Why not? なぜセダンに乗らなくちゃいけないのか
BMW 340i|ビー・エム・ダブリュー 340i
Mercedes-Benz C350e|メルセデス・ベンツ C 350 e
Maserati Ghibli S Q4|マセラティ・ギブリS Q4
Why not? なぜセダンに乗らなくちゃいけないのか
充実する輸入車のラインナップのなかで、小川フミオ氏が“自分好みの選択をしよう”と提案する「Why not?」。第2段はオーソドックスな形態ながら、エコ、スポーティ、ラグジュアリーなどさまざまに個性豊かなラインナップが揃うセダンたちだ。
Why not? なぜスポーツカーに乗らなくちゃいけないのか
Text by OGAWA FumioPhotographs by ARAKAWA Masayuki
限りなくスポーツカー的なセダン
なぜアウディA4 2.0TFSIクワトロじゃいけないのか ―― BMW340i
シルキーシックス。かつてBMWの作る直列6気筒エンジンはこう呼ばれていた。絹の手触りを連想するぐらいスムーズな回転マナーを持つと言われていたのだ。セダンといえば、通常、室内の広さとか乗り心地がとりさたされるもの、なのに、エンジンが最も大事だなんて。こんな自動車メーカー、ほかにあるだろうか。
新型BMW「340i」に乗ると“伝統”は健在だとすぐ分かる。3リッター直列6気筒エンジンは新開発されたもので、ターボがつくことでパワーは先代(335i)より20馬力上がっている。同時に、燃費効率も重視されているのが特徴だ。
BMW 3シリーズは今や(欧州では)3気筒搭載モデルまで登場。欧州委員会によるCO2規制に対応して好燃費を追求するためだ。このモデルは未体験だが、2リッターの4気筒モデルもいい出来だ。力がたっぷりあって、スポーティなハンドリングを持つキャラクターとぴったり合っている。
どうせ3シリーズに乗るなら、と考えている人には、BMW 340iを勧める。先にも触れたように、カーブでのシャープな身のこなしなどスポーティさを、快適性とうまく両立させた設定が3シリーズの魅力なのだが、6気筒のよさは圧倒的だ。
クルマはエンジンだ、という言説が、自動車ジャーナリズムの世界にあり、昨今のダウンサイジング化の流れのなかで死語になっていた感がある。しかしBMW 340iは、その言葉を久しぶりに思い出させてくれた。後席にも余裕あるスペースを持つセダン(それとツーリングというステーションワゴン)でありながら、アクセルペダルを踏み込んでいくとレッドゾーンまで嫌な振動いっさいなしに気持ちよく回るエンジンを持つという、希有な組み合わせに感激する。
スポーティなセダンとしてのライバルには、新型アウディ「A4 2.0 TFSIクワトロ」がある。価格は340iの776万円に対して、A4 2.0 TFSIクワトロは597万円。エンジンは4気筒だし排気量も2リッターにとどまるが、ミラーサイクルという凝ったメカニズムゆえ、エンジンは低回転域からフレキシブルだし、車体の応答性にも優れる。なにより、かたやストレートシックス、かたやクワトロと、金看板もある勝負だ。
それでも、あえて書くなら、楽しめるうちに、このストレートシックスを味わったほうがいい。進化しているとはいえ、1968年に「2800」に(戦後)初搭載されて以来、BMWの名を世界中のクルマ好きに知らしめてきた直列6気筒だ。今回は新開発とはいえ、将来いつまでこのエンジンが楽しめるか分からない。ならば、ひょっとしたら、今が最高の時期かもしれない。
Why not? なぜスポーツカーに乗らなくちゃいけないのか
BMW 340i|ビー・エム・ダブリュー 340i
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Why not? なぜセダンに乗らなくちゃいけないのか (2)
スポーティにも走れるハイブリッド
なぜレクサスGS450hじゃいけないのか ―― メルセデス・ベンツ C 350 e
選択肢の多さが高級感につながる。そういう意見にくみすれば、好個の例が、昨今のメルセデス・ベンツということができる。車型も豊富であるのと同時に、パワートレインのラインナップも充実している。
ガソリンエンジンの領域では、メルセデスも超越している。パワフルなメルセデス-AMGをラインナップに持つばかりか、最近ではスポーティな足まわりなどを持ったAMGラインも設定しているからだ。いっぽうで、環境性能に優れた布陣にもぬかりはない。
一つはディーゼル。多くのモデルに、ディーゼルエンジンの設定があるのは、おそらく読者のかたもご存じのとおり。加えてハイブリッドのラインナップも、2015年からどんどん増えている。いま日本で販売されているモデルは3車種。そのうち、末尾に「e」を持つプラグインハイブリッドモデルとして、C 350 eは、先発の「S 550 e」に続いて、2015年12月に追加された。
エンジンは2リッターの4気筒。そこに外部充電可能な電気モーターが組み合わされていて、電気モードだけで最大30kmの走行が可能と発表されている。バッテリー残量が規定値を下回ったらエンジンが始動する。
メルセデス・ベンツC 350 eの長所は、17.2km/ℓ(JC08モード)という優れた燃費。加えてもう一つある。走行モードのなかから、エンジンと電気モーターが補い合うハイブリッドモードの設定だ。優れた過給器つきエンジンのように、電気モーターのトルクがエンジントルクに上乗せされる。
普通に走っているぶんには、ソフトに路面の凹凸を吸収するサスペンションと、高い静粛性のおかげで、(とりわけEVモードでは)驚くほど快適なセダンという印象が強い。いっぽう、ダイナミックモードを使うと、たとえばタイトコーナーを回っていくとき、もしエンジンの回転が落ちトルクが細くなっても、立ち上がりから340Nmという大トルクを発生する電気モーターが、それを補うため、コーナーの出口に向かうときの加速は驚くほど速い。
メルセデス・ベンツの剛性感の高いシャシーに、優れたハンドリング性能は、小さなコーナーを曲がっていくとき、いかんなく発揮される。それに加えてアクセルペダルの微妙な動きに反応する敏感な加速性能。メルセデス・ベンツC 350 eは、よく出来たスポーティセダンといってもいい“顔”を持つのだ。
ライバルを探すと、(プラグインではない)ハイブリッドシステムを搭載したレクサス「GS450h」が思い当たる。ボディサイズこそ、C 350 eの4,690mmに対してGS450hは4,880mmと少し大きいが、価格はより近い。C 350 eの707万円に対して、GS450hは742万8,000万円からだ。レクサスの燃費は18.2km/ℓ(JC08モード)と、やはりいい勝負である。
走りのクオリティは、GS450hにはFスポーツというモデルがある。サーキットでもばりばり速い「GS F」には及ばなくても、しっかりした足まわりが印象的なモデルだ。ただし、メルセデス・ベンツを、おとなしめの無難なセダンと考えているなら、速度を上げて走ってみると認識が変わるだろう。
カーブでは、ステアリングホイールを切り込んでいったときの応答に優れる。曲率がきつくても、アクセルペダルの踏み込みで姿勢が乱れることはまずない。その安定した速さは、いまも多くの自動車メーカーが「手本にしている」と言うほどなのだ。じつは楽しめるセダンとしても一級品である。
BMW 340i|ビー・エム・ダブリュー 340i
Mercedes-Benz C350e|メルセデス・ベンツ C 350 e
Maserati Ghibli S Q4|マセラティ・ギブリS Q4
Why not? なぜセダンに乗らなくちゃいけないのか (3)
人生が楽しくなる大型セダン
なぜメルセデスSクラスじゃいけないのか ―― マセラティ・ギブリS Q4
このクルマがなくなったら、世の中がつまらなくなる。ドイツ車中心(レクサスもあるけれど)の大型セダンのマーケットで、ひとり気を吐くラテン勢力がマセラティだ。「ギブリ」は年次改良が施されて、2013年発表以来、現在が最高といえるかもしれない。
成り立ちは、マセラティのより大型セダン「クアトロポルテ」とプラットフォームを共有する後輪駆動セダン。エンジンは日本では3リッターV6で、最近、ガソリンに加えて、同じ3リッターV 6のディーゼルモデルが追加発売された。
後輪駆動と書いたが、このQ4は路面状況などに応じて必要なトルクを前輪にも配分するオンデマンド型4WDシステムを搭載している。最大のよさは圧雪路なら(スタッドレスタイヤを履いていれば)難なくこなす性能ぶりにある。
ギブリは、しかも、インテリアがドイツ車とまったく違っていて、華やかとか、ぜいたくとか、ちょっと過剰な概念を喜ぶ人の存在を、ちゃんと分かっている。張りのあるレザーシートに加えて、2015年からはエルメネジルド・ゼニア社と共同開発したシルク素材が座面と背もたれの中央部分に貼られたオプションも用意された。これもドイツ車にも日本車にもないオプションである。
操縦感覚も、一言でいうと、楽しませようという開発者の心意気を感じる。アクセルペダルの踏み込み量といい、ステアリングホイールの切り込み量といい、微少な領域でのコントロール性に心くだいている感じだ。目的は(たんに)コーナーを速く曲がるとか、高速で突っ走るとかでない。かりに100km/hを出すなら、そこにいたるまでの1km/hずつの加速の気持ちよさまでが大事にされているといえる。
発売直後ギブリは、直進性にやや問題を感じた。中立付近でのステアリングホイールへの反応がダイレクトでなく、まっすぐ走っているときに、なんとなく落ち着かないのだ。そのぶんというか、ステアリングホイールを切り込むと車体は一瞬の間もおかず向きを変えていく。ひと昔前のアルファロメオ車のサスペンションジオメトリーを思い出したものだ。
最新のギブリには、しかし、直進時に感じる落ち着きのなさはいっさいない。握りの径が太めのステアリングホイールを軽く握っているだけで、使い古された表現だが、矢のように進んでいくのだ。ドイツ車や日本車にあって、ギブリにないものは、自動運転を含めた最新の安全装備だ。フェラーリもポルシェもないので、スポーツセダンなのだから、それでもいいと思っているのだが、これはなんともいえない。
安全装備満載の大型セダンの最高峰といえば、メルセデス・ベンツ「Sクラス」があげられる。ギブリは全長で4,970mm、Sクラスより短く、全幅の差は150mmだが、それでもビッグセダンと呼べるサイズだ。Sクラスもその気になればたいへんスポーティに走らせられるが、ギブリと比較すると、Sクラスは道具としての機能性をできるかぎり追求して開発したように思える。
ギブリは、しかし、もっとエモーショナルだ。クルマだから乗って楽しめるのが一番、という主張が聞こえてきそうだ。ギブリを操縦するとそれに同意できる。楽しいからだ。こういうクルマがないと、人生は味気なくなるだろう。イタリアのクルマという存在理由をきちんと守っている。そこが本当に嬉しい。