G65 AMGに試乗|Mercedes-Benz
Mercedes-Benz G65 AMG|メルセデス・ベンツ G65 AMG
メルセデス・ベンツ G65 AMGに試乗
30年以上もまえに設計されたクロスカントリー4WDに、最高出力612ps、最大トルク1,000Nmを発生する、6リッターV型12気筒ツインターボエンジンを搭載した 「G65 AMG」。もはや世の中に比較するクルマが存在しない、唯一無二の存在であるこのクルマの試乗を、おなじみ大谷達也氏に依頼した。
Text by OTANI TatsuyaPhotographs by MORIYAMA Toshikazu
特別というなかで、さらに特別な「G」
G65 AMG。
取り扱う車種があらかじめ明らかなインプレッション記事で、本文の冒頭に改めて車名を記すのはばかげたことだ。それでも、AMGのスタッフが万感の思いを込めて命名したにちがいないモデル名を、私はどうしてもこの一文の書きはじめに用いたかった。
なぜか。
今年8月より、日本仕様の「Gクラス」には「G550」、 「G63 AMG」、「G65 AMG」の3モデルが用意されることになった。メルセデス ブランドのみを掲げる「G550」にたいし、「AMG」の名がくわわる「G63 AMG」と「G65 AMG」が特別なモデルであることは誰にでもわかる。ただし、この2台の間には、数字で「ふたつ」の差しかない。現実のエンジン排気量は5.5リッターと6.0リッターと、モデル名から想像される差よりやや大きいが、それにしても、このクラスにとっては取るに足らないちがいでしかない。
けれども、2台の間には決定的なちがいがある。そのもっともわかりやすい例証は2台の価格だろう。
G63 AMG:1,780万円
G65 AMG:3,250万円
排気量はたった500ccしかちがわないのに、価格には倍近い開きがある。おそらく、クルマのかなり根本に近い部分からG65はつくりかえられているにちがいない。ところが、それでもなお、AMGは2台のあいだに数字でたった「ふたつ」の差しか与えなかった。
このさりげないネーミングにAMGの誇りと自信が込められているのは間違いない。インプレッションの冒頭にこのシンプルな車名を置いたのは、多くを語らない彼らのプライドに敬意を表したかったからである。
「G65 AMG」の成り立ちは比較的簡単に説明できる。1979年にデビューした頑強無比な「Gクラス」ボディに、AMGのメカニックが丹精込めて組みあげたV12 6.0リッターツインターボ・エンジンを搭載。こちらもAMGが特別につくりあげた7段AT「AMGスピードシフト」を組みあわせて4輪を駆動するのが「G65 AMG」の概要である。
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メルセデス・ベンツ G65 AMGに試乗(2)
33年前のエンジニアは夢にもおもわなかった
もともと軍用車として使われることを想定して開発された「Gクラス」は、最近はやりのラグジュアリーSUVとはそもそもの出自からしてまったくことなる。
そのことは、車体の下まわりを見れば一目瞭然。無骨なまでにぶっとい鉄骨(実物を見れば、敢えてそう呼びたくなるはず)を組みあわせたラダーフレームには、これまた極太のスチール製トレーリングリンクを介して、頑丈この上ない設計のリジッドアクスルがとりつけられている。ドライブシャフトとハブのジョイント部も、直径20cmはあろうかという大きさ。想定している強度、耐久性が乗用車とは桁違いであることが見て取れる。
もっとも、これらはどんな荒れ地を走りつづけてもトラブルをおこさないために採用されたデザインであって、スーパーカーのごときハイパフォーマンスを実現するためのものではない。なにしろ、1979年にデビューしたとき、もっともパワフルな「Gクラス」は最高出力156psを発生する直6 2.8リッターガソリンエンジンを搭載していたのだ。
ところが、「G65 AMG」のV12 6.0リッターツインターボエンジンはそのおよそ4倍の612psを発揮。最大トルクは実に1,000Nmに達する。この結果、0-100km/h加速は5.3秒とまさにスポーツカーなみの速さ。これほどの高性能を手にいれるとは、30年以上前に「Gクラス」の設計を手がけたエンジニアたちは想像さえしていなかったはずだ。
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メルセデス・ベンツ G65 AMGに試乗(3)
精緻なチューニングの結晶
そもそも「Gクラス」のエンジンルームは、巨大なV12エンジンをのみこめるほど大きくない。直6エンジンであればホイールハウス間の低い部分に置けたが、AMG自慢のV12エンジンは左右のホイールハウスを避けるべくやや高い位置に搭載されているように見える。きっと、重心も高くなっているはずだ。
それでも「G65 AMG」は乗り心地もハンドリングも破綻をきたしていない。まず、路面のギャップを乗り越えたときのハーシュネス(突きあげ)が最小限に抑えられていることに驚く。さすがにホイールが大きくストロークするシーンではサスペンションの硬さを意識させられるが、これは、重心が決して低くない2,590kgのボディを高速走行でも安定して支えるのに絶対に必要とされたことだろう。それでも、ダンパーがきわめて上質なために、ソリッドななかにもしっとりとした乗り心地が味わえる。ここに至るまでに、どれほど緻密なチューニングが施されたのだろうか。考えるだけでも気が遠くなる。
高速コーナリングを試しても「G65 AMG」は素直でコントロールしやすかった。さすがに大きめの横Gがかかった状態で道路のつなぎめに乗り上げると軽く横っ飛びしたが、その程度はごく軽い。腕におぼえのドライバーであれば十分に乗りこなせるはずだ。
600psオーバーのエンジンを積んでいると聞いて扱いにくいのではないかと心配になる向きもあるだろうが、シフトモードの「C」をえらべばスロットルペダルの踏みはじめで急激にパワーが立ちあがることもなく、リラックスして運転できる。これを「Sport」に切りかえ、スロットルペダルを深々と踏み込めば「G65 AMG」は猛然と加速を開始するが、そんなことをしなくても、その重厚な乗り心地とスムーズきわまりないエンジンのまわりかたから、自分が特別な1台に乗っていることはいつでも強く実感できる。
いや、そうして大人しく走っているときのほうが、むしろ「G65 AMG」の持つ威厳を明確に意識できるくらいだ。
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メルセデス・ベンツ G65 AMGに試乗(4)
古き良きメルセデスの伝統が息づいている
決してあたらしい設計ではないシャシーが612psのパワーと見事にマッチしていることは前述のとおりだが、同様のことはインテリアデザインについてもいえる。直立したフラットなウィンドウガラス、そしてコンパクトなダッシュボードは「Gクラス」が30年以上の歳月を生き延びた事実を物語っているが、そのデザイン、クォリティ、そして操作性は、すべて現代の水準に置きかえられている。
特に、「G65 AMG」で標準装備となるインテリアのビスポーク・プログラム「designo」は、最高級のレザーをふんだんに用いており、3,000万円を越す車両に相応しい華やかな雰囲気を醸し出す。6色からえらべるカラーはどれも発色がよく、キャビンを色鮮やかに飾り立てている。やや平板でクッションも薄めなシートは、これもAMGのノウハウがぎっしりと詰まっているのだろう、ハードコーナリングでもドライバーをしっかりとホールドしてくれるだけでなく、適度な快適性ももちあわせていた。
そうしたモダンな横顔を備えるいっぽうで、「G65 AMG」には古き良きメルセデスの伝統が息づいている。ドアを閉めたとき、カシャンとやや硬質で引き締まった音を響かせるのは「W124」あたりまでのメルセデス共通の持ち味。
そういえば、リモコンでドアをロックしたときのパシャッという音も、20年ほど前までの「スリーポインテッドスター」では当たり前のように聞かれていたものだった。
いやいや、そんな表面的なものばかりではない。インテリアの細部にまで行き渡ったつくりの良さ、ステアリングがよく切れて小まわりが利くこと、そして視界が広く見切りがいいことなどは、いずれもメルセデスの美点として長く語り継がれてきたことばかり。また、視界と見切りの良さはオフロード走行をおこなうには必須の条件とされるものでもある。
「完璧か、無か」を実践していたスリーポインテッドスターを、現代の視点でリファインしなおした「G65 AMG」。その本当の魅力は、「史上最強のクロスカントリービークル」という言葉だけでは到底、語り尽くすことができない。
Mercedes-Benz G65 AMG|メルセデス・ベンツ G65 AMG
ボディサイズ|全長 4,763 × 全幅 1,855 × 全高 1,938 mm
ホイールベース|2,850 mm
トレッド 前 / 後|1,500 / 1,500 mm
最低地上高|215 mm
最小回転半径|6.2メートル
トランク容量|480-2,250リットル
重量|2,590 kg
エンジン|5,980 cc V型12気筒 SOHC ツインターボ
最高出力| 450 kW(612 ps) / 4,300-5,600 rpm
最大トルク|1,000 Nm(102.0 kgm) / 2,300-4,300 rpm
トランスミッション|7段オートマチック
駆動方式|4WD
タイヤ 前/後|275/50R20 / 275/50R20
燃費(NEDC値)|17.0 ℓ / 100 km
価格|3,250万円