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IMPRESSION
2020年10月26日
フェラーリの新型+2ミッド・フロントエンジンGT「ローマ」に試乗|Ferrari
ドルチェは「優しさ」
翌朝、ふたたび検温したあと、庭でローマの実車と対面する。
その日1日を共にするため筆者に用意されていたのは、「ロッソ・ポルトフィーノ」と名付けられた深みのある赤のクルマであった。
プロポーションは極めて端正で、見る者にいやがうえにもパワーを想起させた一世代前のスーパースポーツカーたちと明らかに異なる。
ヘッドライトのデザインも、ここ10年以上にわたって続いた威圧的なつり目的デザインではなく、切れ長の優雅なものだ。電動スポイラーも格納状態では、まったくその存在はわからない。
個人的には、こういう慎ましやかなフェラーリを待っていた。
エンジンスタートはステアリング下部のタッチ式スイッチだ。
走り出してから見渡すフロントフードや、ドアミラーに映るリアフェンダーの豊満さは、フェラーリであることを操縦する者に語りかける。昨今デジタルアウターミラーに興味津々な筆者であるが、この車ばかりは物理的なミラーに映る像のほうが、よりクラシカルでふさわしい。
ボディ剛性は、90年代の8気筒モデルからすると天地の差で向上している。
さらに今回初めて5段となったマネッティーノを「コンフォート」にしておくかぎり、中世都市独特の石畳も、昨今の補修予算不足によるイタリアのいい加減な舗装も、さして不快ではない。これだけで日常使用できるフェラーリを感じることができる。
スロットルも礼儀正しくセッティングされている。街乗りではペダルを微妙にオンオフするだけでスムーズにクルーズできる。いっぽう、さらに踏み込み続けると、V8エンジンはさらに覚醒し、心地良いファンファーレを奏でながら加速を続けてゆく。日ごろスピードに対して過激なパッションを持ち合わせていない筆者でも、思わず笑みがもれてしまうと記せば、その感覚がお分かりいただけるだろう。エンジニアが目指したとおり、ターボラグも感じられない。
ブレーキもドライバーの踏力に極めて繊細に反応してくれる。したがってタウンユースにまったく問題ない。同時に、パニックブレーキに対する応答も的確で、前390mm✕34mm、後360mm✕32mmというスペックにふさわしい制動力を発揮する。
ちなみに、この最新のフェラーリでは、路肩の標識を刻々と自動読み取りしてメーター上に自動表示してくれる。こちらは心のブレーキといったところだ。
JBL製オーディオは、最高の音質を期待するユーザーにはあまり適さないが、エンジン✕エグゾーストのサウンドのBGMとしては十二分である。
今回230km以上にわたるドライブは、一部アウトストラーダ区間を伴っていたものの、大半はイタリア屈指のワイン産地を周囲に抱くワインディングロードだった。
マネッティーノを「スポーツ」に切り替える。ローマは常にコーナーを的確にトレースする。勢い余って飛び込んで後悔しても、ペダルを穏やかにオフにするだけで、何事もなかったように抜けてゆく。620psという溢れるパワーを秘めながら、少なくとも公道上では、それを持て余すことは一切ないのである。
ブドウ畑の間のときおり村々では、しばしローマを止めて、中世の旅人に思いを馳せた。ただし、ドーポ・プランツォ(昼食後)の静寂の中、たとえアイドリングとはいえ、やはりフェラーリのエグゾーストノートははばかれる。そうしたとき、スタート&ストップ機能はなんとも周囲に優しい=ドルチェなデバイスである。
散歩中のお年寄りに「ベッラ・マッキナ(いい車だな!)と声をかけられるだひ説明していたものだから、その日の夕方は筆者が最後の帰着となってしまった。