スポーツカーは2つの表現とひとつの方向性|Geneva Motor Show
CAR / MOTOR SHOW
2017年3月28日

スポーツカーは2つの表現とひとつの方向性|Geneva Motor Show

Geneva Motor Show 2017|ジュネーブ モーターショー2017 解析その1

スポーツカーは2つの表現とひとつの方向性

大盛況のうちに幕を閉じたジュネーブ モーターショー 2017。新型のスーパーカーが華々しくデビューする一方で、相変わらず人気のSUVたちが覇を競い合う。またプラグインハイブリッドなどのエコカーや最新技術も人々の強い関心を集めた。そんなアタリ年の会場を巡った南陽一浩氏によるリポートを3部に分けて報告する。第1回は注目のスーパーカーたちだ。

Text by NANYO KazuhiroPhotographs by Mochizuki Horohiko

スーパースポーツがしのぎを削った2017年のジュネーブ

ジュネーブサロンはつねにスポーツカーの檜舞台として機能してきたし、2017年もその期待が裏切られることはなかった。ただ久々のスポーツ熱は昔のようにすごいスポーツカーに顧客がついてくるといった単純な図式ではなく、さまざまの配慮や戦略、新興マーケットの需要といったものに下支えされていることを感じられる。

キーワードは、「メカニズムとしてのノーブルさ(高貴さ)」。いわばスポーツカーとしてのインテグリティ(完全性・純潔さ)をどう保つか、正統化するかだろう。カタカナが多くて申し訳ないが、日本語に訳しづらい、もともとない概念がキーになるのも、近頃の傾向だ。それだけ日本語で表せる手つかずでない領域が、広くなった証でもある。

Alpine A110|アルピーヌ A110

Alpine A110

Ferrari 812 Superfast|フェラーリ 812 スーパーファスト

Ferrari 812 Superfast

主役は、大排気量エンジン、そのなかでも自然吸気を積むスーパースポーツにスポットが当たっていたように思う。逆にライトウェイトスポーツでも「アルピーヌ」の復活という、見るべきものがあった。いずれも、スポーツカーの純粋性を2017年の今、どう提案するか?という興味深いエクササイズといえる。

Geneva Motor Show 2017|ジュネーブ モーターショー2017 解析その1

スポーツカーは2つの表現とひとつの方向性 (2)

812スーパーファストは最後の自然吸気V12エンジンとなるか

まず「F12」の後継たるV12のFRモデルとして発表されたフェラーリ「812スーパーファスト」の、6,496ccにして800ps/8,500rpmというスペックは驚倒に値する。800psのロードカーが一体、どこでその本領を?という疑問はもちろん愚問だが、スーパーカーがこれまで通りス―パーでいられることが肝要なのだ。

フェラーリ初のエレクトリックパワーステアリング(EPS)、「F12tdf」以来となる後輪側の操舵システムなど、シャシーダイナミズムの要となる部分は電制統合されている。800psを公道に放つには、作る側にもそれだけの覚悟が要るのだ。

Ferrari 812 Superfast|フェラーリ 812 スーパーファスト

Ferrari 812 Superfast|フェラーリ 812 スーパーファスト

ちなみに812スーパーファストはそのシルエットからして「365GTB/4デイトナ」を連想させるが、じつは最後の自然吸気12気筒フェラーリともいわれる。おそらく今後、ハイブリッド化なくして12気筒という高貴なメカニズムの継承は保証できない、という感覚だ。ポルシェ「911」が空冷から水冷に移行した時以上の、大きなパラダイム変化といえるだろう。

レース直結のアストンの新ブランド

一方で大排気量・自然吸気・高回転型というジャンルにスポーツカーピュリストの現在の嗜好を見るのは、アストンマーティンも同じく。ここジュネーブでは“AMR”というサブブランドを立ち上げ、「ヴァンテ―ジ AMRプロ」と「ラピードAMR」を発表した。

AMRはメルセデスでいう“AMG”やBMWの“M”に相当する存在で、レーストラック生まれのテクノロジーやノウハウとの直結性によって、アストン・マーティンの純血を保つというロジックが感じられる。

だがこうしたエクストリームの存在は、既存ラインナップを快適方向にも裾野を広げもするだろう。SUVやシューティングブレークのような、ユーティリティを含む「ジャンルの違うスポーツ」にも可能性は高まった。

Aston Martin Vantage AMR Pro|アストンマーティン ヴァンテージ AMR Pro

Aston Martin Vantage AMR Pro

ちなみにアストン・マーティンはAM-RB001のコードネームで、レッドブル・レーシングと開発してきたミッドシップ・モデルを「ヴァルキリー」という市販車として販売する。確かなことはV12気筒をミッドシップに搭載し、パワーウェイトレシオは1㎏/ps以下、シャシーはF1のエンジニアとして有名なエイドリアン・ニューウェイが手がけ、100台前後の生産台数で、330万ユーロ(約4億円)の価格が見込まれることだ。

Geneva Motor Show 2017|ジュネーブ モーターショー2017 解析その1

スポーツカーは2つの表現とひとつの方向性 (3)

ポルシェのお株を奪ったランボルギーニ

そして大排気量・自然吸気の純然たる刺激を、パフォーマンスという実証的アプローチで見せたのは、ランボルギーニ「ウラカン ペルフォルマンテ」だ。スーパーレッジェーラという呼称改め、のマイナーチェンジに終わらせず、ニュルブルクリンク北コースでポルシェ「918スパイダー」を上回る6分52秒01を叩き出したことが、何よりこのクルマの代名詞といえる。

Lamborghini Huracan Performante|ランボルギーニ ウラカン ペルフォルマンテ

Lamborghini Huracan Performante|ランボルギーニ ウラカン ペルフォルマンテ

ニュルその他でのタイム実証主義を伝統とするポルシェはお株を奪われたようだが、こちらも非従来的手法のマイナーチェンジを敢行した。これまでPDKのみだった「911GT3」に、「911R」譲りの6段マニュアルを追加したのだ。もはやGT3では「効率」が「エモーション」に譲る形となった。しかもエンジンは3.8リッターの450psから4.0リッター・500psに引き上げられた。これも高効率化と大排気量化のトレンドのひとつといえる。

復活するライトウェイトスポーツ

翻ってライトウェイトスポーツとしてアルピーヌが、「A110」の名前で復活したことは歴史的瞬間ですらあった。1,040㎏という軽量さと、それを可能にした96パーセントがアルミニウム製のボディに注目は集まるが、開発陣はドライバーのお尻の下あたりにロールセンターを置くことにこだわったという。

軽さは要件のひとつだが、自分を中心にクルマが向きを変えるアジリティこそが、アルピーヌならではの感覚というのだ。ルノー日産で初出となるMR18という1.8リッターターボは252ps仕様で、そのコンパクトさゆえにAアームを長くとる設計が可能になり、ショックアブソーバーを固める必要がなかったことから、乗り心地も望外によくなったという。

Alpine A110|アルピーヌ A110

Alpine A110

Alpine A110|アルピーヌ A110

復活したアルピーヌの凄味は、ディエップ工場にアルミパネルを成型から磨きまで自動化したロボット20数基を設置したことだ。これは昔のカロッツェリア仕事をモダン化・自動化したともいえる。いまだオーダー数は2,600台前後にすぎず、700万円に満たないクルマだけで回収できるはずのない投資だが、アルピーヌの二の矢はSUVと噂されているし、軽量なアルミパネルの生産と供給体制はノルマンディ周辺に工場の多いルノーなら使いこなせないこともないはず。軽さに知性だけでなく、物流とスケールメリットを含めた戦略的な力業をも感じさせる。逆にいえば、そこまでしてアルピーヌというスポーツカーのインテグリティは、守る価値があるのだ。

(解析その2へ続く)

           
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