レクサスの新フラッグシップクーペ「LC」試乗(前篇)|Lexus
Lexus LC|レクサス LC
日本ならではの価値観をもつクーペ
レクサスの新フラッグシップクーペ「LC」試乗(前篇)
2016年のデトロイトモーターショーにてワールドプレミアを果たし、つい先ごろ日本でも発売されたばかりのレクサス「LC」。2012年のコンセプトカー「LF-LC」をほぼ踏襲したデザインの下に、新開発のプラットフォームやハイブリッド機構を備えたラグジュアリークーペだ。早くもそのLCに、ハワイにて試乗する機会を得た。前篇では、開発者のコメントを交えてその素性を解き明かす。
Text by YAMAGUCHI Koichi
LCはクーペかスポーツカーか
ハワイ島の空の玄関口、コナ国際空港からクルマで移動すること約15分。ビーチに面した絶景のリゾートホテルに到着すると、エントランスに真新しいクーペが佇んでいた。極めて低くワイドなフォルムが印象的なそれは、ライフスタイル ブランドとして新たなステージを目指すレクサスが、その象徴としてリリースしたラグジュアリークーペ「LC」である。日本でのローンチを約1ヵ月後にひかえた2月上旬、同モデルのライフスタイル メディア向け試乗会が、常夏の楽園で開催されたのだ。
「レクサスがよりエモーショナルなブランドになるために、ユーザーの感性に訴えるデザインと走りを備えた、ブランドを象徴するフラッグシップ クーペが必要だったのです」。プレスカンファレンスの席でチーフエンジニアの佐藤恒治氏は、LCを開発した理由についてそう説明してくれた。
フラッグシップ クーペといえば、レクサスにはかつて「LFA」がラインナップされていた。しかし、同車はカーボン モノコック ボディにV10エンジンを搭載したスーパースポーツであり、わずか500台の限定モデル。いわばアドバルーン的な存在であった感は否めない。欧州の競合ブランドと渡り合うには、ブランドイメージを牽引するラグジュアリーなクーペをカタログモデルとして展開することが必要だと考えたのだろう。
「クーペかスポーツカーかといえば、クーペだと言えます。もちろん、パフォーマンスはスポーツカーそのものですが、たとえばユーザーがLCでニュルブルクリンクを走るのは、私たちの世界観にはありませんでした」
同車はスポーツカーなのか、クーペなのかという筆者の質問に対し、レクサスインターナショナル エグゼクティブ バイスプレジデント澤良宏氏はそう答えた。このことからもLCがLFAとは似て非なる存在であることが分かる。サーキットのラップタイムに象徴される絶対的な“速さ”にではなく、このクルマがオーナーのライフスタイルに何をもたらすかということに、LCの真価が問われているのである。
そう考えれば、スポーツカーとしてはやや大ぶりな全長4,770×全幅1,920×全高1,345mmというボディサイズも、より広く伸びやかで、グラマラスなスタイリングを実現するために導きだされた結果なのだと理解できる。
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レクサスの新フラッグシップクーペ「LC」試乗(前篇)(2)
唯一無二のデザインを目指して
ご存じのとおりLCのスタイリングは、2012年のデトロイトモーターショーで発表されたコンセプトカー「LF-LC」のデザインイメージをモチーフに生み出された。LF-LCと同様、ロングノーズにコンパクトなキャビン、そしてショートデッキと、クーペの王道ともいうべきフォルムをまとったLCは、確かにハッとさせられるほどスタイリッシュだ。ハワイ島随一ともいえるラグジュアリーなリゾートホテルのクルマ寄せにも、誂えられたかのようにしっくりとくる。事実、ツーリストと思しき数人のアメリカ人男性が、その見たこともない流麗なボディを少年のように見入っていたのが印象的だった。
彼らが、興味深そうに観察していたのも無理はない。「レクサス流デザインとは何か。簡単に言えば、唯一無二ということになります」とは前述の澤氏の発言だが、たしかにLCのスタイリングは、一見して欧米のライバルたちとは一線を画す、新しさに満ちていたからだ。
たとえば、フロントフェンダー。欧米ブランドが手がけるスポーツカーやクーペでは、フェンダー上部に筋肉質な“峰”を走らせるのが一般的だ。フェラーリやポルシェがそうであるように。しかし、LCにはいわゆるフェンダートップがない。普通そうしたデザインでは、得てしてヘッドライトからフェンダーにかけてへこんだように見え、フロントまわりが貧弱なものになってしまいがちだ。一方LCでは、低く構えたスピンドルグリルを起点にフロントからノーズ、そしてルーフへとつながる彫りの深い造形を作り込むことで、既存のデザイン文法を用いずに、ほかの何ものにも似ていない独自の存在感を放つフロントデザインを実現させている。
澤氏によると、LCではこうしたスポーツカーデザインの文法におけるさまざまな“タブー”に挑戦しているのだそうだ。そうした試みが、LCのスタイリングにレクサスならではの“新しさ”を与えているのだろう。
唯一無二のダイナミックなスタイリングを実現させるうえでキーとなる要素が、2点ある。1つはプロダクトチーフデザイナー(PCD)制度。チーフデザイナーが企画やパッケージ、そしてスタイリングの基本を決める段階よりプロジェクトに参画し、チーフエンジニアと二人三脚でデザインをまとめあげるものだ。そしてもう1つは、新開発のプラットフォーム「Global Architecture-Luxury(GA-L)」の採用である。
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レクサスの新フラッグシップクーペ「LC」試乗(前篇)(3)
デザインの追求はパフォーマンスに繋がる、という発想
LCにおける最大のトピックとも言えるGA-Lは、いわばFR版のTNGA(Toyota New Global Architecture)だ。1月のデトロイトモーターショーでデビューした新型「LS」にも採用されたことからもわかるように、次世代レクサスの方向性を決定づける重要なファクターといえる。低重心でダイナミックなFRらしいプロポーションを実現させるうえで、このまったく新しいプラットフォームは不可欠だったと、佐藤氏はいう。
あくまでデザインスタディであるLF-LCの造形を、ほぼそのままのイメージで生産モデルであるLCに結実させる。そんな極めてチャレンジングな仕事を佐藤チーフエンジニアとやってのけたプロダクト チーフ デザイナーの森忠雄氏は、PCD制度とGA-Lがもたらした好例として、LCの極めて低くワイドなボンネットフードについて話してくれた。
曰く、ロー&ワイドなLCのフォルムにおいて重要なデザイン要素である低いノーズを実現させるために、新開発したマルチリンク式サスペンションのコントロールアームのジオメトリーについて、6カ月間にわたり見直しを行ったのだそうだ。さらに、LF-LCの短いフロントオーバーハングを踏襲するべく、超小型LEDヘッドランプユニットも新開発したという。彼らにとって、LCを開発するうえでデザインという要素がいかに重要だったかが推し量れるエピソードだ。
「美しいデザインを追求することと、優れたパフォーマンスを実現させることはつながっています」。佐藤チーフエンジニアが語るように、GA-LはLCのビークルダイナミクスを磨き上げるうえでも、大きな役割を果たしている。
こだわったのは「慣性諸元の追求」だという。要は低重心化や前後重量配分の最適化、軽量化といった、ハイパフォーマンスカー開発における基本的な要件である。LCでは、新開発の大径ランフラットタイヤを四隅に配し、エンジンをフロント車軸の後方に置くフロントミドシップとし、人や重量物を中心に近く、低い位置に配置するレイアウトをGA-Lをベースに作り上げた。ちなみに重心高は510mm、前後重量配分は一般的に理想とされる50:50に近い数値を達成している。
軽量化では、適材適所の考え方のもと、フロント サスペンション タワー、フロント フェンダー、サイドドア外板などにはアルミ素材を、ルーフ、ラゲージドア、サイドドア内側にはCFRP(炭素繊維強化プラスチック)を採用。ボディ剛性を高めながら、従来モデルに対して約100kgの軽量化を実現した。同時にこれらは、低重心化やヨー感性モーメントの低減にも寄与しているという。
「クルマの動的性能を向上させるために、最新の電子制御技術に頼るのではなく、素性で達成することに取り組みました」。佐藤チーフエンジニアは試乗会場で我々に熱く語った。そこには、新しいプラットフォームでレクサスの動的なクオリティを大きく飛躍させるのだというチーフエンジニアとしての、いやカーガイとしての意気込みが感じられた。
それを象徴するかのように、開発にあたっては、走行テストのマスターロードに設定した北米・ロサンゼルスのエンジェルクレスト・ハイウェイやドイツ・ニュルブルクリンクをはじめ、世界中のさまざまな道やコースを走り込んだという。なんとなれば、LCには今後のレクサスのドライビングテイストを具現するという使命も帯びていたからだ。
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レクサスの新フラッグシップクーペ「LC」試乗(前篇)(4)
デュアルクラッチではなく、10段ATを採用した理由
LCの走りを形づくるもうひとつの重要な要素、パワートレーンには2つのバリエーションが用意される。まず「LC500」が搭載する5リッターV8 NAエンジンは、基本的に「RC F」「GS F」のものと同様。大排気量ながら、477ps(351kW)の最高出力を7,100rpmで発生する高回転型ユニットだ。今回LCに搭載するにあたり、シングルインテークからデュアルインテークに変更するなど、吸排気効率の向上が図られており、最大トルクは10Nm増しの540Nm/4,800rpmとなった(最高出力は同値)。
注目すべきはトランスミッションである。迅速でリズミカルな変速を実現すべく、従来の8段ATではやや間隔の広い1~4段のあいだにもう一段ギアを追加してクロスステップ化し、クルージング時の静粛性と省燃費のためにトップギアをハイギア化した、乗用車用としては世界初の10段ATを新開発したのだ。変速スピードも世界最速レベルの約0.2秒を実現している。
ところで、なぜ現在主流のダブルクラッチトランスミッション(DCT)を選択しなかったのか? これに対する佐藤チーフエンジニアの答えは、LCというクルマの素性を十二分に物語るものだった。曰く、現在のツインクラッチでは、LCに求められる発進時のなめらかさのレベルを達成することができないからなのだそうだ。
一方「LC500h」には、3.5リッターV6エンジンと2機のモーターからなるレクサス ハイブリッド システムに4段ギアの自動変速機を組み合わせ、電気的な変速を含む10段変速で出力をコントロールする、新開発のマルチステージハイブリッドシステムを採用。これにより、いわゆるラバーバンドフィールと呼ばれる、エンジン回転とトルクの上昇との不一致を解消し、アクセル操作に対するダイレクト感のある加速フィールと高い燃費性能の両立を図っている。また、3.5リッターV6ユニットは、エンジン最高回転数をこれまでの6,000rpmから6,600rpmへと高め、最高出力は220kWを実現している。
Lexus LC 500h|レクサス LC 500h
ボディサイズ|全長 4,770 × 全幅 1,920 × 全高1,345 mm
ホイールベース|2,870 mm
トレッド前/後|1,630 / 1,635 mm
車両重量|2,000 kg(S package、L packageは2,020 kg)
最低地上高|140 mm
エンジン|3,456 cc V型6気筒DOHC
ボア × ストローク|94.0 × 83.0 mm
圧縮比|13.0
エンジン最高出力|220 kW(299 ps)/6,600 rpm
エンジン最大トルク|356 Nm(36.3 kgm)/5,100 rpm
モーター|交流同期電動機
モーター出力|132 kW(180 ps)
モータートルク|300 Nm(30.6 kgm)
トランスミッション|マルチステージハイブリッドトランスミッション
駆動方式|FR
サスペンション 前/後|マルチリンク/マルチリンク
ブレーキ 前/後|ベンチレーテッドディスク
タイヤ 前/後|245/45RF20 / 275/40RF20(S packageは245/40RF21 / 275/35RF21)
駆動用バッテリー|リチウムイオン電池
燃費(JC08モード)|15.8 km/ℓ
乗車定員|4名
価格|(標準)1,350万円 (L package)1,350万円 (S package)1,450万円
Lexus LC 500|レクサス LC 500
ボディサイズ|全長 4,770 × 全幅 1,920 × 全高1,345 mm
ホイールベース|2,870 mm
トレッド前/後|1,630 / 1,635 mm
車両重量|1,940 kg(S package、L packageは1,960 kg)
最低地上高|135 mm
エンジン|4,968 cc V型8気筒DOHC
ボア × ストローク|94.0 × 89.5 mm
圧縮比|12.3
最高出力|351 kW(477 ps)/7,100 rpm
最大トルク|540 Nm(55.1 kgm)/4,800 rpm
トランスミッション|10段AT(Direct Shift-10AT)
駆動方式|FR
サスペンション 前/後|マルチリンク/マルチリンク
ブレーキ 前/後|ベンチレーテッドディスク
タイヤ 前/後|245/45RF20 / 275/40RF20(S packageは245/40RF21 / 275/35RF21)
燃費(JC08モード)|7.8 km/ℓ
乗車定員|4名
価格|(標準)1,300万円 (L package)1,300万円 (S package)1,400万円
レクサスインフォメーションデスク
0800-500-5577(9:00-18:00、365日年中無休)