ローレンス・ヴァン・デン・アッカー氏にインタビュー|Renault
CAR / FEATURES
2015年1月13日

ローレンス・ヴァン・デン・アッカー氏にインタビュー|Renault

Renault|ルノー

ルノーにデザイン ルネッサンスをもたらす

ローレンス・ヴァン・デン・アッカーにインタビュー

ルノーのデザインが変わった。2010年発表の「De Zir」からはじまったルノー デザイン ルネッサンスは、人生における重要な6つのシーンになぞらえ、それぞれにコンセプトカーを発表する“サイクル オブ ライフ”という発想に基づいている。これらのコンセプト デザインは、そのままプロダクションモデルに反映され、すでに新型「
ルーテシア」「キャプチャー」で結実している。このプロジェクトを推進する、ルノーのチーフデザイナー、ローレンス・ヴァン・デン・アッカー氏に小川フミオ氏が単独インタビューを敢行した。

Interview & Text by OGAWA FumioPhotographs by ARAKAWA Masayuk

クルマの美をつねに念頭に置きながら

──ルノー車はこのところ、魅力が増しているように思えます。パッケージングはきちんと考えられているいっぽう、クルマ好きの眼を惹くエモーショナルな要素が盛り込まれています。ご自分の立ち位置はどのあたりに置いていますか。

ローレンス・ヴァン・デン・アッカー氏(以下、アッカー氏) デザイナーとして意識しているのは、アートに片足、ビジネスに片足、というかんじです。私の兄は建築家で、妹は判事です。私はそのあいだ。いまの仕事でもおなじような位置だと思っています。具体的には、ルノーのラインナップは豊富なので、エモーショナルに振ったモデルもあれば、ファンクショナルなモデルもあり、それがファミリーを形成しています。それで、ルノーデザインの方向性について、どっちに行くのかという印象をもたれるのかもしれませんね。

──前に進んでいくために必要と思われるものは何でしょうか。

アッカー氏 私たちのヘリティッジは、つねに未来を見ていること。革新性にあると考えています。デザイン上でもイノベーションがキーバリューです。私が雇われているのも、未来を考えて仕事をするためであって、過去のためではありません。レトロカーをデザインしないのかとジャーナリストに訊ねられたことがありますが、私は未来をつくるためにルノーデザインにいるのだと答えました。

──クルマのデザインはこのあと大きく変わっていきますか。

アッカー氏 ひとつの可能性ですが、自律走行が完璧になればクルマはクラッシュしなくなります。そうなると現在の安全基準という制約からデザイナーは解放されます。そのときデザインは大きく変わるでしょう。あるいは、技術進化によって携帯電話が初期には百科事典のような大きさでしたが、いまや本のあいだに挟まったら見つからなくなってしまうサイズにまで縮小したように、クルマのデザインにも革新がおきることもありえます。エコロジー、エコノミー、コネクティビティ、これらがいまのクルマを取り巻くキーワードですが、私はクルマの美をつねに念頭に置きながら、スタジオで仕事をしています。

Renault|ルノー

ルノーにデザイン ルネッサンスをもたらす

ローレンス・ヴァン・デン・アッカーにインタビュー (2)

これからのデザイン

──これからのルノー車のデザインはどうなっていくでしょうか。

アッカー氏 第一のゴールは、量産車を、(2013年11月の東京モーターショーで公開した)コンセプトモデル「デジール」に近づけていくことです。具体的には、ルノーのプロダクトに、デジールで特徴的なストロングフェイス、つまりひと目でルノー車とわかる印象的なフロントマスクを与えます。それから、インターネットとの接続などコネクティビティを上げていくこと。それからインテリアを居心地のよいものにデザインすること。キャプチャーは新世代のルノーデザインのマニフェストだと思っていただきたい。

──日産自動車のプロダクトとはだいぶちがいがありますが、デザイン部門はどのような関係を持っていますか。

アッカー氏 日産自動車の中村史郎CCOとはとてもよい関係を築いています。私が厚木にあるデザインセンターに行くこともあれば、日本からフランスへとデザイナーが来ることもあります。両社のデザイン調整など、ディスカッションは毎月おこなっています。

Renault DeZir

Renault Twin'Z

──個人的に好きなプロダクトを教えていただけますか。

アッカー氏 私が好きなプロダクトは多岐にわたりますが、それを包括的に手がけている英国人デザイナー、ロス・ラブグローブ氏が大好きです。建築をはじめ、インテリアアーキテクチャー、家具、彫刻、さまざまな日用品と、どれも発想とソリューションの高さには感服させられます。2013年には協力をあおいで「トゥインジー」というEVのコンセプトモデルを開発しました。

──ラブグローブ氏は、カー・オン・ア・スティック(2008年)というアーバンモビリティなど、ユニークな提案をしていますね。

アッカー氏 トィンジーはもうすこし現実的です。いまルノーデザインでは、人間の一生を6つのキーワードで区切り、それにしたがってモデルを開発しています。それをライフサイクル コンセプトと呼ぶのですが、デジールは“愛”がテーマ、キャプチャーは“探求”、「Rスペース」は“ファミリー”、「フレンディジー」は“仕事”。「トゥインジー」は“遊び”です。

──個人的に好きなクルマはありますか。

アッカー氏 私は1970年代の子どもなので、マルチェロ・ガンディーニ氏がベルトーネに残した作品がとても好きです。「クンタッチ」や「ミウラ」といったランボルギーニや、ランチア「ストラトス」。いまも魅力を失っていません!」

Laurens van den Acker|ローレンス・ヴァン・デン・アッカー
1965年生まれ。オランダの大学を卒業後、1990年にイタリアのデザインシステム社においてデザイナーとしてのキャリアをスタート。1993年からアウディのインゴルシュタット デザインセンターでエクステリアのデザイナー、1996年にはアメリカのSHRパーセプチュアル・マネジメント社でシニア デザイナーを経て、1996年からはフォードのブランドイメージンググループのチーフデザイナとなる。2003年にはフォード「エスケープ」のチーフデザイナーをつとめた。2006年からは当時フォードグループ傘下にあったマツダのコーポレートデザインを担当、NAGAREにはじまる一連のコンセプトモデルなどを手掛けた。2009年ルノーへ入社し、2010年からは経営委員会へ参画。現在はルノー デザイン部門のシニア バイス プレジデント。

           
Photo Gallery