BMW i8に試乗|BMW
BMW i8|ビー・エム・ダブリュー i8
スポーツカー新時代をひと足先に体験
BMW i8 プロトタイプに乗る
BMWが開発するプラグインハイブリッドスポーツカーである「i8」は、先に発表された「i3」とともに開発が進められてきたプラグインハイブリッドカー。その性能は総出力266kW(362ps)、最高時速250km、0-100km/h加速は4.5秒以下と、ピュアスポーツと呼ぶにふさわしいスペックをそなえているという。そんな新時代のスポーツカーを、南仏にあるBMWのテストコースで西川淳氏が試す。
Text by NISHIKAWA Jun
あたらしいスポーツカーの世界へ
開発責任者は、こんなたとえ話で切り出した。
「カメラやテレビ、携帯電話をおもい出してほしい。大きな変化があるたびに、すぐれた作り手がいくつか衰退したものだ。これから、自動車の世界にもおなじようなことが起こるとおもう。とくに、スポーツカーの世界において……」。
われわれクルマ好きは、まったくあたらしいスポーツカーの世界を、まもなく知ることになる、というわけである。
南仏はプロヴァンス。ミラマにあるBMWのプルービンググラウンドで、発売を来年にひかえた「i8」の生産型プロトタイプをためすことができた。取材陣を待ち受けていたのは、青いカムフラージュフィルムを貼られた、いわゆる覆面試作車である。
全身をフィルムで覆われているとはいうものの、その特徴的なフォルムまでは隠しおおせない。おもったよりも車高は高めで、車幅もかなり広がっている。資料を紐解けば、なるほど、ほぼ「メルセデスベンツSLS AMG」なみのスリーサイズだ。
ノーズが異常に低い。先端まで伸ばされたフードはアルミニウム製である。先には例によって、キドニーグリルが、平たくつぶされながらも収まっている。グリルのなかは閉じられている、のかとおもいきや、下方が指1本分ほど開けられおり、送風口になっているようだ。
バンパースポイラーのグリルも閉じていた。けれども、こちらは自動調節式のフラップが収まっていて、必要に応じて開閉され、前輪用のブレーキを冷やすらしい。
ドアは、まるで昆虫の羽のようにひらくスィングアップタイプ。外側のパネルはアルミニウム製で内側がCFRP製となっており、開閉フィールそのものは、かなり軽い。
BMW i8|ビー・エム・ダブリュー i8
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BMW i8 プロトタイプに乗る (2)
正式披露が待ち遠しいデザイン
いかにも空力を考えましたというリアセクションデザインは、i8のハイライトのひとつだろう。リアランプまわりのデザインにも面白いアイデアがありそうだったが、上手く隠されていた。フランクフルトショーでの正式披露が楽しみである。
本当に小さなダックテールの前にはガラス製のハッチゲートがあり、開けると手前に154リットルの荷室があった。機内持ち込みサイズのトランクケースなら問題なさそうだが、ちょっと少ないかな、という印象だ。
ちなみに、キャビンとエンジンルームを遮るリアの小さなガラス窓は、「ゴリラガラス」といって、スマホ用のケミカルガラスと同種のもの。非常に強く、軽い素材である。今後、他のモデルにも順次、適用する計画もあるらしい。
それはそうなのだけれども、インテリアからだって、もう少し、色気と未来を感じたかった。正直、イマドキのBMWインテリアには少々飽きてきた。新時代のスポーツカーであるi8を皮切りにして、BMW次世代のコクピットデザインテイストを見せてくれてもよかった、とおもう。
ちなみに、リアシートは完全に荷物置場レベル。足元にこそスペースがあるものの、頭上、座面ともにとても狭く、また背もたれも立ち気味なので、身長170センチの筆者でも、首を曲げて座るのがやっとであった。
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BMW i8 プロトタイプに乗る (3)
シティコミューターとスポーツカーのキャラクターを両立
スターターボタンを押すと、爽やかなチャイムが鳴った。いかにも電動カーらしいシカケである。
フロントアクスルには、「i3」とおなじシステム構成となる、2段変速モーターライズド パワートレイン(最高出力131ps、最大トルク250Nm)が置かれている。
くわえて、リアアクスルの前には、新開発の直噴3気筒1.5リッターツインパワーターボ+6段ATパワートレーン(最高出力231ps、最大トルク320Nm)+小モーターを積む。エンジンに繋がれた小モーターは、スターターとしての機能はもちろんのこと、前輪のモーター駆動にエンジン回転を追いつかせる仕事もこなす重要なパーツだ。
コクピットセンターの下に、まるでバックボーンフレームのように収まっているのがリチウムイオンバッテリーで、i3のそれよりも容量はかなり少なく、効率よりパワーの出し入れを重視したキャラクターになっている。
前後2種類のパワートレーンを効果的に協調運用することで、EVのFFシティコミューターというキャラクターと、エンジンミドシップの4WDで0-100km/h加速4.5秒以内という俊足スポーツカーというキャラクターを両立する。それが、i8というスポーツカーのあたらしさというわけだ。
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ライバルは……
まずはEVモードで走り出してみた。
最初に路面へと伝えられるトルクのノリがとても力強く、なかなかに速い! 上手く踏み込んでやれば、120km/hまでEV走行が可能だ。フル充電からのEV航続レンジはおよそ35キロというから、ガレージから市街地を抜けるまでは静かに、しかも速さをけちることなくドライブできる。
アクセルペダルを強く踏み込むと、エンジンがかかって、ハイブリッドモード(コンフォート)にかわった。そこからは、エンジン出力を駆動と充電に効果的に振り分けながら、おとなしく走りたい。
シビレる! とは言わないまでも、力強いサウンドもキャビンを満たしてくれた。スピーカーからもエンジン音が聞こえてくるように演出されている。スポーツカーには音も大事、というわけだ。
車体の軽さと低重心さがきいているのだろう。ややフロントサスペンションに突っ張りを感じるものの、重量配分は依然50:50を守っており、ハンドリング性能も上々。路面にベタっとはり付いて、ミズスマシのように駆け巡る。前後パワートレーンの協調制御や、フロントシャシーのセッティング、サウンドの演出などなど、まだまだ煮詰めの足りないところも散見されたが、エンジニアたちはもちろん、すべての課題を把握しており、残された半年間で完成度を高めてくれるはず。
そして、走りのステージがやってきたら、迷わずスポーツモードをえらぼうじゃないか。両パワーソースを最大限につかってのフル加速は、未体験の迫力。ドン、ドドーンと二段ロケットのように加速する。
分厚いモータートルクと強力なターボチャージドの組みあわせで、スペック以上に速く感じられた。
価格は10万ユーロ 以上20万ユーロ以下。ライバルはズバリ、50周年を迎えたばかりのポルシェ911。
われわれは、スポーツカー新時代到来の目撃者になれそうだ。
BMW i8|ビー・エム・ダブリュー i8
ボディサイズ|全長4,689×全幅1,942×全高1,293mm
ホイールベース|2,800 mm
重量|1,490 kg 以下
エンジン|1,499cc 直列3気筒 直噴DOHC ターボ
最高出力| 170kW(231ps)
最大トルク|320Nm
モーター最高出力|96kW(131ps)
モーター最大トルク|250Nm
システム最高出力|266kW(362ps)
システム最大トルク|570Nm
トランスミッション|6段オートマチック
駆動方式|4WD
タイヤ 前/後|195/50R20 / 215/45R20
0-100km/h加速|4.5 秒 以下
最高速度|250km/h
EV時最高速度|120km/h
燃費|2.5 ℓ/100km
CO2排出量|59 g/km
走行可能距離|500 km 以上
EV走行可能距離|約35 km