ジュネーブモーターショーの現場から:マクラーレン篇|McLaren
McLaren|マクラーレン
Geneva International Motor Show 2015
ジュネーブモーターショーの現場から:マクラーレン篇
モーターショーの花形はいつの時代もスーパーカーだ。今年のジュネーブでもフェラーリをはじめ、ランボルギーニ、アストンマーティンといった強力なブランドから多くのニューマシンが登場した。そんな老舗ブランドがひしめくなかで、ひとり気を吐くブランド、マクラーレン。新型「675LT」のワールドプレミアを飾った会場から、大谷達也氏がレポートする。
Text by OTANI Tatsuya
マクラーレンのレーシングスピリット
冒頭に流されたビデオは、イエローとオリーブグリーンの“ハロッズ カラー”に彩られたマクラーレン「F1 GTR」が、イギリスらしい“ちょい濡れ”のサーキットを疾走するシーンではじまる。このシャシーナンバー“#06R”は、5台のF1 GTRが初参戦して1-2-3フィニッシュを達成した1995年ルマン24時間で3位入賞を果たしたモデルそのものという。やがて、よく似たカラーリングの最新モデル、マクラーレン「P1 GTR」がこのF1 GTRを追い越していく。
こうして、P1 GTRがマクラーレン オートモーティブのレーシングスピリットを正統に受け継ぐモデルであると同時に、数々の記録を打ち立てたF1 GTRを凌ぐ性能の持ち主であることを見る者に印象づけたのである。このビデオにつづいて、さまざまなドライバーサポートやサーキット走行などのプログラムが付随したマクラーレンP1 GTRの解説がはじまったのだが、このモデルに関してはすでにOPENERSでは紹介済み。しかし、冒頭のビデオにはもうひとつの重大な意味が隠されていたのである。
もともとロードカーとして開発されたマクラーレン「F1」のレーシングバージョンであるF1 GTRは、前述のとおり1995年シーズンにデビューしたが、その後、ライバル陣営が戦闘力を増してきたことに伴い、マクラーレン自身もF1 GTRのパフォーマンスアップに取り組んでいく。そして、その究極の姿が1997年にデビューした「F1 GTR ロングテール」だった。これは95年モデルに対して全長を855mmも延長してエアロダイナミクス特性を改善したモデル。
おかげで同年のFIA GT選手権ではタイトル獲得こそ逃したものの、マクラーレンとして通算5勝を挙げ、マクラーレンF1 GTR ロングテールを走らせたBMWモータースポーツ(マクラーレンF1がBMW製エンジンを積んでいたことによる。実際のチーム運営はシューニッツァーが担当)はシリーズ2位の座を勝ち取ったのである。
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Geneva International Motor Show 2015
ジュネーブモーターショーの現場から:マクラーレン篇 (2)
全世界で500台だけの限定生産
この伝統を受け継ぎ、今年のジュネーブショーでワールドプレミアを飾ったのがマクラーレン「675LT(Long Tailの意味)」だった。その成り立ちを「650Sのボディ後半を延長し、軽くエンジンをチューンナップしただけ」と説明してしまえばそれでおしまいだが、詳しく見ていけば、マクラーレンが驚くほど丁寧にこのモデルを熟成したことに気づくはずだろう。
なにしろ、657LTはベースとなった「650S」のおよそ2/3を流用するものの、それ以外はすべてこのモデルのためにあらたに開発されたのである。
たとえばトレッドは前後とも650Sより20mm拡大され、軽量化されたサスペンション スプリングはフロントで27パーセント、リアで63パーセントも締め上げられている。おなじサスペンション系では、マクラーレンP1の経験を生かしてアップライトの軽量化やウィッシュボーンの改良を実施。またボディの延長によりエアロダイナミクスも進化し、ダウンフォースは40パーセントも向上した。さらに車重を100kgも絞り込んで1,230kgを達成しているようだ。
排気量3.8リッターのV8ツインターボエンジンは最高出力が650psから675psへと“微増”しただけのようにもおもえるが、実際にはエンジンパーツのおよそ半分を刷新し、650Sを上回るスポーティな走りを実現している。もっとも、650Sと675LTの最大のちがいは、前者がシリーズ生産されるのに対し、後者は全世界で500台だけの限定生産となる点かもしれない。イギリスでの車両価格は25万9,000ポンド(約4,750万円)と発表された。
ちなみにマクラーレンは「ポルシェ『911ターボ』の対抗馬になり得る価格帯」と噂されるニューモデルの投入も間近に控えている。名門F1チーム直系のスポーツカーメーカーから、しばらく目が離せそうもない。