ザ・ビートルに試乗!|Volkswagen
CAR / IMPRESSION
2014年12月11日

ザ・ビートルに試乗!|Volkswagen

Volkswagen The Beetle|フォルクスワーゲン ザ・ビートル

ザ・3代目

フォルクスワーゲン ザ・ビートルに試乗

ニュービートルから、より初代ビートルこと「タイプ1」によせたシルエットへと姿をかえた3代目ビートル、「ザ・ビートル」がついに日本デビュー。デザイナー クリスティアン・レスマナ氏も来日し、初代およびニュービートルのオーナーも参加して、大々的におこなわれた試乗イベントから、青木禎之氏の「ザ・ビートル」インプレッション!

Text by AOKI Yoshiyuki
photographs by MOCHIZUKI Hirohiko

ファニーカーとは呼ばせない

「ザ・ビートル」ことあたらしいフォルクスワーゲン・ビートルは、つまりはFF(前輪駆動)プラットフォームに最適化されたビートルである。ゴルフIVベースのハリボテカーから(失礼!)フォルクスワーゲン基幹モデルの1車種になるにあたって、(横綱ゴルフには及ばないにしても)実用性に正面から向き合って開発されたのがニュービートル……じゃなかった、あたらしいビートル、「ザ・ビートル」である。ウォルフスブルクの自動車メーカーとしても、今回は本気入ってますんで、従来のファニーカー的なニュービートル(ややこしいな)とは切り離して考えていただきたい、ということで、ニューモデルに「ザ・ビートル」の名を与えたのだろう。真打ち登場! の「ザ」というわけである。



念のため確認すると、ニュービートルとは、1998年から販売が開始されたカブトムシのこと。翌年、aikoが同名の歌をリリースするが、これは関係がない。ニュービートルの起源を辿ると、もちろんアドルフ・ヒトラーと彼のお気に入りエンジニア、フェルディナント・ポルシェ博士の手になる国民車に行き着くが、直接のオリジンは、1994年の北米モーターショーで発表されたショーモデル「コンセプト1」である。

フォルクスワーゲン社にとって鬼門の北米マーケットを活性化させるためのプロジェクトから生まれた作品で、後にフォードで副社長にまで上り詰めるJ.メイズと、「アウディTT」で名を上げるフリーマン・トーマスがタッグを組んで練り上げたコンセプトカーだ。世界的に堅実な売れ行きを見せ、文字通り実用車のベンチマークとなっていたゴルフ(北米名ラビット)が、「どうもアメリカではイマイチだね」「やっぱ、夢のカリフォルニアなビートルじゃね?」という経緯からひねり出されたものと想像される。オレは「ホテル・カリフォルニア」のほうが好きとおもった人もいるとおもうが、それだとメルセデス・ベンツのショーモデルを考えないといけない。

Volkswagen The Beetle|フォルクスワーゲン ザ・ビートル

ザ・3代目

フォルクスワーゲン ザ・ビートルに試乗(2)

二枚目路線

「ザ・ビートル」のボディサイズは、全長×全幅×全高=4,270×1,815×1,495mm。2,353mmのホイールベースはベースとなったゴルフVIより40mm短いが、車両寸法はわずかずつ大きい。カタログ重量1,280kgは、おなじ動力系「1.2リッター直4ターボ+7段AT(DSG)」を持つ「ゴルフ TSI Trendline Premium Edition」より10kg重いだけだ。

全長、全幅とも、旧型になったニュービートルを上まわるが、全高はわずかに低くなった。そのため、前後が延びていることもあって、全体のフォルムから受ける印象はグッとスマートに。「ファニー」とか「カワイイ」はたまた「なんだか変」ということで人気を得たクルマは、えてしてモデルチェンジを機に二枚目路線に転じることが多いが、ビートルもその例に漏れない。

Aピラーの付け根、フロントウィンドウが始まる位置がかつてより後退し、いっぽう、リアハッチは後方へ膨らんだ。ニュービートルの運転席に座るたびに奇異な感覚を受けた、ダッシュボード上面のだだっ広いスペースは解消され、ザ・ビートルのソコは常識的な面積に落ち着いている。また、ニュービートルでは、FF車の車台にわざわざRR(リアエンジン・リアドライブ)車を模した上屋を載せたため、リアの荷室が理不尽に狭かったが、今回のモデルチェンジによって荷室容量は214リッターから310リッターへと、なんと45パーセントも増加した。



ザ・ビートルは、クルマ全体の視覚的な重心が後ろへずれた。特に斜め後ろから眺めるとすこし猫背気味なのは、一般的なFFハッチモデルのフォルムに“ビートル”をはめ込んだからである。FF車の実用性を採り入れたあたらしいモデルのルーフラインが、先代のニュービートルよりむしろType 1、つまりオリジナルビートルに近づいたのは、デザイン処理上の皮肉な帰結といえるかもしれない。ただしデザイン骨格が根本的にことなるので、Type 1の背中にはポルシェ911が入っていたけれど、ザ・ビートルの後ろ姿にナインイレブンを見ることはできない。

Volkswagen The Beetle|フォルクスワーゲン ザ・ビートル

ザ・3代目

フォルクスワーゲン ザ・ビートルに試乗(3)

レザーパッケージに乗り込む

2012年4月20日から日本での受注が始まったザ・ビートル。グレードは、「Design」と「Design Leather Package」の2本立て。前者が250万円、レザーシート仕様の後者が303万円である。

機関は、どちらも1.2リッターターボ(77kW(105ps)、175Nm)に7段DSGの組み合わせだが、豪華仕様版たるレザーパッケージは、たとえばヘッドランプがバイキセノンタイプになり、パドルシフトが付き、ホイールには1インチアップの17インチ(太さは変わらない215)が装着される。オプションでスライドルーフが選択できるのも、レザーパッケージの特権だ。

プレス試乗会で割り当てられたのは、ベースグレードに先行して受注が開始されたレザーパッケージ車。ちょっと古いビートル好きなら「サックス」なんて単語を思い出すであろう「デニムブルー」にペイントされた個体で、ドアを開けると、インテリアのパネル類におなじ色が反復されている。

1990年代前半、チェントロスティーレのデザイナーだったクリス・バングルが「クーペ・フィアット」で試してからこっち、レトロスペクティブなクルマ大人気の潮流にのって、すっかり定番となったデザイン処理である。

さて、背もたれのサイドサポートが目に付くスポーツタイプのレザーシートは、フォルクスワーゲンらしい硬めの座り心地。腰の後ろ部分の張り出し、ランバーサポートの調整機能付きで、シートヒーターも装備される。エンジンをかけて、走り出そうと右足を伸ばすと、ヤヤッ!? スロットルペダルが、床から生えるタイプに変わってる! こんなところに、ポルシェ911の残像を見ることになろうとは……

Volkswagen The Beetle|フォルクスワーゲン ザ・ビートル

ザ・3代目

フォルクスワーゲン ザ・ビートルに試乗(4)

むしろ力強いミズスマシ

「ザ・ビートル」のエンジンは、フォルクスワーゲン社ジマンのTSIユニット。小排気量の4気筒を直噴化し、精緻な燃料噴射でターボエンジンの効率を引き上げた発動機で、ロスの少ないツインクラッチギアボックス「DSG」とペアを組み、カタログ燃費17.6ℓ/kmを謳う(JC08モード)。東洋の島国では、エコカー補助金(10万円)とエコカー減税(50%)の対象となる。

ボディの大きさを考えると、1.2リッターという排気量がなんだか不自然だが、オルガンタイプのスロットルペダルを踏んで走り始めると、タイヤのひと転がり目からまったく不満を感じない。むしろ力強い。ザ・ビートルの4気筒は過給器付きエンジンの特性を活かして、わずか1,500rpmから最大トルク175Nmを発生する。いわば低回転型の1.8リッターエンジンのようなものだから、痛痒感がないのも当然といえば当然だ。もっとも、スロットルペダルのベタ踏みをつづけても、出足で期待したほどの骨太な加速は得られない。60km/hまではなかなか速いがそこから伸び悩むのは、控えめな排気量の限界だろう。

乗り心地はやや硬め。路面の荒れた市街地では、17インチを履いたバネ下が少々バタつくこともあるが、舗装のいい高速道路に載ってしまえば、スタビリティの高い、ジャーマンなプラス面が浮かび上がってくる。ハーフスロットルからでもトルクの付きがいいターボエンジンだけに、スマートになったカブトムシは、その気になればミズスマシのように走れるはずだ。個人的に気になったのは、制動力の立ち上がりが遅いブレーキフィールで、当たり前だがブレーキペダルを踏めばしっかり減速する。しかしクルマを止める力が二次曲線的に強くなるので、踏んだ直後は、ほんの一瞬だけ空走する感覚があって、ドキッ! ……心臓に悪い。



実用性が高まった

ゴルフベースのFF車として、無理のない構造になった新型ビートル。リアシートに座れば足元プラス6cmの余裕がうれしい、というほどは広くないし、頭上の空間も感心するレベルではないが、それでも、旧型ビートルでは後席乗員の頭部がリアガラスの下にあったことをおもえば、たとえば炎天下の真夏日に、頭の後ろまで延びたルーフに感謝することがあるにちがいない。

3つの半円をモチーフにした旧型ニュービートルと比較すると、新型ザ・ビートルはデザイン面でのピュアさを失ってしまったといえるかもしれない。裏を返せば、それはつまり、いかな見た目が大事なレトロモデルといえども、デザインを言い訳にできる時期は過ぎたということだ。実用性という面で、偉大なオリジナル・ビートルにちょっぴり近づいた21世紀のカブトムシ。あたらしくオーナーになった方、これからオーナーになる人には、ぜひ、愛車のリアゲートを開けて、「エンジンが盗まれた!」と叫んでみていただきたい。

spec

Volkswagen the beetle design leather package|
フォルクスワーゲン ザ・ビートル デザイン レザーパッケージ

エンジン|1.2リッター直列4気筒SOHCインタークーラー付ターボ
最高出力|77kW(105ps)/ 5,000rpm
最大トルク|175Nm(17.8kgm)/1,500-4,100rpm
トランスミッション|7段DSG
車両寸法|全長4,270 × 全幅1,815 × 全高1,495 mm
ホイールベース|2,535mm
トレッド|1,580mm(前)/ 1,545mm(後)
最低地上高|130mm
車両重量|1,280kg
燃費|17.6km/ℓ(JC08モード)
CO2排出量|132g/km(JC08モード走行 燃費値換算)
車両本体価格|303万円

小川フミオ氏によるザ・ビートル 2.0TSI海外試乗記はこちら

           
Photo Gallery