サウジアラビアと日本、高め合う映画文化が交差する舞台へ
LOUNGE / MOVIE
2025年5月20日

サウジアラビアと日本、高め合う映画文化が交差する舞台へ

MOVIE|サウジアラビア映画祭

2025年4月17日から23日まで、サウジアラビア東部の都市ダーランで開催された第11回サウジアラビア映画祭。中東の映画文化をより高めていく映画祭だ。今回は「日本映画特集」が組まれ、国際的な距離感をより身近なものへとしていく素晴らしいイベントだ。

Text by OPENERS

東西の映画文化が交差する舞台

2008年に始まり、サウジアラビア国内で最も権威ある「サウジアラビア映画祭」。サウジアラビア映画協会の主催のもと、同国を代表する文化施設アブドゥルアジーズ王世界文化センター(Ithra)とのパートナーシップにより運営されている。
11回目を迎えた今回は「アイデンティティの映画」をメインテーマに掲げ、映画という表現を通じて個人や社会のアイデンティティを探求する様々なプログラムを展開。
その中でも特に注目を集めたのが、日本の国際短編映画祭「ショートショート フィルムフェスティバル&アジア2025」とのコラボレーションにより実現した「日本映画特集」である。この特集は、映画が持つ国境を越えた対話と交流の力を象徴するプログラムとして、映画祭の焦点のひとつとなった。
日本映画、特にアニメーションへの関心は、世界的に近年急速に高まっている。サウジアラビアも同様で、今回特集ではアニメーションのみならず、多様なジャンルとスタイルを持つ日本映画を紹介。上映された作品はすべてサウジアラビア初上映となり、現地の観客に日本映画の奥深さと多様性を伝える貴重な機会となった。
上映作品のラインナップは以下の8作品
•    金子雅和監督『リバー・リターンズ』(2024年)- 伝統と革新の狭間で揺れる地方都市の再生を描いた作品
•    落合賢監督『太秦ライムライト』(2014年)- 日本映画の聖地・京都太秦を舞台に、映画への情熱を描いた物語
•    山村浩二監督『頭山』(2002年)および『とても短い』(2024年)- 国際的評価の高いアニメーション作品
•    西山裕之監督『青と白』(2022年)- 日本の伝統色に着想を得た視覚的詩情あふれる短編
•    長部洋平監督『TOMA#2』(2023年)- 実験的手法で人間の知覚を問いかける作品
•    村口知巳監督『ザ・ニュー・ワールド』(2023年)- ポストパンデミック社会のアイデンティティを探る社会派作品
•    仲里依紗監督『KABURAGI』(2024年)- 実力派女優 仲里依紗が監督として手掛けた新鋭短編作品
これらの作品は、日本文化の諸相、社会的課題、そして人間的ドラマを描いた注目された作品が名を連ねる。
映画祭のなかで、日本映画をより深く読み解くため、2日間にわたってパネルディスカッション、マスタークラス、文化シンポジウムも開催された。これらのイベントは、単なる作品鑑賞を超えて、両国の映画文化のより深い相互理解とクリエイティビティ溢れる対話を促進する場にもなり、素晴らしい時間を作り上げた。
パネルディスカッションには、国際的に活躍する日本人映画監督の落合賢氏、アカデミー賞ノミネート歴を持つアニメーション作家の山村浩二氏、サウジアラビアを代表する映画施設ハイ・ジャミール・シネマの責任者ゾフラ・アイト・エルジャマール氏、そして映画評論家として知られるマジェド・Z・サマン氏が登壇した。
議論の中心となったのは、サウジアラビアと日本のストーリーテリングにおける共通点。両国とも豊かな口承文学と伝統的な物語文化を持ち、それらを現代的に再解釈する手法や、視覚言語としての映画表現の可能性について、熱のこもった意見交換が交わされ、これからの高い文化度への発展の期待をさせる。
本特集の意義について、山村監督は次のように語っている。「熱心に活動している映画監督やキュレーターたちと出会うことができたのは、このイベントのおかげであり、自身にとっても素晴らしい機会となりました。今後の日・サ両国のクリエイターたちのコラボレーションに多くの可能性を感じています。」
また、サウジアラビア映画祭副会長マンスール・アル・バドラン氏は、本特集について「これは文化を通して得られたコラボレーションの素晴らしい実例です。参加者たちは、日本の映画のストーリーテリングの高度な表現を体験することができました。数多くのクリエイティブ関係者が交流する中で、このプログラムにより日・サ両国の映画人により新たな創造的コラボレーションの扉が開かれたのです。」と述べている。
特集期間中には複数の共同制作プロジェクトの構想が生まれるなど、両国の映画人による協力関係が構築できたことも大きな収穫だろう。サウジアラビアの若手映画監督と日本のアニメーターによる短編共同制作企画「Desert Meets Ocean」の製作が発表され、両国の国土的特徴を象徴する「砂漠と海」をテーマに、2026年の完成を目指すという。
また今回、サウジアラビア映画祭において、女性監督アード・カメル氏による『MY DRIVER AND I』が最優秀作品賞に輝いた。裕福な家庭の少女とインドネシア人ドライバーとの心の交流を描いたこの作品は、階級や文化、言語の壁を超えた人間関係の構築をテーマにしている。審査員からは「異文化間の理解と相互尊重を優れた映像言語で表現した傑作」と評価され、映画祭のメインテーマ「アイデンティティの映画」を象徴する作品として位置づけられ、ぜひ観ていただきたい作品のひとつだ。
監督は受賞スピーチで「異なる文化を持つ人々の間の理解と共感は、私たちの社会にとって最も重要な価値の一つです。映画はその架け橋となる力を持っています」と語り、この発言は日本映画特集の意義とも重なるものであった。
今回の日本映画特集は、単なる映画の上映会を超えて、異なる文化背景を持つ人々の間に対話と相互理解を促進する場となった。それは映画産業の交流を超え、地理的にも文化的にも離れた人々の心と心をつなぐ、将来的にもぜひ続いて欲しい映画祭である。
問い合わせ先

アブドゥルアジーズ王世界文化センター
https://www.ithra.com/en

                      
Photo Gallery