Volkswagen The Beetle 2.0 TSI|フォルクスワーゲン ザ ビートル 2.0 TSI 試乗
Volkswagen The Beetle 2.0 TSI|フォルクスワーゲン ザ ビートル 2.0 TSI
注目の3代目ビートルに試乗!(1)
フォルクスワーゲンは2011年7月、「The Beetle」と名づけたニュービートルの後継モデルを欧州で発売した。スポーティさが強調された新型にベルリンにて試乗。日本での発売は来春予定。
文=小川フミオ
原点回帰のすえ、完成したあたらしいオリジナル
「iPhoneやライカM9をもう一度デザインしなおすとしたら? その明確なこたえがここにあります」とフォルクスワーゲンが自信満々に語る新型。フォルクスワーゲンのデザインダイレクター ワルター・デ・シルバの言葉に「あらたなオリジナルをつくる」とあるように、原点回帰してコンセプトメーキングしたのが特徴、とされる。
ザ ビートルのプラットフォームは現行のゴルフと共用。開発チームの仕事は、ニュービートルにあったオモチャっぽさを排し、スタイリングでも操縦性でも、現代の第一線で通用するクルマを作ることにあったという。そのため、乗員の着座位置をはじめ、重心点も徹底的に見直され、ドライビングの楽しさを強く訴えかける仕上がりに。
「もっとデザイン、もっとエモーション、もっとパワー、が開発の命題でした。それをもっとも愛されたクルマというアイコンに組み込むのが、私たちの仕事でした」。そう語るのは、ベルリンでの国際試乗会で出会ったプロダクト コミュニケーションズのカイン・グルーバー氏だ。
まったくあたらしいクルマだが「オリジナルと並べてルーフの上からライトを照らし、側面から眺めたらリアの部分のデザインがほとんどおなじであるとおわかりいただけるでしょう」(デ・シルバ氏)というように、アイコンとしての存在感を今回も強調している。
Volkswagen The Beetle 2.0 TSI|フォルクスワーゲン ザ ビートル 2.0 TSI
注目の3代目ビートルに試乗!(2)
初代ビートルを精悍にしたようなデザイン
ザ ビートルがニュービートルともっともことなっているところは、パワーが強調されている点だ。「先代(ニュービートル)は女性に受けて、結果、男性の購買層が離れてしまった。その反省に立って今回はコンセプトメーキングした」とプロダクト マネジャーを務めたティム・グラウサム氏は語る。
「ニュービートルはモデルチェンジしない(できない)ということを言うひともいましたが、ビートルは私たちの核のようなものなので、なんらかのかたちで継続的に生産したいと考えていました。ニュービートルはレトロスペクティブ(懐古的)なクルマでしたが、今回は原点を再定義したいと考えました」
会場には1953年型のビートルが持ち込まれた。並べてみると、なるほど、ニュービートルがオリジナルを戯画的にデザインしなおしたものだとすると、ザ ビートルは、オリジナルが精悍になったイメージだ。
実際のボディサイズは、全長4,278(ニュービートルプラス152)×全幅1,808(同プラス84)×全高1,486(同プラス12)mm。2,537mmと22mm延長されたホイールベースと、前で63mm、後ろで49mm拡大されたトレッドによって、「力強い外観」(VW)と喧伝される。「これによって男性的な印象を強くできた」とはインテリアデザインを担当したヤン・ハアケ氏の言葉だ。
Volkswagen The Beetle 2.0 TSI|フォルクスワーゲン ザ ビートル 2.0 TSI
注目の3代目ビートルに試乗!(3)
向上した人車一体感
ザ ビートルのラインナップは、ベースになっているゴルフに準じている。現在発表されているモデルは下記のとおり。
・1.2TSI
・1.4TSI(ツインチャージャー)
・2.0TSI
・2.5MPI(マルチポイントインジェクター)
以下、ディーゼル。
・1.6TDI
・2.0TDI
駆動方式はすべて前輪駆動。トランスミッションは、高出力モデルには湿式6段、1.4以下は乾式7段DSGギアボックスが採用される。
日本には1.2TSI+7DSGを先行導入する予定らしい。ダウンサイジングコンセプトを推し進める日本でのフォルクスワーゲンにとって、燃費にもすぐれる1.2リッターターボは重要なエンジンだからだ。ただし、ベルリンでの試乗会では、すべてのモデルはまにあわず、日本からの取材陣に用意されたのは2.0TSIだった。
ゴルフGTIとおなじ200psのエンジンに6段DSGを組み合わせたパワートレインを搭載するザ ビートル2.0TSIでベルリン近郊を走った印象をひとことでいうと、カリカリにスポーティではなく、リラックスした運転ができること。試乗車はオプションの19インチ コンチネンタル スポーツコンタクトというスポーツタイヤを装着していたが、意外なほどゴツゴツ感はなく、乗り心地はよい。
一方で、ハンドルを切ったときに、クルマが向きを変えるターンインははやく、ドライバーとクルマがともに動く人車一体感は、ニュービートルより、ぐっと向上している。これがDSGによるダイレクトなギアシフトとともに、クルマとして楽しさが一段も二段も上がった印象を受ける。
エンジン音は1,500~2,000rpmでやや低音がこもるのが気になったが、総じて静粛性が強い。このこもり音にしても、「ひょっとしたら、オリジナルの空冷音をそれとなく模しているのでは」という声もジャーナリストのあいだから聞かれたが、それはどうなのだろう。時速120kmあたりではドアミラーのあたりで風が巻く音が少し聞こえてきたが、音疲れするようなところは皆無だった。
Volkswagen The Beetle 2.0 TSI|フォルクスワーゲン ザ ビートル 2.0 TSI
注目の3代目ビートルに試乗!(4)
タイムレスな価値を追求したシンプルなインテリア
インテリアは、トランクの容量アップとともに、ニュービートルより格段にスペースが増している。とくに後席のヘッドルームには大きな余裕が生まれ、おとなふたりが窮屈な思いをせずに座っていられる。
機能性にくわえてデザイン性もアップしている、とフォルクスワーゲンは強調する。「ディテールへの愛を強く感じさせる」とフォルクスワーゲンブランドのデザイン統括をするクラウス・ビショッフの言葉があるが、車体色を一部に採り入れたり、ラインを中央からドアまでまわして一体感を強調したり、手がかかっている。ニュービートルで話題になった一輪差しはオプションになったが、そのかわり、3連の補助メーターがオプションで設定されるなど、走りのイメージが強くなった。
「インテリアのデザインをとおして提供したかった価値は“タイムレス”であることです。長いあいだ愛着をもって乗ってもらえるクルマであるようにという願いをこめてデザインしました。原点に還るということがデザイン コンセプトだったので1950年代的な要素を今風に解釈しなおして、ビートルボックスと呼ばれた助手席前のグラブボックスや、ドア内側のゴムのモノ入れなどを現代的にデザインしなおしていますが、もっとも重要視したのは、愛着をもってもらえるシンプルさです」。前出のインテリア デザイナー、ヤン・ハアケ氏は実車を前にそう説明してくれた。
Volkswagen The Beetle 2.0 TSI|フォルクスワーゲン ザ ビートル 2.0 TSI
注目の3代目ビートルに試乗!(5)
ギターアンプなどで有名なフェンダー製のサウンドシステムを採用
ザ ビートルにはビートルボックスと呼ばれる1950年代の「オリジナル」のアイコンを復活させている。横基調のリアコンビネーションランプをあえて採用するなどして現代的なフォルクスワーゲンの一族であることを強調するのと逆行するような、興味ぶかいコンセプトだ。
昔のアイコンは、先に紹介した「ディテールへの愛」にふくまれるもの。レトロスペクティブであることと、完成された工業製品へのリスペクトとは、どうやら一線を画すものらしい。ザ ビートルでは、オプションでフェンダーのサウンドシステムが採用されているのも、じつは同種のコンセプトによるものかもしれない。
フェンダーは、エリック・クラプトンやジミ・ヘンドリクスなどロックアイコンと呼ばれるミュージシャンが好んだ楽器のメーカーであると同時に、ギター、ベース、それにキーボード用のアンプを送り出してきた。
車内のスピーカーシステムに少し前のフェンダー社のロゴを誇らしく掲げることで、やや抽象的な言い方になるが、ザ ビートルが特別な世界に生きているクルマだということを感じさせられる。共同開発したパナソニックの担当者は言う。
「フェンダーとのカーオーディオの開発がはじまったのは2007年。09年からフォルクスワーゲンと提携して、唯一このブランドにのみフェンダーのオーディオを提供することに。ひとことでよさを言わせてもらうと、ハンドルの向こうから最高の音が聴こえる、ということでしょうか」
2012年にはカブリオレも控えており、あたらしいマーケットを狙うフォルクスワーゲンの、注目すべきニューモデル。ザ ビートルはもはやニッチ(すきま)におさまっているようなモデルではないかもしれない。フェンダーのギターが演奏者によって私たちを幸福にしたように、接するひとに幸せをもたらすクルマなのではないか。ハッピネス イズ ア ウォームガン──、とザ ビートルズのジョン・レノンはかつて歌った。ジョンのひそみにならうと、ハッピネスの詰まったあたたかさ、それがザ ビートルなのかもしれない。
Volkswagen The Beetle|フォルクスワーゲン ザ ビートル
ボディサイズ|全長4,278×全幅1,808×全高1,486mm
ホイールベース|2,537mm
エンジン|2リッター4気筒DOHC+インタークーラーつきターボチャージャー
最高出力|147kW(200ps)/5,100rpm
最大トルク|280Nm/1,700-5,000rpm