INTERVIEW|レミーマルタン社、5代目セラーマスターに訊く
INTERVIEW|レミーマルタン社のセラーマスターに34歳のバティスト・ロワゾーが就任
新旧セラーマスターが語る“メゾン レミーマルタン”(1)
34歳のバティスト・ロワゾーが、レミーマルタン社5代目セラーマスターとして、290年の歴史をもつレミーマルタンのスタイルを受け継いでいく──。1724年にレミー・マルタンが立ち上げ、後継者によって受け継がれてきたセラーマスターという特別な伝統に、あらたに名を連ねたバティスト・ロワゾーが、4代目セラーマスターのピエレット・トリシェとともに来日。これからの意気込みを語った。
Text by KAJII Makoto(OPENERS)
ともに分かち合い、お互いに豊かになることの大切さ
セラーマスターとは、たぐいまれな才能と高度な技術をもった“ブレンドのコンダクター(指揮者)”である。レミーマルタン社が誇る、アロマと味わいの完璧なハーモニーを奏でるフィヌ・シャンパーニュ コニャック。このコニャックを世に送り出すのがセラーマスターの仕事だ。今春、バティスト・ロワゾー氏はその5代目に就任した。
4代目のセラーマスターとして2003年に就任し、昨年大きな話題を呼んだ「ルイ13世 レア・カスク42.6」を発見したピエレット・トリシェさんは、女性として初のセラーマスターを務め、レミーマルタン社に継承されてきたスタイルを守りつづけきた。
過去1世紀のあいだに活躍したセラーマスター、アンドレ・ルノー、アンドレ・ジロー、ジョルジュ・クロ、ピエレット・トリシェの4人が背負ってきた重責を、34歳のロワゾー氏が受け継ぐ。
──5代目セラーマスターの就任、おめでとうございます。ピエレットさんから指名されたときはどう感じましたか?
バティスト・ロワゾー(以下、ロワゾ―) 時を経てさまざまな感情が交じり合いました。最初は光栄で誇りに思いましたが、それから少しずつ恐怖と喜びを感じるようになりました。ただ、セラーマスターの指名に際し、ピエレットが以前から指名を“見越した”行動をしてくれていたので、準備期間もあって、安心して受けることができたのも事実です。
──セラーマスターに就任するという予感はありましたか?
ロワゾー わたしがピエレットのチームに参加したのは2007年ですが、当初からこの仕事はうまくいくという予感はありました。2007年に参加した当初、私は栽培担当で、ブドウの栽培者にアドバイスをしたり、オー・ド・ヴィー(蒸留酒)を作ったりしましたが、ピエレットはとても話の通じる人で、そばで仕事をして認めていただけたのかなと思います。
──ピエレットさんはどんなセラーマスターでしたか?
ロワゾー とても厳しく、要求の高い方です。その点はわたしもよく似ていると思います。セラーマスターとしてピエレットの一番素晴らしいところは、“分かち合うという気持ちの強さ”です。チームのなかで先生と生徒ではなく、人同士が話し合いを通じて分かち合い、お互いに豊かになるというスタンスをもっていました。
テイスティングスタッフとテイスティングをし、意見を言い合い、分かち合うことで、わたしだけでなく、スタッフ全員が優れた資質をもつようになったと自覚しはじめました。それは素晴らしい共有です。
INTERVIEW|レミーマルタン社のセラーマスターに34歳のバティスト・ロワゾーが就任
新旧セラーマスターが語る“メゾン レミーマルタン”(2)
レミーマルタン社4代目セラーマスター、ピエレット・トリシェさんは、1976 年に同社の研究室に入社し、2003 年に大手コニャック・メゾンでは初となる女性のセラーマスターに就任。ブレンドの基礎になるオー・ド・ヴィー(蒸留酒)を選別する卓越した能力や大胆な創造性をもち、在任中に「ルイ13世 レア・カスク42.6」の発表など輝かしい業績を残した。
レミーマルタンスタイルの継承
──セラーマスターを務めた11年を振り返ってみていかがですか?
ピエレット・トリシェ(以下、トリシェ) 無事に職務をやり終えたことに誇りを感じています。レミーマルタン社が、大胆にも女性をセラーマスターとして任命したことに対して、レミーマルタンの歴史を継承できたこと。わたしに手渡された前任者の遺産を十分活用でき、その価値を知らしめることができたこと。「ルイ13世 レア・カスク42.6」という素晴らしい商品を作り上げる機会があったこと。そして、次のセラーマスターとなったバティストに出会い、後継者として選ぶことができたことのすべてに誇りを感じています。
──無事に重責を終えたという安堵感はありますか?
トリシェ ホッとしているし、レミーマルタンの歴史を、レミーマルタンのスタイルで継承できたことを誇りに思います。バティストに時間をかけてメゾンのノウハウを伝えることができたのも誇りのひとつですね。
──バティスト氏にセラーマスターの座を受け渡すとき、なにかピエレットさんなりに付け加えたアドバイスのようなものはありますか?
トリシェ わたしが前任者からさまざまな知識を受け継いたときの方法とは違います。バティストとは何年もチームとして仕事をしたおかげで、自然にシンプルな形で伝えることができました。彼とは同業者意識があり、分かり合える人間同士の感情がありました。わたしは2009年に引退を考えたのですが、次の後継者として彼をメゾンに推薦しています。それから今春まで指導してきました。
──セラーマスターとして体験したなかで、もっとも思い出深い“瞬間”とはなんでしょう?
トリシェ 難しい質問ですね。わたしは自然が素晴らしいことを実現する、それを認める瞬間があります。「ルイ13世 レア・カスク42.6」の樽を発見したときもインパクトある瞬間でしたし、バティストがつぎのセラーマスターになると確信したときも、素晴らしい瞬間でした。
──バティストさんはいかがですか?
ロワゾ― 今年の4月10日のセラーマスターの就任式のときです。レミーマルタン社のスタッフ、チーム、そして家族が集まって、感動が頂点に達しました。そのときに情熱を感じたし、レミーマルタン社がもつ“シンプルで強い”スタイルと同様の感情だったと思います。
INTERVIEW|レミーマルタン社のセラーマスターに34歳のバティスト・ロワゾーが就任
新旧セラーマスターが語る“メゾン レミーマルタン”(3)
セラーマスターとして一番大切なこと
──セラーマスターの仕事で一番大切なことを教えてください。
トリシェ なにもかも大事ですが、レミーマルタンの品質にふさわしいオー・ド・ヴィー(蒸留酒)を作るための樽になる木を選ぶこと、そしてできたオー・ド・ヴィーをセレクトすること。そして「ルイ13世 レア・カスク42.6」のようなあたらしいしいクリエイションのコンセプトを作るときが、この仕事のやりがいでしょうか。
ロワゾー 一番大切なのは、メゾンのスタイルを守りつつ、さまざまなオー・ド・ヴィーをクリエイトしていくことです。また、パートナーである契約農家との良好な関係づくりなど、ルーティンワークではなく、すべてを楽しむように心がけています。
──ピエレットさんが発見した「ルイ13世 レア・カスク42.6」のような出会いは求めますか?
ロワゾー もちろんです。「ルイ13世 レア・カスク42.6」は、ティエルソンと呼ばれる特別な樽をピエレットが見つけて、私たちふたりでつねにマークし、ふたりで最高の状態を確認しました。わたしは、おなじようにピエレットから違うティエルソンを教えてもらい、いまはそれに注目しています。どのように変化していくかを見守っていますが、彼女がしたように、自然の手に委ねて、いつか最高のバランスに達すると思っています。そして、その瞬間を的確に捉えたいと思います。
──では、これから目指すセラーマスター像を教えてください。
ロワゾー わたしはレミーマルタン社の特徴を高く掲げながらそれを実現していこうと思います。仕事では質の高さを追求していきたい。前任の3人のセラーマスターからは、「セラーマスターというのは、厳しい基準をもたなければならない」と言われたことを覚えています。
在職中はシンプルで謙虚にレミーマルタンの価値を追求し、いずれセラーマスターの職を次に譲るときがきたら、ピエレットがわたしにしてくれたように、次の適任者を選んで、メゾンの歴史をその人に委ねていきたい。それまではピエレットともメゾンのなかの歴史ではつきあいがつづいていくので、まだ見守っていてもらいたいと思っています。
問い合わせ
レミー コアントロー ジャパン
Tel. 03-6441-3025
Baptiste Loiseau|バティスト・ロワゾー
1980年フランス・コニャック生まれ。2000年から2004年まで、農学者、醸造学者になるための教育を受け、その後、フランスボルドー、南アフリカ、ニュージーランドで研鑽を積んだ。2005年、フランス国立コニャック生産者協会に実験技師として加わり、土壌や天候、ワイン醸造技術の関係を厳密に分析し、コニャックの原酒の質を向上させるという職務を果たした。2007年、レミーマルタン社にプロジェクト顧問技師として入社。当時セラーマスターであったピエレット・トリシェは、早くからセラーマスターの素質が彼にあることを見抜き、2011年には副セラーマスターに任命。そして2014年4月、ピエレット・トリシェの後継者として、34歳の若さで、5代目セラーマスターに就任。290年の歴史をもつレミーマルタンのスタイルを受け継ぐ責任を担う。