SDG’Sの時代のクルマ選び──サステイナブルにクルマに乗る、とは今後どういうことなのか?

メルセデスのPHV(プラグインハイブリッド)モデル「GLC 350 e 4マチッククーペ」

CAR / FEATURES
2020年6月22日

SDG’Sの時代のクルマ選び──サステイナブルにクルマに乗る、とは今後どういうことなのか?

サステイナブルにクルマに乗る、とは今後どういうことなのか?

地球温暖化に対する早急な対策が世界的な課題となり、温室効果ガス排出量に対する欧米を中心とした規制が厳しさを増す昨今。EVやPHV、ハイブリッド車など、環境への負荷の少ないクルマへシフトする動きがますます顕著化している。そんな時代において、クルマ好きとしてどんなクルマに乗るべきなのだろうか。自動車ライターの南陽一浩氏が解説する。

Text by Kazuhiro Nanyo

温室効果ガス排出量規制の状況

新型コロナ後の必然的なコンセンサスとして、移動手段としてのクルマ、しかもカーシェアではなく個人所有の自家用車が見直されている。ニューヨークの感染拡大の要因として地下鉄のような公共交通機関の利用が関係したことが報告されたように、あるいは韓国をはじめとする国々でドライブスルー式のPCR検査が一定の有効性を発揮したように、都市部でも他人との密なコンタクトを避けられるプライベート空間、かつ移動手段であるクルマの有用性に、再スポットが当たっているということだ。
「サステイナビリティ」や「サステイナブル」というキーワードが、今日の21世紀的な意味ではっきり定義されたのは、2005年に191ヵ国が参加した国連本部での世界サミットでのこと。経済・社会・環境の3項目をどれか一つでなく不可分のものと捉え、地球規模の温暖化を防ぎつつ発展する、という方向性は、1997年に採択された京都議定書、2016年のパリ協定を通じて196ヵ国に共有されてはいる。ところが、目標設定と取り組みについては各国とも足並は揃っていないし、アメリカのように政府は離脱を表明しても、州や企業はその枠組を牽引し続けようとしている、“まだら”の対応になっているのは周知の通りだ。
環境への影響が大きい耐久消費財と考えられている自動車の市場規模は、日米欧といった先進国地域でここ数年、規模的にほぼ横ばいのゼロ成長率といえる。EU各国や日本では新車登録や中古車に対し、温室効果ガス排出量に応じて奨励金、または重課金をつける措置が、多かれ少なかれ実施されている。一方、米カリフォルニア州では、公共性の高いバスやHOV(ハイ・オキュパンシー・ヴィークル=2人以上が乗車している車両)に専用で割り当てられていたカープール・レーンをピュアEVにも開くという、使用上のインセンティブ措置もある。要は「エコカー」へと、ユーザーの買い替えを誘導する方策だ。
もう一つは自動車メーカーに対する措置だ。70年代から行われてきたCAFE(コーポレート・アヴェレージ・フューエル・エフィシェンシー=企業別平均燃費)規制の改定に加え、販売台数の一定量をエコカーにすべきという割当規制が絡められている。
日本市場におけるEVの草分けである日産「リーフ」
カリフォルニア州が始めた低排出車の普及を促すプログラムは、90年代当初こそ単純にメーカーにZEV(ゼロエミッションビークル)化すべき販売台数を数%ずつ課しては毎年のように増やしていく方向だったが、今ではZEVを1台販売したら、それを数台分相当としてカウントするクレジット・スコア制になった。というのも、2000年代当初はピュアEVの普及が遅々として進まず、法規制として実効性に問題が生じたのと、その後、完全なZEVでこそないが排出量の少ないハイブリッドカーの普及があったからだ。
つまり今や脱炭素化車両とは、少なくとも行政とメーカーにとっては台数ではなく、クレジットスコアで数えるもので、各メーカーの前年の全販売台数とZEVの割合に応じてマイナス1クレジットあたり5000ドルの罰金を支払うか、ニュートラル(±0クレジット)以上の他社からクレジットを購入しなければならない。
トヨタが1997年に導入した世界初のハイブリッド車、初代「プリウス」
今では同じPHEV(プラグインハイブリッドカー)でも電気で走れるレンジが長いほど高クレジットがカウントされるし、BEV(バッテリー エレクトリック ビークル)でも走行可能な距離が長く、充電時間が短ければ、つまり効率が高いほど、クレジットは高くなる。
ある程度の販売規模をもつ自動車メーカーにとって、2018年に販売されたクルマのクレジット総量の4.5%と定められていた必要クレジットは、2025年には22%にまで上昇する。カリフォルニアの規制ルールで、内燃機関の新車の温室効果ガス排出量はどのぐらいが現在の基準かという話だが、その計算にはスモッグガスなどさまざまな要素や係数が絡み、マイルあるいはガロンといったインペリアル単位(イギリスの度量衡法によって定められた単位)なので複雑であり、かつどの程度の走行レンジや充電効率を備えたPHEVやBEVを売ったかによってクレジットスコア上の相殺量が決まるため、メーカーによってニュートラルとなる線は相対的で、引きづらい。
それでも大まかに算出したところ、内燃機関のクルマで現状、温室効果ガスの目標排出値は約128g/km。2025年にはその約7割の89g/kmにまで減らされる方向だ。そしてBEVの1台はおよそ3~4クレジット相当、水素などのFCV(燃料電池車)なら9クレジット相当、1クレジットは3,000~4,000ドルで取引されることが見込まれている。
トヨタが2014年に発表したFCV、「ミライ」
いわば、テスラが大きなバッテリーを積んで航続距離を伸ばす傾向にあるのも、トヨタやホンダがFCVを推進するのも、こうした背景がある。ただし近年はWell to Wheel(ウェル・トゥ・ウィール、油田から車輪まで)、もしくはライフサイクルアセスメントといった、プロダクト寿命だけでなくエネルギー採掘から消費までのタイムスパンで環境負荷を捉える指標が出てきており、使用するエネルギーの質、つまり生成過程においても温室効果ガス排出が少ないことが求められる。
ホンダのFCV「クラリティ フューエル セル」。これまで企業や自治体へのリースのみだったが、個人向けリースもスタートした

今後のEV市場の伸びについて

アメリカ国内では、コロラド、コネチカット、マサチューセッツ、メリーランド、メイン、ニュージャージー、ニューヨーク、オレゴン、ロードアイランド、ヴァーモント、ワシントンの各州が、カリフォルニア基準の温室効果ガス規制を採択することを決めている。そしてカナダはケベック州に続いて、カナダ政府が、カリフォルニア州と温室効果ガス規制に関して同等の施策を準備するという覚書を交わしている。規制ではなく目標として、カリフォルニア州は2025年に州内のZEVの販売台数を全体の15%にすると見積もっている。
クルマで走ること自体を電化して脱炭素化を推進する原則は欧州も同じで、異なるカタチのCAFE規制が始まっている。一般に「CAFE2020 Automobile」と呼ばれ、2020年の販売量とZEV比率に応じて、来年2021年から罰金とクレジット取引が発生する。
アウディが2018年に発表した同社発のピュアEV「e-tron」
欧州でのニュートラル分岐点はCO2排出量が95g/㎞というもので、登録された車両の1g超えごとに95ユーロの罰金が発生する。要は販売全車両の中で、CO排出量が95g/㎞以上のモデルを売るほどに、それ未満のモデルを販売して相殺することがメーカーには求められる。
ただし2020年販売分に限って、販売車両の平均排出値の95%のみをカウントするという特例緩和が認められており、95という数値の重複が少しややこしい。加えて50g/km以下の車両、つまり高効率のPHEVやBEVには「スーパークレジット」という係数が適用され、2020年販売分では2台、21年分は1.67台、22年は1.33台と割増カウントして平均値を下げることができる。
新規制の影響はてきめんで、欧州市場では2019年内にSUVの新車登録が滑り込みで加速し、逆に2020年が明けてコロナの影響が出る以前の1月だけでも、BEV、PHEVともに、それまでの4倍までシェアを伸ばした。特にフランスでは、BEVとPHEVの合計で従来2.7%だった販売シェアが、11%にまで上がったほどだ。欧州でのBEV+PHEV合計シェアはこれまで7%ほどに留まり、2020年以降はどう増えていくかだけでなく、そのペースこそが要注目の的なのだ。
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