近頃のボルボの底力を見た──ボルボ XC40のPHEVに試乗|VOLVO
CAR / IMPRESSION
2020年9月24日

近頃のボルボの底力を見た──ボルボ XC40のPHEVに試乗|VOLVO

VOLVO XC40 Recharge Plug-in hybrid T5|ボルボ XC40 リチャージ プラグインハイブリッド T5

エンジンの存在が限りなく希薄なコンパクトPHEV

昨今、電動化に向けてコンパクトSUV XC40、プレミアム・ミッドサイズSUV XC60およびフラッグシップSUV XC90のパワートレーンを一新したボルボ。今回は、XC40のPHEVモデル「XC40 リチャージ プラグインハイブリッド T5」に試乗した。

Text & Photographs by NANYO Kazuhiro

コンパクトPHEVという野心的なジャンルに踏み込んだモデル

すでにボルボには、「XC90」や「XC60」といった上位シリーズでSPA (Scalable Product Architecture=60、90シリーズ用プラットフォーム)のPHEVはあった。そのノウハウやフィードバックは活かせるし、規定路線だったとはいえ、ひと回り小さなCMA(Compact Modular Architecture=40シリーズ向けプラットフォーム)に基づくXC40でもPHEVを展開することは、ことほど左様に簡単ではなかった。
XC40は車格やサイズ感としては欧州CセグメントのSUVだ。プレミアム寄りでも欧州では量販ボリュームゾーンで、実用的な生活車であることが求められるクラスゆえ、重さとパフォーマンス、経済性とのバランスは捨て置けない。それより上のクラスでは2トン前後のハイパフォーマンスPHEVや2.2~2.4トン以上のBEV(Battery Electric Vehicle)が、環境フレンドリーであるかのようにまかり通っても、ひと昔前のロールス・ロイスが2.2トン前後だったことを思えば、何をいわんかやという状況だ。
実際、欧州Cセグメントを鳥瞰しても、PHEVといえばモデル末期のフォルクスワーゲン 「ゴルフGTE」か、辛うじてニッチで「ミニ クロスオーバー クーパーSEオール4PHEV」やBMW「225xe I アクティブツアラー」が健闘しているのみ。国産車ではトヨタ「RAV4」のPHEVが販売好調で話題を呼んだが、全長4,600㎜のRAV4はむしろDセグメントに近いサイズだ。
XC40はRAV4より20mmだけ全幅は広いが、全高は約30㎜低く、全長にいたっては175mmも短く、全長4.3メートル強のBMW勢よりわずかに長い4425㎜に落ち着いている。つまりCセグというコンパクトPHEVとして、絶妙の車格とサイズ感であり、しかもトレンド真っ只中のSUVクロスオーバーだ。
駆動レイアウトはAWDではなく、重量増を嫌ったか、FFとなる。新開発のDrive-E 1.5リッター3気筒エンジンに、「7DCT-H」というボルボが社内開発した電気モーター一体型の7段ツインクラッチ トランスミッションが組み合わされ、10.91kWh容量のリチウムイオンバッテリーをセンタートンネル内に搭載する。
衝突時の安全性を考慮して車体中央にバッテリーを配し、一定以上の衝撃で脱落させる方向性は、XC90やXC60のT8ツインエンジンから踏襲したものだ。バッテリー搭載で通常のガソリンやディーゼルなどICE( Internal Combustion Engine=内燃機関)のAWD版より重くはなったが、前後配分は約60:40というバランスに収まった。ちなみに地上最低高210 mmと、SUVらしく走破性クリアランスは保たれており、もとより電化を前提に開発されたCMAプラットフォームの優位性がうかがえる。

CセグメントのSUVとして期待通りの軽快なフットワーク

試乗車のボディカラーは「グレイシャーシルバーメタリック」という新色で、少し青のニュアンスがあって氷河のように陰影の諧調を豊かに見せる、限りなく白に近いシルバー。ナッパレザーのインテリアはベージュとチャコールグレーで、ボディと同系色だが温感コントラストで温かみを演出している。
一方で、アルミニウム製のエアコンのベンチレーターダイヤルやドアノブ、マットなドリフトウッドのパネル、オレフォス社製クリスタルのシフトセレクタにウールのドア内張など、フェイクでない素材感そのままのマテリアルを用いたインテリアは、もはや独壇場といっていいボルボ・ワールドでもある。これまで、XC40というとR-デザインに代表される鮮やかで元気なコントラストやツートーンが多かっただけに、今回のXC40リチャージになって随分と大人びて見えるものだ。
新しい3気筒エンジンにはアイドリングストップ機能は付くものの、市街地のリスタートはほぼ百発百中でEV走行、つまり電気モーターでこなしてしまう。そのため再始動で振動が伝わってくることがない。ドライブモードを「ピュアモード」にセレクトすると135㎞/hまで電気モーター固定だが、「ハイブリッド・モード」でもエンジンがなかなか介入してこない。少なくともメーターパネルの右下、バッテリー残量が残っている間は、よほどのベタ踏みをしない限り、積極的にEVであろうとする。
最大航続距離は約41㎞とされているが、例えば高速道路を下りた先の市街地でもEV走行がある程度できるよう、タッチスクリーン内でバッテリーのプロパティを呼び出すと、○%というかたちで任意の残量を予約キープすることも可能だ。ただしこの設定は一度電源を落として再始動した時にはメモリーされず、途中で休憩を挟んだ時などにリセットされてしまう。
そこが使い勝手の上で感じた数少ない不便だが、CセグメントのSUVとして期待通りの軽快なフットワークに、期待以上のなめらかさと静かなマナーが伴うことは確かだ。加えてもう一つ感心させられるのは、バッテリー残量がほぼゼロになった時でも、燃費が思ったより荒れないことだ。エアコンや安全装置などのオンボード機能を維持するため、バッテリー容量内にはデフォルトで、動力に割かない一定量が確保されているものだが、そこにBモードやブレーキ、下り坂、あるいはエンジンの燃焼によって多少なりとも動力分が蓄積されると、こまめに再び、電気モーターが働きだす。

首都高をエンジンのみで走っても平均燃費は14.7㎞/ℓをキープ

しかもXC40リチャージに積まれる1.5リッターターボは、180ps/260Nmとかなりハイチューンでトルキーでもある。PHEVの矛盾とは、バッテリー残量が少ないと途端に効率の悪いICE車でしかないことだ。並のPHEVは大排気量エンジンと組み合わされ、バッテリーによる車両重量増と、バッテリー消耗時のパワーとトルクの低下を誤魔化しているが、電気モーターが使えていた間とは対照的に、燃費の悪化までは御し切れていない。
ところがXC40リチャージPHEV T5は、バッテリー残量がほぼゼロで、首都高をエンジンのみで走っても、直近の平均燃費は14.7㎞/ℓをキープした。カタログ値では高速道路モードで15.1㎞/ℓなので、本来のパフォーマンスといえるだろう。確かに満充電かつEVモードで出発した頃は、それこそ21㎞/ℓを示すほどだったが、半日の間に徐々に平均燃費が下がってくるのは仕方がない。それでも下のキリが、ここまで粘ってくれることに、ちょっと驚いたのだ。
たいていのPHEVは、満充電で出発できる環境で半径30㎞程度の生活圏で乗る限り、ほぼEVとして機能し、遠乗りの頻度が少ないほどガソリンスタンドに行く機会が減る。BEVと違って外出先で電欠の心配はないものの、遠出の際の燃費悪化が懸念材料で、週末のちょっとした旅行などで心理的なブレーキがかかるのが従来、最大の欠点だった。ところがXC40リチャージは、その最低ラインの歩留まりを、高エフィシェンシ―のダウンサイジングターボに任せることで、明らかにケアしている。
もう一つ特筆すべきは、ボルボの開発による7段DCTは、電気モーターからの動力をリバースと2-4-6速へ、1.5リッターターボは1-3-5-7速へと、2系統それぞれのクラッチで伝達する。パワーモードでは両つながりの局面もあるが、DCTの特性を活かして、動力切替をシームレスかつコースティングやエネルギー回生の効率含め、少ないロスで行っているのだ。
かようにXC40リチャージPHEV T5は、既存の技術を巧みに再構成しながら、コンパクトPHEVとしてきわめて戦略性に富んだ仕上がりといえる。急速充電の月々プランに加入する必要も、充電ステーションでのマナーをまだ覚える必要もないが、エンジンの存在が限りなく希薄なコンパクトPHEVで、EV状態で走る静けさとなめらかさに慣れたオーナーは、おそらく数年後、次はBEVにしてみようと思うはずだ。コンパクトPHEVというまだ未成熟のジャンルで、そんな説得力に満ちた一台を提案できるところに、近頃のボルボの底力を見た気がする。
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