5代目セラーマスター、バティスト・ロワゾー氏インタビュー|LOUIS XIII
LOUIS XIII|ルイ13世
5代目セラーマスター、バティスト・ロワゾー氏 インタビュー
歴史と伝統を守り、重責を“楽しむ”、5代目の信念と志(1)
「木曜の朝に、東京でテイスティングをするというのは、私もはじめての経験です(笑)」。そう柔和に語るバティスト・ロワゾー氏の姿がグランド ハイアット 東京にあった。誕生して今年で141年という、驚くべき歴史を誇る“コニャック王”ルイ13世のセラーマスターだ。同社がリリースするすべてのコニャックに関して、最終的なブレンドを手がける要職に、34歳の若さで氏が就任したのは昨年4月。重責を担う5代目セラーマスターに、ルイ13世の個性を聞いた。
Photographs by KOBAYASHI Takashi (ITARU studio)Text by TASHIRO ItaruSpecial thanks to Grand Hyatt Tokyo
コニャックという神秘的な蒸留酒の世界
世界に蒸留酒は数多あるが、コニャックほど神秘的な酒はないだろう。フランス南西部コニャック地方というかぎられたエリアで収穫されるブドウでしか醸すことができず、ブレンドされるオー・ド・ヴィー(ブランデー原酒)のなかには、熟成100年に達するものも。琥珀色の液体のなかに、長い歴史と伝統が凝縮された蒸留酒がコニャックなのだ。
「コニャックはスピリッツ(蒸留酒)の帝王といわれています。コニャック地方では製法などのノウハウが遺産として世代から世代へと伝承されていくのが当たり前で、私の役割も先代から受け継いだもの。毎年、最高のブドウを見極めて収穫し、蒸留してオー・ド・ヴィーをつくり、熟成させる。本当に小さな一区画でしかつくれないコニャックという蒸留酒ですが、それが世界中に発信されていき、さらに時の流れも超越して愛飲家の手もとに届けられる。だからこそ、スピリッツの帝王と呼ばれるのでしょう」
コニャックを醸すメゾンはいくつもあるが、最古参のひとつであるレミーマルタン社は、クリュ(畑)にこだわる点が最大の特徴。コニャック地方には6つのクリュがあるが、そのうち、土壌の良さなどから最上位とされるグランド・シャンパーニュと、そのつぎに位置づけられるプティット・シャンパーニュ、ふたつのクリュのブドウのみをもちいてすべてのコニャックをつくっている。
「1724年創業というレミーマルタン社のセラーマスターに就任することができた私は、本当に幸運に恵まれた男だとおもっています。なぜなら、レミーマルタン社のセラーマスターになったということは、コニャック地方のなかでも最大級の、そして、最高級のオー・ド・ヴィーの質と量を守らねばならない立場にあるからです」
にこやかに語る氏だが、その重責は、凡人には計り知れないものがあるだろう。しかし、毅然(きぜん)として氏は言うのだ。
「たしかに、私の手のなかには100年、つまり1世紀以上もまえに蒸留されたオー・ド・ヴィーがあって、メゾンが積み重ねてきた歴史をいま、私がブレンドすることでひとつのコニャックに仕上げるという作業をしていますが、私には信念と志があります。我われが契約するブドウ栽培者とテロワール(土地)の魅力、熟成したオー・ド・ヴィーのすばらしさを伝えたいと願う信念と、この歴史を継承していくことで達成される志です。重圧はありますが、それに押しつぶされることなく、楽しみながら責任を果たしていきたいのです」
大学で醸造学を学び、国立コニャック生産者協会ではオー・ド・ヴィーの質を向上させる技師として活躍した氏がレミーマルタン社の門をもぐったのは、2005年のこと。当初から氏の才能に気づいた先代のセラーマスター、ピエレット・トリシェ氏のもとで経験を積んできた。
「セラーマスターの仕事は、学問として学べるものではありません。昨年4月に開かれた就任式のまえから、使命をまっとうするために、ピエレット・トリシェと長い時間を過ごしてきました。つまり、セラーマスターには、時間をかけて十分な準備をしてからでないと果たせない職責がある。先代と話をし、さまざまな意見交換をしながら長い時間をかけて実務に当たることでしか、セラーマスターの仕事は会得できないのです。いま、こうしてセラーマスターとしてお話しできているのも、先代のお陰だとおもっています」
Page02. 代々のセラーマスターがスタイルを守る、ルイ13世
LOUIS XIII|ルイ13世
5代目セラーマスター、バティスト・ロワゾー氏 インタビュー
歴史と伝統を守り、重責を“楽しむ”、5代目の信念と志(2)
代々のセラーマスターがスタイルを守る、ルイ13世
セラーマスターとなったロワゾー氏にとって、もっとも重要な任務はルイ13世のブレンド。ルイ13世とは、レミーマルタン社が誇る最高級のコニャックで、原料はグランド・シャンパーニュで収穫された最高品質のブドウのみに限定している。熟成はティエルソンと呼ばれる樹齢100年の希少なオーク材の樽で。さらにブレンドは40年から100年の熟成を経たオー・ド・ヴィーのなかから吟味されており、最終的には1200種以上をブレンドすることで完成へといたる。1874年の誕生以来、その高いクオリティを守りつづけてきたのが代々のセラーマスターだ。
「自然があたえてくれたオー・ド・ヴィーのなかから、ルイ13世に適した最高のものを選ぶため、何千も貯蔵されているオー・ド・ヴィー、そのすべてをテイスティングして、その年にブレンドする原酒を決めます。ときには、ルイ13世に相応しいものが10、あるいは20しか見つからない年もある。それは厳しすぎるという意見も聞かれたりしますが、ルイ13世には厳しすぎることが必要なのです。そうしないと、ルイ13世の輝きを絶やさないよう心血を注いできた、先人たちの努力を無駄にしてしまうことになる。それは私が決して、してはならないこと」
ロワゾー氏に促されるまま、ルイ13世の香りを楽しむ。フルーティで、無花果や棗のようなニュアンスが感じられる。非常に凝縮された香りだ。そして、ほんの数滴、口にふくむ。すると、それだけでバラのようなフローラルな香味が広がる。そのあとで、かなり早い段階から現れるのはエキゾチックな世界。パッションフルーツ、パイン……。
「ルイ13世というコニャックの帝王ですからね。我われは五感をフル稼働して感性を研ぎ澄まし、帝王のお言葉を拝聴するという感じでしょうか(笑)。感動の波が絶え間なく押し寄せ、お互いが呼応し合って、より大きな世界をつくり出す。複雑ですが、すべては大きな調和のなかに共存しているんですね。これこそがグランド・シャンパーニュのブドウでつくられたオー・ド・ヴィーの特徴です。
長い熟成に耐えられない原酒だと重たさが出ることもあるのですが、これだけ長い期間の熟成を経ているにもかかわらず、重たさは皆無で、フローラルと形容できるエレガントさを保ちつづけている。緊張感がありながらも軽やか、凝縮感がありながらも瑞々しいという、パラドックスのような個性がルイ13世に見出せるのは、グランド・シャンパーニュの原酒を使っているからなのです」
未来をしっかり見据えて今日も職務をまっとうする
先人たちが築いてきた歴史と伝統が凝縮された一杯のルイ13世。ロワゾー氏は「先代をはじめ、ブドウ栽培者など、ひととひととの繋がりこそ、コニャックづくりの要」と言っていたが、飲むことで、先人たちとも繋がることができる。そんな気分になれるからこそ、コニャックは神秘的であり、ロマンティックな唯一無二の蒸留酒なのだ。
「9年後はレミーマルタン社が創立300年となるだけでなく、ルイ13世も150年という節目の年を迎えます。だから、多くのことを企画し、実行しようとおもっています。ティエルソンの番人としては、熟成感の表現がほかと異なる、特別なティエルソンが見つけられたら、と。
そうすれば、ピエレット・トリシェがルイ13世 レア・カスク42.6を発表したように、私も、そのティエルソン単独でみなさんにご紹介できる機会が訪れるかもしれません。けれど、その機会が訪れるか否かはまったくわかりません。9年って、コニャックにとっては本当に短い期間でしかないんですよ。
それから、いま私が蒸留したオー・ド・ヴィーは、私の手ではブレンドされないものがほとんど。私のつぎの世代、そのつぎの世代のためのオー・ド・ヴィーになっていきます。ですからセラーマスターとして、ルイ13世をはじめとするレミーマルタン社のコニャックを愛飲してくださっている方々をがっかりさせないよう、歴史を紡いでいかねばなりません。こんなに若い私をセラーマスターにしてくれたレミーマルタン社にたいしては、そうして誠心誠意努めることでしか、恩返しできないとおもっているんです」
Baptiste Loiseau|バティスト・ロワゾー
1980年、フランス・コニャック地方生まれ。2005年、フランス国立コニャック生産者協会に実験技師としてくわわり、コニャックの原種の質を向上させるという職務を果たす。2007年、レミーマルタン社にプロジェクト顧問技師として入社。当時セラーマスターであったピエレット・トリシェ氏は、早くから彼の素質を見抜き、2011年には副セラーマスターに任命。そして2014年4月、彼女の後継者として、34歳の若さでセラーマスターに就任した。
ルイ13世
希望小売価格|25万円(税抜)
グランド ハイアット 東京「マデュロ」
営業時間|19:00〜翌1:00 ※金曜・土曜は翌2:00まで
ドレスコード|スマートカジュアル
住所|東京都港区六本木6-10-3 グランド ハイアット 東京 4階
Tel. 03-4333-8783