Why not? なぜSUVやワゴンに乗らなくちゃいけないのか
Range Rover Sport SVR|レンジローバー・スポーツSVR
Range Rover 30V6 SuperCharged VOGUE LWB|
レンジローバー3.0 V6 スーパーチャージドVOGUE ロングホイールベース
Mercedes-Benz C 220 d Stationwagon |メルセデス・ベンツC 220 dステーションワゴン
Why not? なぜSUVやワゴンに乗らなくちゃいけないのか
充実する輸入車のラインナップのなかで、小川フミオ氏が“自分好みの選択をしよう”と提案する「Why not?」。第3段は大きなリアゲートとラゲッジスペースを持ち、ユーティリティ性の高いSUV&ワゴン編。
Why not? なぜスポーツカーに乗らなくちゃいけないのか
Why not? なぜセダンに乗らなくちゃいけないのか
Text by OGAWA FumioPhotographs by ARAKAWA Masayuki
なぜカイエンじゃいけないのか ―― レンジローバー・スポーツSVR
ジャガー・ランドローバーの「スペシャル・ビークル・オペレーションズ(SVO)」が設計・開発を手がけたというふれこみのスペシャルモデルが「レンジローバー・スポーツ SVR」だ。2015年10月に日本市場に導入。専用設計のヘッドランプと深いフロントエアダム、それに21インチタイヤが、観た目の迫力を強く感じさせる。5リッターV8エンジンは、550馬力(405kW)の最高出力と、680Nmの最大トルクを発生。スポーツカーのようなSUVである。
「ランドローバー史上、最も速くパワフルなハイパフォーマンスモデル」と謳われるレンジローバー・スポーツ SVR。ドイツのニュルブルクリンク北コースでは8分14秒を記録し、SUVのラップレコードを更新したことが、ランドローバーの広報によって大々的に報じられたのも記憶に新しい。スペシャル・ビークル・オペレーションズ部門でエンジニアリングを担当するチームが手がけた、というだけでも価値を見出すユーザーは多いだろう。
静止から100km/hまで加速するのにわずか4.7秒という性能ぶりは、実際に運転すると、真実だとよく理解できる。驚くほどの加速力だし、ハンドリングも一般的なSUVのそれではない。車体の反応速度は速く、コーナリングでの姿勢の安定ぶりも見事だ。サスペンションシステムは、エアスプリングに可変ダンパー、そして可変ロール キャンセル システムが組み合わされている。これは基本的にスタンダードモデルと共用。ただし設定だけよりスポーツ走行を主眼としてチューニングしているそうだ。固い一方でなく、よく動いて、乗り心地は意外なほどしなやか。飛ばせば速いし楽しい。それでいて、高速ツーリングでは快適。かなりよく出来たモデルだ。
レンジローバー・スポーツ SVRのもう一つの魅力が、スタイリングだ。SUVのパッケージにスポーツカー的なイディオムを採用したエクステリアはかなり特別感がある。加えて、インテリア。レンジローバー・スポーツがもともと特徴としていた、機能とエモーションをうまく合体させた基本造型に加え、スポーツシートの採用と独自の色づかいで、SVRでしか手に入らない世界を実現している。
インテリアで目を惹くのは、2トーンのカラースキームだ。試乗したモデルは、ホワイトとブラックが使われていて、スポーティな気分を盛り上げてくれていた。ランドローバーの色づかいのセンスは素晴らしい、と強く感じさせられる仕上がりなのだ。シートはやや硬めだが、長時間乗っていても疲れることはない。
スポーツSUVは、ドイツ車の独壇場だった。スポーツSUVとしては、ポルシェ「カイエン ターボ」(1,738万円)は人気あるモデルである。4,806ccのV8エンジンにフルタイム4WDシステムが組み合わされていて、520馬力(382kW)の最高出力と、静止から100km/hまで4.5秒という加速性能を持つ。ボディサイズは全長4,855mm。5.5リッターV8を全長4,880mmのボディに搭載したレンジローバー・スポーツ SVR(1,605万円)と真っ向からぶつかるモデルともいえる。
レンジローバー・スポーツ SVRは、このクラスのマーケットでは重要視される“雰囲気”において突出したものを持つ。「スペシャル・ビークル・オペレーションズ」が腕によりをかけて開発したという背景も嬉しい。クルマの出来もよいし、インテリアにはこのクルマでしか手に入らないクラフツマンシップを感じさせるぜいたくさが感じられる。ドイツ車からちょっと外れて、このクルマに乗ると、知らなかった楽しさと出合えるはずだ。それは大きな魅力である。
Why not? なぜスポーツカーに乗らなくちゃいけないのか
Why not? なぜセダンに乗らなくちゃいけないのか
Range Rover Sport SVR|レンジローバー・スポーツSVR
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Mercedes-Benz C 220 d Stationwagon |メルセデス・ベンツC 220 dステーションワゴン
Why not? なぜSUVやワゴンに乗らなくちゃいけないのか (2)
なぜメルセデス・ベンツGLEじゃいけないのか
―― レンジローバー3.0 V6 スーパーチャージドVOGUE ロングホイールベース
「レンジローバー 3.0 V6 スーパーチャージド VOGUE ロングホイールベース」は希有な存在だ。速度や広さや燃費など、数字で表すことが多いクルマの評価だが、このクルマはそれを超越している。どこがいいの、と訊かれて、3リッターV6エンジンの期待以上の力強さとか、5.2メートルの車体の余裕あるスペースとか答えることもできるが、なにより居心地がいいのが魅力なのだ。
レンジローバー 3.0 V6 スーパーチャージド VOGUE ロングホイールベースが日本で発売されたのは2014年3月。「伝統的なロングホイールベースのサルーンカーに代わるモデルへの需要に応える」とジャガー・ランドローバーは設定の理由を説明している。レンジローバーのロングホイールベースモデルは、1992年から1994年まで販売された「レンジローバー LSE」以来、20年ぶりということだった。
標準モデルの2,920mmに対して3,120mmへと延長されたホイールベースを採用。後輪より前の部分を延ばすことによって後席のレッグスペースの前後長を200mm拡大したのが特徴だ。合わせて、シートの表皮のクオリティを上げるとともに、リクライニング角度を標準モデルより大きくするなど、1,600万円超の大型リムジンとして、独自のポジションを築いている。
2,994ccのV型8気筒エンジンは、380馬力(280kW)の最高出力と、450Nmの最大トルクを発生。最大トルクは3,500rpmから発生しはじめる。出力インフレともいえる現代にあって数値としては意外に控えめだ。それがフルタイム4WDシステムと組み合わされて、全長5,205mmの大型ボディに搭載されるのだから、大丈夫かなと思う向きがあっても不思議ではない。
もちろん、大丈夫なのである。車重も2.4トンあるけれど、予想以上によく走る。出足がよく、中間加速もかなり鋭い。少しアクセルペダルを踏み込んだだけで、クルマは軽快に速度を上げていく。V6エンジンは、低い回転域からしっかり力を出すことに加え、回転を上げていったときのフィールもなめらかで、こんないい感じのクルマそうそうない、と言いたくなるほどだ。
電子制御のエアサスペンションシステムによる脚まわりもしなやかに動き、バネ上重量の重さをうまく利用して、高級車らしいとでもいうのか、ゆったりとした乗り心地が感じられる。これもとても大きな美点だ。レンジローバーのポテンシャルを知り抜いて、悪路走破性を確保しつつ、高速ツーリングを快適にこなすぜいたくなリムジンとして完成させた腕前に感心させられるのである。
高級大型SUVというと、メルセデス・ベンツ「GLE」がある。かつて「Mクラス」と呼ばれていたモデルだ。日本では3リッターV6ディーゼルの「GLE 350 d 4MATIC」(本革で929万円~)が中心で、上には5.5リッターV8搭載のメルセデスAMGの「GLE 63 S 4MATIC」(1,740万円)が設定されている。ボディサイズは全長4,825mmと、レンジローバー 3.0 V6 スーパーチャージド VOGUE ロングホイールベース(車名が長い)よりだいぶコンパクトだ。
メルセデスGLEはオンロードでは快適で、オフロードでは見事な走破性を見せる。その意味ではレンジローバーの標準ホイールベースモデルに近いのかもしれない。大きな信頼性とブランド性と走行性能といった点で、レンジローバーのよきライバルだ。そこにあってレンジローバー 3.0 V6 スーパーチャージド VOGUE ロングホイールベースは独自の個性が光る。とりわけ後席を重視するオーナーには、代え難いものがあるだろう。
Range Rover Sport SVR|レンジローバー・スポーツSVR
Range Rover 30V6 SuperCharged VOGUE LWB|レンジローバー3.0 V6 スーパーチャージドVOGUE ロングホイールベース
Mercedes-Benz C 220 d Stationwagon |メルセデス・ベンツC 220 dステーションワゴン
Why not? なぜSUVやワゴンに乗らなくちゃいけないのか (3)
なぜBMW 320 dツーリングじゃいけないのか
―― メルセデス・ベンツC 220 dステーションワゴン
ディーゼルモデルの導入に(ハイブリッドとともに)熱心なメルセデス・ベンツの日本法人。2015年9月に日本発売したメルセデス・ベンツ「C 220 dステーションワゴン」は、燃費とパワーの両立をはかった出来のよさに感心させられる。2ステージ ターボチャージャーといった凝った技術と、Cクラス初の9段オートマチック変速機などで、セダンで20km/ℓ超え、ステーションワゴンで19.6km(ともにJC08モード)を達成している。
Cクラスのステーションワゴンはそもそも、全長4.7メートルと適度なサイズのボディを持ち、広大ではないが、大人でも4人が快適に乗っていられるパッケージングを美点としている。荷室も容量は490リッターある。多くの人が乗るベストセラーなので、実際の使われ方はユーザーによって千差万別だろうが、長距離ツアラーとしての実力は抜きんでているといっていい。SUVの元祖がステーションワゴンであるが、本来の機能をきちんと持っているのだ。乗り心地は(ノーマルタイヤであればことさら)なめらかで、室内の静粛性は高く、シートの出来もよいので疲労感はかなり少ない。
2.2リッター4気筒のディーゼルエンジンは、最新のもの。ピエゾインジェクターを用いた最新世代のコモンレールシステムを採用して効率を追求している。同時に、大きさの異なる2基のターボチャージャーを用いているのが大きな特徴だ。低回転域からの効率においては小型ターボが優れ、いっぽう回転があがると大型ターボが出力の面で効果を発揮する。そのため使い分けられるようにしたのが特筆点だ。排気の流れを可変フラップにより制御することでターボラグを解消しながら必要なブースト圧を引き出す2ステージ ターボチャージャーなのだ。それによって、170ps(125kW)の最高出力と、400Nmの最大トルクを得ている。
走らせた印象は、メーカーの主張どおり力がたっぷり。1,400rpmから最大トルクが出はじめるため、低回転域で走れるディーゼルの利点がしっかり味わえる。市街地から高速域までアクセルぺダルの踏み込み量は少なくてすむため、燃費がかせげるのも実際のオーナーにとっては大きな魅力だ。しかも400Nmの大トルクルなので、C 220 d ステーションワゴンは、簡単な言葉でいえば楽チンである。そもそも車体の遮音がしっかりしている上に、エンジンは低回転域での使用が主となるので静かなのもいい。ディーゼルエンジン特有のノッキング音も室内にはあまり聞こえてこない。
たんに燃費モデルでないのが、C 220 d ステーションワゴンのもうひとつの長所だ。ハンドリングはしっかりしていて、とりわけコーナリング時の車体の安定性の高さには特筆すべきものがある。いつでもどこででもいっさいの不安がない。メルセデス・ベンツのクルマづくりが生きている。乗れば乗るのど信頼感が増し、好きになっていくモデルである。
スタイリングの印象は、スポーティだ。大きなスリー ポインテッド スターを持ったフロントグリルとそれをはさむヘッドランプ、そして大型のエアダムが、ファミリーカーというより、運転を積極的に楽しめるクルマであることを印象づけている。側面でも大きな弧を描くようなサイドウィンドウのグラフィックスが躍動感を生む。リアビューは凝縮された力を感じさせるのである。
ディーゼルエンジン搭載のステーションワゴンで大ヒットとなったのが、BMW「320d ツーリング」(528万円~)。こちらは184馬力(135kW)の最高出力と、380Nmの最大トルクを発生する2リッター4気筒エンジンを搭載。全長4,645mmのボディは。全長4,705mmのボディを持つC 220 d ステーションワゴン(595万円)とも近い。BMWはスタイリッシュなルックスと、低速域から反応のいいステアリングなどとともに、リッター19.4km(JC08モード)の低燃費がセリングポイントとなってきた。C 220 d ステーションワゴンは万能なステーションワゴンを求める人たちにとって、やはり大きな魅力と映るはずだ。選んで後悔のないモデルだろう。