フランクフルトショーを飾ったコンセプトカーたち|IAA 2015
66th Frankfurt International Motor Show|第66回 フランクフルトモーターショー(IAA) 2015
フランクフルトショーを飾った注目のコンセプトカー
9月15日からドイツのフランクフルトで開催されている「第66回 フランクフルトモーターショー(IAA) 2015」。いつの時代もモーターショーの華は“コンセプトカー”である。会場で注目のコンセプトカーをピックアップしながら、それらのなかに見える大きな自動車業界のトレンドを、小川フミオ氏が解説する。
Text by OGAWA Fumio
アウディe-tronクワトロ コンセプト
自動車ショーの楽しみはプロトタイプにあるといっても過言ではないだろう。2015年のフランクフルトショーでも、数かずのモデルが、来場者を楽しませてくれた。その内容はメーカーによって違うが、もし中からひとつのトレンドを引っ張り出すなら、目についたのはエコロジーをキーワードにしたモデルだ。
「アウディは電気化で妥協しない」。アウディが発表したプロトタイプ、「e-tronクワトロコンセプト」という電気自動車のスポーツSUVの傍らに立った、同社で技術開発部門を統括するドクター・ウルリッヒ・ハッケンベルグは胸を張った。3つの電気モーターを搭載し、1つが前輪を駆動、残り2つが後輪を駆動する。
「パワーの合計は320kWです。短時間であればパワーブーストにより370kWの出力と800Nmを超えるトルクが提供され、スポーツカーに匹敵する動力性能が発揮されます」。アウディではそう説明する。
小さな電気モーターも多く採用されている。速度が80km/hを超えると、ボンネット、ボディサイド、およびリヤエンドに設置された電動エアロパーツが作動するのだ。加えて。車体側面に格納式カメラがサイドミラーの代わりに設置されていて、必要がない時は車体に格納されることで空力抵抗を低減するのだ。
航続距離は500km以上が謳われ、北米ではけっこう人気が高いテスラなどを視野に入れていることが感じられる。「発売は2017年内に少なくともドイツではと計画しています」と、ドクター・ハッケンベルグ。アウディは電気自動車の可能性を拡張していくことに本気であることを強調した。
空力を追求したプロトタイプにおいて、来場者をあっと言わせたのが、メルセデス・ベンツだった。
66th Frankfurt International Motor Show|第66回 フランクフルトモーターショー(IAA) 2015
フランクフルトショーを飾った注目のコンセプトカー(2)
メルセデス・ベンツ コンセプトIAA
「私たちのショーカーは、メルセデス・ベンツ最初のトランスフォーマーです」。ダイムラーAGの取締役会長にしてメルセデス・ベンツ乗用車を統括するドクター・ディーター・ツェッチェはプレスを前にして壇上に上がると、にこやかな笑みでそう語った。
ドクター・ツェッチェの脇に登場したのは、コンセプトIAA。IAAとはドイツ語でフランクフルト自動車ショーを意味する頭文字だけれど、この場合「インテリジェント・エアロダイナミック・オートモビル」の略だという。滑らかなスキンに覆われた低い車体が特徴的で、後ろに回ると、スプリット型のウィンドウがレトロな雰囲気を漂わせている。
コンセプトIAAのスタイリングは540Kの空力実験車へのオマージュでもあると、ドクター・ツェッチェは述べているのがおもしろい。1930年代にハンガリー出身のパウル・ヤーライが唱えた流線形理論を採り入れた実験車である。現代版では、コンピューターを大胆に採り入れ、ボディを変型させることで、空力抵抗値を0.25から0.19にまで変化させることに成功したという。走行中にリアが最大390mm伸びるうえ、前後バンパーも伸びて空気の流れを制御。さらにアクティブリムと名づけられたロードホイールのサーフェスも閉じるという。
動力は明確にされていないがプラグインハイブリッドが考えられていて、最高速は時速250kmに達するそうだ。いっぽう、CO2排出量は走行キロあたり28グラムと、かなり低い。「タッチによる操作系などは、近未来のメルセデスのビジネスセダンへとつながるもの」。ドクター・ツェッチェは、一見非現実的に思えるプロトタイプでも、じつは量産車と密接な関係にあることを強調するのだった。
マジメな?コンセプトカーも、とても重要だが、いっぽうでホンダが理屈抜きにおもしろいものを見せてくれた。
66th Frankfurt International Motor Show|第66回 フランクフルトモーターショー(IAA) 2015
フランクフルトショーを飾った注目のコンセプトカー(3)
ホンダ NSXと プロジェクト 2&4 パワードバイ RC213V
本田技研に関する日本国内のニュースといえば、軽自動車の増税で市場が縮小した余波を受けて業績がいまひとつ奮わないとかなのだけれど、フランクフルトショーでは元気な姿を見せてくれた。ひとつは「NSX」。発売時期が予定より遅れぎみとはいえ、ほとんど完成車の風格がある。ハイブリッドスポーツがどんな走りを見せてくれるのか、ショー会場に飾られたモデルから期待がふくらむ。
ホンダが、もうひとつ、おもしろいコンセプトカーを出展した。「世界にあるホンダの二輪車・四輪車のデザインスタジオから80名以上のデザイナーが参加して行われた社内コンペティション「グローバルデザインプロジェクト」で選ばれたコンセプトモデル」という触れ込みの、「ホンダプロジェクト2&4パワードバイRC213V」だ。
カートのようなたたずまいのシングルシーターで、リアに搭載されたむき出しのエンジンと手曲げの排気管が迫力だ。フローティングシートもむき出しで、まるで四輪のバイク。実際にエンジンは同社のレーサーのものだ。FIMロードレース世界選手権(モトGP)のモトGPクラスに参戦している「RC213V」の公道仕様車「RC213V-S」に搭載されている999ccV型4気筒である。
「1万3,000回転で215馬力の最高出力を発揮する二輪車ならではの高回転エンジン」(本田技研)に6段ツインクラッチ変速機を組み合わせている。車重は発表されていないけれど、60年代のホンダF1マシンを思わせるペイントの小さなカウルを持つスタイリングがかもし出すすごみは伊達ではないはずだ。スポーツカーというとスーパースポーツばかりの(中にはマツダMX-5=ロードスターもあったが)ショー会場で、クルマ好きの琴線に触れるコンセプトだった。
ショーはこういうモデルがあるからこそ、なんだか、おもしろいのである。