PORSCHE BOXSTER SPYDER(前編)|徹底的なまでにストイックなボクスター
PORSCHE BOXSTER SPYDER|ポルシェ・ボクスター・スパイダー(前編)
徹底的なまでにストイックなボクスター
かねてより噂されていたボクスターの高性能モデルが、「ボクスター・スパイダー」としてデビュー。業界きってのポルシェフリークとして知られる自動車ジャーナリスト、島下泰久がさっそく試乗した。
文=島下泰久写真=ポルシェジャパン
ボクスターSに対して80kg軽量
ポルシェのスパイダーと聞いて多くのひとが思い浮かべるのは、やはり伝説の550スパイダーだろうか。あるいはあたらしいファンならル・マン24時間など数々の耐久レースで活躍したRSスパイダーの勇姿かもしれない。
長くその存在が噂されつづけ、いよいよ満を持して登場したボクスターの高性能モデルには、ボクスター・スパイダーのネーミングが与えられた。その名が示しているは、この新顔が軽量設計によって走りをきわめたポルシェのミッドシップモデルの系譜を受け継ぐ存在だということ。実際、その内容は徹底的なまでにストイックだ。
ざっと挙げれば、ボクスターでは電動開閉式のソフトトップは、雨除けもしくは日除けとでも呼ぶのがふさわしい脱着式の簡易型とされている。リアのスクリーンだけ個別に着脱できるこれは、往年の911スピードスターやカレラGTなどを彷彿とさせるデザインのアルミ製一体式リアフードと合わせて、軽量化はじつに21kgにもおよぶ。さらにはドアのアルミ化で15kg、超軽量バケットシートの搭載で12kg、燃料タンクとバッテリーの小型化で計10kg……という具合に積み重ねていった結果、車重はボクスターSに対して80kg軽量な1275kgを実現している。それにはエアコンを省いたぶんの13kgもふくまれるが、それをプラスしても大人1人分の軽量化を達成しているのだ。
装いもスパルタンだ。フロントではバンパー左右のエア取り入れ口の面積が拡大され、その中にはLEDを使った簡素な横バータイプのLEDポジショニングランプが収められ、フォグランプなどは省略されている。またリップ部分は前に突き出しており、合わせてリアスポイラーも固定式の大型タイプとされた。
ベース車とはまるで別物の軽やかさ
車高は20mmダウン。専用の軽量ホイールはリム幅も拡大されていてグッと力強く踏ん張っている。ふたつのドーム状のフェアリングをもつリアフードのおかげでオープン状態がキマッているのはもちろん、簡易式トップを装着した状態もキャビンが天地に薄く見えてじつにカッコ良い。
仕上げはサイドシルに沿うように走る「PORSCHE」ロゴのストライプだ。これは1970年代のレーシングモデルであるベルグスパイダー、あるいは911Rなどに使われていたもの。ボディカラーやストライプに伝統のモチーフをうまく活かしてあらたな魅力としている最近のポルシェらしい何とも粋な演出である。
明らかに軽いドアを開けて室内へ。タイトなバケットシートに身体を滑り込ませると、眼前のメーターパネルにフードがないことに気づく。さらによく見ればカップホルダーも省かれているしドアノブは空冷時代のRSモデルのような単なる紐に取って代わられている。それぞれの効果は数百グラム程度のものだろう。しかし軽量化はこうした要素を細かく積み重ねていくことでしか実現できないもの。それにこれらが効果的な演出となって、気分が自ずと昂ってくるのが心地良い。
とは言え、差は80kgである。走り出す前には、大柄な大人の男1人分のウェイトダウンで一体どれだけ走りが変わるのか訝しく思う気持ちがなかったわけではない。しかし、そうした思いは6速MTのギアを1速に入れクラッチペダルを踏む左足を浮かした途端、消し飛んだ。ボクスター・スパイダーはベース車とはまるで別物の軽やかさで、弾むように車体を前に進め出したのだ。
ポルシェジャパン
http://www.porsche.com/japan/
BRAND HISTORY
ドイツを代表するスポーツカーブランドとして世界中の腕利きから圧倒的な支持を得ているのがPORSCHE(ポルシェ)である。はじまりは1931年。20代の頃から自動車エンジニアとして頭角をあらわした奇才・フェルディナンド・ポルシェは、ダイムラー社の技術部長を経験したあと、ドイツのシュトゥットガルトに「ポルシェ設計事務所」を設立して独立。以後、自動車メーカーからさまざまなクルマの開発を託されることになる。なかでも有名なのが、ドイツの「国民車」としてモータリゼーションに大きく貢献した「フォルクスワーゲン・ビートル」だ。
自動車メーカーとして、自らの名を初めて冠したのは、1948年に登場した「356」であった。それからポルシェは「911」「924」「928」といったスポーツカーを世に送り出すとともに、モータースポーツに力を注ぐ。たとえば、世界でもっとも苛酷なレースといわれるルマン24時間で16回の優勝を手に入れたほか、F1でもエンジンサプライヤーとして3度のシリーズ優勝に貢献するなど、輝かしい戦績を収めたのだった。その技術力と走りへのこだわりがいまなお彼らの製品に息づいているのはいうまでもない。
現在は、デビューから45年が経ったいまでもスポーツカーのトップランナーとして高い評価を得る「911」をはじめ、オープンスポーツの「ボクスター」、ボクスターのクーペ版の「ケイマン」、そして、プレミアムスポーツSUVの「カイエン」と、ラインナップすべてが高い人気を誇る。