Q7 e-tronとA7スポーツバック h-tronに試乗|Audi
CAR / IMPRESSION
2016年1月12日

Q7 e-tronとA7スポーツバック h-tronに試乗|Audi

Audi Q7 e-tron|アウディ Q7 e-tron

Audi A7 Sportsback h-tron|アウディ A7スポーツバック h-tron

Q7 e-tronとA7スポーツバック h-tronに試乗

化石燃料からの脱却を目指して

地球温暖化対策として、化石燃料からの脱却を目指す姿勢を打ち出しているアウディ。同社はその成果をアピールすべく、スペインにて「アウディ フューチャー パフォーマンスデイ」なるワークショップを開催した。同イベントに参加したモータージャーナリスト、小川フミオ氏による「Q7 e-tron」と「A7 スポーツバック h-tron」の試乗記をお届けする。

Text by OGAWA Fumio

3リッターディーゼル+電気モーターのPHV

近い将来、クルマの動力が劇的に変わる。と、そこに向けて“加速”しているのがアウディだ。2015年11月に、スペインで、「アウディ フューチャー パフォーマンスデイ」なるワークショップが開催された。

イベントの目玉として、アウディ「Q7 e-tron 3.0TDI クワトロ」の試乗もできた。3リッターディーゼルエンジンに電気モーターが組み合わされた大型SUVである。外部充電可能な高性能リチウムイオンバッテリーにより、50km超を電気モーターだけで走行する。

アウディは、日本でも2015年にはプラグインハイブリッド(PHV)の「A3 スポーツバック e-tron」を発売。2016年には、新型Q7のPHV(ガソリン)の発売も計画中という。地球温暖化対策として、化石燃料からの脱却を目指す姿勢を打ち出しているのが同社だ。

Audi Q7 e-tron|アウディ Q7 e-tron

Audi Q7 e-tron

Audi Q7 e-tron|アウディ Q7 e-tron

明確な目標を明示してはいないが、アウディAGのルパート・シュタットラー会長は2014年に語っている。「最近の研究によると、2030年には、新車登録される乗用車と小型トラックの約40パーセントの動力源は、電気か、一部電気になるとされています」。

Q7 e-tron 3.0TDIクワトロをマドリッド郊外で走らせてみると、驚くほど、力があり、かつ静かで、かつ乗り心地がよかった。最高出力は275kW(373ps)で、最大トルクは驚きの700Nmである。しかも操縦性においては、新型Q7の素性のよさが、もろストレートに出ている感じだ。素晴らしいクルマである。

マドリッドのハイウェイや山間部を含めて約100km走った結果、僕のクルマの燃費は欧州式にいうと3.5リッター。100キロ走るのに消費する燃料の量だ。日本式だと、リッターあたり28km超。全長5メートルの大きなクルマの燃費として信じられない値が出た。

Audi Q7 e-tron|アウディ Q7 e-tron

Audi Q7 e-tron

Audi Q7 e-tron|アウディ Q7 e-tron

ドイツ製のPHVで好燃費をマークしようとしたらコツがある。速度計と回転計のあいだにある(クルマによって異なるが ―― )バッテリー残量計とにらめっこするのだ。バッテリーが空っぽになるように電気モーターだけの運転を心がける。つねに電気のみで走るようにする。それが“正しい”燃費運転だ。このクルマの場合、電気モーターだけで56kmもの距離をカバーする。

クルマとしても、比較的大型のバッテリーを搭載しているにもかかわらず、操縦したときのバランスはいい感じだ。エアサスペンションの働きもよい。カーブなどの身のこなしはしっかりとしていて、操縦する楽しさを感じさせる。いっぽう巡航時は、しなやかな動きで快適な乗り心地である。

質感的にもクオリティが高い。それには、乗り心地とともに静粛性が大きく寄与している。車輪が路面と擦れるときのノイズや、窓からのウィンドノイズはほぼ聞こえてこない。劇的に室内は静か。逆位相の音波で騒音を打ち消すノイズキャンセラーを備えているかと思ったが、そんな事実はないと聞いて、さらに驚いたほどだ。

マドリッドには、ほかにも、驚きが待っていた。

Audi Q7 e-tron|アウディ Q7 e-tron

Audi A7 Sportsback h-tron|アウディ A7スポーツバック h-tron

Q7 e-tronとA7スポーツバック h-tronに試乗

化石燃料からの脱却を目指して (2)

電気は化石燃料を使わずに

「アウディ フューチャー パフォーマンスデイ」の舞台は、マドリッド郊外のど田舎、もとい、田園地帯にあるスペイン航空宇宙技術研究所だ。仮設のスタジオを建て、技術展示と、先に触れたQ7 e-tron 3.0TDIクワトロをはじめとする代替燃料車まで持ちこんだ。そこで、世界各国のジャーナリストに、近未来のアウディの燃料についての考えが披露された。

「動力源の電気化を急ピッチで進めています」と謳う、アウディ。当面は、Q7 e-tron 3.0TDI クワトロのように、プラグインハイブリッドに注力するという。その先には燃料電池や天然ガスで走るクルマが控えている。

Audi Q7 e-tron|アウディ Q7 e-tron

Audi Q7 e-tron|アウディ Q7 e-tron

興味ぶかい事実は、アウディの場合、電気は化石燃料を使わず(すなわちCO2フリーで)作るとしていることだ。e-tron(イートロン)」というPHVや電気自動車に使う電気は、火力や原子力でなく風力から作る。アウディの専用工場では、水と、バイオガス工場が生成するCO2(二酸化炭素)からメタンガスを作る。

現状では、2,800トンのCO2から1,000トンの「e-ガス」が作れ、これは「g-tron(ジートロン)」というガス燃料車に使う。1,500台が年間1万5,000キロ走れるそうだ。しかもCO2排出量はゼロ。メタンを改質すれば水素も作れるので、これは「h-tron」という燃料電池車の燃料になる。そのときに出るCO2も「e-ガス」に使われる。

アウディは、それだけではない。合成燃料開発への取り組みにも熱心なのだ。CO2を排出せず化学合成で作られる「e-ガソリン」や「e-ディーゼル」も開発中とする。内燃機関であってもCO2フリーに。それがアウディの取り組みである。

燃料電池のアウディ「A7 スポーツバック h-tron クワトロ」も、よく走る。

Audi Q7 e-tron|アウディ Q7 e-tron

Audi A7 Sportsback h-tron|アウディ A7スポーツバック h-tron

Q7 e-tronとA7スポーツバック h-tronに試乗

化石燃料からの脱却を目指して (3)

CO2フリーとハイパフォーマンスの両立

マドリッドで試乗できた、アウディ A7 スポーツバック h-tron クワトロ。水素を燃料に電気モーターを回す燃料電池車だ。既存の「A7 スポーツバック」をベースに、エンジンの代わりに電気モーターを搭載。水素タンクと、水素から電気を取り出す燃料電池スタックを搭載している。

A7スポーツバックh-tronクワトロは、トヨタ「MIRAI」と同じカテゴリーに属するといえるが、大きく異なる点もある。「A7 スポーツバック h-tron クワトロは水素を使った燃料電池に、フルタイム4WDのクワトロシステムを組み合わせています」と、現地でアウディの担当者は、誇らしげに言ったのが印象的だ。

Audi A7 Sportsback h-tron|アウディ A7スポーツバック h-tron

Audi A7 Sportsback h-tron

Audi A7 Sportsback h-tron|アウディ A7スポーツバック h-tron

「電気を使ってCO2フリーを念頭に置いているから、ほかの性能が多少犠牲になってもしようがないとは考えません。パフォーマンスを確保し、走りのよさも同時に追求します。妥協はありえません」

A7スポーツバックh-tronクワトロは、2つの電気モーターで四輪を駆動する。アウディでは「e-クワトロ」と呼ぶ技術が採用されているのだ。しかも外部充電可能なプラグインハイブリッドでもある。アウディによると1回満充填すると航続距離は500km超。「すでに技術は確立されています。ゴーが出ればすぐに市販に移れます」。アウディの技術者は胸を張る。

Audi A7 Sportsback h-tron|アウディ A7スポーツバック h-tron

Audi A7 Sportsback h-tron|アウディ A7スポーツバック h-tron

A7 スポーツバック h-tron クワトロで印象に残るのは、加速のよさだ。電気自動車のメリットをフルに活かしている。なにしろ、最大トルクは540Nmだ。電気自動車に乗ったことのある人ならおなじみの感覚といえるが、一段上をいっている。

ハンドリングも意外にニュートラル。といっても車体が重く(これはしようがないか)、制動のためには強めにブレーキペダルを踏まなくてはいけない。この感覚は早晩解決すると、車両開発担当の技術者は述べていた。

先頃パリで開かれたCOP21(気候変動枠組条約締約国会議その21)では、先進国と発展途上国とのあいだで思惑の違いがあり、ぎくしゃく感も報道されていた。しかしなにより、海面の上昇、海水の酸性化、暴風やハリケーンの増加など、地球に与えるダメージが大きいとされる温暖化を防ぐ手だてを講じなくてはいけないのは、各国ともに共通理解のはずだ。

ことは企業でも個人でも同じだ。北米市場におけるディーゼルの件は、なかなか光明が見えてこない。しかしこのように、地球温暖化防止を見据えた代替燃料車で、アウディには前に進んでいってほしい。それはしっかり応援したい。

           
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