INTERVIEW|小林聡美が長編映画のナレーションに初挑戦『アルプス 天空の交響曲』
INTERVIEW|ドキュメンタリー『アルプス 天空の交響曲』
小林聡美が長編映画のナレーションに初挑戦!
「実は1日で録音したんです」
ヨーロッパに暮らす人びとにとって、身近にして偉大な存在がアルプス山脈である。このアルプスを最新鋭のシネフレックスカメラ(ヘリコプター用カメラ)で俯瞰し、大自然の全容と現状を伝えるドキュメンタリー『アルプス 天空の交響曲(シンフォニー)』(以下、『アルプス』)が4月18日(土)から公開される。ナレーションを務めたのは女優の小林聡美さん。ナレーションの面白さと難しさ、そして映画の魅力について話を聞いた。
Photograps (portrait) by KIMURA YasuyukiStyling by MIYOSHI MarikoHair & Make by KITA IchikiText by KASE Tomoshige
「もうひと味」を期待されているのかもしれない
――今回のナレーションはどのくらいの期間で録音したのでしょうか。
驚くべきことに……1日だったんですよ。もっと練習すればよかった(笑)。絶対にノドがカラカラになると思っていたんですが……ひとつ発見したんですよ、ノドが乾かない方法を。鼻で息をすればいいんです(笑)。
――ナレーションのお仕事も多いので、慣れているのかと思っていました。
長編映画ははじめてでしたし、こんなにたくさんしゃべったこともはじめてでした。しかも1日だったので、正直とても忙しい感じでしたね(笑)。
――そんな慌ただしかった(笑)今回のナレーション、引き受けたきっかけを教えてください。
やはり『アルプス』の映像が素晴らしくて……映画としてとてもいい作品だと思ったので、声だけでもお手伝いできればと。実は私、アルプスにも行ったことがあるんです。日本にはなかなかない風景で、「遠くにあるのに近くにある」みたいな。迫力がありましたね。とても大きかったです。
――実際にしゃべるときに、ご苦労なさった点はありましたか。
私は普段、いかに適当にしゃべっているかということに気づきました(笑)。滑舌が意外とよくない。「いま、『れ』の音が聴こえませんでした」とか、ディレクターからも細かい指示があったりして。海外の映画なので、読みなれないカタカナの地名ばかりで……最後まで難しかったですね。慣れたかな、と思ったときには録音が終わっていました(笑)。
――ナレーションを通じて伝えたかったことはありますか。
プロのナレーターの方は訓練を積んで、届きやすい声と滑舌のよさ、正しいイントネーションで伝えてくれます。でも、そんな勉強もきちんとしていない私に、ナレーションのお仕事を依頼されるということは、きっとプロのナレーターにはない「もうひと味」を期待なさっているんだろうな、と思っています。
――個人的な印象なのですが、たとえば英国BBCのような、親しみもありつつ事実をきっちりと伝えるようなナレーションで……言われなければ、小林さんだとわからなかったかもしれません。
そうなんですよ。実は英語のナレーションでこの『アルプス』を拝見したのですが、非常に淡々とした女性の声だったんです。ナレーションで「盛り上げよう」という感じがまったくなかったんです。
じゃあ私もこういう風に、ある意味淡々やればいいのかな、と思って。だからあまり遊んだ雰囲気はなく、しっかりと語りました(笑)。でも途中で呂律(ろれつ)が回らなくなったりすると「むむ、これはやっぱり難しい仕事かも」と、やりながらあらためて気づいたんですけど。
――でも、滑舌という点ではまったく問題なかったです(笑)
いや、いっぱい録り直したんですよ(笑)。
――最後にこの『アルプス』という作品について、どのような印象、感想をおもちでしょうか。
雄大なアルプスの景色を存分に味わえるのと同時に、人間の暮らしを豊かにしようと、ちょっと手を加えただけで、自然には大きな影響が及んでしまうということを実感しました。ダムによって水の流れる筋が変わり、生態系に大きなダメージを与えてしまうとか……。
たとえば山の上のスキー場にしても、「あんな場所にどうやって建てたの?」というような建物が多くあります。それを人間の偉業と捉えるか、自然に対する罪と捉えるか……もしかしたら、欧米と日本では多少感覚がちがうのかもしれませんね。
聳える高峰、切り立つ峡谷、緑豊かな牧草地帯、スキー場、ダムに沈んだ教会……。アルプスの荘厳な自然と、そこに暮らす人びと、そして現実的に壊れつつある自然が、ありのままに、そして“美しく”描き出さした本作品。単眼的な環境保護ではなく、人間と自然の関り方について、観る者に結論を委ねるようなドキュメンタリーだと思う。小林さんのナレーションとともに、フラットな気持ちで楽しんでいただきたい。
小林聡美|KOBAYASHI Satomi
1965年、東京生まれ。テレビ、映画、舞台などさまざまなフィールドで活躍、エッセイなども多く上梓し健筆をふるう。日本を代表する女優のひとりである。主な出演作に『かもめ食堂』(2006年)、『めがね』(2007年)、『ガマの油』『プール』(2009年)、『マザーウォーター』(2010年)、『東京オアシス』(2011年)、『紙の月』(2014年)などがある。