23年ぶりに導入されたGクラスのディーゼルをためす|Mercedes-Benz
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2015年4月2日

23年ぶりに導入されたGクラスのディーゼルをためす|Mercedes-Benz

Mercedes-Benz G 350 BlueTEC

メルセデス・ベンツ G 350 ブルーテック



もうひとつの、キング・オブ・メルセデス

Gクラスのディーゼル「G 350 BlueTEC」に試乗

34年も見た目が変わらない「Gクラス」。昨年導入されたマイナーチェンジでも、機能や内装は最新のクルマにアップデートしたものの、外観はキープコンセプト。若干の変遷は経ていながら、だれが見ても“ゲレンデヴァーゲン”とも呼ばれるGクラスそのものだ。そのGクラスに、国内では23年ぶりに追加導入されたのが、ディーゼルエンジン+右ハンドル仕様。しかも1,000万円を切るエントリーモデルとしての登場だ。そんなディーゼルのゲレンデ、こと「G 350 BlueTEC」に櫻井健一氏が試乗した。

Text by SAKURAI Kenichi
Photographs by MOCHIZUKI Hirohiko

23年ぶりの右ハンドルディーゼル

誕生したのは今から34年も前になる。そもそもは、NATO軍をはじめとする欧州各国での使用を念頭に置いた軍用車両として企画されたもので、ガレ場や砂漠、雪道といった過酷な環境をものともしない、さまざまな任務に耐えうるスペックがあたえられた。その軍用車両を民生品として転用したものが、「ゲレンデヴァーゲン」であり、「G クラス」と名前を変えた現在のモデルである。


こういった成り立ちはジープやレンジローバーも同様だ。任務遂行のために求められる性能は、当然われわれに馴染みのあるSUVの比ではない。軍用車両である以上、それは「人の生死にかかわる」ものだ。要求されるのは、決して大げさではない信頼性とタフさなのである。


制式採用のミリタリー バージョンとメルセデス・ベンツで販売される車両は、現在でもオーストリアのグラーツにあるマグナ・シュタイアーで生産されている。マグナ・シュタイアーは、もともと銃器メーカーのシュタイアー社が前身だ。おもにライフルを製造し、第一次世界大戦で業績を伸ばしたのちにクルマの生産をはじめるが、第二次世界大戦後にダイムラーの関連会社となり、現在はカナダのマグナ・グループの傘下にある。グラーツは主力生産拠点で、その歴史は、ざっと100年以上になる。

Mercedes-Benz G 350 BlueTEC|メルセデス・ベンツ G 350 ブルーテック 08

Mercedes-Benz G 350 BlueTEC|メルセデス・ベンツ G 350 ブルーテック 10

特筆すべきは、規模はさほど大きくないものの車両の量産をおこなう独立した企業であるということだ。通常独立した法人は、いち企業の車両生産をおこなうのが一般的だ。たとえば当初の関東自動車工業(現在は「トヨタ自動車東日本株式会社」というトヨタの関連会社になった)はトヨタ ブランドのクルマを、八千代工業はホンダのクルマだけを生産している。クルマの生産には、おおくのノウハウと社外秘がつきものだからだ。


しかし現在マグナ・シュタイアーで生産されているモデルを見ると、この「G クラス」をはじめ、アストンマーティン「ラピード」、ミニ「クロスオーバー」、プジョー「RCZ」など、メーカーの垣根を越えた、じつに多岐にわたっていることがわかる。白紙撤回されたが、ポルシェも「ボクスター」「ケイマン」をマグナ・シュタイアーで生産する予定だった。過去にはBMW「X3」やクライスラーの欧州販売モデル、サーブ「9-3 カブリオレ」、フォルクスワーゲンの「ゴルフ カントリー」や変わったところではフィアット「500」(初代)も手がけていた。


そう、大量生産というほどおおくはないが、決して少なくない数を量産する車両の生産を委託する先として、マグナ・シュタイアーは独立性を保つ世界でもユニークで、貴重な存在なのである。余談だが、アストンマーティン ラピードの生産施設は、マグナ・シュタイアーでありながらも、アストンマーティンのCIに則ったファシリティを完備。その外観は、ゲイドンのアストンマーティン本社に似ている。

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メルセデス・ベンツ G 350 ブルーテック



もうひとつの、キング・オブ・メルセデス

Gクラスのディーゼル「G 350 BlueTEC」に試乗 (2)

これほどクルマ好きのネタになるクルマは、そうそうない

そこで「G クラス」である。34年の歴史をもつG クラスは、全量がこのマグナ・シュタイアーで生産されてきた。その数なんと23万台以上。この9月にはG クラス用の施設を拡張し、生産契約は7年間延長された。ここでは、2019年までG クラスがつくられることになっている。


堅牢な軍用車両だったからこそ現代の厳しい安全基準をクリアすることができ、初代「ビートル」や初代「ミニ」が姿を消したいまでも変わらぬカタチでつくりつづけられている、といった話や、ボディもガラスもどこもかしこも真っ平らなのは、防弾処理を施すに適した形状だから──という、トリビアも枚挙にいとまがないのがG クラスである。いまや、これほどクルマ好きのネタになるクルマは、そうそうない。

日本仕様の詳細は、国内導入時のレポートに詳しいので割愛するが、このレポートの主役である「G 350 BlueTEC」は、じつに23年ぶりに日本市場に再導入された右ハンドルのディーゼルエンジン搭載車だ。日本市場では第2世代に移行したG クラス初の右ハンドルモデルであり、初のディーゼルエンジン搭載車でもある。


パワーユニットは、すでに「Eクラス」や「Mクラス」にも採用され定評を得ている、3.0リッターのV型6気筒BlueTECエンジンと同一。

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排出ガスに尿素水溶液「AdBlue(アドブルー)」を噴射し、化学反応(還元作用)で、有害な窒素酸化物(NOx)を大幅に削減する──というメカニズムはともかく、世界でもっとも厳しいとされる日本のディーゼル排出ガス規制に適合する、高い環境適合性と力強い動力性能がセールスポイントだ。

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Gクラスのディーゼル「G 350 BlueTEC」に試乗 (3)

今ドキのラグジュアリーカーといって過言ではない仕上がり

エクステリアはどこからどう見ても、そして34年前から大きく変わってはいない「G クラス」のそれだ。軍用にも制式採用されると聞けば聞くほど、無骨でタフなイメージが伝わってくる。しかし、インテリアは21世紀のメルセデス・ベンツそのもの。「G 350 BlueTEC」も、2012年夏から導入されている他グレードで見慣れた現代バージョンに進化している。

インスツルメントパネルとセンターコンソールが現行モデルで一新され、そこにはなんと、7インチワイドディスプレイとメルセデス自慢のCOMAND(コマンド)システムが組みこまれている。しかも、右ハンドルであっても何の違和感もなく、である。


いまや「G クラス」であってもBluetoothでスマホを簡単に接続でき、ハンズフリー電話はもちろん、スマホやポータブル音楽プレイヤーにダウンロードした音楽も気軽に楽しめてしまうのだ。しかもスマホ操作に慣れた人なら、接続は取説などを見ずとも、直感的におこなえる。さらに足下やドアトリムにアンビエントライトをそなえるとなると、これはもうかつての愚直なまでにオフローダーだったイメージを払拭しないわけにはいかない。じつに今ドキだ。

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確かに乗用車ライクに変貌を遂げた近年の「G クラス」には、オンロード パフォーマンスを向上させたAMGバージョンも存在した。タフなスタイリングとこのスペックに惹かれ、愛車にするセレブリティが全世界にあまたいると聞くが、G クラスのインテリアはさらに進化した。骨格を残しほぼ全面刷新され、もはやラグジュアリーカーといってもいい仕上がりだ。


一時期日本でも、「セレブ御用達クロカン」的な扱いをうけたものの、おおくの人は、あまりにハードな乗り心地と、素っ気ないインテリアに我慢できず、乗り換えたといわれるが、いまはちがう。ディーゼルにしてエントリーモデルの「G 350 BlueTEC」に、45万円分のオプション(スライディングルーフと前席・後席シートヒーター付き本革シートのセット)をリクエストするだけで、このデザインと装備が手にはいるのだから、まったく文句はないはずだ。

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もうひとつの、キング・オブ・メルセデス

Gクラスのディーゼル「G 350 BlueTEC」に試乗 (4)

好ましい重めのフィーリング

しかし、そうしたキャビンに乗り込むにはちょっとした慣れとコツがいる。ドアはいまどきのクルマにはない、少し時代遅れの丸いボタン型のスイッチを深く押すことで開くが、この時レバーをしっかり握っていないと、うまく開かない。第一関門をクリアしてドアを開け、乗り込むにもまたコツがいる。まさに運転席によじ登る感覚だ。

「ガチンッ」と金属音を残し、ドアを閉めた後、シートに腰掛けた独特のポジションは、ランドローバーがいう「コマンドポジション」である。背筋がシャンと伸び、自然に姿勢が良くなる。ウインドスクリーンがちかく、Aピラーが立っているため、すこぶる視界は良い。

現代のクルマのおおくが、視界確保に苦労するのは、ドライバー位置からフロントスクリーンまでの距離が遠いためだ。水中めがねの視界がなぜ良いのかを考えればこの意味を理解してもらえるだろう。左右のフェンダー先端にウィンカーレンズがそなわっているので、四隅が掴みやすいのもありがたい。

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電動シートと電動調整式のステアリングホイールが用意されているので、ドライビングポジションはすぐに決まる。ほかのメルセデス同様トランスミッションは7Gトロニック プラスだが、ATレバーはコラム式ではなく、フロア式だ。これは、G クラスだからこそのこだわりの設計なのだという。

ATレバーはフライバイワイヤ方式のため操作感は軽いが、そのほかのステアリングも、アクセルも、ブレーキも、いまとなってはすべては重い部類といえるフィーリングだ。ただ、このいかにも「操作している」とおもわせるフィーリングは、かなり好ましい。ATレバーの軽さと、ほかの操作系のマッチングに時代の流れをかんじる以外は、すんなり体で受け止められる。

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Gクラスのディーゼル「G 350 BlueTEC」に試乗 (5)

真価は道無き道で発揮できるはず

「G 350 BlueTEC」の車内にいる限り、V6ディーゼルターボを意識することは少ない。エンジンサウンドはかなり押さえ込まれており、いわゆるトラックに乗っているといったネガなフィーリングは皆無だ。

加速は、さすが最大トルク540Nm(55.1kgm)を発生するだけあって、かなり早い。そうした加速感は、驚くほどに現代的なものだ。変わらないスタイルとボディの重さからは想像できないような、スピードといってもいい。高速道路の追い越し車線で、いまどきのクルマたちに混じって、流れをリードすることさえ可能だろう。とにかくこの走りは、旧いスタイリングとは似ても似つかないものだ。


乗り心地も悪くはない。オフロード走行もカバーするパターンタイヤは、路面の継ぎ目やちょっとした段差こそ拾ってしまうものの、大きなビハンドとなるものではない。ステアリングは、走り出してもやや重いと言えるが、しっとりした操作性に好感を持った。この適度な重さと、過敏には反応しないが正確な操作を可能にするセッティングが、オフロードでは有効に機能するはずだ。いまやメルセデス・ベンツで唯一のリサーキュレーティング ボール方式を採用するステアリングフィールに、かつてのEクラス(W126)を思い起こしそうになる。

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オフロードを想定し、ためしに片輪段差に乗り上げてみても、ボディはミシリともいわない。その感覚は、昔の「まるで金庫の中にいるよう」と称されたメルセデスそのものだ。厳密にいえば、高張力鋼板を多用した現代のモノコックボディをもつクルマに、数値剛性はかなわないだろう。しかし、強固なラダーフレームをもつシャシーは、何度も言うが、ミルスペックである。ほとんどのオーナーはそんな場所に「G 350 BlueTEC」を持ち込まないだろうが、真価は道無き道で必ずや発揮できるはずだ。


今回も「オーナーが走らないような場所に乗り入れるのはやめよう」という方針──からかどうかはわからないが、オフロードのテストこそおこなっていないものの、撮影のために入った砂浜では、危なげない走りをみせた。2.5トンという車重が車重だけに、万が一のことも考えてはいたが、あふれ出るグリップ力がじつに頼もしいという印象に終始した。

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Gクラスのディーゼル「G 350 BlueTEC」に試乗 (6)

このクルマだと思わせる魅力はとどまることをしらない

2019年まで延長された、マグナ・シュタイアーでの生産契約を考えれば、「G クラス」はまだまだこのままの姿でつくりつづけられると考えていい。4年でフルモデルチェンジを繰り返す日本車や、6年スパンで世代交代を繰り返す欧州車がおおいなかで、G クラスの存在は本当に貴重だ。ミルスペックのクロスカントリーモデルでありながら、ラグジュアリーモデルでもあるという成り立ちも、唯一無二。まさにメルセデス・ベンツの中のオフローダー キングと呼ぶにふさわしい。

「G 350 BlueTEC」は、Gクラスのなかではエントリーモデルであり、1,000万円を切る価格設定もかなり戦略的だ。これは「Sクラス」のエントリーモデルがハイブリッドであることとおなじようなインパクトがある。どちらもエントリーモデルが、サスティナビリティを考えたモデルなのは、偶然ではないだろう。


もちろん、もういっぽうのキング、「S クラス」にはおよばないが、自動停止システムをそなえたディストロニック プラスと、斜め後方からのクルマを感知しドライバーに注意を促すブラインドスポット アシストという2つの安全運転支援システムを搭載。じゅうぶんに現代的な安全性を確保している。

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生粋の“四駆乗り”(それは決してSUV乗りではない)が、「あがりはゲレンデ(ヴァーゲン)かレンジ(ローバー)」と言っていた意味が、「G 350 BlueTEC」に乗ってみて、とても良く理解できた。たしかに、最後に乗るなら、このクルマだとおもわせる魅力はとどまることをしらない。しかも、これだけの個性と性能とヒストリーをもったクルマは、もう2度と現れないこともまちがいないのである。

Spec|スペック

Mercedes-Benz G 350 BlueTEC|メルセデス・ベンツ G 350 ブルーテック

ボディサイズ|全長 4,530 × 全幅 1,810 × 全高1,970 mm

ホイールベース|2,850 mm

トレッド 前/後|1,500 / 1,500 mm

重量|2,510 kg(ラグジュアリーパッケージ選択時は2,530 kg)

最低地上高|235 mm

エンジン|2,986 cc V型6気筒 ターボ ディーゼル

最高出力| 155 kW(211 ps)/ 3,400 rpm

最大トルク|540 Nm(55.1 kgm)/ 1,600-2,400 rpm

トランスミッション|7段オートマチック

駆動方式|4WD

タイヤ 前/後|265/60R18 / 265/60R18

燃費(NEDC)|11.2 ℓ/100km(およそ8.9km/ℓ、本国モデル参考値)

0-100km/h加速|9.1 秒(本国モデル参考値)

トランク容量|480-2,250 リットル

価格|989万円

メルセデス・コール

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