レクサスの新フラッグシップクーペ「LC」試乗(後篇)|Lexus
Lexus LC|レクサス LC
日本ならではの価値観をもつクーペ
レクサスの新フラッグシップクーペ「LC」試乗(後篇)
2016年のデトロイトモーターショーにてワールドプレミアを果たし、つい先ごろ日本でも発売されたばかりのレクサス「LC」。2012年のコンセプトカー「LF-LC」をほぼ踏襲したデザインの下に、新開発のプラットフォームやハイブリッド機構を備えたラグジュアリークーペだ。早くもそのLCに、ハワイにて試乗する機会を得た。後篇では実際にハンドルを握り、その走りを確かめる。
Text by YAMAGUCHI Koichi
高い内装のクオリティ
ハワイ島に上陸した翌日の朝、いよいよ我々プレス陣にLCのステアリングが委ねられた。ドライバーズシートに収まってまず感じるのは、コクピットと形容したくなる心地のいい包まれ感だ。ドライビングポジションも極めて自然で、シートの形状や着座位置といい、ステアリング ホイールのグリップ感や傾角といい、ABペダルの配置といい、誂えたスーツのように一分の隙もなく身体になじむ感覚なのだ。
コンパクトなメーターナセルのセンターにバーチャルな回転計が鎮座し、その中に速度がデジタル表示されるTFT式液晶メーターは視認性に優れ、大型マグネシウム合金製パドルシフトの操作性も高い。まさにクルマとの一体感を感じながらドライビングを堪能するにふさわしい空間デザインとなっている。
さらに印象的だったのは、インテリアの隅々にまで横溢するクオリティ感だ。インストルメント パネルやセンター コンソールからシートやドアパネルまで、上質なレザーやアルカンターラで貼り尽くされ、クラフツマンシップを感じさせる精妙なステッチがアクセントを添える。
ドアパネルを覆うアルカンターラの彫りの深いドレープといい、スイッチ類の精緻な操作感といい、決して華美ではないが、繊細な日本の美意識が感じられるラグジュアリーな空間に仕上げられているのだ。LCのドライバーズシートにおさまれば、誰しもがレクサスのクルマ作りが新しいステージに入ったことを、インテリアからも感じとれるだろう。
ちなみに、内外装をはじめ高い品質を誇るLCの生産にあたっては、かつてLFAも作られていた元町工場に専用の組み立てラインを新設。匠の技術を持つ専任スタッフにより生産されるのだという。
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日本ならではの価値観をもつクーペ
レクサスの新フラッグシップクーペ「LC」試乗(後篇)(2)
日本料理のごとく繊細で奥深いステアリングフィール
今回の試乗コースは、ハワイ島の西岸、コナのリゾートホテルから東岸はヒロの農園「OK Farms」へとハワイ島を横断する約150kmの道のりだ。
まずLC500hでコナの幹線道路を北へと走り出す。左手には透き通るような海、右手には溶岩が堆積した黒色の荒野、そして前方には紺青の空が車窓越しに広がる。そんなえも言われぬ絶景のなかを制限速度の55MPH(88km/h)前後でしばし流す。
道はそれなりに荒れているのだが、20インチという大径ランフラットタイヤを履いていることを意識させないくらいに、乗り味はしなやかで快適だ。サスペンションがしなやかに動いて路面を丁寧に追従していることが手にとるようにわかる。フロアの剛性感も高く、足まわりの遮音も行き届いていて、GA-Lプラットフォームのポテンシャルの高さがうかがい知れる。
ステアリングはそれなりにソリッドで、手のひらに路面のざらつきを伝えはするものの、なぜか雑味がなく、すっきりとしたフィール。それはメルセデスともBMWともアウディとも、もちろんポルシェとも違う。たとえば彼の地のスポーツモデルの走り味が、ステーキのように濃厚な食べ応えや旨味を感じさせるとすれば、LCのそれは日本料理のごとく繊細で奥深い、といったイメージだ。
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レクサスの新フラッグシップクーペ「LC」試乗(後篇)(3)
ライトウェイトスポーツカーを繰るがごとく
LCのそんな走りの世界観に、マルチステージハイブリッドは、まさにおあつらえむきだ。モーターの駆動力を加速に積極的に生かすセッティングゆえ、アクセルの踏み込みに対するトルクの立ち上がりがリニアで、極めてなめらかに速度を増していく。アクセルペダルを深く踏込めば、3.5リッターV6ユニットがそれなりの快音で鼓膜を心地よく刺激してくれるが、音量のレベルはそのパフォーマンスに対して明らかに低い。このクールなスタンスに、新しい時代のハイパフォーマンスカー像を感じるのである。
このパワートレーンが秀逸なのは、MTモードで積極的にギアシフトを楽しむような走りでさらに本領を発揮することだ。佐藤チーフエンジニアが強調していたように、変速速度がクイックで、ドライビングをリズムに乗せやすい。海沿いのまっすぐな幹線道路からゆるやかな丘へといたるワインディングロードでは、ライトウェイトスポーツカーを繰るがごとくドライビングを楽しんでいた。
ワインディングロードでの軽快な身のこなしには、理想的な慣性諸元を可能たらしめたGA-Lプラットフォームが大きく寄与しているのは言うまでもない。ステアリング操作に対するクルマの動きが透きとおるようにピュアで、ドライバーが思い描いたラインをきれいにトレースしていく。
ドライバーのヒップポイントを車両の重心位置近くにレイアウトしているがゆえにクルマとの一体感もとびきり高く、ボディがひとまわりもふたまわりも小さく感じられる。それは、たとえば中・高速コーナーをそれなりの速度で駆け抜けるときはもちろんのこと、たとえば信号の左折(日本での右折)時でも、充分に実感できる類のものだ。
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日本ならではの価値観をもつクーペ
レクサスの新フラッグシップクーペ「LC」試乗(後篇)(4)
降りたときの余韻までこだわった
途中、休憩ポイントで乗り換えたLC500は、ハイブリッドモデルとはまったく別の意味で惹きつけられるクルマだった。
この5リッターV8ユニットの魅力は、なんといってもマルチシリンダー自然吸気エンジンならではのシャープな吹け上がりと、エンジン回転とシンクロするように高まる官能的なエンジンサウンドだ。アクセルペダルを踏込むと、8つのピストンが爆発によって上下運動を繰り返し、そのエネルギーがクランクシャフトにより回転運動へと変換され、後輪が路面を掻き上げる。機械が放つそんなエネルギーの連鎖が、手に取るように感じられる。
排気ガス規制の問題で、そう遠くない将来このような大排気量マルチシリンダーユニットは、姿を消さざるをえないのが現実だ。混じりけのないレクサスならではの世界観を具現したハイブリッドモデルの斬新さはないが、本来的なクルマの愉悦を湛えたLC500は、それはそれで捨てがたい魅力に溢れている。「カーガイに愛されるような、“ザ・スポーツクーぺ”にしたかった」とは、佐藤チーフエンジニアの弁だが、まさに彼の狙い通りのクルマなのだ。
「LCでドライブを終え、クルマから降りたときの余韻までこだわって開発しました」。インタビューの席で佐藤チーフエンジニアはそう語ったが、確かに試乗を終えLCから降りたとき、僕はOK Farmsの駐車場に停められたLCのスタイリングに見入りながら、150kmの道のりの瞬間瞬間を反芻するように思い浮かべていた。
世界中のカーメーカーがハードウェアとして高い完成度を誇るドイツ車を範としたクルマづくりを実践し、かつてよりもメーカー毎の個性が薄れているように感じられる昨今。日本が誇るプレミアム カー ブランドから、デザインにおいても、走りにおいても、繊細さや奥深さといった日本ならではの価値を獲得したLCが登場したことは、1人のクルマ好きとして、素直に嬉しく思う。
いずれにせよ、3月のジュネーブ モーターショーでデビューした「LS500h」をはじめ、GA-Lプラットフォームとマルチステージ ハイブリッド システムという独創性あふれる珠玉のアイテムを、今後、どう育んでいくのか。レクサスというブランドからますます目が離せなくなった気がした。個人的には、LCのコンバーチブルモデルの登場を期待したい。剛性面でも相当なキャパシティをもつGA-Lならば、オープンボディでも動的なクオリティが損なわれることはないだろうし、なによりそれこそ、ラグジュアリーなライフスタイルブランドへとシフトするレクサスにとって、切り札となると思うからだ。
Lexus LC 500h|レクサス LC 500h
ボディサイズ|全長 4,770 × 全幅 1,920 × 全高1,345 mm
ホイールベース|2,870 mm
トレッド前/後|1,630 / 1,635 mm
車両重量|2,000 kg(S package、L packageは2,020 kg)
最低地上高|140 mm
エンジン|3,456 cc V型6気筒DOHC
ボア × ストローク|94.0 × 83.0 mm
圧縮比|13.0
エンジン最高出力|220 kW(299 ps)/6,600 rpm
エンジン最大トルク|356 Nm(36.3 kgm)/5,100 rpm
モーター|交流同期電動機
モーター出力|132 kW(180 ps)
モータートルク|300 Nm(30.6 kgm)
トランスミッション|マルチステージハイブリッドトランスミッション
駆動方式|FR
サスペンション 前/後|マルチリンク/マルチリンク
ブレーキ 前/後|ベンチレーテッドディスク
タイヤ 前/後|245/45RF20 / 275/40RF20(S packageは245/40RF21 / 275/35RF21)
駆動用バッテリー|リチウムイオン電池
燃費(JC08モード)|15.8 km/ℓ
乗車定員|4名
価格|(標準)1,350万円 (L package)1,350万円 (S package)1,450万円
Lexus LC 500|レクサス LC 500
ボディサイズ|全長 4,770 × 全幅 1,920 × 全高1,345 mm
ホイールベース|2,870 mm
トレッド前/後|1,630 / 1,635 mm
車両重量|1,940 kg(S package、L packageは1,960 kg)
最低地上高|135 mm
エンジン|4,968 cc V型8気筒DOHC
ボア × ストローク|94.0 × 89.5 mm
圧縮比|12.3
最高出力|351 kW(477 ps)/7,100 rpm
最大トルク|540 Nm(55.1 kgm)/4,800 rpm
トランスミッション|10段AT(Direct Shift-10AT)
駆動方式|FR
サスペンション 前/後|マルチリンク/マルチリンク
ブレーキ 前/後|ベンチレーテッドディスク
タイヤ 前/後|245/45RF20 / 275/40RF20(S packageは245/40RF21 / 275/35RF21)
燃費(JC08モード)|7.8 km/ℓ
乗車定員|4名
価格|(標準)1,300万円 (L package)1,300万円 (S package)1,400万円
レクサスインフォメーションデスク
0800-500-5577(9:00-18:00、365日年中無休)