PORSCHE Cayenne turbo|SUV最強のパフォーマンス
PORSCHE Cayenne turbo|ポルシェ カイエン ターボ
SUV最強のパフォーマンス
ポルシェ カイエン ターボに試乗
マセラティやベントレーがこぞってコンセプトカーを発表するなど、高級ハイパフォーマンスSUVがにわかに注目を集めている。その元祖ともいえる1台であり、現在のところSUV最強のパフォーマンスをほこるポルシェ カイエン ターボ。デビュー1年半を経たいま、あらためてその真価をたしかめた。
Text by OGAWA Fumio
Phtographs by ARAKAWA Masayuki
モンスター的なSUV
500馬力エンジン搭載の、シリーズ中最強のポルシェ カイエン ターボ。スポーツカーメーカーが、SUVという範疇で限界を追求した超ド級モデルだ。
ポルシェ カイエン ターボは、2010年にフルモデルチェンジを受けた2代目。先代と比較するとホイールベースで40mm、全長で48mm延長されたいっぽう、車体の軽量化がはかられている。ターボで比較すると、先代が2480kgであったのに対して、モデルチェンジを経た現在のモデルは2230kg。理由として、各所の構造材の徹底した見直しなどが挙げられている。
カイエン ターボで注目すべきは、その圧倒的なパワーだ。そもそもカイエン自体、米国を中心に1990年代中半から起こったSUV(スポーツ・ユーティリティ・ビークル)の流行を受け、ポルシェが肝入りで開発したモデルだ。その特徴がスポーツカーなみの高速走行性にあるといっても過言でない。
カイエン ターボをひとことで表現するのは、むしろ優しい。モンスター的なSUVだ。500馬力という数字をひとケタずつ意味あるものとして味わうことは不可能だろう。しかし、アクセルペダルに軽く足を置いただけで、他を圧倒するほどの性能ぶりを体感することは容易だ。
PORSCHE Cayenne turbo|ポルシェ カイエン ターボ
SUV最強のパフォーマンス
ポルシェ カイエン ターボに試乗(2)
他に類のないスポーティな感覚をもつ4ドア
そもそもカイエンの魅力は、優れた操縦性にある。高い剛性を感じさせるシャシーと、見事に調整された前後サスペンション、そしてどのモデルにおいても、ていねいにチューニングされたエンジン特性が、すばらしい組み合わせとなって、運転者に感銘を与える。そこはやはり高価なSUV市場でライバル関係にあるメルセデスのGクラスが本格的なオフロード用クロスカントリービークルを出自としているのと対照的だ。カイエンは、ハンドルを切ったその瞬間から、運転者をとりこにするモデルなのだ。
私はカイエンについて、911のようなスポーツクーペとはまたちがう、他に類のないスポーティな感覚をもつ4ドア、という独自の存在感を評価していた。ポルシェの開発能力の高さは、6気筒モデルでも充分その魅力が感じられる点にある。なので、8気筒モデルは、欠損や不足を穴埋めするのではなく、過剰さが積み増されていく印象が強い。
PORSCHE Cayenne turbo|ポルシェ カイエン ターボ
SUV最強のパフォーマンス
ポルシェ カイエン ターボに試乗(3)
潜水艦に匹敵するようなパワフルさ
カイエン ターボの圧倒的なパワー感は驚くばかりだ。911のような比較的コンパクトなクーペでは、時として自動車ジャーナリズムが使う“着ている”という表現が似合う、機敏に動くダイレクトな感覚がある。しかし、911を競泳用水着にたとえるなら、カイエン ターボはウェットスーツであるばかりか、潜水艦に匹敵するようなパワフルさだ。
その根幹をなすのが奔流のようにわき出てくるエンジントルク。1500rpmを超えるあたりから、2トンを超える車重とは思えない加速で車体を前方に押しやる。サスペンションはかなりしっかりしており、回頭性は高い。ハンドルを切り込むと、その初期から車体は反応よく動きはじめ、高速では安定した直進安定性をみせるいっぽう、小さなコーナーが連続する山岳路を畏怖すべきペースでこなしていくことができる。
サスペンションの設定は硬く、ピンと張ったドイツ車特有の硬い革張りシートだと、日本人の体重では、路面の凹凸にからだが揺さぶられる感じすらする。ダンピングはセンターコンソールのボタンによって段階的な選択が可能。さらにオプションでダイナミック シャシー コントロール システムを装備すれば、さらにスポーティな設定を選択することもできる。
カイエン ターボの指向性は明確。つまり、よりスポーティに、というものだ。さきに触れたようにV6モデルでも充分スポーティな走行が可能なのに、なぜここまで? と疑問におもわないでもない。それについて、以前別項で書いたが、米国人の「スポーツモード」指向が影響しているというメーカー側の説明を、繰り返し紹介しておこう。
多くの欧米仕様を比較すると、米国仕様はサスペンションの設定が硬めであることが多い。それについて、国産メーカーの車両開発担当者はかつて「米国ではとくにリアサスペンションが硬く、路面段差など越えるさいに、するどいショックが伝わるぐらいが“スポーティ”だとよろこばれる傾向にある」と語っていた。BMWにしても同様の傾向がある。私はあまりうれしくないが。
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SUV最強のパフォーマンス
ポルシェ カイエン ターボに試乗(4)
ほかにないものを手にしたいひとに
カイエンにもうひとつ魅力があるとしたら、室内のつくりのよさだろう。初代はコストを考え、バランスシートをにらみながら開発を進めていったようなところが散見されたが、いまのカイエンは、すべてのパーツが質感をもってデザインされ、パーツとパーツの組みこみや合わせの精度は高い。2000万円クラスのモデルであることを、室内にいるあいだ、ずっと意識していられるのは、オーナーにとってよろこびだろう。
ただし、エアアウトレットにクロームのコーティングをするのはエモーショナルな機能性を追求した結果だろうが、センターコンソールに並んだコントロール類が煩雑だとか、ひとによって好みが分かれるはずだ。このあたりはパナメーラと似ている。
好みが分かれるのはスタイリングも同様で、メルセデス、アウディ、BMW、さらにレクサスやインフィニティといった日本のみならず欧米の市場でのライバルに比しても、どうも個性が明確でない。911はある時期、なぜ初代のスタイリングから脱却しないのか、批判を浴びたが、カイエンにも同様の傾向がみられる。
価格と性能、あるいは性能と快適性など、あるバランス性をクルマの批評軸としがちな自動車ジャーナリズムにとって、カイエンにこれほどのパワーがあることを是とするのは、論理的な困難さを伴うのは事実だ。だから、最後はこう言うしかない。ほかにないものを手にしたかったら、迷わず買うといい、と。時としてバランス感覚は、より高みを目指す前進をはばむことがあるからだ。
PORSCHE Cayenne turbo|ポルシェ カイエン ターボ
ボディサイズ|全長4,845×全幅1,940×全高1,700mm
ホイールベース|2,895mm
車両重量|2,230kg
エンジン|4,806cc V型8気筒DOHC+ターボチャージャー
最高出力|368kW(500ps)
最大トルク|700Nm/2,250-4,500rpm
トランスミッション|8段AT(ティプトロニックS)
最高速度|278km/h
0-100km/h加速|4.7秒
価格|1573万円