プジョー308GTi と308R HYBridに試乗|Peugeot
Peugot 308GTi|プジョー 308GTi
Peugeot 308R HYBrid|プジョー 308R ハイブリッド
プジョー308GTi と308R HYBridに試乗
500ps を誇るスーパーPHEV
フランクフルトモーターショー2015で、プジョーブースの主役を務めた「308R ハイブリッド」。モータージャーナリスト南陽一浩が、500psを誇るこのスーパーPHEVにさっそくフランスで試乗した。同時に乗った308GTiとともにリポートする。
Text by NANYO Kazuhiro
純粋に走る・曲がる・止まるの操作を楽しめる
合計出力500ps、最大トルク730Nmを掲げるプジョー「308R HYBrid」を、昨年秋のフランクフルト モーターショーで見たときは、少なからず驚いた。いかにPSA最新のプラットフォームEMP2とはいえ、ベースはCセグメントのFFコンパクトに過ぎないからだ。内燃機関に加え、電気モーター×2基を前後の各車軸に組み合わせたプラグイン ハイブリッド(以下PHEV)は、270ps+115ps×2=500ps、または330Nm+200Nm×2=730Nmと、机上の公式としては美しい。だがバランス的に盛り過ぎてないか? そんな危惧をいきおい抱かせるというか、エンジニアリング的に無理筋でないか?と思ってしまったのだ。
だから数ヵ月もしないうちにサーキットで乗れることになって、そこまでの完成度を備えたプロトタイプとは予想していなかった分、さらに驚いた。加えて幸運にも、308R HYBridに乗るサーキットまで移動の足に用意されたのは、ベース車となった市販モデルで、2016年春に日本に上陸する予定の「308GTi」だった。というわけで2台の試乗記をお届けしたい。
まず308GTiの外観で特徴的なのは、「クープ・フランシュ(スパッと切り落とすこと)」と呼ばれるボディを前2 :後1で塗り分けた、赤と黒のツートーンカラーだ。ドブ漬けで塗られたボディを再度、手作業でリア1/3だけ塗装を剥がして塗り直しているそうで、なかなか手間がかかっている。スプリングやダンパーが強化され、ノーマル比で車高は11mm低い。また通常モデルでは水平基調だったフロントグリルも、ブラックアウトされた横長ダミエ(市松模様)の専用パーツとなっている。あとはマフラーエンドぐらいが、外観上の違いだ。
走り出して即座に気づくのは、基本的な操作タッチやフィールが、きわめて高いレベルにある点だ。そもそもまず、シートのホールド感が抜群。肩まわりがブレにくく、当然それはステアリング操作の正確さを確保する。ステアリングやブレーキペダルの感触もしっとりしていて、6段MTの適度な摺動感と剛性も申し分ない。クラッチを繋いでもトランスミッションの揺れがレバーに振動となって伝わることもない。308GTiは純粋にMT車として、走る・曲がる・止まるの操作だけでも楽しめる一台なのだ。
乗り心地も、235/ 35R19というサイズのタイヤを履いているにしては驚異的に快適だ。サスペンションの横剛性が高い分、50km/h程度で街中などうねった路面を通過する際はステアリングを多少とられてボディが揺すられる。だが、ひとたび郊外に出て速度域が高まれば、むしろ足回りのなめらかさが増してくる感覚だ。
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500ps を誇るスーパーPHEV (2)
市販MT車の中でも指折りの一台
じつは1205kgという308GTiの車重は、ライバルであるゴルフ7のRやGTiより100~200kg以上も軽量で、あまつさえポロGTiよりも軽い。PSAの最新プラットフォームであるEMP2のおかげだ。低重心設計でロール量は少なめだが、上モノの軽さと剛性感、そして足回りのしなやかさと軽快さが相まって、サスペンションのストローク感は豊富に感じられる。限界の高さはともかく、4輪の荷重変化やロードホールディングといったドライバーへの情報量の多さが印象的なのだ。いってみれば恐ろしく饒舌なシャシーである。
1.6LターボTHP270ユニットは、RCZ R のTHP275psとスペックこそ近いが、インジェクターやマッピングは刷新、クランクまわりは強化され、ターボ導入エアの冷却クーラーを備えるなど、似て非なる別物となっている。タウンスピードでも恐ろしくスムーズだが、トルクカーブをなだらかに保つ制御だろうが、そう踏み込まずに軽く加速しても2.3~2.5barというひと頃のチューニングカーのような高圧ブースト値が時に表示される。バックグラウンド制御は忙しそうだ。しかし、308GTiの270ps仕様は従来の盛り上がりに欠けたTHPユニットと違って、高回転の伸びやパンチを感じさせる。ボタンで走行モードをスポーツに切り替えるとアクセルレスポンスはより機敏になり、また一段と勇ましいエキゾーストノートを聞かせる。
ちなみに大きく舵を当てた状態から2速で立ち上がるようなときは、トルクステアがなくはない。だが小径ステアリングとアシストの強さも相まって、舵が暴れるよりは、楽々と抑え込める感覚が勝る。
308GTiには250ps仕様と270ps仕様があり、後者のみトルセン式LSDを備えるが、その効果はサーキット路面より、凹凸の多い峠道での加速時、バンプを後方に蹴り去るような感覚として感じられた。
いずれ308GTiは、軽量さにモノをいわせつつも、ヒラヒラ感より粘性の高いロードホールディングで勝負している、そして操る喜びを備えているという点で、FFどころか市販MT車の中でも、指折りの一台といえるだろう。
逆にいえば3ペダルを極めたFFホットハッチをGTiに任せたからこそ、2ペダルのエクストリーム・ハッチバックAWDとして、308R HYBridの意義が際立ってくるのだ。
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500ps を誇るスーパーPHEV (3)
アンチ ドイツ車として極めて野心的な一台
では続いて308R HYBridの印象をお伝えしよう。車重はGTiの1205kgから +345kgの1550kg。メルセデス-AMG「 A45」やBMW「M2」、アウディ「RS3」らと同等といっていい。しかし最大出力とトルクは計500psに730Nm、しかもPHEVなのだから、プロトタイプとはいえパワーウェイトレシオでもクリーンさの面でも、一歩抜きん出ていることが分かる。アンチ ドイツ車として極めて野心的な一台だ。
ジオメトリーについては、トレッドがGTiよりフロントで+80mm、リアは+86mm拡大された。タイヤ銘柄もミシュランのパイロット スーパー スポーツからパイロット スポーツ カップ2に変更される。だがタイヤサイズはGTi と等しく235/35ZR19となる。ダンパー&スプリングも基本的に同じサプライヤーから供給される同型パーツを、さらに固めた仕様で、4ポッドキャリパーにフロント380mm、リア268mmのブレーキディスク径もGTi同様だ。
というのも制動力の一部は、前後の電気モーターが回生時に発生するイナーシャ抵抗によっても担保されるからだ。実際、アクセルオフでBMW「i3」ほどではないにせよ、減速抵抗がかなり働くのだ。この抵抗はパドルシフトによる変速ショックを和らげる効果もある。
減速時に回生されたエネルギーは電気に変換され、デルフィ製のリチウムイオンバッテリーに蓄積される。このホイールベース間に収められた二次電池は、重量増を抑えるため3kWh容量と小さく、その残量は通常走行だけでも容易にフル充電近くまで復活する。
308R HYBridはプラグイン充電も可能だが、電気モーターによる+αのトルクや出力は、KERSのように加速時に頻繁に吐き出して使うためのハイブリッドなのだ。
ところが、この日の試乗は前車軸側モーターがほぼ不在の約400psに限られた。4種類が選べる走行モードのうち、THP270と前後の電気モーターをフルに動員する「HOT LAP」という最もパワフルなモードは、試乗続きでクラッチとトランスミッションを保護するため、この日は試せなかったのだ。2ペダルのトランスミッションは、PSA製の6段シングルクラッチがベースで、前車軸に限っても330Nm+200Nmのトルクを受け止めるには、クラッチ容量が負けているというのだ。
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プジョー308GTi と308R HYBridに試乗
500ps を誇るスーパーPHEV (4)
加速感はポルシェ「911」並
そんなコクピット・ドリルを受け、多少なりと萎んだ気分でコースインした。まずはフル充電時なら約15kmを電気のみで走行できるという「ZEVモード」、続いてシフトレバー手前の走行モード切替で、ストップ&ゴーなど街中で燃費重視のハイブリッドとなる「ROAD」、さらに「SPORT」を選択してみた。シフト操作はパドルだ。
SPORTではTHP270だけでなく、アクセル開度に応じてリア側の電気モーターも、鋭いレスポンスでトルクを放つ。後輪が地面を蹴り上げるのはむろん、従来のホットハッチではありえなかった感覚だ。
しかし何より異質なのは、踏み込んでからジワッと立ち上がる内燃機関のパワー感ではない、電気特有の鋭いトルクレスポンスだ。弾かれたようにリアに荷重が移り、次のコーナーが恐ろしい速さで迫ってくる。前輪駆動のホットハッチにはありえない、強烈なトラクションとコーナー脱出速度だ。
ストレートエンドでエンジン回転数が上限近くに達すると、前車軸側モーターが介入して同じ速度を保ったまま、エキゾーストノートが一段階、低くなる。このとき、走行モードごとに出力やトルクの総量が限られるわけではないことに気づいた。最高出力や最大トルクをフルに使えるのは最高速トライかローンチスタートのような場面だが、トルクのレスポンスは加速時ならどこでも解き放つことができる。そして2km強のサーキットをクールダウン走行すれば、すぐにバッテリーは充電され、再びコーナー出口で電気モーターをアテにすることができるのだ。
それにしてもコーナーの進入から旋回まで、308R HYBridの素直な操舵感は、重量増とトレッド拡大にも関わらず、308GTiのそれと酷似している。同じタイヤ接地面積とはいえ、やや絞られたロール量に、重心の低い粘り腰、旋回中の正確なトレース感は共通だ。
だがコーナー出口に向かうアクセルオンで、後車軸から金属的なモーター駆動音が、遮音材が省かれ地面が見えているトランク床下から容赦なく侵入してくる。ここはプロトタイプ然とした未完成なディテールだ。それでも、リアを沈めて次のコーナーへ突進するような加速感は、まるでポルシェ「911」並で、もはやホットハッチとは非なる強烈な刺激といえる。
さらに驚いたことに、このクルマを仕立て上げたプジョー・スポールのエンジニアは、EMP2がさらなるパワー、つまり500psでは物足りないと確信したそうだ。ウェット路面などでは後車軸により多くのトルクとパワーを配分したいのだという。つまり前後のトルク配分を調整する仕組みを備えないため、今のところ後車軸はデフォルトのモーター出力次第。115ps・200Nmというスペックはサプライヤーの用意できる、現時点でもっともパワフルな仕様だというのだ。
400psでも十分に刺激的で、パワーウェイトレシオでもドイツ勢に対して優位にある308R HYBrid。例え少量生産でも、市販のための技術的なハードルは決して高過ぎることはない。実現したらPHEVである事実を差し置いても、プジョーらしいエッセンスを凝縮した魅力的な突然変異となるはずだ。