キース・ヘリング作品とのコラボで発信する、印傳屋上原勇七の新たな挑戦とこれから(後編)
FASHION / FEATURES
2021年12月23日

キース・ヘリング作品とのコラボで発信する、印傳屋上原勇七の新たな挑戦とこれから(後編)

上原伊三男専務インタビュー(後編)

甲州印伝とポップアートという意外性のある組み合わせが、話題を呼んでいる印傳屋のキース・ヘリング コレクション。前編ではコラボレーションに至る経緯や想いを上原伊三男専務に語っていただき、その工房における作業の一部をご紹介した。後編となる本稿では、印伝に欠かせない鹿革と漆という原材料の調達について、さらには海外展開や新たな市場への挑戦について話を伺った。

Photos by NORIYO  Text by KAWASE Takuro

手前のブルーのポーチは10月末から販売開始されたキース・ヘリング コレクション第一弾。奥のブラックのポーチが11月末から販売開始された第二弾。かつてないポップな仕上がりが印伝に新たな魅力を加える。

© Keith Haring Foundation. www.haring.com. Licensed by Artestar, New York.
お客さんからの反応で印象的だったことはありましたか?

キース・へリング作品とのコラボレーションをきかっけに初めて来店した方が、蜻蛉(とんぼ)や青海波(せいがいは)といった伝統的な柄の商品にも興味をもってくださり、一緒にお求めいただいている事が新しい発見でした。伝統の柄は古くからのお客様が好まれるイメージがあり、若い方向けの商品ではないと思っておりましたが、10代~30代くらいまでの方からも“見た目がカッコいい”と言うシンプルな理由で、手に取ってもらえる事に驚きました。何百年にも渡って文化として継承されてきた柄には、人々を惹きつける普遍的な魅力があることと、今回のようなきっかけで存在を知ってもらう機会があれば、模様の由来やそこに込められた想いをご説明する中で、愛着をもって受け入れてもらえるという手応えを感じています。
印伝の代表的なモチーフのひとつである青海波。波模様が無限に連なり広がる模様は、未来永劫に続く平安への願いが込められている。
漆付けで重要になる型紙は全て、型紙職人による手彫りによって生み出される。
職人たちの工房に大切に保管されている型紙の数々。日本古来の伝統的な柄はもちろん、今回のような新しい柄も加えられ、印傳屋の貴重な財産となっていく。
印伝に欠かせない原材料の調達とサステナビリティについて
昨今、過剰に繁殖した鹿による農業被害などが問題になっています。その点で印伝の原材料として駆除された鹿を利用するのは、SDGs的にも非常に理に適っていると思います。こうした点も踏まえて、鹿の原皮の調達について教えて下さい

ご指摘にあったように日本国内で害獣として捕獲される鹿の活用は話題にはなりますが、国内で捕獲される鹿の頭数は、産業として必要とする量には到底及ばないのが現状です。以前は、中国からの輸入に頼っていた時期もありますが、現在は、安定的な供給が得られることから、北米やオセアニアからの調達へと意識的にシフトさせてきました。オセアニア地域では鹿を、牛や豚などと同様に、主に食肉用として飼育しており、その副産物として鹿革が安定供給されます。また、革を目的とした乱獲の心配がありません。また、北米ではハンティングが盛んで、政府が生態系維持を目的とする範囲で、年間の捕獲頭数がコントロールされていることも大きな理由です。

なるほど、そうした変化もあるのですね。サステナビリティという点でも原材料の適正な入手というのは大切ですね。

世界的なブランドとして継続的なビジネスとするためには、サステナビリティやトレーサビリティの管理が厳格に求められます。そのため、鹿革がどのように採取されたのか、それらの産業に携わる人々の労働環境、自然環境への配慮まで明確になった革である必要があります。こうした経験から、弊社が直接お客様に販売する商品もそれらの管理が行き届いたものをという思いが強くあります。よって弊社では、捕獲からそのすべての利用を含めたサイクルが整ってはじめてSDGsという考えが成り立つものであると考えております。印傳屋としては、国内だけではなく世界的な視点で、人々の暮らしのサイクルとして、適正な形で利用できる鹿革を使った印伝をお届けしたいと考えております。
燻(ふすべ)と呼ばれる、印傳屋上原勇七だけに途絶えること無く継承されている門外不出の技法。鹿革に藁を炊いた煙を当てて、独特な色合いと強度をもたらす。
また国内で流通している漆についてもほとんどが輸入に頼っているそうですが、この点についても印傳屋の取り組みを教えてください。

印傳屋としても、国産の漆を利用したい気持ちがありますが印伝の産業だけでは、とてもその需要を押し上げる事が叶わない状況です。十分な大きさに育った漆の幹に傷を付けて、少しずつ滴る樹液を集め、漆を採取するのはとても手間のかかる仕事となります。しかし近年、漆を利用する国内の産業が小さくなるにつれて、その手間に対して見合った需要が減ったため、日本国内では後継者も少なくなっているのが現状です。現在、高価な国産漆が使用できるのは、神社仏閣の装飾や一部の高級品など限られてしまいます。こうした状況もあり、現在は主に中国から輸入されたものを利用しています。以前は、国産の漆と比べると少し見劣りすると言われておりましたが、弊社を含めた漆を取り扱う企業の努力によって、現在では、印伝はもちろん漆器に利用する輸入の漆も、ほとんど遜色ないほどの出来栄えになってきております。
印傳屋上原勇七 専務取締役 上原伊三男氏。WEBを含めた広報活動をはじめ、海外進出や製品開発においても率先して指揮を執る。
コロナ禍における海外進出のアプローチと印傳屋のこれから
世界でも着実に評価を得ていますが、これまでの海外への取り組みについて教えて下さい

2011年から海外向けにINDEN EST.1582というブランドを立ち上げ、NYの展示会に参加しています。現地のバイヤーからは好意的に評価していただき、少しずつ取引先も増えています。ただし、印伝の認知度はまだまだ低く、ビジネスとしては難しいところです。同価格帯のブランドに対して、まだまだ印伝の特徴である鹿革と漆の質感や品質、印伝そのもののブランド背景など認知獲得が課題と捉えております。そのため、品質には自信をもっておりますが、知名度のあるブランドと比較すると割高感を持たれてしまうことがあるからです。

コロナの影響もありますが、今後の海外展開についてお聞かせください

海外での展示会を通じて、一定の手応えを得られるようになって来た最中にコロナに見舞われてしまいました。高額な出展費用も含め、コロナをきっかけに海外へのアプローチも見直す段階なのかも知れません。ただ、海外向けに開発した製品が逆輸入のような形で、日本のお客様に受け入れられたことは嬉しい誤算でした。同時に地方の一企業が海外市場にチャレンジする姿を知っていただき、多くの方に評価していただいていることは我々の励みになります。
印傳屋上原勇七本店のディスプレイ。伝統とモダンな感性が同居した心地よい空間が広がる。
それでは最後に、印傳屋のこれからのチャレンジについてお聞かせください

これから消費者はより一段と製品に対して厳しい目線を向けています。そうした時代で選ばれるブランドであり続けるためには、目先の売上だけに気を取られるのではなく、企業価値を高める地道なブランド活動が大切だと考えています。そうした中、新たな市場として注目しているのがインテリアです。コロナ禍において在宅時間が長くなったことでニーズが高まっていることもあり、家具や壁紙に印伝を使っていただき新たな市場を開拓したいですね。革小物にとどまらず、広くライフスタイルに寄り添うブランドとして広がりを見せたいですね。
問い合わせ先

印傳屋公式サイト
印傳屋公式オンラインショップ

                      
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