海外初試乗、マクラーレン 650S|McLaren
CAR / IMPRESSION
2015年1月14日

海外初試乗、マクラーレン 650S|McLaren

Mclaren 650S|マクラーレン 650S

スペイン・マラガでワインディングロードを攻める

海外初試乗、マクラーレン 650S

マクラーレン「12C」に続くスーパースポーツとして、今年3月のジュネーブショーワールドプレミアを飾った新型モデル「650S」に大谷達也が初試乗。限定車「P1」の開発をつうじて得たノウハウが持ち込まれた650Sのパフォーマンスを知るべく、スペイン・マラガで、ワインディングロードを攻める。

Text by OTANI Tatsuya

マラガの街を走りはじめた

「じゃあ、キーはここに置いておくから」 そう語ると、コクピット内の操作方法を説明してくれたエンジニアのテイジはクルマから離れた。

スケジュールの都合で、日本人メディアとしては私ひとりまったく別の日程で参加することになったマクラーレン「650S」の国際試乗会。しかも、同様のメニューをこなすイギリスやシンガポールのジャーナリストたちが会場のスペイン・マラガに到着するのはこの日の夕方で、日中の試乗が許されたのは昨晩遅くにホテルにチェックインした私だけだった。

「とはいえ、発表間もない650Sをジャーナリストひとりにあてがうはずがない。きっと彼がお目付役として同乗するのだろう……」 そうおもいながらテイジのコクピットドリルを受けていた私は、彼があっさり引き下がるのを見て、軽い戸惑いを覚えたのである。

いやいや、心細くおもっている場合ではない。マラガを訪れたのは確か2度目か3度目で、道についてはさほど詳しくないものの、1台のクルマをじっくり観察するのにこれほど好ましい状況はない。

幸い、650Sにはスマホとよく似た操作方法のあたらしいナビゲーションシステムが搭載されている。しかも、試乗時間は異例ともいえる4時間。これだけ時間があれば、さまざまなことを試せる……。そうおもい直した私は、センターコンソール上のドライブセレクターでDを選び、マラガの街を走りはじめたのである。

Mclaren 650S|マクラーレン 650S

スペイン・マラガでワインディングロードを攻める

海外初試乗、マクラーレン 650S (2)

ピックアップが改善されたエンジン特性

市街地をゆっくり走っているだけで、マクラーレンのこのニューモデルが従来型の「12C」に対するアドバンテージをいくつも有していることがわかった。まず、ギアボックスの動作がさらにスムーズになり、微低速域でも滑らかにクルマを走らせられるようになった。

また、もともと高い評価を受けていた快適性はさらに改善され、サスペンションストロークがたっぷりとられたセダンのような乗り心地を示すようにもなっていた。

しかも、スロットルペダルをあまり踏み込んでいない状態、つまりパーシャルスロットルでのエンジンの反応が良好になり、スロットルを踏み込んでからエンジンがトルクを生み出すまでの時間が大幅に短縮された。おかげで、馴れないマラガの街をひとりでドライブしていてもまったく不安を覚えない。

こうして、650Sとの信頼関係が徐々に深まっていったのを確認した私は、ステアリングを左に切り、マラガの街並みを遠く見下ろすワインディングロードを目指すことにした。

先ほど述べた優れた快適性、そしてドライバビリティの高さが、高速コーナーがつづくワインディングロードで心強い味方になってくれることに気づくのに、さして時間はかからなかった。

しなやかな足回りはロードホールディング性の向上に結びつき、荒れた路面でも安定したグリップをもたらしてくれる。

ピックアップが改善されたエンジン特性は、限界近いコーナリングスピードを維持するのに圧倒的に有利だ。しかも、650Sには12C譲りの優れた視界がある。このため、はじめて走る道でも不安なく攻めることができる。ワインディングロードに足を踏み入れてものの5分と経たないうちに、私は650Sをおもうままにコントロールできるようになっていた。

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スペイン・マラガでワインディングロードを攻める

海外初試乗、マクラーレン 650S (3)

無意識下でのカウンターステア

そんな、かなりのハイスピードを保ったまま進入した右コーナーで、“事件”は起きた。クリッピングポイントが上り勾配のほぼ頂点だったため、クルマにいちばん大きな横Gがかかる瞬間とサスペンションが伸びきってグリップが微妙に薄れる瞬間が重なり、感覚的には20~30cmほどテールが滑ったのである。もちろん、日本であれば法定速度をはるかに超えるスピードだ。

ところが、このとき私はそうなることを予期していたかのように、慌てることなくすっとカウンターステアをあてて態勢を立て直すと、また何事もなかったかのようにステアリングを本来の方向に戻し、その場を切り抜けたのである。それは、ほとんど無意識な行動だったといっていい。

そういえば、OPENERSの取材で初めて12Cを操ったときにも、やはり無意識のうちにカウンターステアを当てたことがあった。けれども、正直にいえばあのときは蛮勇を振り絞り、かなり頑張った末にクルマの限界に辿り着いたものである。

しかも、テールが滑ったのはほんの一瞬。ところが今回は、わざと滑らせようという意図もなく、あくまでも楽しむ範囲で飛ばしていたところ、12Cよりかなり大きめなテールスライドを経験することになったのだ。

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スペイン・マラガでワインディングロードを攻める

海外初試乗、マクラーレン 650S (4)

息のぴったりあった愛馬のように

これを読んで「ああ、650Sは12Cよりもコーナリング性能が低下したのだ」とはおもわないで欲しい。いや、実際はその逆で、ロードホールディング性があれだけ改善されているのだから、限界的なスピードは12Cより明らかに向上しているはずだ。にもかかわらず、私がマラガの山並みでテールスライドを経験できたのは、650Sが極めてコントローラブルで、その領域に簡単に足を踏み込めたからだろう。

しかも、リアが滑り始める前に、ドライバーはその兆候を確実に捉えることができる。だから、レーシングドライバーの足下にも及ばない程度のスキルしか持たない私であっても、安全に、そして楽しみながらテールスライドを体験できたのだ。おかげで“切り遅れ”も“戻し遅れ”も起こすことなく、ぴったりのタイミングでカウンターステアを当てることができた。これは私にとって驚くべき経験だった。

「別にカウンターステアなんか当てる必要はない。オレは安全な速度域だけで650Sを走らせる」 そういう方ももちろんいるだろう。実際のところ、のべつまくなしカウンターステアをあてられるほど、日本の交通環境は恵まれていない。

でも、自分のクルマを一度でも限界まで追い込み、そのときどんな反応を示すかを見極めておくと、ワインディングロードを攻めているとき、もしくは雨の高速道路を走っているときにドライバーが感じる不安は大きく減少する。つまり、どんな困難な状況でも自信を持ってクルマをコントロールできるようになるのだ。

ひとたびそうなれば、アナタはクルマとの対話を大いに満喫できるようになるだろうし、長距離ドライビングでの疲労感は大幅に減少する。

たとえて言うなら、息のぴったりあった愛馬と遠出をするようなものだ。

マクラーレン650S。それは、私が初めて心を開くことができたスーパースポーツカーといえるかもしれない。

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McLaren 650S|マクラーレン 650S
ボディサイズ|全長 4,512 × 全幅(ミラー込み) 2,093 × 全高1,199 mm
ホイールベース|2,670 mm
トレッド 前/後|1,656 / 1,583 mm
重量|1,330kg
エンジン| 3,799cc V型8気筒 ツインターボ
最高出力| 650 ps / 7,250 rpm
最大トルク|678 Nm / 6,000 rpm
トランスミッション|7段オートマチック(SSG)
駆動方式|MR
サスペンション|プロアクティブサスペンション
タイヤ 前/後|235/35ZR19 / 305/30ZR20 ※P Zero CORSA前後装着
ブレーキ|カーボンセラミックディスク
最高速度|333km/h
0-100km/h加速|3.0 秒
0-200km/h加速|8.4 秒
0-300km/h加速|25.4 秒
CO2排出量|275 g/km
価格(消費税込み)|(クーペ)3,160万円  (スパイダー)3,400万円

           
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