INTERVIEW|人が生きた証をフィルムですくい取る 『やさしい人』監督インタビュー
INTERVIEW|人が生きた証をフィルムで丁寧にすくい取る
映画『やさしい人』ギヨーム・ブラック監督インタビュー
前作『女っ気なし』が2013年のフランス映画祭で上映されるや、その瑞々しい才能に一気に注目が集まったギヨーム・ブラック監督。初の長編作品となる『やさしい人』が、10月25日(土)より東京・渋谷のユーロスペースほかで全国順次公開される。前作につづき、ヴァンサン・マケーニュを主演に迎えて紡ぎ出されるのは、寂れた街に暮らす人びとの生きた痕跡の数々。来日したギヨーム・ブラック監督に、その製作の背景をうかがった。
Text & Photograph by WATANABE Reiko(OPENERS)
『女っ気なし』のシルヴァンが、『やさしい人』ではイケメンになったワケ
『女っ気なし』では冴えない主人公シルヴァンを演じたヴァンサン・マケーニュが、大幅に減量し、今度はイケメン役で登場する。そんな触れ込みを耳にしただけで、なんとしてでもその姿をスクリーンで確かめたくなってしまう映画『やさしい人』。いまやフランスで引く手あまたとなったヴァンサンの魅力をいち早く発掘したのは、ほかならぬこのギヨーム・ブラック監督だ。
「さすがに20キロというのは大げさだけど、ヴァンサンは7~8キロ痩せたんじゃないかな。でも、マシュー・マコノヒーやロバート・デニーロに比べたらそんなに大したことじゃないよね(笑)。彼が自分で痩せたいと思っていた時期と、撮影がたまたま一致したんだよ。
『女っ気なし』のシルヴァンは、不器用で自分に自信がないという役柄だったけど、今回『やさしい人』のなかで彼が演じたマクシムは、年下の若い女性を誘惑する、カリスマ性があって性的魅力に満ちあふれたミュージシャン、という設定なんだ。なにしろライバルとなる彼女の元カレは、現役のサッカー選手という役どころだから、それなりに説得力が必要だしね(笑)」
本作の舞台となるのは、フランスのブルゴーニュ地方にある山間の街、トネール。かつてはインディーズでそれなりに名を馳せながらも、殺伐とした都会暮らしに疲れ果て、父がひとりで住む実家に戻ってきたミュージシャンのマクシム。ある日、そんな彼のもとを、地元情報誌の記者メロディが取材に訪れる。
一緒にワイナリーを巡り、スキーを楽しみ、雪の降り積もる街でとろけるような蜜月を過ごすふたり。しかし、幸せはそう長くはつづかず、逆上したマクシムは、いつしか狂気の淵に足を踏み入れてしまう。
前作同様、寂れた街やそこで暮らす人びとが抱える孤独や哀しみを、まるでフィルムに刻むかのように丁寧にすくい取っていくブラック監督。マキシムとメロディが恋に落ちる場面では、街にふたりの心情が投影されているかのように色づいて見える。「でも実は、このトネールという街の神秘性こそが、メロディという女性のミステリアスな面を象徴しているともいえるんだ」と監督は言う。
映画でなら、どんな人生でも残すことができる
ブラック監督がこの作品の前後に繰り返し見ていたのは、小津安二郎監督の作品だという。たしかにこの映画で描かれる父と息子の関係も、マクシムとメロディのほろ苦い恋愛に負けないくらい美しく、そして感動的だ。
「自分の感情をあまり表に出さず、自己犠牲の精神とも言えるほど控えめな小津作品の主人公に感銘を受けた」とブラック監督が言うように、本作においても、父と息子がお互いなにを話すわけでもなく、キッチンで眼差しをかわしたり、一緒に自転車に乗ったりするシーンは実に繊細に表現されている。
「たとえ同じ屋根の下に住んでいても、彼らはなかなか理解し合えない。ベルナール・メネズ演じる父親は、苦しむ息子に懸命に手を差し伸べようとしている。人間のもつ温かみを、どうにかして息子に伝えようとしているんだ」
最後に「ブラック監督作品にとってヴァンサン・マケーニュは、トリュフォーにおけるジャン=ピエール・レオーのような存在?」と尋ねたら、「こればっかりは彼自身が決めることだから、ぼくはなんとも言えないけど……」と前置きをしつつも、「これからも彼の人生の要所要所で、レオーのように、ぼくの映画に出てくれたらいいなとは思ってるよ」との答えが。
「ぼくがこの映画で記録したかったのは、現在のヴァンサン・マケーニュにほかならない。自分の作品には知人や素人を起用することが多いんだけど、それというのも、彼らが暮らす場所や、その時々の感情という、まさに彼らの生きた証拠を、映画としてずっと残しておきたいからなんだ」
ギヨーム・ブラック監督ならきっと、シルヴァンやマクシムとはまったく異なる、その時々のヴァンサン・マケーニュの痕跡を、フィルムに刻みつづけてくれるにちがいない。
Guillaume Brac|ギヨーム・ブラック
1977年生まれ。映画の配給や製作にかかわった後、FEMIS(フランス国立映画学校)に入学。監督科ではなく製作科を専攻するも、在学中に短編を監督。2008年、わずかな資金、少人数で映画を撮るため、友人と製作会社「アネ・ゼロ」を設立。この会社で『遭難者』『女っ気なし』を製作した。2013年に長篇第一作『やさしい人』が、第66回ロカルノ国際映画祭コンペティション部門に出品される。2014年1月にフランスで劇場公開された。
『やさしい人』
10月25日(土)より、ユーロスペースほかにて全国順次公開
監督|ギヨーム・ブラック
脚本|ギヨーム・ブラック、エレーヌ・リュオ/協力|カトリーヌ・パイエ
出演|ヴァンサン・マケーニュ、ソリーヌ・リゴ、ベルナール・メネズ、ジョナ・ブロケ、エルヴェ・ダンプ、マリ=アンヌ・ゲラン
配給|エタンチェ
2013年/フランス/100分
http://tonnerre-movie.com/
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