そろそろ上死点のSUVトレンドとポストSUVの出口戦略とは?|Geneva Motor Show
Geneva Motor Show 2017|ジュネーブ モーターショー2017 解析その2
そろそろ上死点のSUVトレンドとポストSUVの戦略とは?
大盛況のうちに幕を閉じたジュネーブ モーターショー 2017。新型のスーパーカーが華々しくデビューする一方で、相変わらず人気のSUVたちが覇を競い合う。またプラグインハイブリッドなどのエコカーや最新技術も人々の強い関心を集めた。そんなアタリ年の会場を巡った南陽一浩氏によるリポートを3部に分けて報告する。第2回は、隆盛衰えないSUVに注目。
Photogtaphs by MOCHIZUKI HirohikoText by NANYO Kazuhiro
SUVがみせる変化
今年のジュネーブ モーターショーもBセグからハイエンドまで、大小さまざまのSUVが登場した。ワールドプレミアだけでなく追加モデルや今後登場するコンセプト、欧州プレミアまで、20数台以上のSUVが発表されたことになる。
ちなみにジュネーブは欧州カーオブザイヤー発表の場だが、SUVとして初めてプジョー「3008」が受賞したことは象徴的だ。多かれ少なかれ保守的で、屋根の低いスポーツカーを好みがちな自動車ジャーナリズムが選んだ事実は、それだけSUVというジャンルが普通の選択肢になったことの証左だろう。
ただし、従来のSUVのおおよそのサイズ感に変化が生じている。Eセグメントが全長4.9メートル前後、Dセグメント4.65メートル前後、Cセグメント4.45メートル前後というのが一般的だったが、新規のSUVはオーバーサイズ気味になる傾向が見受けられるのだ。
SUVというカテゴリーのなかで先行モデルとの差別化は必要だが、多くのニューモデルがデザイン的に冒険するのではなく大きく立派になることを目指しており、さらに内装のクオリティやトランク容量でアドバンテージを稼ぐという、かつてセダンがたどった過程をなぞっているようなのだ。
Geneva Motor Show 2017|ジュネーブ モーターショー2017 解析その2
そろそろ上死点のSUVトレンドとポストSUVの戦略とは? (2)
成熟するC、Dセグメント
特に新作が顔を揃えたのがDセグメントだ。アウディ「SQ5」の4.64メートルに対し、アルファロメオ「ステルヴィオ」は4.66メートル、ボルボ「XC60」にいたっては4.69メートルと、しめしあわせたように全長4.7メートル弱に集中。半自動運転に関わるADASは上位機種から受け継ぎつつ、走りはセダンの兄弟車並み、それがお約束だ。
逆に「DS7クロスバック」は、「308」や次期「508」と共用のEMP2というプラットフォームを用いながら全長4.57メートルと、DセグメントとCセグメントの中間におさまってきた。対して幅は1.89メートルなので、ほぼDセグメントSUVの域。その分、内装にフレンチラグジャリーの粋をつぎ込み、プレミアムSUVとして大きくデカいだけでない、オルタナティブな提案を行った。
ひとつ上のサイズで同様の展開を見せたのが、レンジローバー「ヴェラール」。全長4.8メートルはまさしくD以上E以下だが、全幅1.93メートルは明らかにEセグメントに相当する。「イヴォーク」同様に3ドア展開も考えられるサイズ。ちなみに欧州のベストセラーSUV、今回マイナーチェンジした日産「キャシュカイ」は全長4.38メートルだ。
Cセグメントでは、フォルクスワーゲン「ティグアン」に「オールスペース」という全長4.61メートルにもなる7人乗りモデルが追加された。欧州ではプジョー「5008」やシュコダ「コディアック」などこのクラスの7人乗りSUVがすでにあり、MPVのマーケットがSUVへと移行しているといえる。
同じ流れはBセグメントへも波及しており、シトロエンは「C3ピカソ」の次世代スタディである「C-エアクロス」を発表した。小粒ながら“機能性の表現”という軸はブレていない。またルノー「キャプチャー」に「イニシアル パリ」のプレミアム グレードが追加され、SUVのラグジャリー化はBセグメントにまで及んだ。
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そろそろ上死点のSUVトレンドとポストSUVの戦略とは? (3)
ハイエンドワゴンの静かな台頭はSUVがピークアウトしたサインなのか?
他方では、こうした庶民のサイズ感とは無関係に、SUVをスポーツとラグジャリーそれぞれについてエクストリーム方向に極めてきたのが、メルセデス・マイバッハ「G 650 ランドレー」とベントレー「ベンテイガ マリナー」だ。V12ツインターボを積む前者は99台限定で76万5,000ユーロで市販される。後者はツートーンの外装やシャンパンボトルとグラスが置ける後席コンソールなど、随所にワンオフの仕様が見られるが、当然オーダーは可能だ。
さすがに以上のトレンドを鑑みると、SUVもデカダンというかバロック領域に入ってきたといわざるを得ない。やはりメーカーもSUVトレンドの出口戦略を練りつつある。今さらながらSUVとは「スポーツ ユーティリティ ヴィークル」の略だが、SUVでいうスポーツとは、スポーツカーの「低い・速い・スパルタン」な意味ではなく、野原やカントリーでのスポーツを街で通じるようにした変調コードだった。よって積める・人を乗せるといったユーティリティを保ったまま、ドライビングプレジャーといったキーワードを強める方向にマーケティングのパラメーターが動いている様子がうかがえる。
もっともキナ臭いジャンルは、ハイエンドのステーションワゴンだ。ポルシェはパナメーラに「スポーツツーリスモ」というワゴンの派生ボディを登場させた。SUV的スポーツとドライビング プレジャーの結合であることは明らかだが、「シューティングブレーク」を名乗らないのが、さすがポルシェらしい見識といえる。
一方でメルセデスは2月に追加したメルセデスAMG「E 63 S 4マチック ブレーク(ステーションワゴン)」を並べたし、その向かいではBMW「5シリーズ ツーリング」がワールドプレミアされていた。加えてボルボは新しい「V90」のクロスカントリーをすでにラインナップしているし、今年はアウディの「A6」、つまり「A6オールロード」のフルモデルチェンジも待たれる状況だ。
Dセグ以下のクラスでも、プジョーのコンセプトカー「インスティンクト」は、次期「508SW」とおぼしきステーションワゴンだ。エフィシェンシーの追求と自動運転との距離感に、見るべきものがある。空力改善にフラットボトムやディフューザーはもはや常識的だが、このコンセプトは拡大し続ける全幅を逆手にとって可動式のフロントルーバーからドア内を貫通する空力トンネルを採用、異様なほどスヴェルトな外観を実現した。今現在、主流の、ゴテゴテしたデザインに対するアンチテーゼだ。
他にも、自動運転モードではステアリング ポストを格納してドライバーの寛ぎを最大化する一方、ジョギング アプリの応用として、ドライバーの体調や移動ログなどクラウドのデータからパワートレインやドライブモードを最適化コントロールする。自動車の新しいコントロールの仕方を提案しているのだ。
ポストSUVを巡る動きは、上位機種から受け売りの機能と最新ADASの積み上げだけではなく、自動車の新しいコードを創れるか否かの勝負ともいえるだろう。