むほど旨味が広がる。付け合わせには、熊本の郷土料理「辛子蓮根」をモチーフにした蓮根餅を添えている。
長谷川 うん、飲んでそのペアリングの妙に唸るのはもちろんのこと、それぞれのペアリングの心を聞くのがまた楽しくて。前にも言ったかもだけど、質の高いペアリングって、ライブのエンターテインメントだと思っていて。それに、吉田さん、今後は、日本のものを中心に取り揃えたチーズを提供する構想もあるとか! 楽しみは尽きないよ(笑)。
土田 分かりやすく高級ワインが出てくるだけだと、単なる金銭勝負になっちゃうけど、吉田さんの凄みは世界のトレンドをいち早く取り入れていること。聞いたことない産地、聞いたことない組み合わせが次々に出てきて、これならワイン通も大満足でしょう。
ちなみにこの日は、メインの牛肉に合わせてモレ・サン・ドニ(フランス・ブルゴーニュの銘醸地のひとつ)1級畑の水平飲みという趣向も! 本筋もきちんと押さえていて、期待を裏切らない。ただし、どうしても細かな仕入れになるので、提供銘柄は必ずしも同じものになるとは限らない。
土田 それにさ、星のやさんのペアリングの料金設定が、控えめに言ってもおトクなんだよね。今回の設定も8種類で1万3200円。4種類なら9075円(※ともに税・サービス料10%込)って、お酒大好き派たちが泣いて喜ぶ設定だよ。
長谷川 星のやのアルコール設定が控え目なのは、私たち界隈では有名はハナシ(笑)。ほかの施設も、冷蔵庫の飲み物の値段もリーズナブルだし、お酒で稼ごうという意識が薄いんだろうな。酒飲みの私たちにとってはありがたいことです(笑)。だからこそ、お酒がいただけるクチなら、ぜひペアリングはオーダーしたいところ。そして、8種類だけでなく、4種類という設定があるのも優秀!
いきなり団子。熊本の郷土菓子を、フランスの伝統菓子ババ・オ・ラム風にアレンジ。火入れした干し芋を、甘酒を練りこんだ求肥で包み、ババの生地で焼き上げている。口の中に広がる洋酒の風味とよもぎの苦み、干し芋のまろやかな甘みの、重層的な味わいが楽しめる。

一夜明けた朝食が、これまた美味! シャキッと目覚める至高の献立

めざめの朝食

小鉢 もずくの酢の物、
五色がんも銀餡掛け、トマトと茗荷の辛味和え、
胡瓜と柑橘の酢の物、冬瓜と海老の炊き合わせ

九種盛り たくあん、あみの佃煮、牛しぐれ、
わさび漬け、鮭のほぐし身、海苔の佃煮、
梅干し、南瓜の浅漬け、金時豆の甘煮

焼物 太刀魚の塩焼き

蓋物 出汁巻き玉子

食事 釜炊きご飯、味噌汁
(人参、アスパラガス、厚揚げ、ズッキーニ、茄子)
土田 ところで、岡さんが料理長に就任して、朝食も一新したんだよね。その名も「めざめの朝食」。これまでは部屋出しのみだったけど、それに加えて、こちらはディナーと同じB1Fのダイニングで展開されるんだよね。そしてゴージャス! これまでの人生で最もキラキラした朝ごはんだったよ。
長谷川 心身を整える「めざめの朝食」! すごかったねぇ。ディナー同様、「わざわざ泊まって食べたい朝ごはん選手権 by 私」の上位ランキングにいきなり躍り出た!
土田 だって品数がすごいんだよね。そのどれもが、作り置きではないのが心底感動する。
長谷川 久しぶりに「迷い箸」しちゃった。そして、あまりの品数と一品一品の美味しさに圧倒され、言葉を発することを忘れたよね。
土田 釜炊きご飯を食べすすめて、最後は出汁茶漬け。なんという贅沢っ。
長谷川 コンディメントもひとつひとつが美味しいの! ディナー同様、どれもこれも手抜きがなく、すべて本気スタイル。
土田 この内容なら、朝から飲みたい人もいると思う。
長谷川 連泊するなら、この朝食と一緒にお酒もいただいちゃって、ほろ酔いで二度寝したいよね。
土田 それこそが、宿泊の醍醐味だよ。「食」にとことん向き合って、部屋で胃袋を調整して。
温泉ももちろん、宿泊者限定。だから、混んでることが基本的になく、ゆっくりと入浴できる。
長谷川 星のや東京のキャッチフレーズは、「塔の日本旅館」。ちゃーんと温泉もあります!
土田 おおー、そうだった! 都会の真ん中で、空を眺めながらの露天入浴は気持ちいいのなんのって。部屋のお風呂もいいけれど、自分は大浴場の温泉を楽しむ派だな。
 
長谷川 各階にある「お茶の間ラウンジ」の存在も見逃せない。自分が滞在するフロアのラウンジしか使えないから、往来者が少なく、ゆったりと落ち着いた環境でくつろぐことができるんだよね。コロナがあけてからは、時間帯は限られるけれど、スタッフがお茶を淹れてくれるって。
土田 ここ、まったく騒々しくないんだよ。自分の部屋の延長線上のように使えて、プライベート空間とパブリック空間のいいところ取り。「星のや東京」開業当時のコンセプトが、コロナをあけて、いよいよ帰ってきたね。
長谷川 窓から下界を見下ろせば、まぎれもなく大手町のオフィス街なのに、非日常感半端ナシ。今回の岡さんの料理もあいまって、時間さえも超越する感覚もあった(笑)。
土田 星野リゾートって、そのコンセプトがどの施設も素晴らしいんだけど、なかでも「星のや東京」は、かっ飛んでるよね。この極上体験をインバウンドの皆さんだけに譲ってしまうのはもったいない。
長谷川 ほんとだよ! 21世紀の東京で時空を旅できるんだから、そりゃ東京に住む私たちだってわくわくするよ。食べるために訪れる価値のあるオーベルジュであり、東京が誇る極上の日本旅館のひとつだと私は思うな。
星のや東京の1階エントランス。ここで靴を脱いだら、あとは裸足。
スタンダードなお部屋がこちら。左奥の仕切りの内側は水回り。
「Nipponキュイジーヌ~美食の集い~」春メニュー概要
料金 |1名 3万3880円(税・サービス料込、宿泊料別)
場所|星のや東京ダイニング
予約 |要予約 公式サイト(https://hoshinoresorts.com/ja/hotels/hoshinoyatokyo/)にて前日まで受付
対象|星のや東京宿泊者
備考|状況によりメニューの内容、食材が一部変更になる場合があります
「めざめの朝食」概要
定員|1日10組
料金|1名9680円(税・サービス料込、宿泊料別)
場所|星のや東京ダイニング
予約 |要予約 公式サイト([https://hoshinoresorts.com/ja/hotels/hoshinoyatokyo/)にて前日まで受付
対象|星のや東京宿泊者
備考|状況によりメニューの内容、食材が一部変更になる場合があります
星のや東京
所在地|東京都千代田区大手町1−9−1
電話|050−3134−8091(星のや総合予約)
客室数|84室
チェックイン/チェックアウト|15:00/12:00
料金|1泊11万2000円〜(1室あたり、税・サービス料込、食事別)
アクセス|東京駅丸の内北口出口から徒歩10分。東京メトロ大手町駅A1、C2c出口から徒歩2分
問い合わせ先

星のや総合予約
Tel.050-3134-8091
https://hoshinoresorts.com/ja/brands/hoshinoya/

                      
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