レクサスのフラッグシップクーペ 「LC」に横浜で試乗|LEXUS
LEXUS LC500|レクサス LC500
LEXUS LC500h|レクサス LC500h
「天下無敵!」のラグジュアリークーペ
3月16日の発売からほぼ1ヵ月で約1,800台を受注するなど、1,000万円オーバーのクーペモデルとしては極めて高い人気となっているレクサスのフラッグシップモデル「LC」。海外での試乗につづき、このたび右ハンドル仕様を横浜でテストドライブをする機会を得た。
Photographs by ARAKAWA MasayukiText by IMAO Naoki
ポルシェ「718ケイマン」並みに速い
パシフィコ横浜から一般道を数分走り、首都高速横羽線に「みなとみらい」から上がって大黒ふ頭を目指す。割り当てられた時間は限られている。料金所のゲートをくぐると、全開! フロント・ミドに搭載される5リッターV8が打楽器系のビートの効いた咆哮をあげる。タコメーターの針がレヴリミットの7,500rpmを目指して一気に駆け上がる。
軽い。車重は、乗員2人の体重を足せば、2トンを超えているというのに、ごく軽いものを操っている感覚がある。とりわけ最初のひと踏みは衝撃だ。脳が予測した感覚をレクサス「LC500」は軽々と上回る! だからこそ、ものすごく軽く感じるのだ。
最高出力477ps/7,100rpm、最大トルク540Nm/4,800rpmを発生する5リッターV8エンジンに特段の改良が加えられたわけではない。出力もトルクも、「GS F」「RC F」用と基本的には変わらない。なにしろ2UR-GSEという型式が同じなのだ。大きく異なるのはトランスミッションである。8段から乗用車用としては世界初の10段へと、いっそう多段化した。10段オートマチック! こんな時代がくるなんて。
多段化によるクロスステップと世界最速レベルの変速が走りのリズムをつくり出す。トルクコンバーター、いわゆるトルコンが働くのは最初の発進時のみで、あとは電磁クラッチによってシフトしていくからダイレクト感もある。「ドライブモードセレクト」を最もスポーティな「Sport S+」に設定し、自然吸気V8の能力を、サウンドも含めてあますことなく引き出す。途切れることのない加速に、レクサスV8の咆哮がBGMで重なり、ドライバーは映画のクライマックスシーンを見ているようなドキドキ感をおぼえる。
スロットルを床まで踏み続けると、LC500はアッという間にリミッターが作動する速度域へと突入する。物理的にはなんのためらいもない。0-100㎞/h加速は4.7秒。ピュアスポーツカー、ポルシェ「718ケイマン」並みに速い。その際、つまりフルスロットル時のLC500のドラマチックな加速に陶然する。と同時に、その安定感に感嘆する。これはいいクルマだ! と思わずつぶやく。
しかれども、公道において暴走行為は許されない。ブレーキである。ブレーキ! ああ、その制動時のLC500の姿勢のなんと美しいことか。ただ右足を左のペダルに乗せ替え、そこにあるペダルを踏み込んだだけで、前後左右の4輪がそれぞれ等しくアスファルトに吸着するようにして減速Gが現れる。後ろに引っ張られる。身体全体が沈んでいく。その感覚のなんと心地よいことか。これはいいクルマである! おそらくレクサス(トヨタ)史上ベストの。
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「天下無敵!」のラグジュアリークーペ (2)
人形浄瑠璃の人形を操る黒子のような電子制御デバイス
加速時も減速時も、インプレッシブなのは車両全体のバランスのよさだ。慣性モーメントの小さいフロント ミドシップ レイアウトの恩恵である。そうドライバーに思わせるのは、レクサスの次代を担う「GA-Lパッケージ」の賜物なのだろう。重量物であるエンジンをフロントアクスルの内側に配置し、カーボンのルーフや、カーボンとアルミからなる軽量ドアを採用することで重心を低くすることに焦点を当てた。バッテリーはトランク容量を犠牲にしてまで、後部に配置している。ラグジュアリーブランドのフラッグシップクーペだというのに、トランクにフルサイズのゴルフバッグは入らない! それもこれも、走りの基本に立ち返り、雑味のないステアリングフィールを実現するためだ。
車両の前後重心点、つまり曲がる際の中心はホイールベースのほぼ中央、ドライバーの腿の裏あたりにある。レクサスのエンジニアによれば、重心点とヒップポイントの距離が近いほど、クルマとの一体感が高まる。徹底したハンドリング重視の結果、LC500で実現した重心点とヒップポイントとの距離は、意外やポルシェ「911」に近い。ただし、RRの911の場合、車両の前後重心点は、LCのようにヒップポイントの前ではなく、後ろにあるという。
大黒ふ頭のパーキングへと降りていく巨大なサークルで、ステアリングを切ったときの車両の動きに惚れ惚れする。なるほど雑味がない。体幹がしっかりしている。姿勢がいい。フロント ミドシップのパッケージングに加えて、“S package”が標準装備する「LDH(レクサス ダイナミック ハンドリング システム)」なる電子制御デバイスもおそらくはそうとう利いている。ギア比可変ステアリグ、後輪操舵(DRS=ダイナミックリアステアリング)、トルセンLSD等、これらはレクサス(トヨタ)が長年積み上げてきたハイテクだけれど、それがLCによって完成したといってよいのではないか。とりわけDRSは、4WSであることをドライバーに悟らせつつ、それでいて自然なドライビングフィールの範囲に収めている。
例えば人形浄瑠璃の人形を操る黒子は舞台の上に立っている。だから、事実としてそこにいる。なのに観客は気にしない。気にならない。人形浄瑠璃の不思議さである。LDHは黒子に徹している。そこにレクサスLC開発陣の一皮むけた感がある。
ボディの剛性感はこれまでのレクサスとは別次元にある。前245/40RF21、後ろ275/35RF21という巨大なランフラットタイヤを装着していることを意識させない。感嘆するのは、その剛性感がドイツ車風ではないことだ。剛性が高いといっても金庫のようではない。
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「天下無敵!」のラグジュアリークーペ (3)
「LC500h」も驚きの出来栄え
今回の試乗会での車両紹介の際、誰がいいだしたのか、それを私は知りたいと思うのだけれど、「武道」という言葉が出てきた。「茶道や空手、居合のように所作の美しさを大切にする日本文化に通じる、素性のよいクルマづくりにこだわった」というのだ。
武道! ニッポンにはよるべき文化として武道があった。LC500のステアリングを握りながら私は、「所作の美しさ」ということを思った。
じつは走り始める前、重量配分を確かめるべく車検証を出そうとグローブボックスを開けるボタンを押した。ダンパー制御が入ったフタは能か何かのような厳かな動きでもって音もなくスーッと開いた。その動きのなめらかさに私は一瞬、言葉を飲んだ。スゴイ。トランクのフードも、右テールランプの中央よりの隅っこに配置された小さな丸いボタンを押すと、厳かに開く。そこにフルサイズのゴルフバッグは入らないけれど、レクサスLCのさりげない所作に、座ってから襖を開けたり閉めたりする日本文化の伝統を世界中が見ることになる。
もしもレクサスが本当にライフスタイルブランドを目指すのであれば、ディーラーで茶道とか空手とか居合道とか、日本文化の教室を世界展開すればいいのに……。
LC500のあと、ハイブリッドの「LC500h」の試乗もできた。こちらも驚きの出来栄えだった。これまでのレクサス(トヨタ)のハイブリッドはプリウスに代表されるようにエンジンが主体でそれをモーターが助けるシステムだった。けれども、内燃機関と電気モーターのあいだには埋まらない断絶があった(ように筆者は思う)。
LC500hは違う。3.5リッターV6エンジンと2基の電気モーターで構成されるハイブリッドシステムに変速機構を直列に配置することで、エンジンとモーターが渾然一体となっている。お互いが補いあっていて、ここからはエンジン、ここからは電気モーターという境がない。サウンドは2気筒少ない分、V8の厚みはないけれど、その分シャープで別種だけれど、胸のすく加速という意味では共通の加速が味わえる。0-100㎞/h加速は4.7秒と同じ数値が主張されている。その一方、80㎞/hで巡航中、ふと気づくとタコメーターの針が停止していたりする。それをドライバーに気づかせないところに「マルチステージハイブリッドシステム」の真髄がある。
レクサスLCを運転中、私の頭に「天下無敵」という言葉が浮かんだ。合気道7段の武道家にして思想家の内田樹によれば、この言葉は「天下に敵なし、みんな友だち」ということであって、これこそが武道家のたしなみの基本だという。「天下無敵!」。ラグジュアリークーペ、レクサスLCは自らを磨いてはきたけれど、サーキットでタイムを争うクルマではない。レクサスは素晴らしいキイワードを見つけた。
Lexus LC 500h|レクサス LC 500h
ボディサイズ|全長 4,770 × 全幅 1,920 × 全高1,345 mm
ホイールベース|2,870 mm
トレッド前/後|1,630 / 1,635 mm
車両重量|2,000 kg(S package、L packageは2,020 kg)
最低地上高|140 mm
エンジン|3,456 cc V型6気筒DOHC
ボア × ストローク|94.0 × 83.0 mm
圧縮比|13.0
エンジン最高出力|220 kW(299 ps)/6,600 rpm
エンジン最大トルク|356 Nm(36.3 kgm)/5,100 rpm
モーター|交流同期電動機
モーター出力|132 kW(180 ps)
モータートルク|300 Nm(30.6 kgm)
トランスミッション|マルチステージハイブリッドトランスミッション
駆動方式|FR
サスペンション 前/後|マルチリンク/マルチリンク
ブレーキ 前/後|ベンチレーテッドディスク
タイヤ 前/後|245/45RF20 / 275/40RF20(S packageは245/40RF21 / 275/35RF21)
駆動用バッテリー|リチウムイオン電池
燃費(JC08モード)|15.8 km/ℓ
乗車定員|4名
価格|(標準)1,350万円 (L package)1,350万円 (S package)1,450万円
Lexus LC 500|レクサス LC 500
ボディサイズ|全長 4,770 × 全幅 1,920 × 全高1,345 mm
ホイールベース|2,870 mm
トレッド前/後|1,630 / 1,635 mm
車両重量|1,940 kg(S package、L packageは1,960 kg)
最低地上高|135 mm
エンジン|4,968 cc V型8気筒DOHC
ボア × ストローク|94.0 × 89.5 mm
圧縮比|12.3
最高出力|351 kW(477 ps)/7,100 rpm
最大トルク|540 Nm(55.1 kgm)/4,800 rpm
トランスミッション|10段AT(Direct Shift-10AT)
駆動方式|FR
サスペンション 前/後|マルチリンク/マルチリンク
ブレーキ 前/後|ベンチレーテッドディスク
タイヤ 前/後|245/45RF20 / 275/40RF20(S packageは245/40RF21 / 275/35RF21)
燃費(JC08モード)|7.8 km/ℓ
乗車定員|4名
価格|(標準)1,300万円 (L package)1,300万円 (S package)1,400万円
レクサスインフォメーションデスク
0800-500-5577(9:00-18:00、365日年中無休)