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2020年6月22日
SDG’Sの時代のクルマ選び──サステイナブルにクルマに乗る、とは今後どういうことなのか?
サステナブルな時代のクルマ選び
確かに、ハイブリッド>PHEV(プラグインハイブリッド)>BEV(バッテリー電気自動車)という具合に、パワーユニットの電動化の度合いに応じてガス排出量は減る。だがユーザーにとっては、充電ステーションの整備や電力供給というインフラの問題、給油か充電かという日常的な使い勝手、さらに料金体系にまで変化や影響を及ぼす点が、プロダクトとしてのクルマそのものや、自家用としての維持・使用コストの見通しを分かりにくくしている。
コストパフォーマンスだけがクルマ選びの基準になりやすいことは、サステイナブルな移動手段を考える上では問題だが、純粋に電気のみで走るBEVはいまだ高価であり、増えてきたとはいえモデルの選択肢も少ない。さらに、インフラ普及の問題に加え、バッテリー寿命や保証、リサイクル性の問題もある。
従来のガソリンやディーゼルから、動力源を部分的に電気に切り替えるPHEVも拡がり出しているが、EV同様、バッテリーのリサイクルの問題は残る。要は「(車両価格も使い勝手も)手頃でクリーンなクルマ」がまだ現れていない上に、使い勝手の面でもユーザーには変化が強いられる。
よって今現在、世界各地の自動車市場で起きていることは、EVがブームとかディーゼルが敵視されているという話ではない。クルマで移動する=何かしらの動力源で走るのに、過密地域ほど電気モーターで、長距離移動ほどディーゼルのような熱効率の高い内燃機関で賄いたいが、大半のドライバーの用途はその中間で、ガソリンとハイブリッドで事足りてしまう。
つまり近頃のクルマ選びは、服を買う際にまずサイズを選ぶのにも似て、用途や乗り方に応じて電化の割合を100~0%(BEV〜エンジン車)の間で決めることでもある。加速性能や省燃費といった一義的な理由ではない。どの動力源で走るか?に、ボディのカタチやサイズといった要素が加味されると、世界的に最大公約数として好まれやすいのが、今も流行中のSUVだったりするのだろう。
自分の使用環境や乗り方に合わせて、電化すべきか否か、またはどの程度を電化するか?というところだが、予算にも時間にも余裕があるならBEVがいい。脱地球温暖化という点では最もクリーンな自動車であることは確実だし、走行中の静粛性やスムーズさでは内燃機関の比ではない。
ただし出先では急速充電ステーションの渋滞行列など、不確定要素にも向き合わねばならない。バッテリー寿命については、メーカーや販売店の差配ひとつだが、容量保証プログラムや、テスラのように走行距離無制限での保証を謳う例もある。
昨年はジャガー「I-PACE」の欧州カー・オブ・ザ・イヤー受賞などが話題になったが、今年はフォルクスワーゲンの「ID.3」というゴルフと同じぐらいの車格のBEVが市販予定だし、よりコンパクトなBセグメントのプジョー「208」と「2008」はモデルチェンジして「e-208」「e-2008」をすでに欧州で発売しており、コロナの影響で遅れは出ているが納車も始まっている。
ユーザーのタイプ別にみた最適なパワートレーン
もし年間の走行距離が1万km近くで、住まいが一戸建てで家庭用200V充電器を用意できる環境なら、PHEVへの移行を考えた方がいい。欧州メーカーのPHEVは外部ステーションでの急速充電に対応していないものが多いが、それは電気がないと走れない(=ヴァルネラブル、より脆弱性が高い)BEVに急速充電スポットを譲るべき、との考えに基づいている。
普通充電でゆっくりバッテリーのセルを満たす方が、そもそもバッテリー寿命にも影響しにくい。家を出る時は基本的にフル充電であれば走行域のかなりの割合を電気モーターで賄えるため、給油する機会自体が少ないはずだ。平日の移動は近隣がメインで、遠出はそこそこ頻繁にするものの、300㎞以遠なら電車か飛行機、でもコンパクトカーは小さ過ぎるという人には、PHEVは向いている。
PHEVは、Dセグ以上の大きなクルマ以外の選択肢がフォルクスワーゲン「ゴルフGTE」やトヨタ「プリウスPHV」に限られる印象だが、BMWの「225xeアクティブツアラー」は見逃すべきではない。後輪モーターで、電気で駆動する間はBMWらしい力強さと驚くほどの速さも味わえるし、実用効率に優れたパッケージングもいい。
逆に平日はほとんど乗らず、週末などにレジャーや帰省など、大人数を乗せて長距離を走ることが多い、あるいは毎日の通勤距離が長くてとにかく走行距離がかさむというユーザーなら、ディーゼルが有利だろう。
燃費コストではBEVの電費コストの方が優っても、車両価格の小さいディーゼルの方が、元は取りやすい。何より週末の外出時などに、PHEVもそうだが電欠の心配をせずに済む。BEVでは、急速充電ステーションでの充電補給を前提とすること自体が、例えば小さな子どものいる家庭にはリスク要素になり得る。
現行のディーゼルユニットで最もバランスの高さを感じさせるのは、プジョー・シトロエンの最新ディーゼルで、HDi130と呼ばれる1.5リッターターボだ。並み外れて軽快さとトルクキーなディーゼルの魅力という点で、並ぶものがない。
パワフルな走りが好みなら、マツダのスカイアクティブ-D搭載モデルや、ボルボのD4を積んだXC60やV60やV90CC、またはD5を積むXC90がある。ボルボではディーラーオプションの「ポールスターパッケージ」装着で、トルクがノーマル比約プラス15%のトップアップも可能だ。
残るはガソリンエンジン車だが、アクセルを踏み込んだ時のなめらかさや高速道路での静粛性はBEVに譲るし、燃費ではPHEVにはもちろん、通常のハイブリッドにも敵わない。最近ではアイドリングストップ機構を装備するのが当たり前で、ゼロ発進からごく初速域だけでも48Vマイクロモーターで駆動アシストを行うマイルドハイブリッドのガソリン車も増えてきた。
これは内燃機関がもっとも苦手とする、静止から運動エネルギーを作り出す仕事を補助するという意味で、とくに大型のサルーンやエステート、SUVなどの温室効果ガス排出削減に効果あるメカニズムではある。だが、ガソリンエンジンを積極的に選ぶ理由は、パワーユニットとして相対的に軽いがゆえの運動特性のよさ、回転フィールのドラマチックさといった“味わい”、そして最も古い動力源であり続けているがゆえの、整備メンテナンスの容易さや修理パーツの安価さといった信頼性に尽きる。
つまり、他のパワートレインと比べてガソリンは最もオールマイティで無難であるのは事実だし、その意味では、自分の乗り方が漠然としていて、まだ分からないといった人にも勧められる。
ちなみに走行距離が日本よりも圧倒的に長い、ヘビーユースが基本の欧州市場でも、新車の耐用年数は今や10年を超えている。クルマによってはもっと長い期間、中古車として乗られ続けるし、国内にとどまらず途上国へ輸出されて中古車として第2、第3の“ライフ”をまっとうすることも考えられる。
その点を鑑みれば、メカニズム的に最新で複雑であることより、シンプルなクルマの方が、サステイナブルであることは十分に考えうる。冒頭でも説明した通り、「サステイナビリティの定義」として国際的に了解されていることは、経済・社会・環境の3つが、どれか一つのスタンドアローンではなく不可分であるという前提で、地球規模の発展に向かい合うことなのだから。