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IMPRESSION
2020年10月26日
フェラーリの新型+2ミッド・フロントエンジンGT「ローマ」に試乗|Ferrari
ドルチェは「内面性」
イタリア語辞書のドルチェに話を戻そう。用例の末尾にある例は。こうだ。
「イル・ドルチェ・スティーレ・ヌォーヴォ」。il dolce stile nuovo とは、13世紀イタリアにおける、清新体派といわれる詩や文学運動のことだ。
中世カトリック文化が根底にありながらも、ヒューマニズム、とくに美しい女性の内面を洞察したのが特徴である。
いっぽう、フェラーリ創立者エンツォ・フェラーリは、常にサングラスをしていることを指摘されると「自分の内面を他人に見せたくないためだ」と説明していた。
いずれも「深い内面」がキーワードだ。
このフェラーリの意欲的な新型車には、オプションでSAEレベル1相当のアダプティブ・クルーズコントロール、自動緊急ブレーキ、車線逸脱警告、ブラインドスポット検知、サラウンドビューカメラがパッケージまで選択できる。
開発の最終段階というエクスキューズがあったので評価は避けるが「チャオ、フェラーリ」の呼びかけで起動するボイスコマンドさえも用意される。
クラシックともいえるエクステリアの中に秘めているのは、従来のフェラーリからは想像できないほどモダンで、ドライバーやパッセンジャーをときに守り、ときに喜びに導くデバイス群。この組み合わせがローマの、もうひとつのドルチェに違いない。
もちろんフェラーリは、従来のスポーティングマインド溢れるフェラリスタたちを満足させるモデルも提供し続けるだろう。しかしローマの存在は彼らに、このブランドの新時代を受容できるかどうかを明らかに問いかけている。
同時に、12気筒モデルではなく、敢えてこの優雅な8気筒モデルを選ぶ粋、というかインテリジェンスさえ漂わせている。少なくとも筆者自身は、こうした挑戦を歓迎したい。
……と、美しく文章を締めたいところだが、本当はローマで困ったことがあつた。
リモコンキーが、どこにも見当たらないのだ。
思えば朝、すでにエンジンが始動してあったクルマに筆者は乗り込んだのである。これも人との接触機会を限りなく低減するための措置であったのだろう。ランチ会場でも、待ち構えていたスタッフに、エンジンを掛けたままクルマを預けてしまった。
キーの閉じ込めなどしてしまったら、格好悪くて目も当てられない。途中で一旦停止しても、ドアかサイドウィンドウを開放しておいた。
聞くはいっときの恥。クルマの返却時、スタッフにリモコンキーの在り処をこっそりと聞いた。
それは、センターコンソールの目立たぬ専用スペースにひっそりと置かれていた。あたかもバッジのように見えるものこそが、ローマのキーだったのである。
フロントフェンダーのスクデリア・フェラーリのマークを取り去るいっぽうで、こんなところにプランシングホースを棲まわせていたとは ! その“遊び”を最後に知ったときの気持ちは、メインディッシュにも匹敵する芳醇なドルチェをスプーンで一口食べたときの瞬間に似ていた。
Spec
Ferrari Roma|フェラーリ ローマ
- エンジン:3.9リッター 90°V8 DOHC 32バルブ ターボ
- 総排気量 3855cc
- 最高出力:620ps(456kW)/5750-7500rpm
- 最大トルク:760Nm/3000-5750rpm
- 全長×全幅×全高 4656✕1974✕1301mm
- ホイールベース 2670mm
- 車両重量 1570kg(空車)/1472kg(乾燥)
- 駆動方式:FR
- タイヤ : (フロント) 245/35ZR20 /(リア) 285/35ZR20
- 変速機:8段デュアルクラッチ式AT
- 性能: 0-100km/h 3.4秒 最高速度 320km/h
- 燃費:ホモロゲーション取得申請中
- 価格:2682万円(日本)
- 試乗開始時の走行距離:7977km
- 試乗コースの内容 : 山間地8、高速道路1、市街地1
- 試乗距離:232km
- 燃費:ホモロケーション取得申請中
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