新世紀ハイエンド スーパースポーツの世界|Super Sports 2013
Porsche 918 Spyder|ポルシェ 918 スパイダー
McLaren P1|マクラーレン P1
Ferrari LaFerrari|フェラーリ ラ フェラーリ
ポルシェ、マクラーレン、そしてフェラーリからHVモデルが誕生
新世紀ハイエンド スーパースポーツの世界
2010年のジュネーブショーでポルシェが発表したコンセプトカー「918 スパイダー」を皮切りに、一気に加速した新世代ハイエンド スーパースポーツの開発。マクラーレンは2012年のパリサロンで「P1」を、そしてフェラーリは2013年のジュネーブショー「ラ フェラーリ」をデビューさせた。運動性能と環境性能の両立という新世代スーパースポーツのあらたな価値感に、ポルシェ、マクラーレン、フェラーリはどのようにアプローチしたのか。現時点における技術の集大成ともいうべきスペシャルモデル3台について、山崎元裕が迫る。
Text by YAMAZAKI Motohiro
歴史的サプライズとなった918 スパイダーの誕生
未来において、我々がスーパースポーツの変遷を振り返る時、2013年という年は、必ずや重要な歴史的節目として語られることになるだろう。そうそれは、いまからちょうど10年前、2003年と同じように──
この10年間に、ハイエンドのスーパースポーツには、あらたな価値観というものが生まれた。その価値観を、仮に前世紀型、新世紀型と表現するのならば、前者の象徴的な存在は、「ブガッティ・ヴェイロン 16.4」であり、それに対比される後者は、2013年に続々と誕生する最新のモデルである。
スーパースポーツの世界における新世紀型価値観を、他社に先駆けて具現化してみせたのはポルシェだった。2010年のジュネーブショーでコンセプトカーとして披露され、その後2013年9月18日から918台のデリバリーがおこなわれることが決定した「918 スパイダー」がそれである。
事前に一切の情報がリークすることなく、まさに歴史的なサプライズとなった918 スパイダーの誕生。それは「ポルシェ インテリジェンス パフォーマンス」というタイトルのもと、ポルシェが世界最高の運動性能と環境性能を両立させることを宣言したモデルだった。
コンセプトカー発表の時点では、オフィシャルにはその生産計画は未定とされていたが、それが2003年に誕生した「カレラGT」につづく、“特別なポルシェ”として限定生産されることにたいする期待は、市場からも、また社内からも相当に大きなものだったはずだ。
そしてほどなく、ポルシェは918 スパイダーの限定生産計画を発表。そのデザインやエンジニアリング、あるいはプロダクションのための体制作りは、一気に加速したのである。
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スーパースポーツにおけるPHVの役割
918 スパイダーのエンジニアリングで最大の話題は、もちろんPHV=プラグインハイブリッドのシステムを採用したことにあった。これも現在のハイエンド スーパースポーツの象徴ともいえる、CFRP製モノコックタブの後方に、サブフレームを介して搭載されるエンジンは、コンペティションモデルの「RSスパイダー」用のそれを始祖とする、4593ccのV型8気筒DOHC。
最高出力は、このエンジン単体でも570ps以上と発表されているが、チタン製のコネクティングロッドや、ドライサンプの潤滑システムに使用される4個のバキュームポンプをプラスチック製とするなど、軽量化への取り組みが相当に徹底していることもまた印象的だ。
コンセプトカーとプロダクションモデルとの大きなちがいは、このエンジンからの排気システムのデザインで、プロダクションモデルでは上方排気が採用され、ロードカーとしてのレギュレーションと、エアロダイナミクスの最適化に対応している。トランスミッションは7段PDK。
さらにポルシェは前後アクスルに、各々エレクトリックモーターを組み合わせ、それによってパラレル方式のハイブリッドシステムを完成させた。ちなみにこのエレクトリックモーターは、トータルで231ps以上の最高出力を発揮。ポルシェによれば、最大負荷時にはトータルで770ps以上の最高出力を発揮させることが可能だという。
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絶句するほどの運動性能と環境性能の両立
918 スパイダーには、「Eパワー」「ハイブリッド」「スポーツハイブリッド」「レースハイブリッド」、そして「ホットラップ」という5タイプの走行モードが設定されているが、ドライバーがEパワーを選択した場合には、ゼロエミッションのEV走行が可能になる。
スタートから25km/hまでは、フロントのエレクトリックモーターのみで、ここから150km/h以下の速度では、リアのエレクトリックモーターからの駆動力もくわわり、最大で25kmを走行できるというのだから、実際の走行シーンにおいても、その実用性は相当に高いと評価できそうだ。
参考までに、ポルシェが918 スパイダーの開発時に掲げてきた燃費性能、そしてCO2エミッションの目標値は、各々3リッター/100km、70g/km。昨年ポルシェは、ほぼプロダクション仕様とおなじテストカーを、ニュルブルクリンクのノルドシュライフェへと持ち込み、かのワルター・ロールのドライブで、ゼロスタートから7分14秒というラップタイムを記録。
コンセプトカーの時点で公約されていたタイムは7分22秒だったということを考えれば、この数字には、325km/h以上という最高速以上の価値がある。いや、この運動性能と環境性能の両立を、現実のものとして見せつけられたライバルは、まさに絶句するほかはなかったというのが正直なところではないか。
それでは、このポルシェ918スパイダーを追う立場として、やはり前世紀型価値観から、新世紀型価値観への転換を図ったライバルの作はどうか。
今年のジュネーブショーでは、フェラーリとマクラーレンから、あたかも申し合わせたかのように、限定生産を前提としたニューモデルが誕生した。まずは先駆者であるポルシェに、比較的近いエンジニアリング・コンセプトを提案した、マクラーレンのモデルから、詳細へと迫っていこう。
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新世紀ハイエンド スーパースポーツの世界(4)
ファンクションとミニマリズム
昨年のパリサロンで、まずデザインコンセプトとして発表された「P1」。スタイリングはその時点で、すでに「95パーセントほどは完成している」とコメントされており、実際にジュネーブに登場した、生産化に向けての最終的なプロトタイプにおいても、そこに大きな変化を認めることはできなかった。
基本構造体はいうまでもなく、CFRP製のモノコックだが、ルーフまでが一体成型されたそれを、マクラーレンは「MP4-12C」の“モノセル”にたいして、“モノケージ”と呼称する。
改めて見るP1のエクステリアデザインは、まさにエアロダイナミクスの極致といった印象だった。フェラーリからマクラーレンへと転身して久しい、チーフスタイリストのフランク・ステフェンソンは、そのデザインを「ファンクションとミニマリズム(機能性と最小化)」と表現するが、なるほどP1のボディには、機能を伴わない造形は存在しない。
アクティブ式のリアウイングは、さらに可動式のフラップがそなえられているが、これはF1マシンのDRS=ドラッグ・リダクション・システムそのものだ。マクラーレンはP1の最高速を、リミッター作動による350km/hと発表しているが、それはもちろん、ステアリングホイール上にレイアウトされるDRSスイッチをドライバーが操作し、それによって空気抵抗が23パーセント減少することによって得られる数字ということになる。いっぽうでこのウイングは、最大600kgものダウンフォースを生み出すというのだから、その機能性は特筆できる。
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新世紀ハイエンド スーパースポーツの世界(5)
4WDの918 スパイダーとRWDのP1
ミッドのパワーシステムは、MP4-12Cシリーズに使用される、3.8リッター仕様のV型8気筒DOHC+ツインターボをベースに、さらなるチューニングがほどこされたもの。最高出力は737psとされ、マクラーレン・エレクトロニクスによる、179ps仕様のエレクトリックモーターがこれをサポートする。
結果として最大負荷時に発揮される最高出力は916ps。このシステムをマクラーレンは、「IPAS=アイパス」と呼び、その作動は前で紹介したDRS用とは逆の、ステアリング右側のスイッチでそれをおこなうことが可能であるほか、エンジン制御に連動して、自動的にそれが実行されることもある。
コンパクトなバッテリーパックは、車体中央付近の低い位置に搭載され、その充電は外部電源からもおこなえる。すなわちP1もまた、PHVとして生を受けた、そしてエレクトリックモーターのみでの走行をも可能とするスーパースポーツということになる。注目のCO2排出量は200g/km以下と発表された。
トランスミッションは7段DCT。パワートレーンでの、ポルシェ918 スパイダーとの大きなちがいは、駆動方式がオーソドックスなRWDとなること。
マクラーレンのF1マシンにおけるテクニカルパートナーである、日本の曙ブレーキ製のブレーキシステムが採用されたのも、我々日本人にとっては大いなる誇りといえるのではないだろうか。
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新世紀ハイエンド スーパースポーツの世界(6)
デザインはフェラーリ社内でおこなわれた
そして新世紀型スーパースポーツの中でも、世界から特に熱い視線を注がれる存在といえるのが、あの「エンツォ」以来のスペシャルモデル=スペチアーレとなる、フェラーリの新作「ラ フェラーリ」だ。
生産台数は499台と、エンツォが399台と設定されていたことを考えれば、かなり大きな数字になるが、これはエンツォからの10年間に急速に拡大した、フェラーリの市場規模を象徴するものともいえる。当然のことながら、そのカスタマーリストに名を連ねるための戦いは、熾烈なものになる。
ラ フェラーリのボディデザインは、これまでのピニンファリーナとの伝統的なコラボによるものではなく、完全にフェラーリ社内でおこなわれた。それはまさにスーパースポーツとしての理想的なエアロダイナミクスを現実のものとした姿、とでも報告するべきだろうか。
ちなみにフェラーリは、このラ フェラーリの空力学的係数=ロード/ドラッグを3.0と発表しているが、これは前後して誕生した、「F12ベルリネッタ」のそれが1.2とされていたことを考えれば、驚異的な高性能ぶりといえる。
そしてもちろんフェラーリは、このボディにさまざまなアクティブ機構を導入してきた。アンダーボディのフロント部には可変式のフラップがそなわるほか、デフューザーにも同様に可変システムを採用。
マクラーレンP1のそれと比較すれば、コンパクトな印象を受けるリアウイングも、同様にDRSの機能を持つ。これらの機構の目的が、やはり車速とダウンフォース量との間に存在する、一義的な比例関係を解消するためにあるのは当然だ。
CFRP製モノコックの開発と製作には、F1チームのスクーデリア・フェラーリも密接に関係している。4タイプのCFRP素材を用いて製作されるモノコックは、重量ではエンツォ比で20パーセントの軽減を実現しているいっぽう、捻じり剛性では27パーセントアップ、曲げ剛性でも22パーセントアップを達成。ラ フェラーリの走りにおける、まさに核となる。
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新世紀ハイエンド スーパースポーツの世界(7)
V12エンジンのサウンドが消えるスペチアーレなど必要ない
ミッドのパワーシステムは、昨年の北京ショーでテクニカルコンセプトとして発表されていた「HY-KERS 2012」がやはり基本となっていた。すなわちF12ベルリネッタや「FF」とも共通の、6,262cc版V型12気筒DOHCエンジンをベースに、その最高出力を800psにまで強化。これに7段DCTを組み合わせ、このトランスミッションの後端に、163psの最高出力を発揮するエレクトリックモーターを配置するシステムだ。
エンジンの前方には、さらにもうひとつのコンパクトなエレクトリックモーターが搭載されているが、これはバッテリーの充電や、補器類の駆動に用いられるもので、いわゆるエクストラパワーを生み出すためには機能しない。さらにKERSシステムなどからのチャージを受けるバッテリーは、もちろんポルシェやマクラーレンと同様にリチウムイオン式。重量は60kgとされており、セルはやはりスクーデリア・フェラーリが、その製造を担当している。
搭載位置は、これもまたモノコック後方のフロア部ということになる。結果的にラ フェラーリでは、その重心高はエンツォからさらに35mm低下し、前後重量配分も41:59と、制動時の荷重移動を考えれば理想的な数値を実現することができた。
トータルで963psというパワーが生み出されるラ フェラーリは、しかしながらEV走行のモードは持たない。これはシステムを軽量コンパクトに設計するため、そしてまたV12エンジンのサウンドが消えるスペチアーレなど、フェラーリのカスタマーは必要としないという判断によるものだという。フェラーリは早くから、ロードモデルのハイブリッド化にあたっては、1kgの重量増を1ps以上で相殺するというコンセプトを打ち出していたが、ラ フェラーリの場合も当然のことながら、この絶対的条件はクリアされていることになる。
注目の最高速は350km/h以上。0-100km/h加速では3秒以下という驚異的な運動性能を誇るラ フェラーリは、やはり環境性能においても魅力的なアピールをおこなっている。V12エンジンは、それ単体でも330g/kmのCO2排出量を達成。トータルではその数字は220g/kmにまで低下させることに成功したという。
ラ フェラーリがフェラーリ自身にとっても、これまでの技術的な集大成であり、また最高のスペックを持つモデルであることは、英語にするのならば「ザ・フェラーリ」というネーミングにも、それが見事なまでに表現されている。
ポルシェ918 スパイダー、マクラーレンP1、そしてラ フェラーリ。ハイエンド スーパースポーツの世界は、最初にも触れたように、この斬新な最新作の誕生によって、真の意味での新世紀を迎えたという印象だ。2003年に、前世紀型のスーパースポーツが、まさに最後の雄叫びをあげる中で、その未来にたいして抱いた不安。それはもはや完全に払拭され、そしてこのような確信へと変わった。スーパースポーツはこれからも、さらに正常進化をつづけ、そして市場に存在しつづけていくにちがいない。
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数字で見る新世紀スーパースポーツ3台
項目 | Porsche 918 Spider ポルシェ 918 スパイダー |
Mclaren P マクラーレン P1 |
Ferrari LaFerrari フェラーリ ラ フェラーリ |
---|---|---|---|
全長 | 4,643 mm | 4,588 mm | 4,702 mm |
全幅 | 1,940 mm | 1,946 mm | 1,992 mm |
全高 | 1,167 mm | 1,188 mm | 1,116 mm |
ホイールベース | 2,730 mm | 2,670 mm | 2,650 mm |
トレッド 前/後 | - / - mm | 1,658 / 1,604 mm | - / - mm |
重量 | 1,700 kg未満 | 1,395 kg | - kg |
エンジン | 4.6リッター V型8気筒 | 3,799cc V型8気筒 ツインターボ | 6,262cc V型12気筒 |
エンジン最高出力 | 570 ps以上 | 737 ps/ 7,500 rpm | 800 ps/ 9,000 rpm |
エンジン最大トルク | 750 Nm | 720 Nm / 4,000 rpm | 700 Nm / 6,750 rpm |
モーター最高出力 | フロント:80kW / リア:90kW | 179 ps | 163 ps(160kW) |
モーター最大トルク | - Nm | 260 Nm | - Nm |
システム最高出力 | - ps | 916 ps | 963 ps |
システム最大トルク | - Nm | 900 Nm | 900 Nm以上 |
トランスミッション | 7段デュアルクラッチ(PDK) | 7段デュアルクラッチ(SSG) | 7段デュアルクラッチ(7-Speed DCT) |
サスペンション 前 | ダブルウィッシュボーン式(ポルシェ・アクティブサスペンション・マネージメントシステム(PASM)付き) | 油圧プロアクティブサスペンション(RaceActive Chassis Control (RCC)) | ダブルウィッシュボーン |
サスペンション 後 | マルチリンク式(後輪独立操舵用の電子機械式アダプティブステアリングシステム、ポルシェ・アクティブサスペンション・マネージメントシステム(PASM)付き) | 油圧プロアクティブサスペンション(RaceActive Chassis Control (RCC)) | マルチリンク |
ブレーキ 前 | セラミックブレーキ製ディスク(PCCB) | カーボンセラミック製ディスク | カーボンセラミック製ディスク、398 x 223 x 36 mm |
ブレーキ 後 | セラミックブレーキ製ディスク(PCCB) | カーボンセラミック製ディスク | カーボンセラミック製ディスク、388 x 253 x 34 mm |
タイヤ 前 / 後 |
- | 245/35ZR19 315/30ZR20 |
265/30R19 345/30R20 |
0-100 km/h 加速 | 3.0 秒以下 | 3.0 秒以下 | 3.0 秒以下 |
最高速度 | 325 km/h以上 | 350 km/h | 350 km/h |
燃費(欧州サイクル値) | 3.0 ℓ / 100 km | - ℓ / 100 km | - ℓ / 100 km |
CO2排出量 | 70 g/km | 200 g/km | 330 g/km |
価格 | 68万4,800ユーロ | 86万6,000ポンド 9,661万5,000 円 |
- |
生産台数 | 918台 | 375台 | 499台 |