BMW 3シリーズ グランツーリスモに試乗|BMW
BMW 335i Gran Tourismo|ビー・エム・ダブリュー 335i グランツーリスモ
BMW 3 シリーズ グランツーリスモに試乗
BMW「3シリーズ」にあらたにくわわった、「BMW 3 シリーズ グランツーリスモ」は、クーペのようなスタイルと、ワゴンボディのツーリングをうわまわる室内空間をほこる。そのトップグレードである「335i グランツーリスモ」に試乗した塩見智氏がその成り立ちから語る。
Text by SHIOMI SatoshiPhotographs by ARAKAWA Masayuki
どうしてモデルは増えるのか?
ミニのモデル数がどんどん増えることに目を見張る読者も多いはずだが、実は増えているのはミニだけではなく、本丸のBMWも結構なペースでモデルを増やしている。
2003年にBMWが13モデル、ミニが1モデルだったのが、2013年、BMWが22モデル、ミニが7モデルにまで増えた。現行のBMW各モデルは、ひとつのモデルのなかに複数のトリムレベルが存在するので、仕様という意味ではもっと多い。
メルセデスだって、「X1」や「X3」など、BMWが先に仕掛けたコンパクトSUVカテゴリーに「GLK」を投入したし、BMWのプレミアム コンパクトのシェア拡大に大きく貢献した「ミニ」や「1シリーズ」を追撃すべく、「Aクラス」、「Bクラス」を刷新したほか、「CLA」も投入した(日本導入はまもなく)。そんなこんなで2012年の国内販売台数は、メルセデス・ベンツが4万1,911台、BMWが4万1,102台と拮抗している。ミニの1万6,212台を含めるとBMWが大きく上まわるのだが(自販連統計より)。
といっても、各メーカーとも本国にはさらに多くの仕様が存在する。だが、限られた規模の市場である日本にすべてを輸入するわけにはいかない。モデル数を増やせば販売台数は増えるものの、輸入にかかるコスト、在庫を抱えるリスクも増え、利益につながるとは限らないからだ。かといってモデル数を絞れば販売台数を伸ばせない。
数カ月先(船に載せて運ぶタイムラグ)の需要を予測したうえで効率的なモデル数を見極めるのが、インポーターの腕の見せどころだ。近頃は、BMWもメルセデス・ベンツも基本的にモデル数を増やして多様なニーズをつかもうとする攻めの戦略が目立つ。それが彼らによるこの国の景気予測なのかもしれない。
3シリーズのスケジュールにニューカマー
さて、「3シリーズ グランツーリスモ」は、BMWジャパンの攻めの姿勢をしめす、もっともわかりやすい例といえるかもしれない。
グランツーリスモといえば、すでに「5シリーズ」に存在する。「5シリーズ グランツーリスモ」は、「7シリーズ」のコンポーネンツを多用し、現行型5シリーズの先頭を切るかたちで登場した。
5シリーズのセダン、ツーリングよりも大きなボディの5ドアハッチバックで、とにかくマスの大きさを感じさせる、これまでのBMWの文法になかったユーティリティ系モデルに少々戸惑ったBMWファンも少なくなかったはずだ。
BMW 335i Gran Tourismo|ビー・エム・ダブリュー 335i グランツーリスモ
BMW 3シリーズ グランツーリスモに試乗 (2)
ホイールベース伸長の効果は絶大
ところが、大きいことが評価されるアメリカや中国では5シリーズ グランツーリスモが大ヒット中。勢いのついたBMWは3シリーズにもグランツーリスモを用意した。
そもそも中国は、3シリーズをショーファードリブンの用途で使う変わった人の多い変わった国で、BMWは3シリーズのホイールベースを110mm伸長したセダンを中国向けに用意する。3シリーズ グランツーリスモはそれをベースに開発された。
ホイールベース伸長の効果は絶大で、伸び代が110mmとは信じられないほど後席とラゲッジスペースが広々した。一般的な身長の日本人だと後席に座った状態での膝前のスペースをもて余すのではないか。リアオーバーハングもセダン、ツーリングの955mmよりも145mm長い1,100mmあり、ラゲッジスペースはツーリングの立つ瀬がないほどに広大。
実際、容量はツーリングの495-1,500リッターを上まわる520-1,600リッターを誇る。後席のシートバックは直角にまで立てられるので、望めばデッドスペースの少ないボクシーな荷室をつくりだすことも可能だ。
日本仕様の 3シリーズ グランツーリスモは、セダン、ツーリングとおなじ
「320i グランツーリスモ」──最高出力135kW[184ps]/5,000rpm、最大トルク270Nm[27.5kgm]/1,250-4,500rpmの2リッター直4ガソリン ターボエンジン搭載
「328i グランツーリスモ」──同180kW[245ps]/5,000rpm、350Nm[35.7kgm]/1,250-4,800rpmの2リッター直4ガソリン ターボエンジン搭載
「335i グランツーリスモ」──225kW[306ps]/5,800rpm、400Nm[40.8kgm]/1,200-5,000rpmの3リッター直6ターボ ガソリンエンジン搭載
をラインナップする。
いっぽうで、セダンに用意される3リッター直6ガソリンターボエンジン+電気モーター搭載の「アクティブハイブリッド3」や、セダン、ツーリングに用意される2リッター直4ディーゼルターボエンジン搭載の「320d」は、現時点ではグランツーリスモには設定されない。
BMW 335i Gran Tourismo|
ビー・エム・ダブリュー 335i グランツーリスモ
BMW 3シリーズ グランツーリスモに試乗 (3)
ハイテクを使いこなすのも上手い
トップモデルの335iグランツーリスモに試乗した。運転席からの眺めはセダン、ツーリングと変わらない。iDriveで目的地、車内温度、オーディオなど、ひととおりの設定を済ませれば、あとは運転に集中できる。
今や手元のダイヤルひとつで、たいていの操作が可能となったため、操作しやすいようにセンターパネルをドライバー側に傾ける具体的な理由はなくなったが、直6エンジン同様、BMWの伝統だからそう簡単にやめるわけにはいかない。
ひとたび採用したコンセプトを長らく守り抜くのはBMWの特徴であるいっぽう、バルブトロニックやツインスクロールターボなど、ハイテクを使いこなすのもうまい。BMWにフューチャリスティックとノスタルジックな感覚が同居するのはそのためだ。
このモデルの最大の特徴は、フィーリングに優れるとされる直6エンジンを搭載することにほかならないのだが、広い範囲で400Nm(40.8kgm)もの最大トルクを誇るエンジンと対峙すると、フィーリング云々よりもターボブーストによる力強さに圧倒され、冷静に回転の緻密さを味わう余裕をなかなか見つけられない。
それでも時間をかけてじっくり加速したり高速巡航したりするうち、スムーズで気持ちよいエンジンだなとわかってくる。ただし、ライバルが積むV6エンジンも相当にスムーズになってきているので、直6であることの絶対的な優位性はもはや感じない。
1時間弱の試乗で断言するのは避けたいが、いまや直6であることの魅力の大部分は様式からくるものではないだろうか。8段ATはさしたるシフトショックを伴わないにもかかわらず、ダイレクトに変速する。
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ビー・エム・ダブリュー 335i グランツーリスモ
BMW 3シリーズ グランツーリスモに試乗 (4)
乗り心地は3シリーズ随一か?
ハンドリングはいつものBMWのそれ、すなわち50:50の前後重量配分からくる素性の良さを感じさせる。挙動が素直で、ステアリングを切れば切ったぶんだけ曲がってくれる。
アクティブ ステアリングと呼んでいた頃の可変ギアレシオのステアリングは、必ずしも自然なフィーリングではなかったが、バリアブル スポーツ ステアリングと呼ぶようになった最近では、可変の条件やアシストの介入がかなり自然になった。
スポーティ=かためられた足ではないと知っている彼らは、Mでもないかぎりハイパワーなエンジンを載せているからといって、無闇に足をかたくしたりしない。
テスト車に装着されていた19インチのタイヤ&ホイールをものともせず、微小な入力にたいしても大きな入力にたいしてもよく仕事をするサスペンションによって、快適性は高い。
ホイールベースの長さが寄与しているのか、特に高速道路での乗り心地はセダン、ツーリングを上まわるように感じた。
だれを乗せ、何を載せるか……すぐにおもい付く人に3シリーズ グランツーリスモを薦めたい。ただし、値が張るので、何か積めと言われても……と戸惑う人はセダンかツーリングでよいのかもしれない。
とはいえ、容れ物を用意してからライフスタイルがついてくるケースもないわけではないだろうから、スタイリングが気に入ったら独身、無趣味の人もどうぞ。
BMW 335i Gran Turismo|ビー・エム・ダブリュー 335i グランツーリスモ
ボディサイズ|全長4,825×全幅1,830×全高1,510mm
ホイールベース|2,920 mm
トレッド 前/後|1,540 / 1,585 mm
最低地上高|165 mm
最小回転半径|5.7 メートル
トランク容量|520 - 1,600 リットル
重量|1,740 kg
エンジン|2,979cc 直列6気筒 直噴DOHC ツインスクロールターボ
最高出力| 225kW(306ps)/ 5,800 rpm
最大トルク|400Nm / 1,200-5,000 rpm
トランスミッション|8段オートマチック
駆動方式|FR
タイヤ|225/55R17
0-100km/h加速|6.1 秒
最高速度|250km/h
燃費(JC08モード)|12.5 km/ℓ
CO2排出量(EUサイクル値)|178 g/km
価格|730万円、スポーツ/モダン/ラグジュアリーは750万円、Mスポーツは776万円