LOUIS XIII|セラーマスター、ピエレット・トリシェが究極のコニャック「ルイ13世」を語る
LOUIS XIII|ルイ13世
セラーマスター、ピエレット・トリシェが究極のコニャック「ルイ13世」を語る
4代・百年の時を経て生まれる至極の一滴(1)
「ルイ13世は、このデキャンタの中に一世紀分のノウハウが詰まっています」──と語りはじめるのは、レミーマルタン社の初の女性セラーマスターで、就任以来「ルイ13世」のスタイルを守りつづけているピエレット・トリシェさん。“コニャックの王”であるルイ13世の魅力をさぐる。
Text by KAJII Makoto (OPENERS)Photographs by HARA Emiko
この1本を造りあげるのに、4代のセラーマスターが必要でした
2009年以来、2回目の来日となるマダム・トリシェさん。グランド ハイアット 東京4階のバー「MADURO(マデュロ)」内にある「ルイ13世」を楽しめるフラッグシップバー「メゾン ルイ13世」でお話をうかがった。
──まず、「ルイ13世」について簡単にご説明ください。
ルイ13世は、コニャック生産地のなかでも、とくに繊細な葡萄を生み出す地区であるグランド・シャンパーニュで収穫され厳選された葡萄のみを使って造られています。葡萄が栽培され、収穫され、ワインになります。
できあがったワインを2回蒸留しますが、ワインの澱(おり=ワインのなかにある色素やタンニンなどからできるもので)も一緒に蒸留するのが特徴で、蒸留器のなかにはまったりとした脂肪分のようなものも入ります。そこで技術を駆使して、上質なオー・ド・ヴィー(原酒)が手に入ります。
そのオー・ド・ヴィーをテイスティングチームが、香りだけでセレクションしていきます。そのときのポイントは、「40~50年、100年後に、このオー・ド・ヴィーはどうなるか」です。香りだけでこのオー・ド・ヴィーが将来どうなるかというビジョンをもち、最終ブレンドのなかにどう入っていくのかを考えるのです。
──香りだけでセレクトするのですか。
そうしてセレクションされたオー・ド・ヴィーは、コニャックのとなりにあるリムザンの樫の木の森から採られたオークの樽で熟成に入っていきます。貯蔵庫の中に樽で保管され、オペレーターが熟成工程を管理し、私たちがオー・ド・ヴィー同士のブレンドをするのです。
なぜ、4代・100年の時が必要なのか?
──なぜ、ルイ13世には100年の時間が必要なのでしょうか?
ルイ13世には、40~50年、あるいは100年の時間を経過し熟成した、およそ1200種のオー・ド・ヴィーが入っています。1200種のオー・ド・ヴィーの最終ブレンドを私がおこないます。ですから、ルイ13世は100年のノウハウの集結であり、コニャックの王、あるいは王のコニャックと呼ばれるゆえんです。
──マダムは1200種のオー・ド・ヴィーの香りのすべてを記憶しているのですか?
嗅覚は発達していると思いますが、私の仕事は、先代からの大きな遺産を受け継ぐもので、つぎの世代に受け渡していく遺産をつくっているのです。
ピエレット・トリシェ|Pierrette Trichet
レミーマルタン社セラーマスター。1953年2月15日フランス・ミディ・ピレネーに生まれる。アルマニャックの産地であるサント・クリスティ・ダルマニャックで、ワインの造り手である父と教師の母のもと、オー・ド・ヴィに親しみながら育ち、トゥールーズ大学にて生物化学を学ぶ。
1976年大学卒業と同時にレミーマルタン社でコニャックにかかわる仕事をはじめ、蒸留酒の世界に情熱を捧げることを決意する。コニャックの成分分析やテイスティング、品質の研究を通じて研鑽を積む。2000年にはアシスタント・セラーマスターとなる。
2003年、コニャック醸造業者のなかで女性として初のセラーマスターに就任。レミーマルタンに継承されてきたスタイルを守りつづける重責を担う。
LOUIS XIII|ルイ13世
セラーマスター、ピエレット・トリシェが究極のコニャック「ルイ13世」を語る
4代・百年の時を経て生まれる至極の一滴(2)
ルイ13世の世界に誘うテイスティング
パワフルでエレガントなアロマ──ルイ13世のグラスを前にすると、葡萄栽培者、葡萄園の管理者、ワイン造り、樽作りの職人、貯蔵庫のオペレーター、そしてブレンダーであるスタッフの何世代にも渡る仕事、そのものがルイ13世の歴史であることを知る。自然と闘い、ひとの英知によって生まれた一滴の香りの馥郁(ふくいく)たる魅力とは。
──お話をうかがうと、とても貴重な酒ということがよく理解できます。
ではテイスティングしてみましょう。ここには一世紀分のノウハウが詰まっています。そう思っていただき、謙虚に、尊敬の念をもってグラスを持ってください。
香りを確認できる自分の距離までゆっくり顔をグラスに近づけてください。アロマがパワフルで、さらにエレガントであることに気づくでしょう。目を閉じて香りを感じてください。
まずフローラルなノートを感じます。ジャスミンですね。ジャスミンはグランド・シャンパーニュの特徴で、証しでもあります。つぎにフルーティな香りは、プラムやミラベル(サクランボのような、小さくて丸く黄色い実)のジャムのようで、なつめ、いちじく、くるみも香ってきます。10年ほど樽の中で熟成させると、なつめ、いちじく、くるみの香りがします。これは、ティエルソンという名の特別な樽、古い樽であることがわかります。ルイ13世はいろいろな香りがするので、まずアロマをお楽しみください。
口の中で華やかにはじける花火のよう
──味わってもいいですか?
ほんのごく少量、涙の一滴分ほど、口に入れてください。口の中はあたたかいので、その一滴が花火のように広がっていきます。そのあたたかみのなかで、プラム、くるみ、蜜蝋(みつろう)を感じますが、とくにくるみが際立ちます。サフランも少し混じっていますね。
色も見てください。オー・ド・ヴィー(原酒)は、樽に入っているときも蒸発していて、蒸発することで凝縮するのですが、年代を経るほどに琥珀色のキレイな色合いが出てきます。
──なんとも華やかな味わいですね。
そうですね。アロマも感じてください。このあと1時間ぐらい経ったとき、フッと香るのを感じていただけるはず。あとくちの長さもルイ13世の伝説の一つです。そして、この瞬間をいつまでも覚えていてください。ルイ13世を味わったひとは、この魅力を多くのひとに伝えるアンバサダーになってください。
──マダムの好きな飲み方は?
やはり混じりけのない状態で飲んでいただきたいので、ストレートですね。ストレートで、アロマのパワーを感じてください。親密な友人や家族と一緒に過ごす分かち合いの時間に、あるいは食後に、ルイ13世と向き合って、静謐な気分になって楽しんでいただきたいですね。
LOUIS XIII|ルイ13世
セラーマスター、ピエレット・トリシェが究極のコニャック「ルイ13世」を語る
4代・百年の時を経て生まれる至極の一滴(3)
「なにも変えてはいけない」ことが、セラーマスターのミッション
マダム・トリシェは、コニャック地区のとなりにある小さな村に住み、ご主人とともに田園暮らしを楽しんでいるという。「研究所まではクルマで5分、自転車で15~20分ぐらい。理想的な環境にいますね」と笑う。「オフィスの下には何千という樽のある貯蔵庫がありますが、貯蔵庫に行くのが好きですね。樽を管理するオペレーターと話をするのも大好きです」と言う。
──マダムは、セラーマスターを目指されてなったんですか。
私は2003年に、レミーマルタン社長のドミニク・エリアール・デュブリュイユによってセラーマスターに任命されましたが、35年前の入社から人生のほとんどを捧げてきました。最初はレミーマルタンの研究所で、より上質なものを造る研究に没頭しました。
──レミーマルタン社にとって、より上質なものを造るとは、どういうことですか?
それは、「今までのやり方を変えないこと」です。最高のワイン、最高のオー・ド・ヴィー(原酒)、最高の樽、最高の貯蔵技術、最高のブレンド……、最高のコニャックを造るために、“なぜこれを使わなければならないのか”を絶えず研究をつづけています。
──やり方を変えないことを研究するのですか?
先代のセラーマスターは、ルイ13世のスタイルを教えてくれ、あらゆることを教えてくれました。セラーマスターの仕事は「なにも変えてはいけない」と。セラーマスターは、ブランドのスタイルを守り、つぎに伝えるという仕事でもあります。ですから、私独自のスタイルを作ってはいけません。必要なのは、レミーマルタンスタイル、ルイ13世スタイルなのです。
ルイ13世は土があたえてくれた賜物
──セラーマスターとして心がけていることは?
自然は絶えず変わるが、私たちは何も変えない──自然は自然の役割を果たし、ひとができることを果たす。ルイ13世は、自然があたえてくれたものでできていますが、私たちは何も変えてはいけません。
自然の変化をブレンドすることで、毎年の収穫の微妙な差を埋めていくのです。つまり、セラーマスターの仕事は、1874年に生まれたルイ13世と、今ここで味わっているルイ13世がおなじ味で登場するという、“ちがいを平らにしていく”仕事なのです。
──では、ルイ13世ファンにメッセージを。
この仕事に情熱を捧げた人たちが力を結集してつくりあげたルイ13世の“味と時間”をゆっくりお楽しみください。かならず幸せな時間が流れると思います。これは誰かと分かち合いたいお酒で、一生忘れることのできない時間をともにできるものです。一度味わった方はぜひルイ13世のアンバサダーになってください。