2010-2011年 3人の論客がクルマ界の是非を語る 後編
3人の論客がクルマ界の2011年を語る
2011年に求められるクルマ像とは? 特別座談会 後編(1)
今回お送りするのは、自動車界を展望する座談会の後編。近年の欧州製4ドアクーペのブーム分析からはじまり、環境性能向上を目的とした注目の技術の数かず、そして、2011年のクルマ界についてまで、縦横無尽に3人の語り部が繰り広げるトークを堪能していただきたい。
語るひと=小川フミオ島下泰久渡辺敏史写真=JAMANDFIXまとめ=松尾 大撮影協力=BoConcept GINZA
4ドアクーペという潮流
――欧州車の新セグメントとも呼べるのが、4ドアクーペのカテゴリーでしょうか。日本では80年代なかばにトヨタ カリーナEDが大ヒットしたものの、結局定着しなかった。それがここにきて、高価格帯の欧州車で増えました。
島下 セダンが飽きて、SUVにいって飽きて、つぎになにかないかなというところで出てきたのがこのカテゴリーです。
小川 フォルクスワーゲンにはパサートCCというクーペのような流麗なルーフラインを特徴とした4ドア車があります。発売されたとき聞いたのは、ウォールストリートで働くリッチなビジネスマン狙いだったとか。スタイリッシュなセダンという新カテゴリー。
島下 もともとこのカテゴリーはジャガーがいた場所だったけど、勝手にいなくなったんですよね。低くて格好いいセダンだったXJが、先代で普通のセダンになってしまって。そこにメルセデス・ベンツがCLSを投入したら当たったという。
小川 日本でCLSが流行ったのは、Sクラスが先代から現行へとモデルチェンジするのがけっこう遅くて、なにか新車が欲しい、という層がとびついた背景もあったように記憶しています。
渡辺 まず全体的にクーペの市場が縮小しているというのがあります。アメリカではラグジュアリーサイズの2ドアクーペの市場がほぼなくなってしまった。
小川 そういえば、4ドアクーペってなんでしょうね。と、いまさらながら、前提について話をしておくのもいいのでは? たとえば、CLSとアウディ A5 スポーツバックはなんとなく4ドアクーペの仲間みたいなとらえ方もされるけれど、カテゴリーのちがうクルマですよね。
島下 セダンではおもしろみがないということで選ぶという意味ではおなじですけどね。それはA5 スポーツバックも一緒だと思います。
渡辺 たぶんヨーロッパの感覚ではA6あたりは社用車のイメージが強い。だから、そう見られたくないひとの欲求をみたす意味でA5 スポーツバックやA7の存在意義があるんでしょう。
小川 ポルシェ パナメーラやアストンマーティン ラピードはまたちがうカテゴリーですよね。あちらはスポーツカーの4ドアというニッチ(すきま)狙い。
島下 ラピードやパナメーラを頂点としたピラミッドに見えるから、周辺全体が盛り上がっているように見えるという部分はあるでしょうね。
渡辺 つまり、パーソナル4ドアセダンという枠組みなんでしょうね。そうなると、ジャガー XJやマセラティ クワトロポルテもそのカテゴリーに入るだろうし。
島下 2011年はCLSの新型やアウディ A7 スポーツバックが入ってきます。役者がいよいよ揃うという感じでしょうか。
小川 ようするにみんな4ドアが欲しいってことでしょうか。渡辺さんがおっしゃったように、カンパニーカーに乗っているのではなく自分のお財布から買ったと主張したいひと向けのカテゴリーかもしれない。でも日本でウケているのはスタイリッシュだからでしょう? スタイリッシュなクルマがたくさん出てくるのはいいことですよね。
EVとインフラの問題
――それでは、2011年にさらに発展していくであろう先進技術についてお話を伺えればと思います。
小川 おふたりにご意見をうかがいたいのが、日産リーフについてです。僕は運転していて楽しい、いいクルマだと思うのですが、いきなりEVは世界的に受け入れられる地ならしがすんでいるんでしょうか。少し早すぎない? 沖縄でもレンタカー各社が合わせて220台購入とかってニュースになっていましたが。へんに加速度がついているような気もする。
渡辺 カルロス・ゴーン会長は、ただEVを開発したというだけでなく、各国でちゃんと政治的なネゴシエートもしているからさすがだと思いますよ。
小川 自分で買ってもいいと思いますか?
渡辺 単純に自分の生活を考えると買えないです。集合住宅住まいだし、箱根の試乗会にも往復できないし。
小川 (笑)行った先ざきに急速充電器があればいいですが、EVが増えれば今度は取り合いにならないですかね。
――急速充電器とはいえ30分も待たなければいけないというのは現実的ではない気がしますが。
渡辺 台数が少ないうちしか成立しない話ですね。
島下 「ガソリン車が走りだしたころはガソリンスタンドがなかったんだ」とおっしゃる方もいらっしゃいますが、これだけ世の中に“クルマ”が存在していて、そのなかに入ってくるEVはクルマがなかったころに出てきたガソリン車とは意味がちがいますから。
小川 20世紀初頭はどうやって給油していたんだろう。知りたい。
島下 当時は仮に止まったとしても、本人が困るだけで済んだかもしれません。でも、いまはたとえば首都高3号線ののぼりで止まってしまったら、すごく迷惑ですよね。そのひとだけが「EVだから仕方がない」とか「先進的なものに乗っているからそういうリスクは負うよ」というだけの話じゃない。今ある自動車社会のなかに入っていくんですから。
渡辺 そこで生まれる渋滞で、そのエコぶんは一発でチャラですよ。でも、産みの苦労はいろいろあるものですから、大きな目で見てあげることも必要でしょうね。
小川 じゃ、リーフはいま買いたかったら買ってもいいと断言しちゃいますか?
渡辺 邪心ふくみでいえば、たぶん2011年に一番“金もちそうにみえるクルマ”になるんじゃないですか。だって、いま話をしている銀座でリーフを見掛けたら、ドライバーはここから半径50km以内に住んでいて、充電施設もある家もちってことになる。ロスでもロンドンでも然りです。
小川 ふむふむ、EVは家の象徴、と。
島下 日産について話をするならば、EVだけをやっているわけじゃないということは強調したいですね。ハイブリッドや直噴ターボ、クリーンディーゼルといわゆる環境技術すべてを押さえている。トヨタやホンダのように「ハイブリッドだけ!」とはしないで、着々と用意していたんです。リーフを環境イメージの頂点としたピラミッドができている。そう考えると日産はやるなあという印象ですね。
3人の論客がクルマ界の2011年を語る
2011年に求められるクルマ像とは? 特別座談会 後編(2)
燃料電池車の現在
小川 たしかに。日産が言うところの「ピュアドライブ」戦略は着実に拡大している。電動シティコミューター計画もあるみたいですし。その電動シティコミューターをめぐって、フランスのルノーでは、幹部が機密情報を外部にもらしたと大騒ぎになっていますね(2011年1月現在)。ルノーは「情報の買い手は中国だ」なんて決めつけをしていますが、真偽はともかく、EVはたしかに戦略車種ですね。ところでFC(フューエルセル=燃料電池車)の開発は進んでいるのでしょうか?
渡辺 開発は進行していますが、長足の進化はしていないし、話題になるほどのことはないみたいです。要素技術がコスト面で劇的改善を図れるか。それ待ちの感はありますね。
小川 でも、FCは究極のパワートレーンのひとつではあることにかわりないですよね。
島下 価格はかなり下げられるところまできています。問題はインフラ。水素インフラの整備のむずかしさは充電器の設置とは比較にならないですよ。
小川 BMWが2006年に7シリーズを改良してつくった、世界初の量産型水素自動車のハイドロジェン7はどうなったんですか?
渡辺 FCは開発しているだろうけど、直接水素燃焼はやめているみたいです。
島下 FCはいまでは1,500万円程度で売れる状況まできているようです。
渡辺 トヨタは2015年ころまでに500万円切りまでもっていけると踏んでいるようです。
島下 でも乗用車はむずかしい。たとえばバスやトラックなど決まったルートを巡る商用車からというあたりが現実的ではないでしょうか。
小川 リーフのスタイリングは従来の乗用車的ですが、EVやFCなど、ボンネットの下にエンジンをもたないクルマは、パッケージングが大幅に変わることも期待できるんじゃないでしょうか。
渡辺 たぶん、リーフもデザインについて喧々諤々やったときに、いま世の中で走っているクルマたちとの接点を残したんじゃないかと思います。形状的にあきらかに未来のクルマだということにあえてしないようにしたんじゃないかと。
小川 あの内装、とくにシートまわりにはもっとあたらしさが欲しかったけれど、あれも選択の結果なんでしょうか。
機能とパッケージングと美について
渡辺 2010年に聞いたなかでおもしろい話がひとつあります。ジャガーがXJ13オマージュといえる、モーターにガスタービンを組み合わせたプラグインハイブリッド車、C-X75をパリサロンで発表しました。そのさい、デザインチーフであるイアン・カラムに「パワートレーンがこれだけ別物なら、まったくちがうジャガーのエレガンスを提案できたんじゃない?」と聞いたんですが、彼がいうには「電気自動車が普及しようが、人間の体が変わるわけじゃない。人間のプロポーションが変わらない以上、パッケージングはそう簡単に変わるものじゃない」というんです。たぶん、デザイナーらしい口の上手さにごまかされたのかもしれませんけど、いいことを言うと思いました。
小川 もちろん“美”を忘れてほしくはありませんが、これはあたらしい課題ですね。ファンクションとパッケージングと美のすべてをバランスさせるということは。
渡辺 ピープルムーバーみたいな、いわゆるミニバン的なクルマはすごく可能性が出てきます。ボンネットという概念も必要なくなりますしね
小川 でも、CD値は下げていかないといけない。リーフもヘッドランプがおもしろい形だなと思っていたら、空気の整流のためにああなったとか。
渡辺 そういう意味でもいま、一番こなれているのがプリウスだと思います。CD値とかをどう織り込んで、どういうふうにパッケージを壊さずに見せるかなど。
島下 リーフのCD値ってどのくらいでしょうね。メルセデス・ベンツ Eクラス セダンて0.25なんです。すごいことですよね。
小川 たしかにオーソドクスな造形に見えるのに、それで低いCD値を達成させているのはすごいですね。
渡辺 車体が長いというだけでも、空力面では相当有利ですからね。
島下 そうなると、機能を考えると「小さければいいわけではない」ということにもなり得る。極端な話、「エコを考えたら大きくなりました」ということだって起きるかもしれません。そんなふうに考えても、今とはちがうおもしろさが出てくるのではないかなと思います。
小川 日本のクルマは道路の専有面積についてもう少しつっこんだ議論が出てきてもいいかもしれません。狭いところで大きなクルマ。これだって環境問題。
渡辺 環境税の論議になったときにそこまでちゃんと織り込んだ話を交わすんでしょうかね。
EVの裾野は拡大するか?
――ところで遠い未来ではなく、2011年はどんな年になりますか? たとえば、EVは買い時がいつなのか、など。
渡辺 東京ベースの話でいうと、EVは日常的に見ることになるのではないかと思います。一般マインド的には、もうそういう時代が来ているんだと感じる年になるでしょう。
小川 これは勝手に思っているのですが、トヨタにとってのEV元年は、いまのプリウスオーナーたちが買い換えを考えるときかもしれないですね。4年後、6年後あたりでは。
渡辺 実際に稼動しだすと、電気代も意外に安くあがらないということだったり、充電の順番待ちにうんざりしたりして、これなら普通の内燃機関にしておけばよかったと思うかもしれない。
小川 僕たちは携帯電話の充電ですら面倒くさいと思うぐらいですから(笑)。朝になって、「クルマの充電を忘れた!」という騒動は、いろいろな家庭で起きるでしょうね。
渡辺 非接触で、停めた段階で充電がはじまるというのがいいかたちでしょうね。日本は自動車だけで2020年に2005年比65パーセントのCO2を減らさなければならない。そのために2020年時点で販売される新車の50パーセントをEVやハイブリッドにしようとしている。ということは登録車台数ベースで年間100万台。となると、充電器をつなぐなんてことをしていては間に合わない。
島下 僕らは当たり前のようにハイブリットの話をしているけど、じつはまだ世界を見わたしたって、プリウスやインサイト、フィットなど、世に出ているモデル数は全然少ないんですよね。輸入車はやっとメルセデス SクラスやBMW 7シリーズが出てきたところ。2011年にようやくドカドカと出てくるわけで、まずはまだ裾野が広がる年かな、と。
渡辺 輸入車メーカーもEVは販売するまでにはいたらないでしょう。ボルトも検討はしているそうですが、まだ1年、2年は売れないと思います。日本で売る段階ではEVと称するのではなく、プラグインハイブリッドという扱いになるんじゃないですかね。
今、GMが必死にEVだと言っているのは、カリフォルニアでは2012年までにEVを揃えて置く必要があるからです。でも、ボルトは現時点でゼロエミッションということになっていない。11年はなんとしてもゼロエミッション認定を取りに来ると思いますけど。
小川 EVでおもしろいのは、テスラ ロードスター。価格がどんどん下がっている。バッテリーの調達コストを価格に反映させるのが同社のやり方だから。たしか売りだしたころは1,800万円ぐらいしませんでしたっけ。
渡辺 酔狂なことに300万円くらい補助金がつくので1,000万円を切ります。
島下 税金がこんな風につかわれるのはちょっと……。
渡辺 あのクルマこそ、都心に住んでいるお金持ちが下駄として買おうかと触手を伸びつつある。
島下 フェラーリやランボルギーニなどを所有している方が買っていくことが多いみたいですね。但し、今あるロードスターの技術にはそれほど発展性があるとは思えない。近く登場するモデルSと呼ばれる4ドアのより実用的な車種が出てきたところで、次に繋がるものが見えてくればなと期待しています。
小川 あと2011年は、ひょっとしたらサードパーティ的な会社から自動車が販売されるような動きがあるかもしれませんね。と思っていたら、ヤマダ電機が三菱i-MiEVを販売すると発表した。2011年年初の福袋の中身はi-MiEVでしたよね(笑)。笑っているうちに背筋が寒くなることも起きそうだけれど。
渡辺 電機メーカーがつくれるようなことをいうけど、音楽プレーヤーでも火を吹くような事故が起きているのに、自動車なんてつくれるとは思わない。
3人の論客がクルマ界の2011年を語る
2011年に求められるクルマ像とは? 特別座談会 後編(3)
EVの普及とその問題点
島下 「誰でもつくれる時代」というけど、EVが街を走りだせば、自動車メーカーがEVをつくることの意味が,やっとリアルに伝わるのでは。衝突安全、電気系の安全、止まってしまったらどうするかということ……。たとえばリーフは通信機能を載せて、クルマがどこかで止まってしまうようなことをできるかぎり避けようとしています。そういうことの必要性や意味が、EVが街を走り出してようやく、現実的に考えの対象となってくるのかなと思うんです。
渡辺 そんな日産も自社の販売に占めるEVの割合は2020年時点で10パーセント程度と考えています。そして世の中全体では2~3パーセントくらいじゃないかと。2011年はEVに現実感は出てくるでしょうが、そんな爆発的に普及するようなことにはならないでしょう。
小川 ハイブリッド車なんてこんなに流行っているようにみえても、新車販売において10パーセント程度でしょう。90パーセントが通常の内燃機関車なんですよ。
渡辺 これをあと9年ほどで5割にするというのはかなり大変なことです。国の方針であるからみんなドンドン出さざるを得ない。
小川 よく言われることですが、自動車好きが政治家にいないのも問題。
島下 自動車好きでなくても、想像力が豊かなら、そんなにハイブリッドやEVが増えたら電池がどうなるのか考えるでしょう。それって本当に環境にいいのかと。
小川 自動車で使えなくなったバッテリーはほかに転用するのはむずかしいそうですね。ダメになったバッテリーは所期の性能を発揮できないから。
渡辺 アメリカで販売されるヒュンダイ ソナタのハイブリッドはリチウムポリマーを使っているそうです。リチウムポリマーならサイズも成型自由度も飛躍的に上がります。これが上手くいくと、クルマのパッケージも変わるし、電池のテクノロジーのイニシアチブをもったメーカーが強いということになるでしょう。
小川 OPENERS読者のみなさんならわかっていると思いますが、自動車とはなんなのか考えてほしい。
バーチャルネットワーキングとクルマのあたらしい関係
――そのほか、スマートグリッド事業が気になります。また、クルマがインターネットとリンクすることでこれまでとちがう社会が築けるか、ということもお聞きしたいです。
小川 スマートグリッドは実験がはじまっています。
島下 ネットワーキングについては、その萌芽が出てくるでしょう。
渡辺 ハードウェアは揃っているので、つなぐことは可能です。
小川 国交省や経済産業省、それに警察庁といった横の連携ができないとむずかしいです。国道はできても都道はダメみたいなことになっては意味ないし。信号や電線など使う必要も出てくるでしょう。天下りの温床がぼこぼこできそうですね(笑)。
渡辺 現状はせいぜい、車内で無線LANができるみたいな感じでしょうか。でも安全性、環境性にとっても可能性は相当大きい。ここは日本が伸ばすべきジャンルです。
2011年の自動車界は?
――さきほど4ドアクーペのお話をうかがいましたが、2011年の輸入車はどうなるでしょうか。
渡辺 スポーツカーやクーペも2010年はCO2シンドロームに巻き込まれました。フェラーリはアイドルストップがついているし、ランボルギーニも最高速を追い求めないと言い切った。
そこに2011年にフルモデルチェンジするポルシェ 911が登場する。あたらしい911はもしかするとベースモデルにアイドルストップをつけて、CO2排出量も200g/kmなんてことになるかもしれない。300km/h出るようなクルマがそんなCO2排出量になる。
島下 ちなみに、ヨーロッパでは450ps近い出力を発生して並ぶ、レクサス LS600hとメルセデス・ベンツ S500 ブルーエフィシエンシー、BMWアクティブハイブリッド7という3台がありますが、CO2排出量はレクサスが218g/km、BMWが219g/kmなのに対して、メルセデスS500はハイブリッド無しでも219g/kmを実現してみせました。
渡辺 あのあたりのクルマのCO2排出量、イコール燃費はとてもよくなっている。メルセデスのSクラスは高速だと10ℓ/km以上は平気で走ります。
島下 燃費コンシャスになって損をするひとは誰もいないですからね。フェラーリにアイドルストップがついても全然構わないし、ランボルギーニがトップスピードではなくて、軽さ、ハンドリング、加速だというのならそれもいい。どのみち300km/hの最高速が310km/hになっても、ほとんどメリットなんてないんですから……。要するに、今までのルールでは行き着くところまで行った。だから、これからはあたらしいルールで楽しみませんかと。そんなふうに捉えればいいのかなと思うんです。あたらしいルールのなかでクルマのどんなよろこびのかたちが生まれてくるのか。すごく楽しみだなって思うんですよ。
渡辺 そういう流れが見えてきましたね。たとえば、フェラーリ458イタリアはあまりにポテンシャルが凄まじすぎて僕の手ではどうにも対話しようがない。速さは目もからだもついていかないし、勝手にとんでもない速度で曲がってくれる。こうなると愛でる感覚が薄くなっていっちゃうんですよね、好き者的には。
島下 そういう時代になって「エコだエコだ」とまじめに言ってしまうのが日本のメーカー。あたらしいルールのもとでおもしろいものをつくってやろうとするのが欧州勢。
排気量を減らして燃費が向上し、CO2排出量も減らしたのに、じつはV型8気筒ツインターボにして出力も上がっているAMGなんて痛快じゃないですか。つくった側としてはしてやったりでしょう。したたかというか、クルマがちゃんと文化として根づいているなと思います。
小川 フォルクスワーゲンの動きもおもしろいですね。2010年のトゥーランにつづき、2011年早々にシャランを発売しますよね。スライドドアをもったミニバン。「ミニバンユーザーのなかにも外国の高品質のクルマが欲しいひとはいるはず」と日本市場に積極的です。これはあたらしい動きです。
渡辺 メルセデスにかんして言えば、先代あたりからよくなりましたね。締めてきているクルマはたとえばSLS AMGのように思い切ったことをしている。
島下 E 63 AMG パフォーマンスパッケージはとくによかった。
渡辺 C 63 AMG パフォーマンスパッケージプラスはたぶん後世に残るいいクルマ。
島下 どっちもいいですね。
――みなさんにそこまで言わしめるのに、ちゃんと環境性能をクリアしているというのがすごいですね。
渡辺 本気でそういったクルマとやりあっていくのであれば、日本車はパワートレーンを抜本的にあらためないと厳しいですね。
島下 さっきも話がでましたが、電池の性能はどうやら限界が見えたと考えると、ハイブリッド車の場合、電気で燃費を稼げるぶんというのは大体分ってきているわけです。そうなると大事なのはエンジンと車体ですよ。結局、ハイブリッドだってクルマの基本が良くないと良いものはできないんです。そう考えるとメルセデスなどは、やはり強いですよね。
小川 まずSクラスのロングホイールベース版にハイブリッドシステム搭載モデルを出したのはおもしろかった。そのあと標準ホイールベースですからね。
渡辺 彼らもなりふりかまっていないですね。メルセデス・ベンツはS 250 CDI ブルーエフィシェンシーでSクラスに4気筒を積んできました。こんなことは5年前じゃ考えられませんでした。
小川 日本はダウンサイジング化が進むんでしょうか?
渡辺 どこのメーカーも動きが見えないですね。ホンダ、トヨタはエンジンをサボっている感があります。日産ではジューク 16GTに搭載した1,600ccのターボはティアナくらいは動かせるでしょうし、検証もしているようです。
島下 逆にハイブリッドに賭けるんだったら、たとえばレクサスはLS600hを出すと同時にLS300hなんてのも出せばよかったんですよ、それこそヨーロッパ勢のディーゼルを駆逐するぐらい低燃費の。エンジンはサボる。ハイブリッドも徹底してない。
小川 つまり、日本車はそういう欧州車とおなじ土俵に立たないといけないときがきた。ガラパゴス化していては取り残されるいっぽうとなるのが、この2011年ということですね。
小川フミオ|OGAWA Fumio
自動車とカルチャーを融合させたカー雑誌『NAVI』編集部に約20年間勤務。編集長も務める。『モーターマガジン』『アリガット』の編集長を歴任し、現在はフリーランスのジャーナリストに。『ENGINE』(新潮社)や『EDGE』(リクルート)などの自動車誌をはじめ、多くのマガジンに執筆。グルメ(『週刊ポスト』)やホテルやファッションなど、広範囲のライフスタイルがテリトリー。
島下泰久|SHIMASHITA Yasuhisa
モータージャーナリスト。走行性能だけでなく先進環境・安全技術、ブランド論、運転などなどクルマを取り巻くあらゆる社会事象を守備範囲とした執筆活動のほか、エコ&セーフティドライブをテーマにした講演、インストラクター活動もおこなう。2010-2011日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。近著に 『極楽ハイブリッドカー運転術』『極楽ガソリンダイエット』(いずれも二玄社刊)がある。
ブログ『欲望という名のブログ』
http://minkara.carview.co.jp/userid/362328/blog/13360020/
渡辺敏史|WATANABE Toshifumi
1967年福岡県生まれ。企画室ネコ(現在ネコ・パブリッシング)にて二輪・四輪誌編集部在籍ののちフリーに。『週刊文春』の連載企画「カーなべ」は自動車を切り口に世相や生活を鮮やかに斬る読み物として女性にも大人気。自動車専門誌のほか、『MEN’S EX』『UOMO』など多くの一般誌でも執筆し、人気を集めている。