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2025年9月25日
「伊藤沙莉主演映画「風のマジム」監督・芳賀薫×プロデューサー・佐藤幹也 20年ぶりに交差した二人の人生と作品の化学反応とは」
MOVIE|風のマジム
原田マハ原作「風のマジム」が映画化。伊藤沙莉さん演じる主人公・伊波まじむが、「沖縄産サトウキビからラム酒を作りたい」と社内のベンチャーコンクールを活用し奮闘する様子を描く。監督を務めた、自身映画が初作品であるCMディレクター芳賀薫さんと20年前にCMプロダクションで僚友であった佐藤幹也プロデューサーがこの作品で時を経て再び出会い、完成を目指し、9月12日から全国公開にたどり着いた。二人が再び出会うことは必然だったのか。これまで歩んできた軌跡、苦労と困難、喜びをざっくばらんに語ってくれました。
Text and Photographs by KATO Junko
佐藤「風のマジムのクランクアップ後、何本くらいCMを作っていますか?」
芳賀「あれから7本くらい作った。月一本くらいのペースかな」
佐藤「すごいですね。僕の方は『風のマジム』原作の原田マハさん監督の映画『無用の人』が無事完成しました」
芳賀「風のマジムは完成してから上映まで半年しかなかったから、息もつかずに生きている感じがするよ。神経が張り詰めてバテてきた」
――多くの人に見てもらう楽しみもありますよね。
芳賀「もちろん楽しみもあるけど、誰も人が入らないんじゃないかってドキドキがある。この感覚はいつか慣れるんですか、先輩?(笑) 、公開日が楽しみだイエィ!みたいに」
佐藤「自分もプロデューサーになって数年しか経っていないですが(笑)、2、3本とったら慣れるのではないでしょうか。映画は自分のこどもみたいなものですよね」
――冒頭でいつも聞くのですが、パーソナリティが描けるよう、好きな色と自分の性格と好きな髪型を教えてください。
芳賀「好きな色は日によって変わるけど、最近の流れで言うと紫!髪型は、7,8年長髪にしていたけど、エイッと切って、短髪にしました。短髪にするとただの特徴ないおじさんになっちゃうかと心配したけど、前髪をパッツンにするだけで意外と特徴あるのかなって(笑)。自分の性格は周りに言われる通り、割と我が道を行くみたいな感じかも。それは時によって、わがままだろうし、時によっては頑固だろうけど、特段変えようとも変えられるとも思ってない(笑)」
佐藤「自分をあげる色はオレンジ。性格は根っからの調整屋。髪型は5年前からおでこを出すようにしています」
芳賀「(すかさずつっこむ)今あえて出さなかった笑?」
佐藤「いやいや、5年前からおでこを出すようにしているんですよ!ある人にアドバイスされて、自信持って見えるようにしようって(前髪をかき上げるがボリュームが多くて下がってくる)」
芳賀「だからそれ! いつもの昔から知っている幹也だけどね(笑)言うほど出てないよ」
(佐藤P=幹也と呼ぶときも)
(佐藤P=幹也と呼ぶときも)
――そろそろ本題に、佐藤さんが映画制作に加わった経緯を教えてください。
芳賀「8年ほど前に一度、映画化の話が動いたんだけどその時はうまくいかなくて、その2年後に笹岡三千雄さんという出資者の方が手を挙げてくれたんだ。『ちゃんと会社とか社会で頑張って働いたらきちんと成功したり、何かしらの未来はあるんだよと伝える映画が撮りたい』と。何冊か提案した原作から「風のマジム」がいいってことで、今回の実現に至りました。立ち上げのメンバーでまた動き出し、プロデューサーはどうしようかとなった時に、僕が昔“ピラミッドフィルム”で一緒に働いていた佐藤がちょうど映画制作会社「ポトフ」を立ち上げていたので、白羽の矢が立ったってわけ」
――自身を“天性の調整屋”と分析する佐藤さん。現場に加わり、芳賀さんが助かったことは?
芳賀「自分は0−1を作りたい人間。1から5くらいまでは周りのスタッフがやんや言って積み上げてくれる。みんなのてんでバラバラの意見をまとめて、予算のことやスケジュールのことなど一番気にしてくれたのが幹也。今回においては、どう考えても最初に決めることは“ロケ地”ではないかって考えはすぐ一致した」
佐藤「芳賀さんが肝としているのは“豆腐屋さんの家”だということはすぐわかりました。美術や衣裳もさて置き、今回まずはロケ地だなと。主人公・まじむのおばぁが営む豆腐屋さんに初めは何度も断られて、他のお店もたくさん探したけどどうしても諦めれなかったですよね(笑)」
芳賀「そう。まずロケ地が決まらなかったら、他のストーリーもなにも進まないから、自らマイルを使って、自腹で何度か行ったよね(笑)。2回目からは幹也も付き合ってくれて。レンタカー借りて、さとうきび畑もいくつも周ったから、Google Earthで見つけ方がすごくうまくなっちゃって、後から入った制作部にやり方を伝授して一旦帰りました(笑)。沖縄の地理もすっかり頭に入ったよ」
――結局どのようにお豆腐屋さんは決まったのですか?
芳賀「実は何個もみたけど、一番最初に見たお豆腐屋さんに結局決まった。あそこしかないって言うくらいイメージにぴったりだったから、散々断られたけど何度も足を運びました。豆腐屋を経営する一族の兄弟10人が集まって幾度も話し合いをしてもらい、最終的に承諾をいただくことができて。家族が生活するシーンで使われた母屋のほうは、普段は使っていなく、お盆や正月など家族が集まるときだけ使われていた。逆に言うと、そういう時に使うがゆえに、お仏壇含め一族みんなが大切にしている場所。沖縄では家のことは家族みんなで決めるということを知って、歴史を大事にしている姿勢をひしひしと感じました」
佐藤「沖縄のコーディネーターの鳥越さんが本当に頑張ってくれましたね」
芳賀「兄弟方が映画の母屋での家族のシーンを見て、泣いてくれたって聞いた時は最後まで粘って本当によかったって思ったよね」
――佐藤さんから見て、芳賀さんの映画初監督の姿はどう映りましたか?
佐藤「目の前にいるから言うわけではないけど、さすがだなと思いました。ロケ地含め、演出や衣装、小道具等決めることは山程あるのですが、何をどのタイミングで決めると最高到達点に行ける、このスタッフに何をお願いして、何に関しては忘れてもらって動いてという指示が絶妙だった」
――すべてがすぐに決断できて、順風満帆にいったわけではないですよね‥
芳賀「まじむがラムを作ろうと思うきっかけになるシーンはどうやるべきか決めかねていて、何度も何度も候補のロケ地を見に行ったよね。浜辺で風が吹いて「あっ!私ラムを作る!」みたいな流れはどうかと。撮影の合間を縫って海に足を運んで、浜辺で座ったり、歩いてみたり。スタッフたちも辛抱強く付き合ってくれて、いろんな実験をしながらずっと迷っていた」
佐藤「そこのシーンは撮影日前日まで悩んでましたよね」
芳賀「そうそう。次の日に予定していた打ち上げのお店の前をちょうど通った時に、『ん?ここは!?』と思ったんだよね。海辺も考えたけど、普通に沖縄に不自然ではないかっていう違和感がずっとあって、急にCMっぽくなってしまうのではと。小説の中では海に行って、チラシを見ていたら、風が吹いて思いつくみたいな流れになっているけど、映画の中では土地に根付いた話を特に大事にしたかったので、作為的ではなく、自然な流れを作りたかった。リアルに思いつくってどういうことかなって散々突き詰めた結果、あの居酒屋の前で決意するシーンが偶然にも生まれました」
佐藤「お店に行って、『明日、19時から打ち上げお願いします。それと‥、ちなみに‥相談ですが‥その前の時間は空いてますかね?』って(笑)」
芳賀「自分が納得するまで周りのスタッフがとことん付き合ってくれて本当にありがたかった。ここまで揺らぐことはこれまでなかったので、まじむの決意のシーンを撮れた後クランクアップした瞬間はひとしおでした」
佐藤「『クランクアップお疲れ様でした!一時間後また打ち上げはこの店で』ってね!(笑)」
――芳賀監督が決意した場所とまじむが夢を決意した瞬間は奇しくもリンクしていたんですね。他にもその場で急遽変更したことはありますか?
佐藤「まじむとまじむの上司役・糸数啓子(シシド・カフカ)が東京の醸造家・朱鷺岡明彦(眞島秀和)に会った後、2人が話し合うシーンのロケ地も急遽変更になりましたよね」
芳賀「そうそう。当初六本木ヒルズと青山墓地が見渡せる橋を予定していたけど、企画プロデューサーの関さんが『ここだけトレンディドラマになってないか?』と。自分も同感したので、そこからまた散々探して、結局なんでもない五差路で撮った。特徴的な東京の高層ビルを映すっていう記号をあえて出さなくてもいいなって。誰かが理由を持って言ってくれることには、なるほどと耳を傾ける時間はあるから」
佐藤「納得いくまで考えたらいいと思ったけど、立場上『いつまでに決めないと間に合わないです』というのは釘をさしてました(笑)」
――芳賀監督のスタイルとして、周りの意見をちゃんと聞くという姿勢がCM監督時代から続いているに思います。
芳賀「ものづくりにおいて、公平ってことを思想の真ん中に置いている。意見の出どころに優劣はないと思っていて、例えば、ヘアメイクさんが『先日こんな経験をしたので〇〇なのはどうですか?』と。その意見がすごく良いかもしれないので、いろんな意見が出やすい状況にしておくことが大事で、ボスっぽい監督で誰にも文句を言わせず、自分の考え通り動けみたいなタイプもいると思うけど、僕はみんなが頭を働かして、得意分野を活かし、一緒に作るっていうスタイル。昔から変わってないかな」
佐藤「今回の現場でもその雰囲気がチームに漂っていてみんなが意見を出し合ってた。芳賀さんがすごいのは “今、わからない”ってちゃんと言えることだなって」
芳賀「『A案とB案をやってみたけど、どっちがいいか今迷っている』とはっきり言う。するとカメラマンだったりが、『ではこうしてみたら?』とアイディアをくれたり。仲間と悩み考えていくプロセスを共有してます」
――共有しやすいようになにか努力してる策はありますか?
芳賀「普段から自分がわからなくなったら隠さずちゃんと言って、必ず“なぜなら〜”と理由をつけます。『ここまで考えてきて、これとこれで悩んでいる。なぜなら〜』と言う具合に。絶対これがいいとは言わないし、絶対って言葉は使わないようにしている。監督が言ったら従わないといけない雰囲気も出てくるし」
――絶対使わないですか?(笑)
芳賀「絶対使わないかわからないけどなるべく使わない(笑)。絶対を言うと他の意見が出てこないし、僕の現場ではみんながいろんな意見を出すから、自分も言ってもいいんだという意識になるので、いい循環が広がるんです。意見を飲み込むより言いたいことを言えるほうが結局はみんなハッピーだと!」
――同じ会社にいたからこそやりやすかったことはありますか?
芳賀「俺はたくさんあった。初めての映画の現場だったので、CM業界と同じ映像業界だけど、物事の決め方というかルールが違うから通訳してくれてたよね(笑)。自分が前出のような演出で悩んでいる時も理解して、フォローや間に立ってくれたし、かなり助けられたよ」
佐藤「まず言語が違うよね。映画の美打ち(美術打ち合わせ)はCMでいうオールスタッフ打ち合わせだったり」
芳賀「そう!美術の話を中心にすると思ったら、ヘアメイクさんやスタイリストさん含めオールスタッフが集まっていてね‥」
佐藤「美術を決める時は、部屋のカットでいうと、『こっちの面を作り込むけど、反対の面は作らなくていいよね』と話し合う。すると『こっちの面は撮影できないんだ』とカメラマンのアングルの話に繋がり、何を用意してどういう撮り方をする話まで発展するので、『ではこの日は同じ日の設定ですか?』『前日と同じ洋服を用意しますか?』『同じヘアスタイルにするか』と全スタッフが影響する話になってくる。それってCMでいうオールスタッフ打ち合わせですよね(笑)」
芳賀「そう。だから、その場で自分の考え方をちゃんと決めて言わないと、効率よく緻密に撮り順を考えてる助監督を惑わせてしまう。彼らは衣装や髪型のつながりだったり全てを含めて考えてくれてるから。ここで適当なことを言ったら全スタッフの信頼を失うことになりかねないので事前に補助して通訳してくれたのは大きかったよ。ありがとう(笑)」
佐藤「最初から映画で育った人間は、別の世界から来た人間が何がわからないかもわからないですよね。自分も広告業界から映画に来た人間だから、ここがわからないのではと予想ついたところは伝えました。自分も初めは苦労したので」
芳賀「それと幹也に1番感謝しているのは、美術の寒河江さんを連れてきてくれたこと。CMと映画の美術は尺もやり方も全く違う。寒河江さんは僕の感性を汲み取ってただ反映するだけでなく、さらに彼女の独創的なアイディアも盛り込んでくれた。装飾の徳田さん、小道具の渡辺さん含め、信頼して任せることができたことが、今回の絵作りの成功の要因の一つだったと思う」
佐藤「まじむが生活している家もすごくリアルでしたね」
芳賀「まじむの家は女性3人で楽しく暮らしているという設定。どこが誰のゾーンで、ここの鏡でお母は化粧して、ここでおばぁは洋服を選んでと生活の動線まで考えて、壁なども手入れして作り込んでくれたよね」
――まじむの高校の時の後輩・一平(仲地勇一朗)が運転する車のカラフルな小物や装飾も可愛かったです。芳賀監督特有のCMスタイルを彷彿とさせられました。
芳賀「一平はアメリカかぶれの設定だけど、家の装飾はナチュラル嗜好の妻・志保(仲里志保)に従っている。代わりに、車だけは思う存分“一平の部屋”の領域なので、アメリカに憧れている雰囲気を出してもらいました」
――一人一人の細かいキャラクター設定が面白いですね。
――昔の会社の先輩・後輩という枠組みを超えて、二人三脚していくうちに、「映画の現場に慣れてきたな」と感じた瞬間はありましたか?
芳賀「準備から撮影まで3ヶ月くらいだったけど、本当に最後の最後だよ。ちょっとコツ掴んできたなって時はもう終わる頃っていう(笑)」
佐藤 「でも確実なターニングポイントはあのシーンですよね‥」
芳賀「まじむが“必ず沖縄産のラムを作るんだ”と覚悟を決めるタイミングをどこに持っていこうか考えていたんだよね。仮にこの場所で決めないとしたら、表情が変わってくるから、決めなかった時のバージョンも撮ろうとして‥。AパターンBパターンとどっちにでも枝分かれできるよう、伊藤さんに演出したところ、『私はまじむという一人の人間を生きているので、こうだったらこうするっていう二つの選択肢はないんです。一つの道を感情の流れにのって進んでいるだけなので』と。雷を打たれた感覚で、本当にそうだなと納得した瞬間でした」
佐藤「広告業界だとAパターンBパターンを撮って確率を上げ、クライアントや代理店と最適な選択ができるよう尽くすのがCM監督ですもんね」
芳賀「本当にそのとおり。その日は、様々な選択肢を残していたシーンを寝ないで洗い出して、自分の中で一つ一つ選んでいって、無数の枝分かれを一本の道にしました。次の朝、沙莉さんにこういう捉え方にしようと思ってると相談したら、『それだったら違和感なくまじむとして進めます』って言ってもらえて。沙莉さんは随分年下だけど、映画一年生の僕としては色々なことを学ばせてもらいました」
佐藤「このあたりから、『もうしっかり監督になっているな』って思いました(笑)」
「計算をはるかに超えていい絵が撮れた時、ものすごい幸せだった」という監督の新たな経験
芳賀「撮影当初は設計図に向かって突き進むのみって思ってた(笑)。でも映画はまったく違く、役者さんと『ここはどう捉えている?』と考えを共有しながら良いところを引き出して進む。それが映画なんだなぁって。例えばCMだったら30秒で終わっちゃうけど、映画では30秒黙った後に出てくるセリフがすごく良かったり。自分の想像を超える絵が撮れた時、その場で次の道を考えないといけない、その時間はジャズのセッションみたいだなと思った。切り返しの手法を事前には考えていたけど、惹きつける表情が撮れたから引き絵だけのワンカットにすることを選択したりと、設計図がいい意味で変わらざるを得なかった。瞬間瞬間、見極めてチョイスすることが監督の役割だと途中でだいぶわかってきた」
ーー良いジャズ演奏者になってきたってことですね。
芳賀「そう(笑)。最初は背の高い10階建てのビルを作るつもりだったけど、結果『横幅のある平屋になったね』って面白いくらい設計図が変わって‥。見た目も素敵で伝えられるべきものが一番伝わる形になればなんでもいいんだなって(笑)」
――設計図でいうと、まじむのお母さん・サヨ子(富田靖子)とおばぁのカマル(高畑淳子)がまじむのことを思って歌うシーンですが、脚本では前の方に描かれていたけど、終盤の方に編集にされていました。そこも現場判断でしたか?
芳賀「実はそこは一番好きなシーンの一つ。まじむのがんばっている姿をおかぁとおばぁで長く見守ってきて、ようやくまじむを自由にさせる覚悟ができたという気持ちを描きたかったので、後半の方にずらしました。そこのシーンは良い意味で設計図とは違う方向で裏切られました。僕の考えでは、まじむを応援することに決めた2人の覚悟のシーンだったけど、高畑さんの間合いで、娘のサヨコをも心配する母としての愛も表現された。結果お互いがお互いを気遣うというシーンになり、設計者側としては盲点だった。役者としてではなく、そこに本当に生きていたらもちろん誰よりも自分の娘を心配するよね。『そりゃそうだよな』とハッとしました。やりとりや間の長い演技はCMだったらパツパツと切ってしまうので、気づかなかったことだなぁって」
――「映画作り」もいいなって思いました?
芳賀「そうだね、自分の想像をはるかに超えて、予期せぬすばらしい設計図ができるからね」
撮影当初はカット割を絵コンテにしていたという。徐々に書かなくても絵作りを組み立てれる頭になったので、後半はスケッチが激減している。付箋は“オフゼリフ”(役者がセリフの前後に話す会話)。標準語の撮影ではアドリブで続ける場合もあるが、今回は沖縄方言ということもあり、オフゼリフがびっしりと貼られている。
――佐藤さんのお気に入りのシーンはどこですか?
佐藤「僕はまじむの上司・仲宗根(橋本一郎)の『お菓子がないのは、給水所に水がないと一緒だよ』。嫌な上司だけど、橋本さんが演じるからすごくチャーミングなキャラクターになった! すばらしい」
――最後にみなさまへアツイ思いを届けてください。
芳賀「今、まさに “風の時代”がきていて、今回の映画も一つ掛かっていて、風がパーっと通ったら、いろんなものが揺れて影響していくように、人も動くと、周りに変化をもたらす。まじむは風の人だけど逆に、一つの場所に根をおろして動かないおばぁのような土の人もいる。いろんな人がいて良くて、「頑張る」ことだけで成功するわけではなく、「真心」でも世の中を幸せにできるし、ありのままでもいいんだ、世界は意外と優しいかもって少しでも思ってくれたらうれしいです」
佐藤「この映画はいわゆる“お仕事もの”の括りになると思いますが、決してまじむひとりのサクセスではなく、自身の熱い想いが伝播し、家族やまわりの人たちに支えられていく様を、嫌味なく描くことがテーマだと思っていました。ご覧になった方々が観た後に温かい気持ちになっていたらそれがなによりです」
――長時間お付き合いいただきありがとうございました。
真剣な話で少し疲れたと思うので、最後番外編として、興味深い解答ベスト5で締めたいと思います。吾朗のBARの舞台となった「Aサインバー2号店」へと場所を移し、少し敬語ゆるめトークがはじまり‥。
番外雑談編「へぇと思ったベスト5」〜筆者独断と偏見による調べ
第5位「モノづくりにおいて、一番好きな工程は?」
芳賀「すべて!」
佐藤「編集!」
芳賀「すべて!」
佐藤「編集!」
企画、撮影、編集など全ての工程が苦しいけど全てが好きという芳賀さん。一方佐藤さんは「編集」が一番好きな時間で「立場的に現場で一歩引いたところで芝居を見ているのでその視点で意見を言える、編集っておもしろい」と。
第4位「まじむのようにふと思いついて実現できたこと」
芳賀「ディレクターズファーム」
佐藤「会社設立―株式会社ポトフ」
芳賀「ディレクターズファーム」
佐藤「会社設立―株式会社ポトフ」
2006年、芳賀さんが作った“ディレクターズファーム”というシステム。良い大学を卒業していないとディレクターとしてプロダクションに採用され無かった時代に、『本当にモノづくりをやりたい』と目指す若者たちが修行できる場所を構築した。若者に給料は発生しないけど、代わりに生の現場で企画や演出に携わるチャンスを得る。一方クライアントはコストがかからず、新鮮な若者の才能と発想を浴びることができるというwinwinのシステム。そこから何人もの人気クリエーターが誕生した。
2016年の株式会社ポトフ設立前、作品ごとの契約となるラインプロデューサー(主に完成までの予算やスケジュール管理)時に、そもそもの企画自体がスケジュールや予算にどうやってもハマらないことが多くあった佐藤の経験から、企画開発中から関わることで、制作過程での予算的なリスクを軽減させつつ、クオリティを上げることができるはず…との想いから旗揚げした。
第3位「“伊藤沙莉がすごい!”と思ったところ!」
芳賀「BARで、同僚・冨美枝が「まじむって仕事に生きる女だったんだね」と感心すると、まじむが「ん?」違うよって言った時の芝居」
会社で出世したいわけでなく、ただ純粋にラムを作ってみんなで飲みたいんだという素直なまじむらしさが出ていた。沙莉さんがまじむの性格をちゃんと考え、細かい機微まで汲み取って演技している表情に息をのんで圧倒されたという芳賀監督。
佐藤「人たらしオバケ。ただただ、コミュニケーション能力の高さに脱帽でした」
第2位 「主題歌を森山直太朗さんに頼んだ理由」
芳賀「森山さんにすくわれました」
コロナ禍で世の中も沈んでいた時に森山さんのにっぽん百歌(ギター一本で好きな場所で好きな歌を届けるYouTube チャンネル)を聞いて、安心感をもらったという芳賀監督。森山さんの歌から、がむしゃらにがんばるだけでなく、周りの人や自然に思いを馳せることでも幸せでいれるんだよっていうメッセージが伝わってきた。『風のマジム』で描きたかった『“がんばる3割・真心7割”で世の中を幸せにする』という想いが、森山さんの歌と近い感覚がしたので、『森山さんしかいないんです!』と思いの丈を手紙にしたためたという。熱いラブコールが伝わり、リズミカルでどことなく懐かしい名曲が生まれた。
主題歌『あの世でね』の歌詞でもあるように、時折、手紙を書いてみるのもいかがでしょうか。
第1位 「映画の中で自分にキャラクターが1番似てる人は?」
芳賀「朱鷺岡」
佐藤「東江さん(肥後克広)」
芳賀「朱鷺岡」
佐藤「東江さん(肥後克広)」
佐藤「俺は吾朗(染谷将太)っしょ」
一同どよめく。
芳賀「自分でいう?(笑)2枚目キャラクターだけど?」
佐藤「ビジュアルではなく中身ね。徹底的に応援するスタンス。あ、でも肥後さんもあるかも。頼まれたら仕方ないねぇって」
――肥後さんにしましょう。
芳賀「自分はいないなぁ。誰とも違うんだよな」
佐藤「瀬名覇さんでもないし?」
芳賀「意外と朱鷺岡になっちゃうかも(笑)」
佐藤「言うと思った」
芳賀「放っておくと正論ぶちかまして」
佐藤「『南大東島!?どこですかそれ?』って(笑)」
芳賀「あんなに嫌味にできるかな。東京に染まって、おしゃれで合理的で。」
佐藤「逆になりたい人はいますか?」
芳賀「尊敬はおばぁだな。自分の信念はしっかりしているけど、それを人に押し付けたりはしない。仕事をもくもくとやる姿勢が、僕の親たちや祖父母たちと重なって憧れの生き方だな」
佐藤「気を抜くと、うっかり朱鷺岡になってしまいますよね」
芳賀「あぶない(笑)。でも、朱鷺岡だってある側面から見たら正しいことを言ってるんだよ。まじむをだまくらかそうとせず、自分の仕事のプライドで、できるできないを判断しているだけ。ただ自分の世界だけでの視点っていう。」
佐藤「社会で働いていると合理性とか理屈ばっかり言いがちですよね」
芳賀「僕も含め、そうなっちゃってるかもってみんな気づいてくれたら良いね」
芳賀・佐藤「結局一番、吾朗っぽいのは神山店長(Aサインバー2号店の)だね(笑)」
一同深くうなづき、泡盛と共にそれぞれの思いを飲み込む。同じ釜戸の飯を食らったもの同士、まだまだ話は尽きず、夜はふけていきました‥。
20代の時、CM業界のロケーションコーディネート会社に入社し、映像の入り口に立った佐藤さん。一方、美大を出て、大手映画会社も訪問するが、“下積み10年”と言われ、一番感性が光る20代を費やしたくないと、あこがれていた操上和美率いるCM業界へと舵を切る芳賀さん。
数年後、二人の人生が交差し、“ピラミッドフィルム”で出会い、別れ、そして、20年後、今度は「映画」という舞台で再会。当時怒号が飛び交う撮影の中、数少ない怒鳴らない監督の一人、芳賀さんは映画監督の夢を30年越しにかなえ、いつも人と人との間を取り持ってくれていた佐藤さんは自身の会社を立ち上げていた。
筆者も二人と同じ会社であくせく働いていたひとり。(かなりしごかれていました)今回、先輩方の映画を元同僚ならではの視点で切り込むというテーマで始まった取材ですが、20年ぶりに会った先輩方は当時と変わらず、夢を追いかけている背中をみせてくれました。人って情熱があると、色褪せないのでしょうか?
「風のマジム」は色眼鏡抜きに、彼らの人柄が詰まった、人間くさくあたたかい映画です。どの登場人物にもピュアな心が住んでいます。お二人の人柄を踏まえて、ご鑑賞いただけると、一味も二味も深まって、おいしい味変になることでしょう(願望込み)。
最後に筆者が一番刺さり、これからはこの言葉を胸に恥じぬ生き方をしようと決めた、おかぁ(富田靖子)とおばぁ(高畑淳子)がまじむに言った言葉で締めます。
「物事には順番ってものがあるでしょ」――伊波サヨ子
「一番大事なこと間違えたらならんどー」――伊波カマル
「一番大事なこと間違えたらならんどー」――伊波カマル
芳賀薫(はが かおる)
1973 年⽣まれ、東京都出⾝。武蔵野美術⼤学造形学部映像学科卒業。代表的な CM 作品に、阿部寛が店主を務める「檸檬堂』シリーズ、宮藤官九郎と松坂桃李が兄弟役を演じる『明治安⽥⽣命」シリーズ、「答えは雪に聞け」というコピーと共に広瀬すずと村上虹郎の出演が話題となった『JR SKISKI』CM シリーズ、川⼝春奈・神⽊隆之介・⽊村⽂乃・⽥中圭らが働く姿を描いた『TOWN WORK』等がある。また、CM 演出だけに⽌まらず、平井堅『POP STAR』MV や、TV ミニドラマ、舞台の演出等、枠を超えた作品の数々を⼿掛けてきた。
1973 年⽣まれ、東京都出⾝。武蔵野美術⼤学造形学部映像学科卒業。代表的な CM 作品に、阿部寛が店主を務める「檸檬堂』シリーズ、宮藤官九郎と松坂桃李が兄弟役を演じる『明治安⽥⽣命」シリーズ、「答えは雪に聞け」というコピーと共に広瀬すずと村上虹郎の出演が話題となった『JR SKISKI』CM シリーズ、川⼝春奈・神⽊隆之介・⽊村⽂乃・⽥中圭らが働く姿を描いた『TOWN WORK』等がある。また、CM 演出だけに⽌まらず、平井堅『POP STAR』MV や、TV ミニドラマ、舞台の演出等、枠を超えた作品の数々を⼿掛けてきた。
佐藤幹也(さとう みきや)
多くの映画やドラマなど映像作品に携わり、2016年に株式会社ポトフを設立。手掛けた主な作品に、『まともじゃないのは君も一緒』(21/監督:前田弘二)、NETFLIX『First Love 初恋』(21/監督:寒竹ゆり)、『ふつうの子ども』(25/監督:呉美保)など多数。公開待機作は原田マハが監督・脚本を務める『無用の人』。
多くの映画やドラマなど映像作品に携わり、2016年に株式会社ポトフを設立。手掛けた主な作品に、『まともじゃないのは君も一緒』(21/監督:前田弘二)、NETFLIX『First Love 初恋』(21/監督:寒竹ゆり)、『ふつうの子ども』(25/監督:呉美保)など多数。公開待機作は原田マハが監督・脚本を務める『無用の人』。
【作品情報】
映画「風のマジム」
「沖縄のサトウキビからラム酒を作りたい」――平凡に生きてきた契約社員の主人公・伊波まじむ(伊藤沙莉)は純沖縄産ラム酒を作るという夢を実現するため、社内のベンチャーコンクールに挑戦。豆腐店を長年営んできたマジムのおばぁ・伊波カマル(高畑淳子)やマジムの母・伊波サヨ子(富田靖子)ら家族に支えられ、会社の同僚・小野寺ずる(知念富美枝)、行きつけのバーの店長・後藤田吾郎(染谷将太)や南大東島の人々を巻き込みつつ奮闘する物語。「まじむ」とは沖縄の言葉で「真心」のこと。まさに「真心」が映画の中だけでなく、見ている人たちにも伝わり、優しい風が心に心地よく突き抜ける。
監督/芳賀薫 脚本/黒川麻衣 出演/伊藤沙莉/染谷将太/尚玄/シシド・カフカ/橋本一郎/小野寺ずる/なかち/下地萌音/川田広樹/眞島秀和/肥後克広/滝藤賢一/富田靖子/高畑淳子
原作:原田マハ
製作:オーロレガルト
製作・配給:コギトワークス
共同配給:S・D・P
制作プロダクション:ポトフ
主題歌: 森山直太朗 『あの世でね』
映画「風のマジム」
「沖縄のサトウキビからラム酒を作りたい」――平凡に生きてきた契約社員の主人公・伊波まじむ(伊藤沙莉)は純沖縄産ラム酒を作るという夢を実現するため、社内のベンチャーコンクールに挑戦。豆腐店を長年営んできたマジムのおばぁ・伊波カマル(高畑淳子)やマジムの母・伊波サヨ子(富田靖子)ら家族に支えられ、会社の同僚・小野寺ずる(知念富美枝)、行きつけのバーの店長・後藤田吾郎(染谷将太)や南大東島の人々を巻き込みつつ奮闘する物語。「まじむ」とは沖縄の言葉で「真心」のこと。まさに「真心」が映画の中だけでなく、見ている人たちにも伝わり、優しい風が心に心地よく突き抜ける。
監督/芳賀薫 脚本/黒川麻衣 出演/伊藤沙莉/染谷将太/尚玄/シシド・カフカ/橋本一郎/小野寺ずる/なかち/下地萌音/川田広樹/眞島秀和/肥後克広/滝藤賢一/富田靖子/高畑淳子
原作:原田マハ
製作:オーロレガルト
製作・配給:コギトワークス
共同配給:S・D・P
制作プロダクション:ポトフ
主題歌: 森山直太朗 『あの世でね』
問い合わせ先
風のマジム
https://majimu-eiga.com/