BMWのルーツが垣間見える新型6シリーズ試乗
BMW 650i COUPE|ビー・エム・ダブリュー 650i クーペ
BMWの伝統に現代の要求を加味した新型6シリーズに試乗
BMWの根幹ともいえる、ラグジュアリアスなクーペ。1968年に発表され、ドイツをはじめ、米国やさらに日本でも人気を博した美しい2ドアの3.0CS(のちに燃料噴射装置を備えて3.0CSiに)の系譜は、のちに6シリーズと名称変更され、現在にいたるまで連綿とつづいている。
Text by OGAWA Fumio
Photographs by ARAKAWA Masayuki
ニッチな市場を狙ったBMWの戦略
少量生産の出来のいいスポーツクーペをBMWが手がけていたのは、高級乗用車のメルセデス、大衆乗用車のフォルクスワーゲン、そしてスポーツカーのポルシェという各ライバル社が埋めきれない、どちらかというとニッチ(すきま)市場を狙ったためだった。背景には、戦前からスポーティなクルマづくりを得意としてきたBMWの伝統もあった。
高級クーペの路線は、1976年発表の初代6シリーズでみごとに花開き、大型だが優美なラインで構成されたエクステリア、革やウッドを使い贅たくな雰囲気を感じさせるインテリア、そしてパワフルなエンジンと、すぐれたハンドリング、これらの組み合わせがBMWの代名詞となった。
日本では2011年秋に導入された新型6シリーズも、スポーティな高級クーペというBMWの伝統を継承したうえで、環境性能という現代的な要求への答えをさぐったところにあたらしさをもつ。
日本では、3リッター直列6気筒+ターボの640iクーペ(933万円)と、4.4リッターV型8気筒+ターボの650iクーペ(1235万円)の2本立てとなる。
BMW 650i COUPE|ビー・エム・ダブリュー 650i クーペ
BMWの伝統に現代の要求を加味した新型6シリーズに試乗(2)
エレガンスを感じるスタイリングと走り
6シリーズの頂点に位置する650iクーペ。スタイリングは見る角度によって、おおきくイメージが変わる。フロントマスクは、鉄の塊をくり抜いて、ヘッドランプのユニットやグリルをはめこんだような、彫刻的な印象をもついっぽう、リアからの眺めでは、エレガントさも感じられる。ロサンゼルスのような都会がよく似合いそうな、独特の存在感を感じさせるものだ。
ドライブでも、エレガンスが650iクーペにとって重要なテーマであることがわかる。その立役者が4.4リッターV8ユニット。可変バルブリフトシステムであるバルブトロニックと吸気側と排気側のカムのプロファイルを変えるダブルVANOSとともに、低回転域から高回転域までカバーする可変ターボチャージャーを備える。
低回転域から大トルクを発生
高回転までまわすタイプでなく、わずか1,300rpmから450Nmもの大トルクを発生する。そのため、クルマの操作はきわめてスムーズで、気持ちよく走ることができる。サスペンションの動きもしなやかで、かつ車重がわずかだが2トンになんなんとするからだろう、乗り心地はしっとりしている。
遮音性も高く、エンジンルームやホイールハウスからの透過音や、窓まわりからの風切り音も常用速度域ではじつに低い。つぶやくような小声でも会話できるレベルだ。これにくわえ、ハンドル操作への反応のよさは過敏でないものの、インテグレイテッド アクティブステアリングとよばれる前後輪統合制御ステアリングシステムの恩恵もあるのだろうか、動きはウルトラスムーズで、ひとことでいうと、街中でも気持ちがよい。
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他に類のない独特なキャラクター
ドライビングの楽しさとひとことでいっても、ひとによって求めるものは千差万別だ。650iも全長4.9mものサイズのクルマとしては軽快でかつスムーズでかつパワフルという、希有なコンビネーションがキャラクターになっている。なかなかライバルに類車がない。そこが大きな魅力である。
いっぽう、駆け抜けるよろこびを標榜するBMWだけに、スポーティなクルマという前提で6シリーズを評価しようとすれば、ワインディングロードでの楽しさは3シリーズや5シリーズのほうに分がある。コーナリング時の車体の追従性は驚くほど高いのだが、それでも、小さなコーナーが連続するような道ではボディの大きさを感じさせる。とくに上り勾配の小さなコーナーからの脱出などでは、エンジンをより多めにまわす必要が出てくる。650iの真骨頂は、市街地と高速などのハイスピードクルージングなのだろう。
室内はきれいなカーブを描いたレザー張りのソフトパッドで覆われ、贅たくな雰囲気で満ちている。後席はけっして広くないが、おそらく、それで困るひとはいないだろう。高級クーペというのは、車体は大きく、しかし室内はコンパクトで、基本的には2人だけで乗るクルマだからだ。
あえて注文をつければ、ウィンドウグラフィクスとくにサイドウィンドウの造型をふくめて、もっとエレガンスを強調したスタイリングでもよかったように思う。アグレッシブさとの同居が、いまひとつ中途半端に思えるからだ。1000万円超のクルマを買うひとは、おそらく突き抜けたものを好むはずだ。ほかで手に入らない価値について、BMWではルーツを振り返りながら、しっかり考えるといいかもしれない。貴重な財産をもっているのだから。
BMW 650i COUPE|ビー・エム・ダブリュー 650i クーペ
ボディサイズ|全長4,895×全幅1,895×全高1,370mm
ホイールベース|2,855mm
車輌重量|1,910kg
エンジン|4.4リッターV型8気筒DOHC
最高出力|407ps(300kW)/5,500rpm
最大トルク|600Nm/1,750-4,500rpm
トランスミッション|電子制御式8段AT
駆動方式|後輪駆動
ステアリング|左右
価格|1235万円