アウディの未来エネルギー|Audi
Audi future lab|アウディ フューチャー ラボ
アウディが描く未来の社会 後篇
アウディ フューチャー エナジー
クルマが原因となる環境負荷への規制は、厳しさを増している。都市部でエンジン作動を禁止しよう、という意見や、2025年には燃費33km/ℓ以上が義務づけられるだろう、という話は、いまや充分に現実味がある。この状況においては、電気自動車もかならずしも救世主たりえない。電気を生み出す際の環境への悪影響もまた、問題視されるからだ。アウディが提案する未来のモビリティを紹介する、アウディ フューチャー ラボのリポート後編となる今回は、次世代クリーンエネルギーを紹介。CO2排出量±0の燃料が実用間近!?
Text & Event Photographs by OTANI Tatsuya
クルマだけではない未来都市モビリティ
「アウディ フューチャー ラボ」の後編は、「アウディ アーバン フューチャー」と「アウディ フューチャー エナジー」についてリポートする。
「アウディ アーバン フューチャー」は未来の都市交通を研究するもの。すでにOPENERSでもその一部を紹介しているが、未来の自動車を考えるうえで、未来の都市交通がどんな形態になっているかを研究するのは間違いなく重要なことだ。
これらに関連して、アウディは、未来のパーソナルモビリティにかんする研究もおこっているが、それらは純粋に環境や効率だけを突き詰めたものだけでなく、モビリティがもたらすスポーツ性に着目したものもあって、デザインを見ているだけでも興味深かった。とりわけフレームをカーボン製とした電動アシスト自転車は、アウディでなければおもいつかないだろう、とおもうほどスタイリッシュで、見とれてしまった。
ガスに電気を蓄えるという発想 e-gas
つづいて、未来のエネルギー源にかんするアウディの研究、「アウディ フューチャー エナジー」について紹介しよう。これは大きく分けて「e-gas プロジェクト」と「e-diesel ならびに e-ethanol プロジェクト」に分類できる。
まずは e-gas プロジェクトから。これは自然エネルギー発電で生まれた余剰電力を水素やメタンの形に換えて貯蔵する方法と考えればいい。
サステイナブルな発電方法として注目されている風力発電や太陽光発電は、自然のサイクルによって発電量が決まるため、しばしば余剰電力を生み出してしまう。しかし、電力の貯蔵は意外と難しい。これをバッテリーでおこなおうとすれば、巨大な“バッテリープラント”が必要になり、コスト的に実現性は低い。
そこでアウディが考えたのは、余剰電力を使って水を電気分解し、水素と酸素を取り出す方法。ここで酸素はとりあえず使い道がないので空気中に放出し、水素は燃料電池車や水素自動車のエネルギー源として活用する。
Audi future lab|アウディ フューチャー ラボ
アウディが描く未来の社会 後篇
アウディ フューチャー エナジー (2)
余剰エネルギーからメタンガスを生み出す
もっとも、燃料電池や水素自動車の普及はまだまだ先の話。そこで考えられたのが、この水素(H2)と二酸化炭素(CO2)を反応させてメタンガス(CH4)を作り出すというアイデアである。
二酸化炭素をメタンガスの材料として活用すれば、地球温暖化現象の防止に役立つ。いっぽう、すでにヨーロッパではエネルギー源として幅広く活用されているCNG(天然ガス)の主成分はメタン。つまり、余剰電力によって生み出されたガスは、ヨーロッパでは「いますぐ利用可能なエネルギー源」でもあるのだ。
また、既存のガソリンエンジンは少し手をくわえるだけでCNGを燃料として受け入れることができる。そこでアウディは、次期型「A3」をベースにガソリンとCNGの両方を燃料として利用できるバイフューエルモデルを開発。2013年に発売する計画を立てている。
幅広い地域でCNGの供給が受け入れられるヨーロッパならではのモデルだが、ガソリンとCNGの切り替えが簡単なこのA3であれば、CNGの供給体制がまだ確立されていない日本でも使えないことはない。しかも、CNG車は我が国でも手厚い税金優遇措置が受けられる。なにしろ、自動車税がおおむね50パーセント減税となるほか、自動車重量税と自動車取得税が免税となるのだ。したがって、ユーザーにとっても大きなメリットがあるといえる。
Audi future lab|アウディ フューチャー ラボ
アウディが描く未来の社会 後篇
アウディ フューチャー エナジー (3)
地球規模のインパクトになるか? e-diesel
とはいえ、e-gas プロジェクトはあくまでも自然エネルギー発電による余剰電力を利用するもの。地球全体のエネルギー事情にたいするインパクトは、決して大きくない。しかし、次に紹介する e-diesel ならびに e-ethanol プロジェクトは、本格的な量産化ができると、現在の化石燃料を完全に不要にしてしまうかもしれないほど社会的なインパクトが大きい研究である。
その鍵を握るのは、藍藻(らんそう)と呼ばれる微生物の一種だ。アメリカのベンチャー企業であるジュール社は、この藍藻を遺伝子工学により改良。水と二酸化炭素、そして太陽光を与えて光合成をおこなわせると、微生物がアルコールの一種であるエタノールやディーゼル燃料を分泌するシステムをつくり上げたのである。
つまりバイオ燃料の一種だが、植物を醸造するなどしてアルコールを取り出す一般的なバイオ燃料にたいし、これは微生物が直接、燃料を生み出すために圧倒的に効率が高く、おなじ量の燃料をつくるのに必要な土地は1/10で済むという。
しかも、コストが安く、量産化されればディーゼル燃料は約33円/ℓ、エタノールは約27円になるという。くわえて、ディーゼル燃料の性能をしめすセタン価は、一般的な軽油の50前後にたいして e-diesel はその倍に相当する100。コスト面でも性能面でも、実現性はきわめて高いといえる。
アウディはジュール社のパートナーとなってこの研究を推し進めており、来年には広さ2アールのデモ工場を完成させる計画。しかも、アメリカでは特許も取得済み。どうやら、ただの夢物語ではなさそうだ。