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2022年6月21日
好きになったら必ずハマる──いまも熱い、80年代のラテン車5選
いまも熱い、80年代のラテン車5選
フランス車とイタリア車をラテン車と総称する。いずれも、デザインや走りにおいて、ドイツ車や国産車にはない、遊び心溢れる独特の魅力を有しているからだろう。特に、80年代のラテン車には、いま以上に濃いテイストが存在しており、それゆえ、いまでも熱狂的なファンがいる。そこでここでは、いまも熱い注目を集める80年代のラテン車5選をお送りする。
Text by OGAWA Fumio
日本車にもドイツ車にもない独自テイストが色濃くあった80年代のラテン車
フランス車とイタリア車をあわせてラテン車といったりする。日本だと少数派だけれど、熱心なファンがいる。確かに乗ると、それも分かる。スタイリングといい、ハンドリングといい、好きになったらハマる個性をもつ。
なかでも、ちょっと古いラテン車は、いまも人気が高い。それより前のモデルはさらに個性的だけれど、とりわけ1980年代に買えたモデルは、日本車にもドイツ車にもない独自のテイストがまだ色濃くあって、乗ってみると、クルマの豊かな世界観に触れることができそう。
スポーティな仕様が中古市場でよく取り引きされている。「GT」とか「GTI」とか付かない普通の仕様もまたよく走る。ただし、普通仕様は、欧州の大衆車の常で、変速機の2速と3速のギア比が離れていて、日本の交通事情に合わないというデメリットもあるけれど。
実際、変速比の問題はけっこう大きいと私は思っている。加速用の2速と、高速巡航用の3速と、役割がはっきりしすぎているから。そこを嫌うなら、各ギアが接近しているスポーツモデルの方がいい。そのあたり、乗り較べてみてください。
1) アルファロメオ75(1985年) BMWよりも軽快なアルファロメオ伝統の乗り味を楽しめる
アルファロメオは後輪駆動に限る、なんていまも思っている人には、スパイダーか、このクルマがいいかもしれない。84年にトップモデルとして発売された「アルファ90」のコンポーネンツを使いながら、見かけも乗り味も個性的なセダンだ。
全長4,330mmのボディに、比較的長めの2,510mmのホイールベースの組合せ。1トンぎりぎりの車重と、ギアボックスをリアに移したトランスアクスルというメカニズムゆえ、ハンドリングはけっこう軽快。BMWよりさらに軽快なアルファロメオという、伝統的な味を残していたモデルだ。
トラベルの大きいギアなどは、昔のクルマ。このあたりは、手首の動きでシフトワークができるBMWに負けていた。でもそこも味といえば味。ボディ側面には樹脂パネルでベルトラインを強調するなど、デザイン的にはギミックといえる手法など、要するに“味のかたまり”のようなクルマである。
日本に正式輸入されていた2リッター4気筒「ツインスパーク」は、軽快な回転マナーが身上で、上の回転域まで回すと、高音成分を多量に含んだエンジンからの音が、実に気持ちいい。思えば、こんなところに魅力を見出せる今のクルマってない。
2) シトロエンBX(1982年) オススメは開発者の思い入れがより強く感じられる前期型
いい意味で個性にあふれたセダン。窒素と油圧を使った独自のサスペンションシステムであるイドロプヌマティク(ハイドニューマチック)を採用していた点は、伝統的なシトロエン。4,230mmの全長に対して2,655mmもあるロングホイールベースのおかげで、室内は広くて居心地がよい。これもシトロエン的。
一方、軽快なハンドリングは期待以上だったし、日本製を採用したエアコンの効きのよさは新鮮な驚きだった。86年までの初期型は、ユニークなメーターをはじめ、より開発者の思い入れが強く感じられたもの。いまでも人気が高いのはこちら。
ボディはプラスチックを多用して、900kg台の車重を実現。これもハンドリングのよさに貢献している。
85年に「スポール Sport」というスポーティ仕様が登場。86年には主力グレードのエンジンが燃料噴射化されるとともに、足まわりが強化された「GTi」も発表された。
ここまで足まわりが硬いなんてと、自分なりのシトロエン観を形成していた私には、違和感があったのも事実。でもシトロエンは当時モータースポーツにも熱心で(グループB「BX 4TC」なんてスゴいものもあった)、そっちが好きな人には、大人4人が楽々乗れて、高速を突っ走れるBX GTiは存在価値があっただろう。
いまでも、ラテン車の販売に熱心に取り組んでいる販売店も少なくないので、BXはいろいろ楽しめる。いろいろな意味で軽い感じのセダンという、個性を楽しんでほしい。
3) アウトビアンキA112(1969年) いまの目にもまったく古びて見えないイタリア製ミニ
1969年から86年までと、長いモデルライフを持つイタリア製のミニ。全長が3,228mmしかないが、13インチのタイヤの存在感が大きいうえに、ボディのショルダーが強調されたデザインゆえ、いまの目にもまったく古びて見えない。
1899年にミラノでクルマづくりを始めたアウトビアンキは、第二次大戦後にフィアット傘下に入ったが、A112のように、なかば実験的にフロントエンジンと前輪駆動という形式をフィアットに先駆けて採用するなど、独自の立ち位置だった。
A112といえば、日本では71年に追加されたホット(高性能)モデル、A112アバルトがよく知られている。700kgしかない車重に70psと当時十分なパワー。ほとんど車体がロールせずに、クルクルという感じでカーブを軽快に回っていく。
一方、フツウのA112もなかなか味がある。なによりこのクルマのプロポーションに惹かれている私としては、オーバーフェンダーなどですごみを利かせたアバルトよりも好感がもてるかも、なんて思ったりしている。
いい歳の男が、ジャケットとか着て、こういうクルマを走らせているのは、いまの目からしても、何だかすてきだ。クルマはいつまでも大切な趣味の道具だと思っている人には、A112に乗ってもらいたい。
4) ルノー5(1984年) このスタイリングだけでも、いま乗る価値がある
フランス製コンパクトカーのベストセラーといわれたのが、1972年登場の初代「ルノー5」だ。84年発表の新型「ルノー5」はスタイリングコンセプトは初代から受け継ぎつつ、内容は刷新され、乗り味がぐんとアップデートされた。
そもそも初代のベースは、1961年発表の大衆車、ルノー4。これも味があっていいクルマだけれど、さすがに古い。トーションビームというポルシェ911も一時期採用していた棒がねじれるタイプのスプリングを採用していたため、ホイールベースを左右で変えてまで動きの自由度を追求し、乗り心地の向上に努めていたのが初代ルノー5の特徴。
初代ルノー5、いいところはいろいろあるクルマだった。デザイン的にも大変優れていて、いまもルノーはアイコン的に扱っているほど。でも、さまざまな競合に正面から太刀打ちできたのは、シュペール(スーパー)5などと呼ばれた2代目だ。
ハンドリングは目にみえてシャキッとし、ボディの剛性感もさらに上がった。このとき「バカラ」というレザー内装のぜいたく仕様や、「5GTターボ」というスポーツ仕様も登場。2ドアと4ドアのボディに加えて、バリエーションは豊か。
このスタイリングだけでも、いま乗る価値があるんじゃないだろうか。嫌みのない、誰からも愛されるかたち。日常の道具のようなクルマをつくらせると、フランスもイタリアも、本当にうまい。その見本。
5) ランチア テーマ(1984年) 控えめかつ品のある内外装が魅力
イタリアのランチアは、1906年にフィアットレーシングチームのワークスドライバーだったビンチェンツォ・ランチアが創設した自動車メーカー。
エンジンをコンパクトにしてカーブでの回頭性をよくしたり、サスペンションアームをうんと長くとって乗り心地と操縦安定性の向上を図ったりと、イタリアの良心だなあと思う設計思想に基づいたクルマづくりが特徴的だ。
「ランチア テーマ」は、フィアットやアルファロメオやサーブが共同開発したシャシーを使うプレミアムセダン。ランチアの独創性はあまりないけれど、「フルビアHF」「ストラトス」「ラリー」「デルタ」といったモデルでもって、世界ラリー選手権を荒らし回っていたランチアのブランドイメージによって、ひと味ちがうイメージがあった。
全長4,590mm、ホイールベース2,660mmと、日本だとトヨタ クラウンと同等のサイズの4ドアボディは、ジョルジェット・ジュジャーロ(ジウジアーロ)率いるイタルデザインの手になるもの。控えめさが逆に魅力ともいえた。実際、当時イタリアでは、同地のフォーマルカラーである濃紺に塗られた公用車をいたるところで見かけたものだ。
内装も品がよく、とくにエルメネジルド・ゼニアが供給するソフトな手ざわりのファブリック張りのシートは絶品。質のいい、と表現したくなるようなセダンである。
1986年にはフェラーリ308QV用の3リッターV8DOHC32バルブエンジンをフロントに押し込んだ「テーマ8.32」が追加され、日本でもクルマ好きを狂喜させた。実際のところは、エンジンマウントが緩かったり、いたるところに無理があった。
一見ジミーなテーマだけど、実はやっぱり熱かった、というのがうれしかった。中古市場であっても、フツウの人は眺めているだけにした方がいいでしょう。