島下泰久ポルシェ ボクスター海外試乗記|Porsche
CAR / IMPRESSION
2014年12月12日

島下泰久ポルシェ ボクスター海外試乗記|Porsche

Porsche Boxster|ポルシェ ボクスター
Porsche Boxster S|ポルシェ ボクスターS

ポルシェ ボクスター海外試乗記

サン・トロペにて開催された、新型ポルシェ・ボクスターのプレス向け国際試乗会。南仏のワインティグロードにてこのボクスター、そしてボクスターSを走らせた島下泰久氏の試乗リポート。

Text by SHIMASHITA Yasuhisa

立派になった?

東京はまだ肌寒かった3月中旬、新型ポルシェ・ボクスターのプレス向け国際試乗会が、温暖な南仏はサン・トロペにて開催された。事前に発表された写真で姿は見ていたが、実物とはこの日が初対面。その最初の印象は「随分立派になったなあ」というものだった。

とは言っても、ボディサイズは全長が32mm増えただけ。変わったのはプロポーションで、ホイールベースが60mm伸び、フロントオーバーハングは27mm短縮されている。
また、トレッドは前40mm、後18mm拡大。さらにフロントウインドウは取り付け位置が100mmも前進したうえに角度が寝かされ、高さも13mm削り取られている。要するに、ほぼ同等のサイズのなかでタイヤが四隅に張り出し、全高が下げられているわけだ。

ディテールにも力が入っている。918スパイダーにインスパイアされたヘッドランプやバンパーの大きな開口部によって、フロントマスクはさらなる迫力をプラス。ボディサイドのエアインテークは、沢山の空気を取り入れるべくドア部分から深く抉り込まれている。左右のテールランプ間を繋ぐかたちとされたリアスポイラーも、特徴的なアイキャッチとなっている。

Porsche Boxster S|ポルシェ ボクスターS

Porsche Boxster S|ポルシェ ボクスターS

「911には“こうあるべし”という要素がとても多く、責任は重大。けれどボクスターはもう少し自由だから、より楽しんで仕事をすることができましたよ」昨年、新型911カレラのスニークプレビューの際にポルシェ社のデザインダイレクターを務めるミハエル・マウアー氏はこう言っていた。実際、ボクスターのスタイリングは、より伸び伸びと描かれている。プレゼンテーションで使われていた“Progressive Evolution”という言葉、なるほどたしかに、という感じである。

Porsche Boxster|ポルシェ ボクスター
Porsche Boxster S|ポルシェ ボクスターS

ポルシェ ボクスター海外試乗記(2)

ボディ大変更

インテリアの雰囲気も、さらに洗練された。空調ダクトは円型から角型へ。そして、やはり新型911と同じように前方に向けてせり上がったセンターコンソールが採用されて、従来よりも囲まれ感が増している。シフトレバーの位置が高くなって、走りの一体感を増しているのも特筆すべきところ。いっぽうで、室内空間は前後方向に25mm増とされており、空間的な余裕はむしろプラスとなっている。

Porsche Boxster S|ポルシェ ボクスターS

Porsche Boxster S|ポルシェ ボクスターS

ソフトトップの開閉は、ロックレバーまでふくめて完全に電動化された。開閉所用時間は25パーセント減の9秒に。これは従来あったコンバーチブルリッドが廃され、ルーフ部分がそのままカバーの役割をするあたらしいルーフ開閉機構のおかげだ。オプションのウインドディフレクターは従来の透明プラスチック製のボードからネット型へと変更されたが、これは正直言って、視界イマイチ。飛ばす時には後方、いままでより注意する必要がある。

目に見える内外装の変化だけでも大きな新型ボクスターだが、注目するべきはむしろ中身のほうだと言うべきだろう。従来と同様、911と多くの部分を共有しているメカニズムは、飛躍的なまでの進化を果たしている。

最大の変更点はボディ。その実に47パーセントがアルミ化され、ほかにもマグネシウム、高強度鋼などが組み合わされた完全な新構造によって、静的ねじれ剛性を40%も向上させるいっぽうで、グレードによって25~35kgの軽量化を実現しているのだ。

Porsche Boxster S|ポルシェ ボクスターS

それにはマグネシウム製フレームの採用や開閉機構の簡素化によって、重量を約12kgも削り取ったソフトトップの貢献度も大きい。また、サイドシルからリアフェンダーにかけて樹脂製のアウターパネルが使われているのも注目。これは新型911にはない要素である。

Porsche Boxster|ポルシェ ボクスター
Porsche Boxster S|ポルシェ ボクスターS

ポルシェ ボクスター海外試乗記(3)

走りの洗練

エンジンは、まず素のボクスターが従来の2.9リッターから2.7リッターにダウンサイジングされた。そのうえで直噴化され、最高出力は10psアップの265psを達成している。

そしてボクスターSは、従来と同じ3.4リッター直噴ながら、やはり5ps増の最高出力340psを獲得。これに7速PDK、あるいは6速MTが組み合わされる。新型911に使われた7速MTを採用しなかったのは、重量を削り取るためだったという。アイドリングストップ機構は両モデルに標準装備だ。

Porsche Boxster|ポルシェ ボクスター

Porsche Boxster|ポルシェ ボクスター

最初にステアリングを握ったのはボクスターのPDK仕様だったのだが、走り出して間もなく、その走りの洗練度の高さにノックアウトされてしまった。ボディは剛性感たっぷりだが重おもしさはなく、むしろ軽快。オプションのPASMを装着したサスペンションはしなやかに路面からの入力をいなす。

ホイールベースの延長が効いているのだろう。姿勢はつねにフラットに保たれる。20インチタイヤを履いているとは思えない快適性には舌を巻くほかなかった。

Porsche Boxster|ポルシェ ボクスター

フットワークにも文句のつけようがない。電動パワーステアリングの手ごたえにも違和感は皆無で、ただ真っ直ぐ走らせるだけでも気持ちが昂揚してくるほど。

もちろん、一番の見せ場はコーナリングだ。ステアリングを切り込むと、思い通りダイレクトにノーズがインを向きはじめる。トレッド拡大だけでなくホイールベースの延長で、前後重量バランスも微妙に変わっているのだろう。前輪の接地感は、これはと唸らされるほど高い。そして、その後はいかにもミッドシップらしい前後バランスの良さで、まさに自分を中心にくるりと曲がることができる。

試乗車は20インチタイヤを履いていたこともあって限界はきわめて高く、タイヤを鳴らすことすら簡単ではなかった。安定感際立ち、一体感も凄まじく高い。誰もがスポーツカーを操るよろこびに酔いしれることができるはずである。

エンジンの快感度も上々である。ボクスターの2.7リッターユニットは低速域でも決して線は細くなく、そこからトップエンドに至るまで、まるでストレスを感じさせることなく爽快に吹け上がる。まわすほどに活気を増すサウンドとレスポンスは最高に刺激的だ。

Porsche Boxster|ポルシェ ボクスター
Porsche Boxster S|ポルシェ ボクスターS

ポルシェ ボクスター海外試乗記(4)

ニュル7分台

ボクスターSの3.4リッターユニットも、基本的な特性には大きなちがいはない。しかしながら排気量の分、余裕は段ちがい。こちらはMTも試したが、急がない時は段飛ばしのシフトでも十分なほどだった。

ただし、サスペンションやブレーキが強化されていることから、乗り心地はボクスターよりもやや硬めと感じられた。ちなみに、このボクスターSのニュブルクリンク北コースのラップタイムは7分58秒を記録しているという。先代よりじつに12秒も速い、このタイムはフル装備仕様で出されたもので、PASMは言うに及ばず、PTV(ポルシェ・トルク・ベクタリング)、更には、マグネティックダンパーの原理を使い、硬度の瞬時の切り替えを可能にしたダイナミックトランスミッションマウントをセットしたスポーツクロノパッケージプラスまでが、そこにはふくまれる。それにしても、このタイムはほとんどシャシーで稼ぎ出されていると考えると、凄いとしか言い様がない。

Porsche Boxster S|ポルシェ ボクスターS

Porsche Boxster S|ポルシェ ボクスターS

試乗中、同行した先代あるいは先々代ボクスターのオーナーが、オープン走行中の室内への風の巻き込みは、やや大きくなっていると指摘していた。そのあたり、後でポルシェの開発陣に確認したところ、「その通り」とのこと。

フロントウインドウが寝かされた上に、シートからウインドディフレクターまでの距離がわずかに伸びた影響だが、ユーザー対象の調査の結果から、許容範囲内と判断されたのだという。個人的には、まあこんなものかなという感じ。しかし髪の長い女性などは、ちょっと気になるところかもしれない。

いっぽうで、これまた度肝を抜かれたのがクローズ時の快適性の向上ぶりだ。新開発のソフトトップのおかげもあり、100km/h走行時の室内騒音レベルは約75dBから71dBへと低減されているとポルシェは謳う。

新型911と同様、ロードノイズがもともと大幅に小さくなっているのも効いているのだろう。開けた時と閉めた時で特性が変わることもなく閉じても快適。この辺りの調律ぶりも見事だ。

Porsche Boxster S|ポルシェ ボクスターS

Porsche Boxster S|ポルシェ ボクスターS

それにしても、この完成度の高さ。ワインディングロードばかりえんえんと走るコース設定も多分に影響しているとはおもうが、個人的には新型911カレラの初体験よりも驚かされたというのが正直なところだ。いままで個人的には抱いたことのなかった「911あやうし」というおもいが、はじめて脳裏をかすめたほどである。

この新型ボクスター、日本には夏頃には上陸の予定となっている。価格は現時点では未定だが、いくら性能が上がったとは言っても、あくまでポルシェのエントリーモデルであることは忘れてほしくないところだ。

spec

Porsche Boxster|ポルシェ ボクスター
ボディサイズ|全長4,374×全幅1,801(1,979ミラーふくむ)×全高1,282mm
ホイールベース|2,475mm
トレッド幅 前/後|1,526/1,536mm
エンジン|2.7リッター水平対向6気筒
最高出力|265ps(195kW)/6,700rpm
最大トルク|280Nm/4,400-6,500rpm
トランスミッション|6段MT(オプションで7段PDK)
ホイール 前/後|8J×18/9J×18
タイヤ 前/後|235/45 ZR 18 / 265/45 ZR 18
0-60マイル/h加速(マニュアル、PDK、スポーツクロノパッケージ設定時)|5.5、5.4、5.2秒
最高速度 (マニュアル、PDK)|164m/h(264km/h)、162m/h(261km/h)

Porsche Boxster S|ポルシェ ボクスターS
ボディサイズ|全長4,374×全幅1,801×全高1,281mm
ホイールベース|2,475mm
トレッド幅 前/後|1,526/1,540mm
エンジン|3.4リッター水平対向6気筒
最高出力|315ps(232kW)/6,700rpm
最大トルク|360Nm/4,500-5,800rpm
トランスミッション|6段MT(オプションで7段PDK)
ホイール 前/後|8J×19/9.5J×19
タイヤ 前/後|235/40 ZR 19 / 265/40 ZR 19
0-60マイル/h加速(マニュアル、PDK、スポーツクロノパッケージ設定時)|4.8、4.7、4.5秒
最高速度 (マニュアル、PDK)|173m/h(278km/h)、172m/h(277km/h)

           
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