2010-2011年 3人の論客がクルマ界の是非を語る
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2015年3月20日

2010-2011年 3人の論客がクルマ界の是非を語る

2010-2011年 3人の論客がクルマ界の是非を語る

2010年が求めたクルマとは? 特別座談会 前編(1)

ついにEV車が街を走りだし、EV元年とも言われた2010年。プリウスをはじめとしてハイブリッド車もますます攻勢をかけている。しかしながら、クルマ好きにとって本当に魅力的なクルマはリリースされたのだろうか? 自動車にとって後世、大きなターニングポイントであったといわれるであろう2010年という1年を論客3人が振り返る。

語るひと=小川フミオ島下泰久渡辺敏史写真=JAMANDFIXまとめ=松尾 大撮影協力=BoConcept GINZA

ハイブリッド車の攻勢、国産車生産の海外移管

──2010年に発売されたクルマのなかで印象に残った車種について、おうかがいしたいと思います。最初に国産車からお願いします。

渡辺 国産車について総括すると、ホンダ CR-Zに代表されるハイブリッド車の攻勢がこれからもつづくということがひとつ。そして、日産 マーチに代表される生産の海外移管がこれから多くなっていくだろうということではないでしょうか?

島下 おもしろかったクルマということでいうと、僕はトヨタ FJクルーザーですね。

小川 僕はレクサス IS 350 F スポーツがよかったと思っています。

渡辺 厳密にいうと、両方のモデルとも今年のクルマとはいえないですね。純粋にブランニューということになると、あまり思い浮かばない。

LEXUS IS 350 F Sport|レクサス IS 350 F スポーツ

LEXUS IS 350 F Sport

トヨタ FJ クルーザー|TOYOTA FJ CRUSER

TOYOTA FJ CRUSER

小川 僕の場合は日産 リーフフーガ ハイブリッドを思い浮かべます。フーガ ハイブリッドはあたらしいハイブリッド。エンジンとトランスミッションのあいだに電気モーターをいれて、クラッチをつかうことで、電気モーターだけで走る領域を拡大した独自のシステムをもっている。パワフルだし燃費もよさそう。100km/hでも電気モーターで走れるんです。
FJクルーザーだと仕様は?

島下 17インチ、鉄ホイール、ベージュの2トーンですね。

渡辺 FJクルーザーは、いい意味でなにもやっていないクルマ。「おふくろの味」みたいに懐かしいクルマですね。だからいい。

島下 トヨタはどのタイミングでこういう思いにいたったのかはわかりませんが、このままだとクルマはますます売れなくなるという危機意識がいまの社長や幹部の方がたにものすごく強い。とはいえ、FT86のような新型車は出すのにまだ時間がかかる。そこで重点をおかれたのが、FJクルーザーだった。若者の趣味やクルマにたいするこだわりはアメリカも日本も一緒だということで。ちゃんとそういうことまで考えたうえでのリリースなんです。

──渡辺さんはCR-Zでしょうか?

渡辺 僕は、CR-Zが出たということだけでも前進だと思っています。せちがらい世のなかで、出ただけでもいい。よくもこんなつかいものにならなそうな2ドアを出してくれたと。

島下 でも、CR-Zを欲しいひとはいるようですね。思ったよりも売れている。エコカー減税が終わった9月の販売台数を見ても2,000台近く売れている。トヨタ マークXで3,000台程度ですからね。

渡辺 家のひとにクルマを買う許可を得るために「ハイブリッド」というキーワードは効き目があるらしいですよ。

勢いを増す韓国

──ところで冒頭に渡辺さんから生産移管のお話がありました。

Hyundai Verna|ヒュンダイ ベルナ

"Hyundai Verna"

島下 極論すると、買うひとにとってはどこでつくってようが関係ない。どこで造ってもいいものはいいんですから。でも、マーチは期待にこたえていない。メイド“イン”ジャパンじゃなくなり、メイド“バイ”ジャパンになったことで、より高い次元の要求がある。「日本の製品」であるクオリティやデザインが必要なんです。たとえば、家電ならLGのテレビを抵抗なく買うような時代なんです。韓国製や中国製よりいいものじゃないと買う理由がない。本当にこんな調子では10年後はわからないです。

小川 中国でも韓国車ばかり目にするような気がしました。ある時期、日本車メーカーは「クオリティの追求」をさかんに口にしていましたが、デフレ時代になって、そこがあいまいになってしまった。安くてもいいクルマはつくれる。そのためには理念が必要です。でも、はたして世界に胸を張れるほどの理念を感じさせてくれるメーカーがいくつあるのか……。2010年は韓国とかにやられましたね。

渡辺 ヒュンダイなんてすごい攻勢をかけている。デザインなんかのびのびとやっていますから。日本車はデザインひとつとってもちぢこまっていますね。

小川 韓国車だって、こう言ってはなんですが、日本車に対して品質的に有利なわけではない。デザインだってどこかで見たことがある。なのに負けているように言われてしまう。

島下 ですね。でもヨーロッパの洒落たホテルじゃパナソニックはなくて
安くて格好も悪くないLGやサムスンばかり。日本もそうなりかねないし、これがクルマの話になるとなおさらですよ。テレビとちがって外で乗り、人目につくものだから「カッコいいもの勝ち」。

2010-2011年 3人の論客がクルマ界の是非を語る|02

クルマをつくり、提供する目的

小川 日本のメーカーのクルマづくりにたいする情熱が失われてきたということでしょうか。なにをつくりたいか、方向性を見失っているような。クルマにかぎらないですけれどね。携帯電話だってゲーム機だって、マーケティングの袋小路にはいっている。

島下 誰のために、なんのために、なにをつけたらよろこばれる、といった、あたりまえのことが見えなくなっているんじゃないでしょうか。

渡辺 「世界を驚かせる洗濯機をつくってやる!」みたいな電機メーカーのひとがいないのとおなじ。そんなことを許す空気が社内にないのでは? 連鎖して、やんわりとした自縛もエンジニアのあいだにある気がします。

島下 トヨタにはそれとはちがう流れがきている気がしますよ。FJクルーザーが出たというのは光明。2010年前半はプリウス問題の対策に注力し、徹底的に品質を見直したのでニューモデルが出せなかった。

渡辺 だいたいリリースのスケジュールが3~4カ月遅れているらしいです。

小川 年末商戦に導入する予定だった車種もリリースできなかった。

島下 ある幹部からは、走りやデザインは見直しているからあと1年待ってほしいとまで言われましたしね。

NISSAN FUGA Hybrid|日産 フーガ ハイブリッド|02

NISSAN FUGA Hybrid

NISSAN FUGA Hybrid|日産 フーガ ハイブリッド|01

小川 2010年の国産車はトータルという点でみると、印象に残っているクルマが少ない。「突き抜け感」というのがないんです。レクサス IS350 F スポーツだって、ハンドリングとか最高なのに、内装がイメージとかけ離れていてフツウ。フーガ ハイブリッドもクルマとしてはいいので、内装を「新世代の“走る”ハイブリッド」というイメージに近づけてほしかった。日産リーフの内装もそうですが、もっとトータルのイメージを考えてくれるとよかったなあ、と。突き抜け感がないプロダクトは訴求力が弱い。

──期待はずれだった国産車は?

渡辺 期待とはちがっていたのもCR-Z。でも許してあげようと。ホンダというブランドに求める期待値はほかとはちがうので。

島下 FJクルーザーは期待していなかったのによかった。CR-Zとリーフはいろんな意味でう~んとなってしまう。ホンダは二輪ではとても大胆な動きをしていて、アジアでは現地の法人がそれぞれのニーズに合ったものをつくっている。ところが、四輪の場合、日本やアメリカで考えて世界に撒いているだけ。結果、日本人のことを真剣に考えたクルマはフィットくらいなんですよね。でも伊東孝紳社長はそこに思いいたったみたい。今後はもっとそれぞれの国のニーズに合ったものという意識が強まっていく気がします。

小川 もう少しクルマ好きに寛容な社会にならないものですかね。自動車産業に継ぐ次世代産業の育成がままならない状況で、日本経済は自動車に依存せざるを得ないのに、片方で警察庁とかはこれでもかとクルマ乗りをいじめている。いい日本車はそれなりにありますよ。トヨタの新型ラクティスだってハンドリングとかはいいんです。でも一般のひとはそんな楽しさを見ていない。もったいないなあと思います。

小型外国車に潜む男の美学

──では、このあたりで輸入車のお話にうつりたいと思います。輸入車はいかがでしたか?

渡辺 マニュアルトランスミッションで走る楽しい小型車がよかったという印象です。ルノー ルーテシア RS(ルノー スポール)シトロエン DS3。まだ、乗っていないけどルノー メガーヌ ルノー スポールもよさそうですね。そんななかでも、僕はルノー カングー ビボップがよかった。

小川 フィアットが頑張っていますね。フィアット 500も売れているみたいだし。先日も、葉山のギャラリーを取材しに行ったら、若いオーナー夫婦がフィアット 500Cに乗っていました。ボディがグレイで、ルーフが赤。

島下 すてきですね。

小川 上手にマーケットを開拓していますよね。MINIと双璧かな。

渡辺 ラテン車がよかったですね。あと、プジョー RCZ。ドイツ車ならフォルクスワーゲン ポロ GTI

島下 TSIもありますよ。

──セグメントにわけて、いいと思ったクルマを教えてもらえますか? コンパクトはどうでしょう?

渡辺 小さいのではルノー カングー ビボップ。

島下 「ポロがよかったなあ」と言いたいんだけど、ポロがよかったと思ってゴルフに乗ると、「ゴルフっていいなあ」と思わせる。あきらかにちがう。たとえば、これが日本車だとフィットがいいなと思っても、シビックはもっといい、とはならないから。そのあたりがフォルクスワーゲンはすごい。ちゃんとお金を出せば、より良いものが手にはいるということがわかる。

小川 ポロは誰が乗ってもいいクルマだと思うはず。ボディサイズも日本にちょうどいい。惜しいかなと思うのは、男っぽすぎるところでしょうか。たとえば、GTIのチェックのシートに込められたロマンなんて女性にはわからないでしょう。いっぽう、クロスポロはあかるいですね。こちらもいいクルマです。外板色がオレンジで、内装にも効果的にオレンジを配している。お金と手間をかけていますよ。しかもお金の使いかたがわかっている。フォルクスワーゲンはお金があることを製品づくりにちゃんと活かしていますよね。

Alfa Romeo MiTo Quadrifoglio Verde

Volkswagen POLO GTI

RENAULT KANGOO Be-Bop

島下 “NEW”ではないんですが、MINIがすごく洗練されたと思います。エンジンも走りも。

小川 MINIは定着しましたね。流行商品では終わらなかったですね。いまも買おうかなという気になれる。

渡辺 とくに、魅力を増したのがベーシックなMINI ONE

小川 若き企業経営者のあいだでMINIに乗って、オプションをいろいろつけて走るのが流行っていますよね。パーツが豊富で、パーソナライズが上手にできる。

渡辺 その気になればオプションをいろいろつけたら500万円くらいになりますから。

島下 自分のセンスとか、生活の余裕みたいなものをちゃんと誇示できる。

小川 アルファロメオ ミト クワドリフォリオ ヴェルデも印象に残りました。あのエンジンはいいですね。よくまわるし、とても楽しいです。よく曲がるのもアルファの伝統。できればマニュアルで楽しんでもらいたいですね。マニュアルといえば、渡辺さんからも先ほど指摘があったように欧州車はマニュアルで楽しいクルマがいろいろ発売されましたね。シトロエンDS3もそのうちの1台。

島下 車種が一気に増えたこともありますが、シトロエンは販売実績が前年比180パーセントだそうです。C3は新規の女性客がとても多いそうです。

小川 C3は外板色のバリエーションも魅力的なんです。

島下 ただ、開発の時期的にコストは結構かかってそう。つまり儲けは少ないのかもと考えると、マーチあたりとは真逆ですね。

渡辺 僕はC3はトランスミッションがダメ。あの4AT。

島下 DS3にNAのマニュアルが導入されたらいいのに。

2010-2011年 3人の論客がクルマ界の是非を語る

2010年が求めたクルマとは? 特別座談会 前編(2)

旗艦モデルにおけるデザインのつば迫りあい

──つづいて、大きめのクルマについて。

小川 2011年はアウディから4台ニューモデルが出ると言われていますが、はやくもA8が発表されました。

渡辺 メルセデス S クラスほどではないにしても、BMW 7シリーズ程度の販売台数になるのではないでしょうか? ともあれ、とうとう最上級セグメントでもメルセデスとBMWに並ぶプロダクトへと成長した感はありますね。

小川 A8は内装もいいですね。シートの形状ひとつとっても、座ってみたいなあ、そして運転してみたいなあ、と強く感じさせるデザインの訴求力がある。もちろん乗れば、アウディの世界。矢のように疾走します。パワフルなディーゼルターボがすごいのですが、日本はガソリンエンジン2本立てですね。課題はA8を買う意味を、どこまで顧客に納得させられるか、でしょう。メルセデスはS400ハイブリッドの標準ホイールベースも追加してきたし、競合も手強いですから。

渡辺 それにしても、最近のBMWやアウディにはビジュアルに手詰まり感がみえますね。結果的にメルセデスの方がアグレッシブに思えてくる。クリス・バングル(元BMW デザインディレクター)やワルター・ダ・シルヴァ(元アウディ チーフデザイナー)のあとを埋めるのはやはり相応の葛藤があるんでしょう。

小川 5シリーズはとくに地味、という印象。新型の訴求力が弱いのでは。

島下 5シリーズは実物を見るといいですよ。

小川 サーフェスデザイン(ボディ表面を湾曲させて表情を作る手法)に傾注してきたBMWですが、いまひとつ完成にいたっていないですよね。もっともうまくいっているように思えるのはZ4

BMW Z4|ビー・エム・ダブリュー Z4

フロントからリアにかけての3分2ぐらいはどきっとするほど力があります。でも5シリーズは、どこへ行きたいのか、つくり手の意図がいまひとつはっきりと伝わってこない。

渡辺 BMWは言語が全部一緒になってしまっている気がします。デザイン的にクリス・バングルからの揺りもどしが激しすぎる気がする。

小川 V6のポルシェ パナメーラがいいと思いましたね。軽さがいい。ハンドルの軽さは少し違和感があるけど、慣れてくる。

島下 僕はベントレー ミュルザンヌかV6のパナメーラ。

──SUVはどうですか?

島下 満場一致でポルシェ カイエンでしょう。カイエンはこんなにいいクルマになるとは思わなかった。ハンドリングといいライドコンフォートといい。

小川 ぜんぶいいですよね。

渡辺 僕はハイブリッドはトゥアレグしか乗っていませんが、その感覚でいうとハイブリッドも相当いい。しかもたぶん安いんじゃないかと思います。

島下 V8プラス数十万円だと思います。

小川 買い控えしてもいいんじゃないかということですか。

進化しつづけるAMGパッケージ

──スポーツカーやオープンカーはどうですか?

小川 今年出たのはアストンマーティン ラピードフェラーリ 458イタリアメルセデス・ベンツ SLSアウディ R8 スパイダーマセラティ グランカブリオあたりですね。

渡辺 僕はSLSかな。

小川 SLSのAMGパッケージはすごい。ゴーカートみたい。標準仕様に乗りましたか?

島下 いいですよ。AMGパッケージは首都高あたりでも乗り心地が厳しいですけど、素のほうは458 イタリアくらいにはしなやか、かな。デートに誘えないクルマから、硬いけど大丈夫になった。僕はAMGじゃないほうが好みですね。

Mercedes-Benz SLS AMG|メルセデス・ベンツ SLS AMG

Mercedes-Benz SLS AMG

Volkswagen GOLF R|フォルクスワーゲン ゴルフ R

Volkswagen GOLF R

小川 箱根のTOYOタイヤターンパイクで乗っただけですけれど、すごい。ハンドルほとんど切らないでも曲がっていくオン・ザ・レール感覚ですね。ゴルフRのさらに速いモデル、という印象(笑)。メルセデスがここまでやるようになったのは感慨ぶかいですね。

島下 あのスタイルならもう少し大きなスーツケースがはいるのならよかったのに、あれだとふたりで旅行するために成田に行くということすらできない。ひたすら走るためのクルマなんですよね。

そのほかの高級車がもつ凄みとは?

渡辺 フェラーリ 458もすごかったけど、リアリティがないんですわ。すさまじい速さで、身体能力の限界をクルマにいいわたされる感じ。

島下 僕は458楽しかったなあ。からだがついていかないとも思ったけど、だからおもしろかったというか。このクルマのために鍛えようと思ったくらい。レーシングカーと一緒ですね、こうなると。あと、意外とコントロール性もいいんですよ。ゾクゾクしましたね。

渡辺 360や430に乗っていたひとは、嫌になるほどすごさを実感できると思います。いま、最高、最新の性能を手に入れたいというならまちがいなくベストな買い物ですよね。

島下 前進モデルの360チャレンジストラダーレ430スクーデリアに乗ってサーキットを走っているいるひとは、なんてフェラーリって難しいんだろうと思っているでしょうが、これに乗ると簡単とはいかないまでも、とても乗りやすいと思うでしょう。

──語られていないセグメントのクルマは?

小川 大体語ってしまいましたが、2000万円以上のさらに高価なクルマにかんしてはどうでしょうか。

渡辺 僕はベントレー ミュルザンヌ。

小川 ベースになったアウディではなくて、このクルマを買う理由は?

BENTLEY MULSANNE|ベントレー ミュルザンヌ|01

BENTLEY MULSANNE|ベントレー ミュルザンヌ|02

渡辺 民藝感。あとはいまのレベルにアップデートされているし、スポーツセダンとしてのドライバビリティがある。ロールスロイス ファントムはショーファーに徹しているから比べようがないですけど、ミュルザンヌには「ザ・ベントレー」って世界観が溢れんばかりにあるし。

小川 たしかにミュルザンヌは目に見えないところにまでお金をかけていますね。ドアハンドルの裏側にターレット加工をほどこして、握ったときの感触のよさを追求するなんて、そうとうですよ(笑)。でも、僕にはベントレーはトゥーマッチです。もう少し軽くていいかな。あたらしい4ドアが欲しいなら、パナメーラやアストンマーティン ラピードがいいと思います。

渡辺 ある意味、DB9を4ドアにしただけというドライバビリティが凄い。いま、一番吹っ切れた4ドアセダンですよね。

小川 どう乗ってもアストンマーティン。でも、リアシートは僕でも乗れます。

渡辺 僕が乗るとコントになってしまいます(笑)。

自動車スペシャリストが選ぶ、ベスト・カー・オブ 2010

──さて、そろそろ2010年のクルマについてまとめたいと思います。「今年のベスト」をみなさんそれぞれお教えいただけますか?

2010-2011年 3人の論客がクルマ界の是非を語る|05

渡辺 何度も言ってますが、カングー ビボップですね。エコとか電気とかいろんなものに疲れ果てたとき、実家に帰ったような気分になったクルマです。実際、雑誌のイベントで九州に乗って帰りました。運転していても楽しいんです。ホイールベースが短くなっているので、きびきび動くし。

島下 あのクルマはフランス本国と日本でしか買えないというのがすばらしいですね。

それで、僕の今年のベストは、ポルシェ ボクスター スパイダー

小川 いままで話に出なかったけど。思い出したんですか?

島下 過剰なもの、豪勢なものをいろいろ楽しんだし、さっき話に出た458イタリアなども楽しいんですが、ぎりぎり自分を鍛え抜くというのは年中楽しく感じることはないでしょう。そういったクルマがいろいろ出てきたなかで、ポンとこのクルマを出したポルシェに「やるな、うまいな」と思わせられました。「みなさん、そろそろ豪勢なフレンチは飽きましたよね」と言われて、おにぎりとお味噌汁が出てきたような感じ。でも、モノはすごく良い。「クルマのおもしろさって本来こういうことだよね」と思い出させられたクルマだったなと思います。あの面倒くさいルーフの脱着すらも一種の儀式と思わせてくれるというか。

自分ちのガレージにあればコンビニにでも乗って行ってしまうし、遠くにも行きたくなるし、ワインディングロードでも走らせたくなる。

小川 言い忘れていましたが、2010年はメルセデスが尿素を使って排ガスの浄化をするシステムを備えた新世代のクリーンディーゼルを投入したり、Sクラスにハイブリッドを追加したりしたのも印象に残っています。

――2011年はさらにエコカーというジャンルが拡大するでしょうね。

小川 あと、輸入車は小さなエンジンに加給というダウンサイジングの流れがより明確になりました。日本車はまだまだ少ないですが、高効率化は世のなかの流れでしょうね。そのなかではシトロエン C5の1.6リッターターボ車はとてもよかったです。ゴルフの1.2リッターやパナメーラV6と同様で、エンジンが軽いことが操縦性のよさに直結しているから。なので全体として、小さなエンジンのクルマが僕のベスト、とここでは言っておきます。

小川フミオ|OGAWA Fumio

小川フミオ|OGAWA Fumio

自動車とカルチャーを融合させたカー雑誌『NAVI』編集部に約20年間勤務。編集長も務める。『モーターマガジン』『アリガット』の編集長を歴任し、現在はフリーランスのジャーナリストに。『ENGINE』(新潮社)や『EDGE』(リクルート)などの自動車誌をはじめ、多くのマガジンに執筆。グルメ(『週刊ポスト』)やホテルやファッションなど、広範囲のライフスタイルがテリトリー。

島下泰久|SHIMASHITA Yasuhisa

島下泰久|SHIMASHITA Yasuhisa

モータージャーナリスト。走行性能だけでなく先進環境・安全技術、ブランド論、運転などなどクルマを取り巻くあらゆる社会事象を守備範囲とした執筆活動のほか、エコ&セーフティドライブをテーマにした講演、インストラクター活動もおこなう。2010-2011日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。近著に 『極楽ハイブリッドカー運転術』『極楽ガソリンダイエット』(いずれも二玄社刊)がある。

ブログ『欲望という名のブログ』
http://minkara.carview.co.jp/userid/362328/blog/13360020/

渡辺敏史|WATANABE Toshifumi

渡辺敏史|WATANABE Toshifumi

1967年福岡県生まれ。企画室ネコ(現在ネコ・パブリッシング)にて二輪・四輪誌編集部在籍ののちフリーに。『週刊文春』の連載企画「カーなべ」は自動車を切り口に世相や生活を鮮やかに斬る読み物として女性にも大人気。自動車専門誌のほか、『MEN’S EX』『UOMO』など多くの一般誌でも執筆し、人気を集めている。

           
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